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第5話~二人の仔猫とその母親~

毎日、朝はやって来る。今朝もきっと、気持ちのいい朝が来るはずだった。


「くかー……」


HOEの起床時間は朝6時、主人は毎朝6時に目覚ましをセットしている。


《ジリリリリリリッ!!》


セットした時間になって独特の金槌音を鳴らす時計。ベッドの脇にあるキャビネットから主人を起こすため、勤めを果たそうと一生懸命に音を鳴らすのだが。


「んー……」


ふかふかとした羽毛布団から、にゅうっと腕が伸びてきて、キャビネットの辺りを探り始めた。目当ての時計をガッチリと捕まえると、解除スイッチを押す。そして金槌音が止み主人も起きて、今朝も時計は勤めを果たすはずだった……が。


「…………くー……」


主人は起きなかった。主人は朝にめっぽう弱かったのだ。しかし“朝起きの神”は仕事熱心な時計を見捨てはしなかった。


「くー……」


《きゅうっ》


何者かが身体を絞めつけた。


「…………ぅん?………………………………………………ッッ!!?」


《ガバッ!!》


ふかふかの羽毛布団が勢いよく捲れ上がった。


「すぅ……すぅ……」


「のっ、のわぁぁぁああああッッ!!」


暁彦の悲鳴が屋敷中に響き渡った。それもそのはず、暁彦の身体には、しがみついて気持ち良さげに眠る、華恵の姿があったのだから。しかもキャミソールにショーツだけの、下着姿なのだから暁彦も余計に焦る。暁彦の悲鳴に華恵がうっすらと目を開けた。


「……んぅ?」


「かっ、華恵ッ!!お前何してんだよッ!!」


「…………暁彦、おはよ……」


「あ、おはよう……じゃなくてッッ!!」


まだ覚醒しきれずにとろんと微睡んだ瞳で挨拶する華恵。暁彦はつられて普通に挨拶を返すが、瞬時に置かれた状況を再認識した。


「とにかく離れろッ!!」


「……くぅ」


「寝るなッ!」


《ポコッ》


華恵の頭を軽く叩くが効果は全くなかった。眠り姫は気持ち良さそうに寝息をたてる。


「ったく……この寝坊助は……」


クシャクシャの猫っ毛で真っ赤なショートヘア、ルビーのような紅色の瞳。黄と黒の縞模様の獣耳と尻尾。まだあどけなさ残る少女は、甘えるように身体にしがみついて、無防備な寝顔をこちらに向ける。少女が屋敷に来てから数週間。少女はこんなにも安心して信頼を寄せてくれる。


「(こんな娘が危険な目にあってるなんて……俺はどうしたら……?)」


少女の猫っ毛を優しく撫でながら、暁彦は自分が出来る事を探してみる。が、やはり良い案など思い浮かびそうもなかった。


《コンコンッ》


不意に扉がノックされる。いつものように躊躇なく返事をするが。


「はーいっ、入っ…………ちゃ駄目ぇっ!!」


「えっ?」


躊躇なく返事をした後に、自分の置かれている状況に気付いた。しかし“時既に遅し”。ガチャリと扉が開き、見知った顔が覗く。


「!?」


「ち、違うんだ、葉月さんッ!!これは華恵が寝ぼけて、俺のベッドに潜り込んで……!!」


顔を覗かせたのは葉月で、暁彦の置かれた状況を見て言葉を失った。間違いなく誤解している葉月に弁解する暁彦。しかしわかってもらえるはずもなく。


「ふっ……不潔ーーーッッッ!!!」


《パッカーーンッッ!!》


「べぽらっぷッッッ!!」


素敵な金槌音が屋敷に響き渡った。









「ったく、華恵のおかげで朝から散々な目にあった……」


「いやぁ~、ごめんごめんっ」


妙にくぐもった声で話す暁彦。なぜなら暁彦の顔面には、まるでゴム膜を押し付けたように、輪郭がはっきりとわかるほど“フライパン”がめり込んでいた。華恵は無邪気に笑って見せた。


