第3話 村の常備薬(草)
「ドーラ、薬草採集の依頼受けるぞ」
ガタイのいい男が声をかける。
「はあ、採集かぁ、討伐系はないんです?」
ドーラは乗り気じゃないのかつまらなそうな顔で返した。
「そういうわけじゃないだが、先日の流行り風邪のせいで備蓄分が少ないらしくてな」
ドーラの様子に男が苦笑する。
「なるほど、わかりました」
納得したのか少しだけ笑顔で返した。
☆☆☆☆
「さて、お昼にしましょ」ユト姉さんの掛け声で食べ始める僕ら。今日は僕も目玉焼きをお手伝いしたんだよ。
「美味しいね」
自分で作ったから尚更だよね。
今は午前のノルマを終えて昼食中だ。
「ただいま」
ん?ドーラ姉さんの声だな。仕事終わったのかな?
「あれ?ドーラ姉さん早いね」
ユト姉さんが立ち上がって迎えた。ドーラ姉さんはそそくさと僕の所に歩いてきた。なに?ちょっと怖いし。
「いや、今から仕事だけど、ユーリを貸りてくわ」そう言って僕を抱き上げるドーラ姉さん。ああ?!まだとっといた好物たちが!と僕は腕をのばすが届かない。
「はぁ?なに?どういうこと??」
ユト姉さんが混乱しているうちにドーラ姉さんに持ち逃げされる僕。
「ちょっと、ご飯途中だよ」
ユト姉さんの制止を無視して歩き続けるドーラ姉さん。僕はなされるがままさ。
「いらない」
いや、いるよ!まだ好物君達がいるよ!!!
「姉さんじゃなくて、ユーリのだよ!」
そうだよ!まだ、好物君たちが!あぁ〜
という叫びを背に家を出る。そのまま広場まで運ばれ呆然自失。。。
「おっ、来たな」
という声に振り向くと、背が高くがっちりしたシルエットが見えた....というか見上げたんだけど。
「ルムスさん?!」
でかい!でかいよ!真上を見上げてるみたいだよ。
「おお!覚えてたか、嬉しいねぇ」
にっこり笑ったお兄さん。この人はドーラ姉さんが師事している傭兵で僕もお世話になっている人だ。はっきり言って顔はワルモノだ!と僕としては若干怖いと思うけどいい人だ。
「え?今から仕事がっての僕も行くってこと?」
ルムスさんがいるって事はほんとに仕事みたいだな。なんで?
「ああ、薬草取りにいくだけさ。お前は頭がいいからすぐ覚えるだろ」
ええ?僕がやるの??ほんとに?!
「ドーラが連れて行くっていうから、俺は採集兼護衛みたいなものだよ。まあ安心してくれ」
そんな事を言われつつ籠を背負わされる僕。ああ、ほんとになんだ。なんで?
「よし、行こうか!」
行こうか!じゃないよ!と始めは渋ったが。手を繋がれて無理矢理引きずられたので仕方なく歩き出した。僕だけ小走りだけど...
村を出て3人で森を進むだ。前にアラン兄と来た時よりさらに奥まで進んだ。
「これだな、ユーリ、覚えろよ。あとこいつもな。簡単だろ?」
解毒や解熱、傷薬などの薬草について集めながら教えてもらう。僕は覚えるのだけは得意だ。
「う、うん。わかったよ」
ドーラ姉さんの周りをチョロチョロとしながら目を凝らして注意深く探していく。意外とすんなり見つかり数も十分とれた。ついでに山菜もとりながらね。うん、楽しいかも。とか思ってたら、
「止まれ」
ルムスさんが呼びかける。さっきまでと違い顔が真剣になる。
(え?なに?)
ビクっと震えて姉さんの服を掴む。
「あそこだ、フブか」
ルムスさんの視線をおって見てみると、丸々太った体、頭には尖った角をもつ四足歩行の魔獣がいた。大きさは僕の3倍くらいはありそうだ。
(こ、恐いよ!!)
僕よりでかくて動きもすごい早い。この前と違ってこちらに向かって突進してくる。こんなでかい魔獣を間近で見た事がない僕はその迫力に足がすくんで動けなかった。
「私がいきます!」
ドーラ姉さんは、一人で仕留めてしまう。突進してくるフブをかわしながら剣で脚を切り飛ばす。
「はっ!これで」
バランスを崩したところを一突きで絶命させる。
僕から3メートルくらい先での戦いにまだ震えがおさまらない僕。
早くてよくわかんないけどすごかった!!.....けど恐かったよ...安心してへたりこむ。お漏らしはしてないよ!ほんとだよ!!
「ははっ、ユーリ、何腰抜かしてんのさ。ナイフ貸してやるから牙と角とるの手伝いな」
ドーラ姉さんは何て事なさそうだ。ルムスさんも特に慌ててなかったし、かっこいいかもしれない。
「うん」
ちょっとふらふらしながら近づいて、おしえてもらう。換金用らしい。その後、フブは血抜きしたりしてルムスさんが担いで持って帰った。肉も食用で売れるらしい。
無事採集も終わり、帰宅。僕は森をでるまでドーラ姉さんの足に引っ付きながら帰った。だってやっぱり恐いし。
途中でカサっと茂みから音が聞こえるとビクッと震えてしまって二人に笑われたもした。
でも頑張ったお小遣いに、木剣を買ってもらい今日から僕も強くなるつもりだ。この前のアラン兄も今日の姉さんたちもかっこよかったしね。
僕もあんな風になれるかな?なんて、山菜の料理を食べながら考えるのだった。