ライナス様と花祭り(神歴993年春)
ばんははろ、EKAWARIです。
今回の話は、ライナス様祭り初体験話です。
作中時間は神歴993年、3月末。実際に祭りがあったのは4月中盤くらいですね。
それはよく晴れた、うららかな春のある日のことだった。風は気持ちよく、マディウム桜は綺麗に白い花をつけていて、その上、その日はとくに仕事もなくて、ダラダラと昼寝を楽しむ僕の元にやってきたその人は唐突にもこういったのだ。
「祭がしてえ」
気持ちよく寝ている人をたたき起こしてまで、まっさきにいうことがそれですか、こんにゃろう。
まあ、この人が唐突なのはいつもどおりなので、今更これくらいで怒ったりとかはしませんけどね。とりあえず気になったことを問うてみる。
「アンタ政務はどうしたんですか?」
「ん? 魔王権限発揮してサラに押し付けてきた!」
そう僕が尋ねると、アッサリとこの銀髪赤目の魔王様は白状した。
「アンタ、侍女に仕事押し付けるのは卑怯じゃねえんですかい?」
とりあえず、マイペースに無表情のほほんと魔王に仕えている少女を思い出して、僅かに眉を顰めつつ尋ねてやる。言外に卑怯は嫌いじゃなかったのかと視線で問いながら、それに対して、ライナス様はどこか呆れたような拗ねているような判別の難しい顔をしながら軽い調子で言った。
「あのなー。人間の王と魔族の王はそもそも求められていることとか違うんだぞ。そも存在とかも違うし。人間の王は駄目になったら別の血繋がってないやつとかでも継いだり出来るけど、魔王は魔族がなったり出来ねー、永遠に魔王は魔王だから人間の王みたいに家の名前すらねーし。各時代に魔王はたった一つの存在だからな。んで魔王が仕事出来る奴だったなんて事は過去の例を見ても殆どない。だから、魔王ってのは人間の王より政務に融通がきくもんなんだよ。直属の臣下相手なら自分の仕事を分け与えるのも俺の仕事なの」
だから、俺は自分の仕事しただけ、別に卑怯でもなんでもないといわんばかりにそう言ってふんぞり返りながら、ライナス様は僕の隣へと、どすんと音を立てて乱暴に腰を降ろした。
「はぁ、そうですか」
所詮魔族の血を引いてはいても、魔族として魔族の社会で育ったことのない僕にゃあよくわからない世界だ、適当に聞き流して終わりにする。
「それでなんで急に祭がしたいなんて言い出したんです?」
お茶を濁すついでに最初の話題に戻す。
すると、ライナス様は相変わらず表現豊かに、ぱっと顔を輝かせながら、そりゃもう無駄に楽しそうな声音と表情でもって言った。
「いや、ほらよぉ、人間ってよく祭りやってるじゃねえかよ」
「感謝祭に農業祭に聖夜祭、確かに色々やってますね」
さてはあれですか、人間がやっているのを見て羨ましくなったってオチですか。
「そうそう、だから俺らも祭りしようぜ!!」
うわあ、当たってたよ、シィット。
「それで? どこでやるんです。というか、参加する人間がいなきゃあ祭なんて出来やしませんよ、アンタその辺わかってるんですか」
「ふっふっふ、大丈夫だ。そこの村でやることをこれから交渉しにいく予定だ。ぬかりはない」
って、一体どこからそんな自信沸いてくるんだ!?