「『ごめん』で済むかッ!?顔面すげぇ痛いし、葉月さんには誤解されたままだし……二度とすんなよッ!!」


「えぇ〜〜っ」


「『え〜』じゃないッ!」


「うー……」


華恵はしょんぼりと俯いてしまった。そして潤んだ瞳で上目使いに暁彦を見つめた。


「だって、暁彦抱き心地いいし……なんか、おじいちゃんみたいな匂いがして……安心出来るんだよねっ」


「お前、それって……」


照れたようにはにかむ華恵。暁彦はそんな華恵にドキッとしてしまう。


「(……じぃちゃんみたいな匂いって……“加齢臭”じゃねぇか……)」


《ずーーん……》


「なんで落ち込んでんの?てか、そのフライパンいつまでつけてるつもり?」


暁彦はフライパンをめり込ませたまま、地面に項垂れショックを受ける。暁彦はまだ20歳になったばかりだったが、自分にはもう加齢臭が出ていると勘違いして落ち込んでいた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


所長室にて、今日も日課の所長業務をこなす暁彦。最近は慣れてきて、一人で任されることが多くなってきた。初めに比べ目覚ましい成長である。


「え~っと、今日は……ん、手紙?」


白い便箋に包まれた手紙だった。宛名は叔父の孝章宛てだった。


「差出人は……立花(たちばな)(かえで)……?」

叔父宛ての手紙だが、所長不在の今、代理である暁彦しかいない。不謹慎かもしれないが、手紙に目を通すことにした。



『拝啓、霧ヶ崎孝章様


お久しぶりです、覚えておいででしょうか?大学院時代お世話になった立花です。あの件では、大変感謝しております。霧ヶ崎講師のおかげで今の私達があると思っています。あの娘達もすくすく成長して、今ではやんちゃな盛りです。あの娘達には手を焼かされていますが、毎日充実していて楽しいです。

 話は変わって本題に入ります。実は私達の住んでいる街でも、組織が動いているという情報を入手しました。相変わらず、表沙汰にはなっていませんが、裏では派手に暴れているそうです。いくら保護条例が公認されていても、陰で襲われては政府も動けません。この娘達のこともありますし、近々そちらに向かわせていただきます。この娘達だけは何としても守らなければ。それではお会い出来るのを楽しみにしています。


敬具、立花楓』



綺麗な文字でまとめられた手紙。叔父に対する信頼の気持ちが伝わってくる文面だった。


「(『組織』ってまさか……華恵を襲ったハンターの事か?他の街でもハンターの脅威に曝されているなんて……。とりあえず、この“立花”さんと話してみる必要があるな……)」


暁彦は胸の不安感を掻き消すように仕事に打ち込んだ。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


その日も生憎の悪天候だった。大粒の雨がザンザンと降り注ぎ、至るところで水溜まりを作る。このような天候が2、3日続き、屋敷の皆もうんざりしているようだった。


「こう雨ばかり降られてしまうと、お洗濯物が外に干せなくて困るわ」


頬に手を当てて溜め息をつく茉奈。屋敷には乾燥機も乾燥室もあるのだが、彼女曰く天日干しの方が効果的なのだそうだ。


「オラオラッ!どけどけーッ!」


「かっ、華恵ちゃん!そんなに走り回ったら危ないよっ!」


茉奈の隣で、床の絨毯に掃除機をかけながら勢い良く走り回る華恵。と、それに翻弄される葉月。


《シュルシュル……》


「わっ、わあっ!」


華恵の操る掃除機の配線コードが葉月の足に絡み付く。絡み付けたまま、華恵はあっちへこっちへ駆け回るものだから、葉月はバランスを失って。


「きゃあっっ!!」


《ドテンッッ!!》


床に尻餅をついてしまった葉月。幸い床は絨毯なので怪我はなかったが、華恵はそれを見てケラケラ笑った。


「葉月ってドジ~」


「もーっ!華恵ちゃんのせいでしょっ!」


葉月は尻餅ついたお尻を擦りながら、恨めしそう華恵を見つめる。


「華恵ちゃん、お仕事の際中はふざけてはいけませんよ」


「えへへ、ごめんなさい……葉月もごめんね」


「もう、いいよ」

素直に謝る華恵に葉月は笑顔で答えた。葉月も、華恵がわざとではない事を知っていたようだった。茉奈はそんな2人を優しく見守っていた。


《リンゴーン……》


玄関の呼び鈴が鳴る。


「お客様ね。葉月ちゃん、華恵ちゃんお願い」


「はいっ」


「アイサー」


茉奈が言うと、葉月と華恵は玄関の扉の両側について引き開ける。その途端、開いた扉から雨風が吹き込み、紛れて客人と思われる人も飛び込んできた。


「あぁーっ、まったくひどい雨ねー。ふたりとも大丈夫、濡れてない?」


レインコートを羽織った大人と2人の子供。レインコートを頭まで被っているので顔までは見えないが、大人は声からして女性だと思われる。葉月と華恵は外に人がいない事を確認すると扉を閉じた。


