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夕日の丘のさくらんぼ

作者: 姫沙羅


この村にはいろんな花と、たくさんの木がある。


果実のいい匂いがしていて、昔から伝わるレシピの一つ、さくらんぼのあめは

恋をした時食べると、胸に広がってステキな味がするんだって。



「まぁ、この村の誰かに恋をするなんて ありえないわね」



かよはそうつぶやきながら、隣の男の子を叩いた。

男の子も負けじと叩きかえす。


周りの子ども達も叩き合いを始めていた。


ここは村の小さな小学校。


かよは初めて学校に行った時は、訳もなく叩かれて怖かったけど、ここではそれが当たり前。


時間になって終わりの鐘が鳴ると、学校を出て丘の上にある、たった一つの大きな木を目指した。

その木の上から、広い広い空を見るために。


そこはかよだけの、特別な場所だった。


小さい時から 毎日その丘にいっているけど、

まだ誰とも会ったことがない。



「今日はいい天気だから、空もきっときれいな 赤色になるはずだわ」


かよは期待で胸がいっぱい。

丘に続く花畑を、鼻歌を歌いながらスキップで登った。


 丘について、木に登ろうとすると、そこには男の子が後ろを向いて座っていた。


 ここでは今まで 一度も人がいたことがなかったのに。

 私だけの特別な場所で、その木は私の場所なのに。


ざわざわと木の葉が揺れた。

かよの二つに結い分けた髪も揺れる。


「ちょっと君」


 かよは怒って男の子に言った。


その男の子は 振り返ると、木から飛び降りた。

男の子の顔は純粋で、キレイで、天使みたい。

背中に羽が見えた気がした。



「天使・・・なわけないわ・・・

 君 何でここにいるの?  ここは私の場所なのよっ!」


かよは、男の子のほっぺを叩いた。

男の子のサラサラした茶色の髪は横に揺れたけど、それだけだった。


  びっくりしているけど 怒っていない。


「ごめんなさい。

 僕知らなかったんだ・・・この丘からみる空はきれいだったから・・・

 この木の上から見たいと思ったんだけど・・・」



かよは不思議に思った。


何でこの子は叩き返そうとしないの?

何で謝っているの?


話なんかしてないで やり返せばいいのに。


「何で叩かれて、叩き返そうとしないのよ?」

「だって、ぼくが悪かったと思うから・・・」


      悪かったと思ったら 叩かないの?


「君みたいな子は初めてだわ。

 私の学校では、理由もなく叩くのよ。  私はかよ。君の名前は何?」


その男の子は“聖”と言った。

かよは聖と 木に登った。


「ほら、聖。 空が赤くなったわ」

「本当だ。  きれいな夕日だね」


「夕日って何よ?」


かよは聖が言った、きれいな夕日が分からなかった。


「太陽が沈んでしまう時の光のことだよ。きれいだね」

「・・・きれいな夕日だわ」


  不思議な子・・・。


ばかにしないで教えてくれた。

同じくらいの年の子と、こんなに長く話したのは始めてかも。


  聖となら、もっと話がしたいと思った。

  でも、もう辺りは暗くなってきている。


「もう帰らないと・・・

 私聖ともっとたくさん お話がしたいわ。 明日も会える?」

「もちろん。でも・・・

 ここは かよの場所なのに、また僕が来てもいいの?」

「えぇ。

 村の子はだめだけど 聖ならいいわ」


かよは微笑んだ。

聖は かよのことを妖精みたいに軽やかで、笑うと太陽みたいだなと思った。


かよは家に帰ってからも 不思議な子、聖のことがきになっていた。

天使のような。


「そうだ。 明日聖に私の大好きな本を 教えてあげよう」


  早く明日にならないかな。 そう思いながら眠った。


次の日の午後、学校が終わると昨日よりも早く、一冊の本を持って

かよは学校を飛び出した。


 はやる気持ちを、抑えきれないまま、丘に行くと聖が 木の下で本を読んでいた。


かよは慌てて呼吸を整えてから、話しかけた。


「聖、早いのね。私、のんびり歩いてきちゃったじゃない」

「うん。僕は学校に行ってないから、ずっとここにいるんだ」

「そうなの・・・じゃあ、私の大好きな本を教えてあげるわ。 これよ」


  かよは本の表紙を見せた。

  それは 緑色をしたきれいな表紙。

  

聖は驚いたけど、心から嬉しそうに笑った。


  そして、聖の読んでいた本の表紙を見せてくれた。


「おんなじ本だわ!」


「この本は僕の 仲間っていう家族が書いたんだ。

 白いたびネコなんだよ。


 そのたびネコには夢があったんだ。


 いろんな村での話を集めて本を作ること。

 遠く離れていても、寂しい誰かの心を温かくできると思うから・・・って」


「知っているわ。 この本に書いてあるもの・・・

 アリサ村だって、モリハル村だって・・・


 他のたくさんの村の話を読んでいると、私もたびネコと旅をしている気持ちになるの。


 独りでいても寂しくないわ。  それで心が温かくなるのよ」

 

