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異世界の千命勇者(チェーン・ブレイヴ)  作者: 村奈ケイ
第1章
5/15

いとめのテクニック

R15要素を含みます。

特にサブタイトルを見て不安を覚えられた方はご注意下さい。


というか、このくらいはR15で大丈夫ですよね?

大丈夫なはず……。

「ハナオ様、こちらでございます」


アロム姫は静かに足を止めると部屋の扉を開けた。


おお……!


間違いなく俺の家のリビングダイニングより広々とした空間――。

濃緑のじゅうたんの上には高級そうな調度品がゆったりと配置されている。

窓がない分多少の閉塞感はあるけど、ダンジョン内の一室とは到底思えない。


中に入ると、何と言ってもセミダブルの天蓋ベッドの存在感が際立つ。

レースのカーテンに囲まれて寝るのはどんな気分だろうか。

女の子じゃなくてもこれはなかなかテンションが上がってしまう。


「今はこちらのお部屋でご容赦いただきたく存じます」

「とんでもないです、十分すぎますよ」


俺が勢いよく首を振ると、姫はほっとしたような笑顔を見せた。


「それでは、すぐにお食事をお持ちしてもよろしいでしょうか?」


食事、か……。

どんなメニューが出てくるのかは気になるけど、腹はまったく減っていない。


「いえ、今はまだ結構です」

「かしこまりました。では、ご入浴はいかがでしょうか?」

「お風呂もあるんですか?」

「はい。そう遠くない場所に温泉がございます」


ぴくっ――。


「……」


い、今、温泉って言ったのか……?


まだアニメでいえば序盤も序盤、2話くらいの段階だろ?


肌色満載のサービス回には早すぎるんじゃ――。


「ありがたくいただきます」


しかし、据え(エロ)食わぬは男の恥、である。


「承知致しました。少しお休みになってからになさいますか?」

「いえ、可能ならすぐにでも」


そして、エロは急げ、である。


「では、こちらからお着替えをお選び下さい」


姫がワードローブを開けると、色もデザインも各種取り揃えられている。

どれも生地が薄くて通気性が良さそうなのが特徴だ。


うーん。

これだけあると迷うな……。


でも、風呂の後はどうせ寝るんだろうし――。


俺は姫の反応も見つつ、ちょっとパジャマっぽいシンプルな上下を選んだ。


「ハナオ様、お持ち致します」

「いえ、大丈夫です、このくらいは自分で――」

「でも――」


軽く押し問答するうち、不意に指先が触れ合う。


「!」


二人とも大げさなくらいに素早く手を引っ込める。


「も、申し訳ございません、ハナオ様……」

「いえ、こちらこそ……」


妙な沈黙――。

ちらりと覗いた姫の横顔はほんのりと赤く染まっている。


この初々しく甘酸っぱい感じ……。

これから起こるエロの前触れだと理解してよろしいのかな?

デュフフ……。



□■



姫と、それから護衛の剣士と歩くこと5分程度。

見覚えのある記号が描かれたのれんを見つけ、俺は思わず笑ってしまった。


温泉のシンボルはどんな世界でも共通なんだな……。


のれんをくぐって中に入ると、まずは10畳くらいのスペースがある。

壁面伝いに棚があり、中央には木製のロッキングチェアが2脚。

奥には観音開きの扉があり、上下の隙間から湯気が入り込んできている。


「後ほど近侍がお伺い致しますので、何なりとご用命下さい」

「ありがとうございます」

「では、私はこれにて失礼致します」


姫はお辞儀をして部屋を出て行った。


外で待っている剣士と一緒に帰るんだろうし、心配はないよな。


「さて……」


とりあえずお礼は言ったけど、『きんじ』って何だ?

侍女とは違うのかな……?


まあとにかく、頼めば背中くらい流してくれるに違いない。

ふんどし姿のおっさんが来ることもないだろうし、ほのかに期待しておくか。


ん、待てよ、温泉回にサプライズとハプニングはつきもの。

今頃アロム姫、その辺の別室で急いで水着に着替えてるんじゃないか?

