前篇
誤字脱字等ございましたら感想にお願いします。
目が覚めたら子供になっていた。
私の中には、前世二十九年分の記憶と今世四年分の記憶が混ざり合っていた。
唐突に記憶内容が増え、三日ほど寝込む事になった。
今世の私はカーネリア・シュワーズと言う。
シュワーズ家は子爵家で、とある大貴族の分家の一つだ。
私は未だ安静を言い渡され、ベッドで横になっている。
カーネリア・シュワーズという名前に、前世の私が首もたげる。
うーん。何処かで聞いた名前だな……。
歯の間に小骨が刺さった様な不快感が襲ってくる。
「あっ! 思い出した。って、ええぇ!」
私の脳裏にとあるスチルが浮かび上がった。モノクロの映像で二人の少女が映り、片方の少女がもう片方の少女をバルコニーから突き落とした。
お、思いだした。前世でしていた乙女ゲーム『宝石箱の乙女』の本編前に殺される幸薄少女の名前だ。
確か悪役令嬢の嫉妬の標的になり、殺される役所だよね。
儚げ系美少女で性格も良く働き者だった女の子が、ある公爵の目に留まり公爵家で行儀見習いとして、公爵家の令嬢のメイドとして働き出す。だけど、その美貌と屋敷の人間に人気のある性格に嫉妬した公爵令嬢に殺されてしまう。
そして、公爵令嬢は悪役令嬢まっしぐら、と。
って、何冷静に考えているの! 私殺されるかもしれないのよ。
公爵家に行かない様にと思っていたものの、考えてみれば悪役令嬢の家の分家だったわ。
関わらないなんて無理じゃない?
ええ、無理でした。
六歳になった今日、顔合わせと言う事で公爵家に来ている。
「私がシュワルツァー公爵家当主ロンド・シュワルツァーだ。君の名前はなんだい?」
「初めましてカーネリア・シュワーズと申します」
私が自己紹介すると、公爵はニコニコ笑いながら言葉を続ける。
「そうか、確か六歳だったな。私の娘と同い年だ、どうだ我が家に行儀見習いに来ないか?」
ああ、死亡フラグが! 私は反対です。
けれど話はどんどん進んで行った。
公爵と父とで話し合いが終わり、私は公爵家の預かりになった。
こうして悪役令嬢のアナスタシア・シュワルツァーと会う事になった。
「初めましてアナスタシア・シュワルツァーよ。仲良くしてちょうだいね」
「カーネリア・シュワーズと申します。宜しくお願いします」
あ、あれ? 悪役令嬢の対応が変なんだけど。
こうして私は公爵家で行儀見習いのメイドとして働き出した。
六歳児にできる事はたかが知れているので、公爵令嬢のアナスタシアと一緒に行儀作法や、勉強を見てもらっている。
それにしてもアナスタシアが変なのよね、なんと言うか良い令嬢になっているのよ。
「……あり得ないわ、可愛いは正義よ。何でゲームのアナスタシアはカーネリアを殺せたのよ」
お茶を持ってアナスタシアの部屋に着くと、扉が少し空いていて中から声が聞こえて来る。
状況を把握しました。アナスタシアも転生者だ。
コンコンコンと扉をノックしてアナスタシアの部屋に入ると、率直に前世の事を聞き、私達は互いに同類だと知った。
そして、ゲームの知識を擦り合わせた。
アナスタシアと理解し合ってから数カ月、初めてのイベントが起こった。
公爵家へ一人の男の子が迎えられるのだ。
公爵が外に作った愛人の息子で、その愛人が亡くなった為引き取られた子だ。アナスタシアより一歳年下で、現在五歳なのだとか。
「アナスタシア、カーネリアこの子が私の息子でアランだ。さあ、挨拶を」
「アラン・シュワルツァーです」
アランは公爵の後ろに隠れ、挨拶する。
「初めましてアラン。私はアナスタシア・シュワルツァー、貴方の姉よ。宜しくね」
「初めましてアラン様。私はカーネリア・シュワーズと申します。これから宜しくお願いいたします」
子供らしくない挨拶にアランは目を白黒させている。うん、こればかりは仕方がないよね。
アランが公爵家にやって来てから私達は度々アランの元に向かった。
独りで寂しかったのか、最初は警戒していたものの、少しずつ私達に懐き始めた。
アランも交え休憩していた私達の元に、風に乗って紙が落ちて来た。
紙には数字が書かれており、計算した跡があった。
私は紙を拾い、無意識に紙に書かれていた数を計算していた。
「あれ?」
「如何かしたのカーネリア?」
「この数字なのですが間違っているので……」
「まあ、私にも見せてちょうだい。……あら、本当だわ」
