あの人
雪が降る季節は苦手だ。どうも好きになれない。好きになれない理由はわかっている。あの人のせいだ。あの人が死んでもう五年になる。もう五年なのか。それともまだ五年なのか。俺にはいまいちよくわからない。でも、あの人のことを忘れることなどもうできない。僕の魂に彼女の存在は刻み込まれていて、消えることはない。そういえば、彼女はそういえばこんな会話をしたことがあった。
「君は僕が死んだら、忘れることができるかい?」
そんなことわけないだろう。と俺は確か答えたはずだ。
「そうか。なら僕は呪いになるのだな。」
呪い?俺にはよく意味がよく分からなかった。
「そうさ。呪いさ。君は僕のことを忘れないんだろう。忘れてはくれないんだろう?呪いとは人に不幸や災いをもたらすもの。悪意を持ったおまじない。僕はね。君がね。僕が死んだ後も苦しんで欲しいんだ。僕がいなくなった後も僕がいなくて辛くなる。君にとって僕が他の誰の物にもならない絶対のものになりたいのさ。僕の悪意ともたらされる災害。これだけ揃って、これが呪いと言わずなんというのか?」
君は強欲なんだな。
「ああ、強欲さ。自分が消える身とは知っている。でもね。誰にも覚えられないよりはそっちの方がいいだろう?自分の生きた証を残したいものなのさ。」
俺簡単に君のことを忘れるかもしれないよ?
「それはないだろうさ。」
何を根拠にそんなことが言えるんだい?
「言葉よりも、顔と目の動きは正直なんだよ。」
・・・・・・・。
「それに君は僕を失うのが怖いだろう?」
・・・・・まあな。怖いよ。
「それだけでもう僕は満足さ。君は僕のもの誰にも渡さない。たとえ僕が死んでもね。」
そう言って、満足そうにあの人は笑っていた。
そうだ。彼女は俺に呪いをかけてしまった。今でも冬になればあの人のことを思い出す。俺は五年前の冬にあの人を失った。俺は心身共にあの後に衰弱してしまった。そして、あの人の代わりを他の人に求めてしまった。人の温もりを。虚しくなってしまうのに求めてしまった。あの人が死んで、半年たって俺は彼女を作った。ほんとにいい娘で申し分なかったのだけど、長くは続かなかった。次の冬が来るとその娘と別れた。冬が来ると、雪が降るとあの人を想いだしてしまって、僕はあの子を拒絶してしまった。わかれた子に非はなかった。その子は未練たらたらだった。でも俺は耐えきれなかった。やっぱり、振った。あなたなんて好きにならなければよかった。その子がそう言って俺の前から消えた。酷い別れ方だった。そんなふうに僕は恋びとを作っては別れ、別れるたびに恨み言を言われながらそうして五年がたった。そして、また冬がやってきた。今でもあの人のことを忘れることはできない。俺はいつになったら彼女を忘れることができるのだろうか?
あの人に会ったのは別れと同じように冬だった。冬に休みを取って俺が田舎の祖父母に会いに行ったあの冬だ。かなりの祖父母の家は豪雪地帯の山奥にある。いわゆる限界集落というやつだ。典型的な昔の豪雪地帯の家という感じで俺は好きだった。去年に祖父母も死んでしまったのでもうその家ももうないが。