1 恋愛未経験ですが、何か問題でも?
恋って、何ですか?
好きって、何ですか?
誰かがカッコイイだとか、彼氏がどうしたとか、周りは恋愛に大忙しだけど、全くもって興味がない。
女を捨てているとか、そんなわけあるか、いろいろ言われたりするけれど、ホントなんだから仕方がない。
そういう人間もいるんですってお話。
「いっらしゃいませ~」
「いらっしゃいました~。元気にしてたか~チカ」
いつもの曜日、いつもの時間。コンビニのアルバイトにせいを出していると、幼馴染の腐れ縁、トモカが現れた。
「また来たのか。トモ、暇だね~」
「なんだよ、そう嫌そうな面は。客だぞぉ、あたしは」
「ちっ、顔に出てしまったか。まだまだだな私も。精進せねば」
と顔をペチペチと叩いて見せる。
「あ、お前、本当に嫌がってやがるな。失礼なヤツだ。あたしのこと嫌いになったんか?」
「いいえ、大好きですよ?お友達よ。幼稚園からのお付き合いじゃないですか。かれこれ、16年。何をいまさら嫌う事がありましょうか」
「嘘だ。そのわざとらしい、しゃべり方は何だ。こら」
「むむっ、またもバレたか。やるなお主。100点をやろう。すみません。嫌いじゃないけど、最近うざいです。ごめんね?」
と、首を傾げてみせる。
「そこで、正直に言われても困るんだけど……」
あ、トモの奴少し落ち込んだ。
「だってさ……」
「で、彼氏できたか?チカ」
相変わらず立ち直りの早い奴だ。
何だったんだ、さっきのしょげた顔は。
「それだよ私がうざいと思っているのは、3日前にも言ったけど、作る気ないし、興味もないね。いい加減わかれ?」
「心配してやってんだっ!こんにゃろっ!絶対人生の半分は損してるって!」
「へっへーん。余計なお世話です~。私は一生独りで生きるんです~。独りでおかしく楽しく人生を送る自信あるしね」
べらぼうに働いて、年いったら、ネコでも飼って引きこもり生活を始めるのだ。
これが今のところの私の願望。マジで。
「お前、また、引きこもり生活するんだとか、思っただろ。今。一体何が楽しいんだ」
「ずっと家の中で好きな本を読み続けて、好きな時にご飯を食べて、また本を読んで…活字中毒者には、たまらんね。素敵な毎日になるね」
「本好きでも。アウトドアな人間はいっぱいいると思うぞ。そんなの言ってるのはチカぐらいだ」
「そっかな。そうは思わないけどね~、あ、いっらしゃいませ~」
いかんいかん。つい話し込んでしまった。ふと見ると、お客がトモの後ろに並んでいた。
「トモ、どきたまえ。お客さんだ」
「あっあ~ん?あたしは今、こいつと大切な話をしてんだ。邪魔しに来るとは、いい度胸じゃねえか。出直してきな。ガキがっ」
トモは後ろを振り向き、ガンを飛ばす。
いたいけな女子中学生が、バタバタと逃げてった。
「おい、こら。何、営業妨害してくれてんだ。訴えるぞ。こんなところで元ヤン発揮するなよ。一応旦那も子供もいる主婦してんだろ」
「あたしはっ、あんたに幸せになってもらいたいの!いくら幼馴染でも、グレて、いろんな悪さをしてきたあたしと、ずっと変わらず付き合ってくれたのはあんただけだったから!結婚して、子供もできて、あたしは今すごく幸せなんだ。チカとそんな幸せを分かち合いたいんだ!」
「ノーサンキュー。そんなのに幸せを感じない私にとって、ゴミと一緒だね。まとめてゴミ箱にポイっだ。別のことだったらいくらでも分かち合ってやるぞ。だいたい幸せなんてものは人それぞれだからな。つーわけだ、仕事の邪魔をするんだったら、帰れ」
シッシッと手で追いやる。
店長がこっちに睨みをきかせていた。やべえやべえ。
「ばーかばーかっ。また来るからなっ、あたしはあきらめないぞっ、あんたに男作るんだっ!絶対だかんなっ」
思いっきり舌を出して、あっかんべーをしながら去っていくトモ。
子供かお前は。
「あきらめないからなぁぁぁぁぁぁ……」
自動ドアの向こうでまだ言っている。
叫びながらのフェイドアウト。
一回グレたわりには寂しがり屋なトモさん。なんでも私と一緒がいいというところは昔からちっとも変わらない。
自分が結婚したもんだから、私にも結婚してもらって、お揃いになりたいだけなのだ。あいつは。
本日のトモの襲来もかわすことができてけど、これからどうなることやら。先が思いやられる次第であります。