「姉様、カーネリア僕にも見せて」
私達が見ていた紙をアランも見たいと言って来たので紙を見せたが、眉間に皺を寄せてウンウン唸っている様子を見れば、アランにはまだ分からないのが理解できる。
そんな事をしていると、背後からガサゴソと木々の間を通る音が聞こえた。
「紙を拾ってくれてありがとう。大事なメモだったんだ」
「「お父様(父上)」」
「公爵様」
まさかメモを取りに公爵自身がやって来るとは思わなかった。
その驚きにアナスタシアとアランが声をそろえて驚きを表し、私も声を上げる。
「アナスタシアにカーネリア少し質問があるのだけど良いかい?」
公爵から疑問形に問いかける文の命令を聞き私達はイエスと答えるしかなかった。
「「はい、何でしょう?」」
「執務室で話そうか、アラン少し二人を借りて行くよ」
こうして私達は二人して公爵の執務室に向かう事になった。
何かしただろうか……。
「二人ともこのメモに間違いがあるのは本当かい?」
「「はい」」
「この書類を見てもらえるかな」
こうして差し出されたのは公爵領の書類だった。
読み進めて行くと、数字の合わない所が出て来た。
「公爵様、此処から数字が間違っています」
「そうか、ありがとう。二人とも公爵領の書類の整理を手伝ってくれないか」
「私達が?」
「そうだよ」
公爵の提案に私達は顔を見合わせ、頷き合った。
アナスタシアは悪役令嬢脱却の為、私は独り立ちの為物語に抗う力を着けたいのだ。
「「私達で良ければ」」
「助かるよ」
私が十二歳になったある日、王宮から帰って来た公爵に呼びとめられ、公爵と一緒に執務室に向かった。
「カーネリア、君に王の側室になる話が上がった」
「は!?」
公爵の余りの言葉の内容に私は口をポカーンと開けた。
いけないわ、はしたない。
「もう一度言っていただいても?」
「構わないよ。君に王の側室になる話が上がった」
(はい!?)
私に王の側室になれと!? 何考えているの? 王様ってロリコンなの?
私は混乱して考えが迷走して行く。
「ああ、勘違いしているね。側室と言っても閨の事は心配しなくていいよ」
「どういうことでしょうか?」
公爵の言葉に私は目を白黒させながら、そう問いかけた。
「女性が国政に携わる事は極端に少ない。これは君も分かっているね」
「はい。後継ぎに男性のいない方の中でも、周りに能力が認められた極少数の女性が女爵になられると伺っています」
「そうだね、大抵は婿を迎えるからね」
公爵は言葉を止め、出されたお茶を一口含んだ。
「上位貴族ならある程度女性でも発言権があるが、低位貴族の女性は違う。その為の側室制度さ。低位貴族の女性を側室に迎え国政に携われるようにする、それが側室の一つの顔だよ。勿論、艶事専門の側室も居るが」
「私に国政に関われと申されますか?」
「そう言う事だ」
私はあんまりに事に絶句する。公爵の計らいで公爵領の政に口出しできているが、国政に携われとは。
「お断りする事はできないでしょうか?」
「無理だね。君達が公爵領の領政に携わっている事が王の耳に入ったんだ。間もなく王命が下される」
「そ、そうですか……」
「悪いね、カーネリア」
断る事は出来ない様だ。まさか王様に私達が領政に携わっている事がばれるとは。
私は泣く泣くアナスタシアとアランに分かれを告げ王宮へ向かう事になった。
王宮に着き身支度を整えると、王様との面会になった。王様と会うとか緊張するのだけど。
「表を上げよ、カーネリア・シュワーズで合っているな。直答を許す」
「はい。カーネリア・シュワーズと申します」
顔を上げると三十代程の貫録ある方が目に映った。金髪碧眼の王様然とした方だ。
「まず最初に無理やり側室にしてしまって申し訳なかったな」
「いえ、そんな事はありません」
おそらく非公式とはいえ王様に謝らせるのは拙いので、私は謝罪を受け取らず否定した。
「そうか、閨の事は心配しなくていい。お前には手を出さん。本当なら息子の側室にと思ったのだが、息子はアナスタシア嬢と婚約したばかり、その状態で側室を持つのは拙かろう」
「はい。公爵様からもそう伺いました」
「カーネリア嬢、君に結婚相手ができたら下賜という形を取る」
「承りました」
この話を終えた後、私は後宮に部屋を貰い側室となった。
基本的に書類仕事ばかりである。
忙しいと掃除したくなる。の要領で書きたくなり投稿しました。
後編は明日UPします。