「遠路遥々、お疲れ様でした。ようこそ、HOEへ」


「これはどうもご丁寧に……おっと」


茉奈につられて頭を下げる女性。途中でフードを被っていることに気付いたのか、フードを外した。


「はじめまして、立花楓です」


切れ長の目にアメジストのような薄紫の瞳、そしてフレームレスの眼鏡。黒色の髪を玉状にシニヨンで束ね、穏和な表情を浮かべる女性。


「私は茉奈と申します」


「葉月です」


「華恵だよ、よろしく」


順々に自己紹介し、お互いに握手を交わす。握手し終えると、楓は3人を見回した。そして言いづらそう口を開いた。


「最初に謝っておくわ。傷付けてしまったならごめんなさい。あなた達……“亜人種”よね……?」


楓の一言で空気が重たくなった気がした。表に出さないまでも、実際に葉月と華恵は胸を締め付けられる思いだった。しかし、茉奈は何事もなかったように平然と答える。


「はい。私も、葉月ちゃんも、そしてこの華恵ちゃんも、亜人種です。ここには、私達以外にも数十人の亜人種達が暮らしています」


初対面の人間に躊躇いもなく、自信を持って「亜人種だ」と答えた茉奈。葉月はそんな茉奈を凄いと思った。なぜなら、もし葉月が茉奈と同じ立場になった時、茉奈のように自信を持って答えられたかどうか、わからなかったからだ。


「そうっ、その言葉を聞いて安心したわ。教授の言った通り、ここなら安全ね」


茉奈の言葉を聞いて、嬉しそうに笑った楓。


「変なことを訊いてごめんなさい、これには理由があるの」


楓はしゃがみ込むと、後ろに隠れていた2人を前に出した。楓は2人のフードをそっと外す。


「えっ!?」


「わっ!」


「まぁっ……」


葉月、華恵、茉奈の3人は子供達を見て驚いた。なぜなら子供達は全く同じ顔をした少女だったからだ。淡い桃色の長髪を2つのリボンで結わえたツインテールヘア。イエロートルマリンのような黄色い瞳が不安そうにこちらに向けられている。そして何よりも、桃色の髪から覗く純白の獣耳。少女達もまた“亜人種”だったのだ。


「さっ、ご挨拶して」


「……」


「……っ」


いきなり人前に出されて、もじもじする少女達。視線がキョロキョロと定まらず落ち着かない。


「あたし、双子って初めて見たーっ。ホントそっくりなんだね、かわいいーっ」


「ッ!?」


華恵が少女達の頭を撫でようと、両手を出した瞬間。少女達はビクッと体を震わせ、直ぐ様楓に抱き付いた。


「あ、ありゃ……」


「やっぱ駄目かぁ……ごめんね、この娘達人見知りが激しくて」


少女達は必死に楓に抱き付く。怯えているのか、涙目になりながら小刻みに震えていた。そんな少女達にそっと近付く葉月。少女達と同じ目線に合わせるようにしゃがみ込む。


「こんにちは、私は“葉月”って言います。お姉ちゃんにあなた達ふたりのお名前、教えてくれないかな?」


少女達を恐がらせないよう優しく微笑む葉月。


「ぁ、ぅ……」


「ぅ……」


「うん?」


少女達の視線が向けられる。変わらず微笑む葉月。


「さ、ぇ……です……」


「……さ、き」


集中しなければ聞き取れないような、小さく弱々しい声だった。しかしそれでも少女達は自分の名前をしっかりと口にした。


「そうっ!『さえ』ちゃんに、『さき』ちゃんて言うんだっ!かわいいお名前だねっ!」


葉月は嬉しそうに笑った。少女達が自分で名前を教えてくれたことがなにより嬉しかったのだ。


「……葉月ちゃん、あなたすごいわねっ!沙詠(さえ)沙癸(さき)が自分から挨拶するなんて……初めてじゃないかしらっ!」


「大したことじゃないです。ただ……素敵な名前なんですもの、本人の口から聞きたくて」


沙詠と沙癸が初めて見せた行動に驚いた表情を見せる楓。葉月はそれほど少女達の警戒心を緩ませたのだろう。


「なんか、複雑ぅ」


「まぁまぁ、華恵ちゃん。仕方ないですよ」


ふてくされた様に口を尖らす華恵。自分ではなく葉月に心を開いたのが面白くないのだろう。茉奈はそんな彼女を宥めていた。


「さぁ、濡れたままでは風邪を引いてしまいます。お部屋にご案内いたしますね」


「お願いするわね」


「荷物、預かるよ」


「私、タオル持ってきます」


楓達を部屋へと案内する茉奈。華恵は楓達の荷物を、葉月はタオル取りに、それぞれの行動へと移った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「どうぞ、タオルです」