  かよは、優しい笑顔で言った。

  聖は、かよは素直なかわいい花のように思った。



「嬉しいな。 それがたびネコの夢なんだよ。

 僕はたびネコの夢を継いで、いろんな村での話を集めて旅をしているんだ」


聖は空を見上げて、心の中でたびネコに話しかけた。


    夢が叶ったよ、うれしいねって。


空が笑った、気がした。



「あっ!夕日よ、ほら優しい光だわ」


  かよと聖は手を繋いで、どこまでも広がる空を見つめた。


「優しい手ね」

「うん。手はすごいんだ」

「誰かを叩いて、傷つけられるわ」

「誰かと繋いで、繋がれるよ」

「つねることだってできるの」

「差し伸べることも出来るんだ」

『いろんな手』


  声がかさなった。

  手を離して、かよは木に登りながら言った。


「私、手が怖かったの。 学校では叩かれるし・・・。

 やり返す 私の手も嫌いだった」


かよは自分の手を、空に透かしてみる。

聖も木に登って、かよの隣に座った。


「でも、聖の手と繋いで思い出したわ」

「何を?」

「私のおばあちゃんや、ママも優しい手だってこと。

 だって、果実からあんなにステキなあめを作れるんだもの。


 ぶどう味やいちご味のあめ・・・数え切れないほどたーくさん」


両手を広げて立った。

落ちそうで落ちない。


「さくらんぼのあめだって・・・きっと・・・」


かよは前に、さくらんぼのあめを食べると 胸に広がる ステキな味がすると聞いたことがあった。


この村の子に恋をするなんてありえないと 思っていたから、

食べたことがなかった。


 でも、聖といると、楽しくっていつもドキドキして

 そっけなくなってしまう。


さくらんぼのあめを思い出したら、

急に食べてみたくなった。


      聖と一緒に。

隣にいる聖をみると、彼は木から飛び降りた。

聖の髪がなびき、天使みたいに背中に羽が見えた気がする。



「やっぱり 天使なのかしら・・・」

「どうしたの?」

「なんでもない」


  かよも木から飛び降りた。


「明日は学校が休みだから、早くこれるわ」



  そう言うとかよは 走って家へ帰った。


家に着くと あめが直してある戸棚から、さくらんぼのあめが入った

小さなビンを取り出した。


        どんな味がするのかしら・・・。


聖と食べる明日にドキドキしながら眠った。


次の朝、あめの入った 小さなビンを大切にもって丘に続く花畑を、

歩いたり、とまったりしながら登った。


丘に着くと、そこにはちゃんと聖がいた。



「おはよう、聖」

「おはよう、かよ」


・・・。


あいさつをしたあと、二人とも黙ってしまった。


 風が優しく木の葉を揺らしている。


かよと聖は、それぞれ決心をして口を開いた。


『あのね』


「かよからでいいよ」

「聖が先に言いなさいよ」


   聖は再び決心をして言った。


「あのね、実は今日 この村を出て次の新しい村に行こうと思ってるんだ」


   かよは優しい手を見つけられたから。

   一緒にいた時間は長くなかった。


   でも、話をするうちに、ステキなところをたくさん見つけて・・・好きになった。

   

   かよといるとドキドキして、自分の言葉が柔らかくなっていくのを感じた。


   もっと話がしたい。

   もっと一緒にいたい。


   でも 僕は旅をする。


   別れる時がくるのを分かっていたから。

   今はこの気持ちにふたをして。


   開けるときがくるまで。



かよは思わず さくらんぼのあめの入った、小さなビンを握りしめた。



「わ・・・私は どうなるの?またひとりぼっちになるじゃない」

「かよはひとりじゃないよ。

 かよは優しい手を見つけられた。

 

 それを知らない村の子ども達に教えてあげて。

 手は誰かと繋がる事だってできるんだから。


 それに会いたいと思ったら、またいつかきっと会えるよ。


 僕、かよのこと忘れない」


かよは唇を固く結んだ。

わかってる。


聖は旅をして いろんな村の話を集めている。

そして 本を作ることが彼の夢だってことも。


応援してあげなくっちゃ。わがまま言って困らせたらダメ。


口を開いた。


「私だって、聖のこと忘れないわ。

 それにそうよね・・・私が村の子に優しい手、繋がる手を教えてあげないといけないわ。

 聖、また必ず会えるわ。  思っていればね」


かよと聖はほほえんだ。


 天使のように。 花のように。


かよはビンからあめを二つだすと、一つを聖にあげた。


聖が ありがとう と言って食べたのを見て、ドキドキしながら自分も一つ食べた。



「ど・・・どんな味がする?」

「今までに食べたことが ない味」

「もっと詳しく教えてよ」

「摘みたてのさくらんぼの味だよ。

 きゅーって甘酸っぱいんだ。


 でも、それよりも優しい甘さが胸いっぱいに広がっているよ。

 ・・・ふしぎ」

「私も・・・」


聖の手は、私にとって好きな手。

そう、きっとこれが・・・



「私もよ。 そう、胸に広がるステキな味がするわ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] かわいいお話でした。 [一言] はじめまして。 里優という者です。 よろしくおねがいします。
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