いや、三姉妹まとめてドーンの可能性もないとは言えんよな……。


妄想をたくましく広げつつ、俺は服を脱いでたくましくない裸になった。


「よしっ……と」


上手く言えたところでタオルを肩にかけ、両手で力強く扉を開け放つ。


ほう……。


まずは洗い場らしい。

左右に5箇所ずつ、岩肌の穴からシャワーのようにお湯が噴き出している。

真下に立てば滝行ができそうなくらい、結構な勢いだ。


奥にある浴槽はもやもやと煙っていてはっきりと様子は窺えない。

ただ、何となくだけど人の気配はなさそうな気がする。


まあ、脱衣所にも先客の服とかなかったしな……。


俺は適当に納得し、お湯の噴き出し口の手前で身をかがめた。


「……」


で、シャンプーとか石鹸的なものは……?


きょろきょろ見回してみると、岩のくぼみに四角い陶器の箱を見つけた。

慎重に手に取り蓋を開けた中には、さじと緑色の粉が入っている。


たぶん、これを使うんだよな……?


さじに一杯粉をすくって手に取り、こすってみると――。


おおっ!


想像以上にぶくぶくと良く泡立ち、香りもミントっぽい爽やかな感じで悪くない。


よし、これで全身まるっと洗っちまうか!





頭からつま先までさっぱりしたところで、いよいよ入湯。

浴槽は岩盤を深さ60センチ程くり抜いてあり、底には丸い石が敷かれている。

俺はどっかり腰を下ろし、あごの先までお湯につかった。


「……」


う~む、これはなかなか絶妙な温度。


38℃とか、そのくらいかな……?


ダンジョン内がかなり暖かいので、少しぬるめのこのくらいでちょうどいい。


「はふぅっ……」


目を閉じて上を向き、だらしなく大きく息を吐く。


もういっそこのまま眠ってしまいたい……。


いや、その前に軽く美少女の胸の谷間とかお尻の割れ目を拝見したい――。


ぎらりと血走った目を見開いた瞬間、視界の隅に人影を捉えた。


「!?」


浴槽の奥に誰かいる……!


先客なんていなかったはずなのに、いつの間に……?


腰を浮かし軽く身構えると、近づいてくるシルエットが女性のものだとわかる。


「……」


上から推定86、59、88――。

り、理想的だ……超俺得のナイスバディ……。


だけど、肝心な箇所にだけ湯煙が……くそっ、放送規制かっ!!

せめてちゃんと美少女、または美女なんだろうな……!?


今度は顔にフォーカスして目をぐっとこらす。


「み……」


果たして、それは確かに美少女だった。

しかも俺がよく知っている美少女――。


「みずき……」


ストレートロングの黒髪。

少し太めの気の強そうな眉。

深い二重まぶたと茶色みがかった大きな瞳。

涼しげな綺麗なラインの鼻。

小さめだけどふっくらとした唇。


そして――鎖骨の上に二つ並んだホクロ。


間違いない。

俺の目の前にいるのは妹のみずきだ。


「やっと、二人きりになれたね」


少し低めの耳に心地よく響く声も、他の誰のものでもない。


「どうしてお前がここに……」


喜びよりも驚き、そして言いようのない違和感が先立つ。


「……」


みずきはかすかに目を細めると、小さく息を吐いた。


「残念だ……」

「え……? みずき!?」


みずきはゆっくり背中を向けると、少しずつ遠ざかっていく。


「ちょっと待って! みずき!?」


立ち上がって追いかけようとした時にはその姿はもうどこにも見えない。


「……」


俺はよろよろと一番奥まで歩き、岩肌むき出しの壁面におでこを当てた。


一体何なんだよ……?

シスコン男の未練が生んだ幻想だってのか?