「ありがと」


葉月からタオル受け取る楓。楓はすぐに沙詠と沙癸の頭を拭き始めた。


「こら、沙癸っ。動かないの、頭拭けないでしょ」


「ぅ、やぁ……」


沙癸は嫌がりぐずるのだが、楓はそれを許さない。濡れたままにしておくと風邪をひかねないからだ。葉月はそれを見て微笑んだ。


「ふふっ」


「ほらぁ沙癸、沙癸がイヤイヤするから葉月お姉ちゃんに笑われちゃったわよー?あー、恥ずかしい」


「……ぅ?」


「さきちゃん、がまんがまん」


沙癸の頭をぽんぽんと叩く沙詠。どうやら沙詠の方がお姉さんらしい。沙癸も沙詠に諭され、大人しく頭を拭かれた。


 楓達が体を拭き終えた頃、葉月を呼び止めた。


「葉月ちゃん、お願いがあるんだけど……」


「はい、何でしょう?」


楓は拭き終えたタオルを葉月に手渡す。葉月はそれを受け取りながら答えた。


「これからお仕事の話をしなくちゃならないの。それでその間だけ、沙詠と沙癸の面倒を見てもらえないかしら?」「私は大丈夫ですけど……沙詠ちゃんと沙癸ちゃんが……」


葉月は沙詠と沙癸に視線を送る。問題は彼女達の極度の人見知り、今日初めて会った人と大人しく待つ事が出来るのだろうか。案の定、彼女達も戸惑っている様子だった。そんな葉月の心配を他所になんのその、と楓。


「あーっ、大丈夫大丈夫。ふたりとも、葉月お姉ちゃんとなら大人しく待っていられるわよね?」


「ぅ……」


「ぇ……」


「うんっ!大丈夫だって!」


「……全然、大丈夫そうに見えないんですが……」


明らかに不安そうな沙詠と沙癸を見て、笑顔で「大丈夫」と頷く楓。葉月は今にも泣き出してしまいそうな2人を見て、余計心配になった。


「大丈夫よ、沙詠と沙癸もあなたにはなついているようだし」


「でも、今にも泣き出しそう……」


「葉月ちゃんじゃあなかったら、もうとっくに泣き出してるわよ」


沙詠と沙癸に聞こえぬよう、楓は葉月に耳打ちをする。


「とにかく、葉月ちゃんなら大丈夫。どうしようもなくなった時はここへ戻ってきて」


「でっでも、楓さ……」


《きゅむっ》


「えっ?」


ふと、スカートを引かれた感じがした。下に視線を配ると、そこには少女達が立っていた。


「はづき、お姉、ちゃん……」


「……よろしく、おねがい、します……」


不安と戸惑いが入り雑じった表情で、葉月を見上げる沙詠と沙癸。葉月のスカートを握り締めながら、泣いてしまいそうになる事を必死に堪えているようだった。この娘達の年代ならば、堪えきれずに泣き出してしまう娘もいるだろう。しかし、彼女達は泣くどころか、葉月に自らお願いする。葉月は思わず彼女達の強さに心を打たれてしまった。


「面倒みてもらえる?」


「はいっ、私でよければっ!」


穏やかな表情を浮かべる楓に、少女達の頭を優しく撫でながら、笑顔で答える葉月だった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「沙詠ちゃん、沙癸ちゃん、何しよっか?」


