第4話 威嚇は最大の防御。
狼達が一歩一歩と下がりつつも威嚇する。
そりゃあ、でっかい爬虫類なんかが叫んできた日にゃ、
初見はびびる。俺だってびびる。
「グルルルル」
「バウバウ!」
三匹のうち二匹はそれでも声を荒げた。
数日ぶりの獲物なのかもしれない。
一匹だけおびえたそぶりを見せるが、
もしかしたら演技なのかもしれない。
狼だって必死だ。
毎日を生きる食料だってきっと喰うか食われるかだ。
食べれるときに食べておかないと、飢え死にしてしまうかもしれない。
それは俺も同じかもしれないが。
ここにいる勇猛果敢な戦士達は
俺よりかは自然のルールを熟知してるはずだし、
それは狼達の風貌をみれば何となく納得は出来そうだ。
体躯は俺より小さくても、この状況下でも、
彼らは目の前の障害をどうするか考えていそうだ。
弱みに漬け込まれて襲い掛かってこられては
多分俺のほうに分が悪い。
むこうは小回りが利きそうだし、
足だって速いだろう。
こんな大きな姿といっても、
俺自身がまだ動く練習をしてる赤ちゃんレベルなわけだから、
ここは脅しに徹するべきだと判断した。
ペッタンペッタン言う足を思いっきり地面に落としてみた。
すると、ドシン! と重量感のある音が大地を揺るがした。
砂が舞い上がり、細かい石が俺の自重で砕かれる。
なんだ、意外にこういうこともできるんだな。
俺はもっと軽い存在だと思っていたのでうれしい誤算である。
ついでにいえば悪い誤算もある。
考えてみればわかるとおもうが、
やわらかそうな足でドスンと地面に落とせば、
足の裏は痛い。
激痛とまではいかないまでも、
目をパチクリしてしまいそうな痛みだ。
足ぐねったー! と騒いでけんけんしたいレベルだ……!
俺は相手に悟られないようにギロリと、
獲物を狙うような視線で一歩一歩と進む。
痛いからと言って涙は見せてはいけない。
痛いからと言って脅しの真似事をとめてはいけないのだ。
でも痛いのは痛い。
あとで捻挫してないといいが。
後方でそれを見ていた少女は、もはや唖然とするばかりだった。
心臓をつかまれたかのようにすくみあがっている。
それでも漏れでそうな声を両手で押さえて、
必死に周囲を見回している。
きっと魔獣にあったときの対処法を、
冷静に思い出したのかもしれない。
俺自身はどういう対処が良いのかわからないが。
アレか? 熊とかそんなかんじなのか?
ある日、熊さんに出会ったー。
と、おもったら爬虫類の化け物でしたー的な感じかもしれない。
そんな光景を横目で確認して、
少女が気絶しないだけでも偉いと俺はおもった。
<キュイイイイ!>
奇妙な声をあげながら俺は前に向きなおして狼を凝視する。
舌をチョロチョロとだして、獲物を狩るハンターの振りをする。
口元を歪めて、唾液をこぼす。
人間がこんな真似をしているとしたら、ただのヘンタイだな。
俺は何か大切な物を捨ててる気がしてちょっとだけ悲しくなった。
しかも少女を守るためのヘンタイ行動。
さらに悲しくなってきた。
それでも狼達にはきいてるみたいだ。
三匹のうちの二匹の尻尾や耳が垂れ下がると同時に、
後ずさりながら交互に仲間達で顔色を伺う。
彼らにしてみても、俺はイレギュラーのようで、
戦うか逃げるかで葛藤してるのかもしれない。
巨大な魔物(爬虫類)とみたところで、
体はきっとやわらかそうだし、威嚇はしてきてるとはいえ、
のろそうなイメージが強い俺なのだが……。
全身ご馳走に見えなくも無いよな。
はたしてどうなるか……。
数分のにらみ合いが続いて、結局狼達がおれる形になった。
むしろ獲物を譲ってくれたにちかいかもしれないけど。
「バウバウ!」
「アオーン!」
「ワフワフ!」
『今日のところはこれくらいにしてやるからな!』
『次は無いと思えよ!』
『覚えておけよ!』
きっとそんなことをいってたのかもしれない。
狼達が何やら連携を取りつつ、
すぐさま反転して森の中へと消えていった。
俺はホッとしたの束の間だが、気を抜いてはいけない。
相手は『森の悪知恵』とも伝わるくらい恐ろしい相手なのだから。
姿が見えなくなっても俺はその先を数分見据えて動かずにいた。
それからしっかりと相手の気配が消えたところで、
のったりと後方に顔を向けた。
「ヒッ!」
緑髪の少女がガタガタと震えながら俺を見据える。
よくみれば耳が長くて尖がっている。
エルフとかいう種族だっけか?
