死界送り
「あなたの殺したい人を教えてください」
……熊谷 恵子
「理由を教えてください」
……親友だったのに、裏切ったから。
「本当にその人を殺してほしいですか?」
……殺してほしい。
「了解しました。 熊谷 恵子さんを死界へ、あなたを不幸へとお送りいたします。」
聞いてない。なんて言わせませんよ?
彼岸花が、紅く咲いている。
彼岸花の花言葉は、確か 悲しい思い出だった。
死神の子孫といえば、そうなのかもしれない。
だが、私の父は死神を裏切り 人間の母と結婚した。
そして私が生まれたのだ。
死神でも、人間でも、ない。
そんな私は、生と死の狭間へ。
ただ、1人 たくさんの彼岸花が隠してくれる家に住んでいる。
ピロリン
今日もまた、きた。
パソコンを起動して、メールを見る。
私からしてみれば、どの理由もくだらない。
本当に殺したいなら、自分で殺せばいい。
できないから他人にやらせるなど、笑える話だ。
私は、和紙を持ってきて 質問と答えを書き写す。
そして、彼岸花畑の真ん中を流れる川に四つ折りにして流すのだ。
人の感情は、恐ろしい。
感情1つで、相手も自分も 未来が変わり朽ち果てる。
自分ができないことを、他人に任せるということはね。
その「できないこと」が悪いことだとわかっているから。
「あなたの殺したい人を教えてください」
……
「理由を教えてください」
……
「本当にその人を殺してほしいですか?」
……
「了解しました。 熊谷 恵子さんを死界へ、あなたを不幸へとお送りいたします。」