沙詠と沙癸の手を繋ぎながら並んで廊下を歩く葉月。少女達は葉月に視線を返すが、困った表情をしていた。


「屋敷を探検する?それともお部屋で遊ぶ?」


「たんけんっ!」

「お部屋であそびたいです……」


沙癸は「探検」、沙詠は「部屋で遊ぶ」と見事に意見が割れた。


「う、う~ん……困ったね。どっちがいいかな?」


「おや、葉月?」


聞き覚えのある声に名前を呼ばれ、視線を向けると椿が立っていた。手には棒状の布袋が抱えられている。葉月はそれが何か直ぐにわかった。


「椿さんっ。弓のお稽古ですか?」


「あぁ、今終わった所だよ。……この娘達は?」


椿は葉月の両脇にいる沙詠と沙癸に気付く。沙詠と沙癸は警戒して葉月の後へとに隠れた。


「今日来られたお客様の連れで、沙詠ちゃんと沙癸ちゃんです。面倒を見て欲しいと頼まれて」


「そうか、可愛らしい娘達だな。沙詠、沙癸、私は椿だ。宜しくな」


椿はしゃがむと沙詠と沙癸の目を見て微笑んだ。警戒心を感じ取ったのか、それ以上のスキンシップを図ろうとはしなかった。


「そうだ、良いものをあげよう」


椿は懐に手を入れるとゴソゴソとまさぐる。沙詠と沙癸はそれを葉月の後から興味津々に覗いていた。そして懐からそれを取り出した。


「これだ」


「あっ、チョコレート。いいんですか?」


「後輩の娘に貰ったものなんだが、私よりこの娘達に食べてもらった方が良いと思ってな。皆で食べてくれ」


沙詠と沙癸もお菓子に目を輝かせる。椿はその板チョコレートを差し出した。沙癸はおずおずと前に出ると、恐る恐る板チョコレートを受け取った。


「……あ、ありが、とう……」


「あぁ」


辿々しくお礼を言う沙癸に椿は笑った。


「じゃあ、私は行くな」


「ありがとうございます、椿さん」


「何、気にするな」


「つばき、お姉ちゃん」


「ばいばい……」


「またな」


そう言うと椿はその場を後にした。


「良かったね、チョコもらえて」


「うんっ」


沙癸はチョコレートを片手に笑顔で頷いた。









結局、沙詠と沙癸の両方の意見を取り入れることにした。前段は部屋で遊び、後段は屋敷内を見て回ることにする。


葉月の部屋についてからは、葉月が趣味で集めたぬいぐるみでお人形遊びをしたり、トランプなどのボードゲームをして遊んだ。沙詠と沙癸はさっきまでの人見知りが嘘のように、はしゃぎ、笑い、明るくなった。「これが本来の彼女達の姿なのだ」と葉月は嬉しく感じていた。そんな時。


「はづきお姉ちゃん……」


「うんっ、なあに?」


沙癸が葉月に近付いて来た。沙癸は何故かもじもじしていた。


「……ぉ……っ」


「どうしたの?」


声が小さく聞き取りづらい。見る見るうちに沙癸は泣き出しそうになっていく。


「おしっこ……」


「えっ!?」


沙癸の突拍子のない言葉に葉月は焦る。沙癸はどうやらトイレに行きたいらしい。


「もれちゃう……」


「まっ、待ってね!今、連れてくから!あっ、でも、沙詠ちゃんが!?どっどうしよう!?」


沙癸をトイレに連れていこうにも、沙詠をこの場にひとり置き去りにするわけには行かない。そうこうしている内にも沙癸は限界に達しつつある。


「はづきお姉ちゃん、大丈夫です。わたしひとりで待ってられます」


「本当!?ごめんね、すぐに戻ってくるから待っててね!!」


「はいっ」


慌てる葉月にとって、沙詠の申し出はとてもありがたかった。沙詠をひとりにするのは心配だったが、背に腹は代えられない。


「はづきお姉ちゃんっ」


「はいはいっ!今連れてくから!」


葉月は沙癸を抱えて、慌ただしく部屋から出て行った。沙詠と静けさだけが部屋に残された。


「……ミーちゃん、いっしょにお留守番してね」


胸に三毛猫のぬいぐるみ「ミーちゃん(沙詠命名)」を抱えながら、葉月と沙癸の帰りを待つ沙詠。三人の時はあんなに笑い声で溢れていたのに、今はとても静かだった。


「…………」


沙詠は静寂を嫌いではなかったが、独りでいるのが嫌だった。嫌というよりも恐ろしかった。いつも隣には楓や沙癸がいてくれた。楓と出会う以前の記憶はは殆ど無いが、胸を押し潰すような恐怖感だけが残されていた。ひとりでいるとその恐怖感が自分自身を飲み込む。それを紛らすように沙詠はぬいぐるみに顔を埋めた。