あんまり深く考えると頭痛がするので気にしないようにした。
『大丈夫か!』とか『狼なんて怖くない!』とか
俺は少女に言いたいところだが……。
どうせ声をあげても、
<キュピー?>
である。
もうちょっと違う発音くらい出来る何かになりたい。
悩んでも仕方が無いので、俺は喋るのもあきらめた。
こういうときは獲物と錯覚させないのが一番だろう。
ついでにいえば、お腹が空いてはいても人を食べたいと思わない。
とか、いっておきながら!
いや! なんかおいしそうかもしれない!
とか、ちょっとかじるくらいなら!
とか、平気で頭を過ぎったので不安だ。
やっぱり魔物とかそういう類なのだろうか、
フラッと現れては消える様な思考がどれもえぐい。
自分は爬虫類ではない。
自分は人だったはずだ!
ついでにヘンタイじゃないよ!
戒めのように頭の中で連呼しておく。
そういう考えを読まれないように、
視線をすぐに外して、
俺は投げ出されて、グチャグチャになった果物を
一つ一つペロリとなめとった。
中には硬いのもあったが、口の中で潰すと
シャクシャクと小気味良い音がなってごくりとのみこむ。
お腹が空いているだけに、
甘味があってほどよく酸っぱい果実は
どの果物にしても味はしっかりしてた。
単純にお腹が空いていたからこそ、
とても美味しかったと感じるだけかもしれないが。
少量の果物では、お腹を満たすほどの量ではない。
食べているうちは尻尾も揺れていたが、
食べ終わるとションボリと尻尾も地面にべったりだ。
鼻を地面に近づけて果物の匂いを探すが、
どこを嗅いでもそれはもうない。
痛いほどの視線を感じながらも俺は一切少女に
興味を示さないフリをした。
出来れば勝手に逃げて欲しいし、
早く家に戻って欲しい。
狼がまた襲ってくるとは限らないのだから。
周囲の警戒も怠らないようにしないといけない。
この近くでは何の気配もないので
たぶん大丈夫だとおもうが。
食べるものが落ちてないので、
俺は少女からゆっくりと離れた。
元来た道を戻るような仕草で
逃げやすい道をあけたのだ。
さあさあ、震えてるばかりじゃ助からないよ。
早くおうちにお戻りなさい。
しかしそんな悠長な事を言える事体では無いことにも気がついた。
川の下流をみて、のぼるときは楽だった道が
下を見れば結構道が険しい。
吸盤のような手足といっても、
一歩間違えれば崖にまっさかさまな気がした。
ヘタに滑落したら死ぬかもしれない。
うっかり足を踏み外しての滑落死はいやすぎる。
せめて人にもどってからにしてほしい。
やっぱり横の森から降っていこう。
トボトボと少女から離れていこうとしたその時だった。
「く、果物ならもっとある場所……知ってるよ!」
俺の四足はピタッとその言葉で止まった。
少女エルフの言葉に俺は目をまるくした。
ちょっと時間オーバーですけど、基本0時更新したいかんじです。
六日坊主にならないようにしないと。
ほのぼの読んでもらえれば幸いです。
全然ほのぼのしてないきがしますがががg