ぎりっと歯をかみ締めた時、扉の向こうから声がした。

洗い場で水がばしゃばしゃ流れ落ちているので、耳を澄まさないと聞き取れない。


「ハナオ様、近侍のリイロと申します。疲労回復の施術はいかがでしょうか?」


きんじ……。

さっき姫が言ってたアレか……。


俺は浴槽の一番手前まで戻ってまた腰を下ろし、少し大きめの声で答えた。


「お願いします」

「かしこまりました。失礼致します」


開いた扉から姿を現したのは――。


すらりとした長身をぴったりと包む白いタンクトップとレギンス。

端正な小顔を際立たせる金髪のポニーテール。

糸目の奥にかすかに覗く青い瞳。


「……」


みずきの幻覚(?)のせいで忘れるところだった。

俺が温泉にやって来た目的、それは――。


こういう美少女とイチャイチャするためじゃないか!


「あらためまして、近侍のリイロと申します。どうぞよろしくお願い致します」


目の前で正座して深くお辞儀をされると、どうしていいかわからなくなる。

とりあえずタオルを腰に巻いて立ち上がり、俺も頭を下げてみた。


「こ、こちらこそ……よろしく」


立ち上がったリイロは、浴槽の手前の平らな岩の上に大きめのタオルを敷いた。


「ではハナオ様、こちらでお顔を下に伏せていただいてもよろしいでしょうか」

「あっ、はい……」


少し戸惑いつつも言われたままうつ伏せになる。


ケツは丸出しですか、そうですか……。


「では、失礼致します」


うっ……!


肩甲骨の下あたりにぴたりと少し冷たい手がふたつ置かれた。


「薬剤は少し異臭が致しますが、すぐに消えますのでご容赦下さい」


ああ……確かに、ちょっと銀杏みたいな匂いがするな……。


リイロは背中を優しくさするようにした後、本格的にマッサージを始めた。

指と手のひら全体を使い、時に強く、時に繊細に刺激を与えてくる。


これは効くわぁ……。


そのうち何となくローションのような粘りが感じられるようになってきた。

手の滑りもよくなり、また違ったリズムで体をほぐされていく。


「んっ……」


時折聞こえるリイロのかすかな吐息が耳に悩ましい。

最初と違って、いつの間にかバラのようないい香りも漂っている。


うわ……これ、全方向からヤバいな……。


「陛下の御前で素晴らしい剣技をご披露されたと聞き及んでおります」

「いや、それほどでも――」

「ご謙遜を。こうしてお世話をさせていただけるのは身に余る光栄でございます」


くうぅ、気持ちいい……。

体だけじゃなく、自尊心まで一緒に愛撫してくるとはっ……!

プロの仕事、恐るべし……。


「ハナオ様、今度はお背中を下にしていただいてもよろしいでしょうか」

「……」


つまり、仰向けになれ、だと……!?


いやいや、それは無理っすわ。

もうアレが完全にあーなっちゃってますし。


「もう十分に疲れも取れたし、このくらいで……」


リイロの気を悪くさせないようにやんわりと断ることにする。

かなり惜しいけど仕方ない。

『私そんなつもりじゃなかったのに!』とか騒がれたら勇者の面目が危うくなる。


「承知致しました。ただ、もしも生理的なご不便が故でしたら――」


リイロは遠慮がちに言葉を続けた。


「それは決して特別な現象ではなく、人体の道理、健常な証でございます」


ぐふっ……!