「予定ってことはまだ交渉してねえんじゃねえですか。何自信満々で断わられるわけねーって顔してやがんです」
「大丈夫、俺が法律だ!!」
「んな法律いらねー!」
思わず叫んだ後、今度はこめかみを押さえつつ、ため息を一つこぼしてから聞く。
「大体どんな祭にする予定なんです?」
すると、ライナス様は一瞬視線を泳がせてそれからちらりと僕を見た。ファ○ク? おい、まさかこのヤロウ……。
「相棒! 詳細はオマエに任せた!」
ぽんと肩を叩きながら、いい笑顔で言ってのける超美形な魔王様。このヤロウ、それで僕が誤魔化されるか、ボケ。
「って、丸投げするなー!」
「だってよぅ、俺魔王だぜ? 祭とかやったことねえんだよ! オマエ人間として育ったんなら、祭参加したことあるんだろ。大丈夫、オマエなら出来るはずだ!」
「ええい、丸投げするんなら、アンタの祭計画は僕が潰す!」
「なぁにぃ!? 鬼だ、ひでえ、血も涙もねえ!」
「魔王の台詞ですか、それが」
「魔王の台詞だよ! 悪いか!? いいじゃねえかよー、祭ー。やらせろよ、祭ー。きっと、楽しいぜ、なぁ? なぁ? なぁ?」
そういう魔王様はすっかり駄々っ子モードに入っていた。嗚呼、駄目だこりゃ。
そう思いつつちらりと目前のライナス様を見る。こういう顔や態度されると、なんていうか、嫌いになれないっていうか、結局頼みを聞いてやりたくなるというか、それが僕なのだ。ぶっちゃけ僕はライナス様に甘いと思う。そう、何事にも全力で思いをぶつけてくるこの人は、アホだなあとは思うけど、憎めない人なのだ。
「しょうがねえですねえ……わかりましたよ」
「よし、よくいった。流石親友」
にかっと太陽のような笑顔がやたら眩しい。
「で、何の祭にするんだ?」
「恋愛イベント系でいいんじゃないですか? 丁度春ですし、花祭りで、花を村中に飾り、男は青の造花の装飾品、女は赤の造花の装飾品を各自一つずつ持ち、祭当日に意中の相手に渡し、互い同士に造花を交換出来たらカップル成立、出来なかったらカップル不成立にするとか。んで夜は成立したカップルたちが壇上に上がって祝福の花束を受け取り、思い思いに歌って踊って過ごすんです。女子の食いつきはいいと思いますよ」
「…………おい」
そんな僕の提案に、何故か低い声で、眉を顰めつつ声をかけてくる魔王様。
「俺が、恋愛するわけにはいかねえってわかってての提案か、そりゃ」
ぎろりと睨みつつ言ってくる魔王様。恋愛関係の祭ってことで、自分が恋愛出来ないってのに見せ付けようとでもいうのかよ、この野郎とでも思ってそうな顔である。
ちなみに僕はライナス様の不機嫌そうな顔を見るのはわりと好きなので、この提案は半分わざとだし、さっき気持ちよく寝ているところをたたき起こされた事に対する嫌がらせも入っていたりはする。
でもそんなことおくびにも出さずに淡々と僕は続けた。
「別にアンタ自身がカップルになる必要はねえじゃねえですか。あれですよ、恋のキューピットになると思えばいいんです。裏で活躍する縁の下の力持ち。そういうの、アンタ好きなんじゃねえの?」
そう口にすると、ライナス様はあっさりと、「おお、その手があったか」と先ほどまでの怒りはどこへやらという風情になった。ああ、なんて単純。本当見てて飽きないくらい表情がコロコロと変わる人ですねー。
「いやあ、オマエに相談して正解だったぜ! 流石親友」
ばんばんと人の肩を叩きながらそう言うライナス様は、先ほどまでの不機嫌そうな顔はどこへやらの上機嫌な笑顔だ。
「まあ、これくらいは別にいいですよ。交渉のほうも手伝ってやりますよ、なにせ友達ですからね」
「お? そうか、助かるぜ!」
「はは、僕はアンタ(のそういう単純馬鹿なとこ)好きですし、これくらいいいってことですよ」
「そうかい? 照れるぜ!」
そうして第一回目が付近の村、桜の名産地であるアヴェンナ村で開催され、ライナス様主催の「花祭り」は大成功を収めるのだが、後にこの祭りが全国規模にも広がり、世界にも飛び火し、数百年後、『幸福の女神の花祭り』として世界的なイベントとして定着することになろうとは、この祭りの発案者である僕も、実行者であったライナス様も想像すらしていなかった。
これは2人の青春の一ページ。
了
ご覧いただきありがとうございました。
もしかしたら気が向いたら祭り当日編も書くかもしれません。