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サンデー・デストロイヤー  作者: 草壁四郎
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はじまりの朝

朝、わたしは朝が好きだ。どんよりとした曇りの朝、真っ白な雪がしんしんと降り積もる朝も好きだけれど、やはり日曜日の朝は、別格だ。恋人と昼まで寝ててもいいし、早起きしてコーヒーを淹れたっていい。天気が良ければお洒落をして買い物に出かけたくなるし、雨が降っていれば一日中家に引き篭もって読書をするのもいい。昨夜見た夢の余韻のような、そんな穏やかな日曜日の朝が好きだった。



突然の来訪者は、そんなわたしの毎週末のささやかな幸せをいとも簡単にぶち壊してくれたのだった。



四月のはじめの日曜日の朝、まだ少し肌寒く、わたしはアパートで恋人のタクヤくんと毛布にくるまって寝ていた。この日は早起きして二人で映画でも観に行こうかと話し合っていたのだが、身体はまだ冬眠から目覚めたくはないようだ。閉めっぱなしのカーテンの隙間から朝日が差し込んでくる。午前9時を過ぎた頃、突然インターホンが鳴った。勢いよく3回連続で。



インターホンに起こされる形で目が覚めたわたしは、隣で盛大に鼾をかいているタクヤくんを跨ぎ、まだ眠い目を擦りながらよれよれの灰色のスウェットとぼさぼさの寝癖頭でドアの前に立った。そして非常識な日曜日よりの使者の姿を一目見てやろうと、徐にドアスコープを覗き込んだ。



そこには何とも奇妙ないでたちをした赤茶色の頭の大きなてるてる坊主のようなお化けが立っていた。ぱっと見で性別を判別できないほどにまでぼこぼこに膨れ上がった風船みたいな人間離れした巨大な頭。その重そうな頭を貧弱そうな痩せ細った小学生のような身体がどうにかこうにか支えている。まだ肌寒いというのにランニングシャツに短パンという田舎のガキ大将のような恰好をしている。おまけに裸足である。右手には赤茶色の小さな子供用の傘を握っており、左手にはサラリーマン風の通勤カバンを提げている。その表情は笑っているようにも見え、泣いているようにも見えた。それほど顔面が醜く爛れ、歪み、崩壊し、爆発していた。



わたしはその外見のあまりの恐ろしさにギョッとし眠気も吹き飛び、腰を抜かしてその場にへたり込んでしまった。後ろを振り返りまだ鼾をかいている恋人の名前を必死に叫ぼうにも声が出ない。



その時、4回目のインターホンが鳴った。



わたしは最早、立ち上がる気力さえなく、呆然とドアの前から動けなくなっていた。



「アケテ」



1度聞いたら2度と頭から離れないような、ねっとりとした喉に痰が絡んだような掠れたような声の響きだった。



「ひっ・・・」



わたしはたまらなくなって思わず叫び声をあげた。



「何なのよ・・・一体」



「アケテアケテアケテアケテアケテアケテアケテアケテアケテ・・・」



壊れたテープレコーダーのようにお化けは繰り返した。同時にガチャガチャとドアノブを回す音も聞こえた。



わたしは耳を塞いで目をつぶった。どうして大好きな日曜日の朝にこんな目に合わなくてはならないのかと考えた。どう考えても理不尽だとしか思えなかった。



「・・・うーん、よく寝た。おはよう、サチ」

ふと顔を上げると、寝起きのタクヤくんが四方八方に爆発した金髪の寝癖頭を搔きながら、隣であくびをしていた。彼はわたしと同じ上下灰色のスウェット姿で、立ちながら器用につま先で足首のあたりを搔いていた。



「た、タクヤくん・・外に何かいるの。赤茶色した大きなお化けみたいなやつが・・・」



お化けだって? こんな真昼間にかい? とまったく相手してもらえず、彼はドアの前でへたり込むわたしを押しのけてドアスコープを覗き見た。



「なんだい。誰もいやしないじゃないか」



そう言うと彼は平然とドアを開け放ち、



「ほら、こんな青空の素敵な日曜日、化け物だってピクニックに出かけるさ」

と言った。





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