こりゃばれてるな。

まあ、そうだよな、ちょっと腰浮かせちゃってるし……。


ここまで言ってもらって頑なに断るのも逆にカッコ悪いよな……。


少し迷ったあげく、俺は半ばやけくそ気味に体をひっくり返した。


「じゃあ、お願いします」

「はい、お任せ下さい」


リイロの手のひらが首筋から胸元を円を描くように大きく動く。

時々『出っ張った部分』に当たる度、思わず声が漏れそうになる。


ここってやっぱ男でもすげー感じるんだな……。


まあ、今はもうどこ触られても気持ちよくなっちゃってるけど――。


呼吸が乱れそうなのをこらえていると、施術はだんだんと下の方へ移っていく。


みぞおち、へその周り、そして――。


「……」


見られている。

今、確実に見られている。


意識すると余計に血液がそこに集まってしまうわけで。

かちんかちんで、ぴくんぴくんなわけで。


「ハナオ様、お苦しいようでしたら私にご処置をさせていただけませんか?」


そ、それってつまり……。


ごくり。


飲み込んだ唾がねっとりと喉にからみつく。


「お気持ちはお察し致します。私も男でございますから……」

「!」


男、なのか――。


言われてみれば胸とか全然ないし、女にしては骨格がしっかりしてる気もする。


だけど……。


俺は自分でも意外なほど、がっかりしていない。


リイロの横顔や透き通った肌を盗み見ながら思う。


こんなにかわいかったら別に性別関係ないっしょ。

結婚して子供つくるとかでもないんだし……。


「施術の内容について他言は致しません。もちろんアロム様にも――」


別に快楽に負けたわけじゃない。

俺は理性を保ったまま、選択を下すんだ。


「お、願いします……」

「はい。では――」


すぐに白く細長い指が俺のいびつな聖剣を包み込んだ。

かと思うと、独立した生き物のように滑らかに躍動し始める。


うほっ!


こ、これはっ……!


自分でするのと全然、全然違うぅっ!!


「いかがですか? もっと早くとか強くとかご要望があれば何なりと……」


頭の中はもう真っ白で、何か話し掛けられても答えを返せない。


俺にできることと言えば――。


リイロの汗ばんだ頬を見つめながら、すぐにでも訪れそうな絶頂を待つだけ。


「ハナオ様……」

「ぐ、リイロっ……!」


アッー!



□■



「……」


脱衣所でゆったりとロッキングチェアに揺られている俺氏。

まだ少し濡れた体もそのままに、口元には穏やかな笑みが浮かぶ。

今ここにいるのは勇者ではなく、煩悩から開放された一人の賢者である。


「ハナオ様、こちら滋養強壮に有効な青果のジュースでございます」

「ありがとう。いただこうか」


うっ……!


早速ぐいと口に含んだものの、ぬるいし、苦いし、かなり飲みにくい。

とはいえリイロがせっかく用意してくれたのに残すのは気が引ける。


よしっ……。


俺は覚悟を決めた。


竹筒みたいな容器を一気に傾け、緑色の液体を胃の中に流し込む。


「……!?」


飲み終わってすぐ、清涼感が雷のように全身を駆け抜けた。

かと思うと直後、今度はじわじわと体の芯から熱が込み上げてくる。


こ、これがこっちの世界のエナジードリンクの実力か。


たぎってきたぜぇ……この後たぶん寝るけどな。


「ハナオ様、私はこれにて失礼致します。どうかごゆっくりお過ごし下さいませ」


頭を下げて去っていこうとするリイロを呼び止める。


「ちょっと待って」

「はい、ハナオ様」

「モンスターでも出ると危ないから、一緒に帰らない?」


俺は立ち上がって、素早く体を拭き始めた。


「私のような者にまでそうしてお気遣い下さるなんて、幸甚でございます」


細い目をさらに細くして笑うと、ポニーテールの触覚がふわりと優しく揺れる。


「……」


くっ、かわいいな……。


持ってきた服に袖を通しながら、胸が甘くうずく。


男だとわかっててもこれだもんな……。


もしかして、もともと俺にはそっちの属性もあったってことなのか?


いや、でも、それってシスコンと両立できるもんなのか?


ぐぬぬ……。


「ハナオ様? お気分が優れませんか?」


まあ、答えは急がなくてもいいよな、何せ召還当日なんだし――。


「大丈夫、むしろ今飲んだジュースで絶好調! さあ、帰ろう!」


心配そうなリイロの肩をぽんと叩き、俺は颯爽と長いのれんをくぐり抜けた。

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