―……ぃ─


「……?」


一瞬、何か聞こえたような気がした。辺りを見回しても、自分一人しかいない。気のせいかと思った瞬間。


─……寂しい─


「えっ?」


今度ははっきりと聞こえた。耳に入ってきたのではなく、頭に響くような女性の声。


─……独りは、もう嫌じゃ……─


「……誰か、呼んでる」


悲しそうな声だったが、不思議と恐怖感はなかった。沙詠は部屋の扉を開けると、その声が強く聞こえる方へと歩いて行く。不思議な感覚だった。初めての場所の筈なのに、まるで昔から知っていたかのように進む方向がわかった。


「こっちなの」


何度曲がり、何度階段を下りたのか、沙詠は覚えていなかったが、迷うことなく目的の場所へとたどり着いた。しかし、たどり着いた場所には何もなく、行き止まりの壁だった。


「ここ……」


特に変わった様子はなく、ただ壁の色が他の壁にくらべ古いことくらいだった。迷うことなく、その壁に手を触れる。


《ヴンッ!》


不思議なことに、壁が青白い光に包まれたかと思うと、沙詠は吸い込まれるように壁の中へと消えた。青白い光が止むと、そこには沙詠の持っていた三毛猫のぬいぐるみだけが床に転がっていた。









「沙癸ちゃん、これからはギリギリまで我慢しないで先に言ってね?」


「ごめんなさい……」


部屋に戻ってきた葉月と沙癸。葉月は一早く異変に気付いた。


「(あれ、扉が開いてる……閉めていった筈だけど)」


「さえお姉ちゃん、ただいま……あれ?」


部屋を覗くと沙詠の姿はなかった。葉月の顔から血の気が退く。


「沙詠ちゃんっ!!」


「っ!?」


葉月の大声に驚く沙癸。葉月は必死に部屋を探し始めた。


「沙詠ちゃんっ!!沙詠ちゃんどこっ!?」


ベッドの下、机の下、クローゼットの中、隠れられそうな場所は全て探したが、沙詠を見つける事は出来なかった。


「(私の……私のせいだ!私があの時、目を離さなきゃ!!沙詠ちゃんを1人にしなきゃ!!)」


「は、はづきお姉ちゃん……」


葉月の取り乱す姿に沙癸は面を食らっていた。


「……っ!!」


「わっ」


葉月は沙癸の手を掴むと部屋から出て廊下を駆け出した。




「まさか、所長さんがこんなに若い人だなんて思わなかったわ」


「はは、僕も所長代行するなんて思いもしませんでしたよ」


客室で雑談する暁彦と楓。孝章がいると思っていた彼女は、孝章がいない事実を知って驚く。さらに代行で出てきた暁彦に驚いていた。


《……タタタタッ!》


「ん?」



途端に足音が聞こえてきたかと思うと、客室の扉が勢いよく開け放たれた。


《バタンッ!》


「はぁっ、はぁっ」


「ひぐ……ぐすっ……」


そこに現れたのは、肩で息をする葉月と泣きじゃくる沙癸。ただならぬ雰囲気に、暁彦も楓も唖然とする。


「葉月さん……?」


「ど、どうしたのよ?」


「あのっ!沙詠ちゃん、沙詠ちゃん来てませんかっ!?」


「沙詠?来てないけど……?」


「そ、そんな……」


その場に崩れ落ちる葉月、表情がくしゃくしゃに歪んでいく。


「葉月さん、何があったの?」


「沙詠ちゃんが……沙詠ちゃんが……!!」


「沙詠が……いなくなった……!?」


暁彦と楓の表情に緊張が走った。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「ぅん?」


はっと我に返る沙詠。どうやら気を失っていたらしい。


「ここ、どこ?」


辺りを見回すと洞窟のような場所だった。洞窟の中は気温が低く、ひんやりと湿気を帯びていた。不思議な事に、灯りがどこにも見当たらないのに、洞窟の中はぼんやりと明るい。


「さむい……」


沙詠は身体をを手で擦り、寒さを紛らわせようとする。今までの経緯を思い返す。部屋で女性の声が聞こえ、それに導かれるようにこの場所に来た。部屋からこの場所に来るまでは、記憶が曖昧になっている。


「あの声の女の人を探さなきゃ……」


このまま、ここへ踞っていても仕方がない、沙詠はそう言うと洞窟を進み出した。地面は岩肌で、足場が悪い。所々水溜まりが出来ていて、注意して歩かないと足を突っ込んでしまいそうだ。洞窟内には沙詠の息遣いと、水の滴る音のみが響いていた。


「(わたし、どうしてここにいるの?ここはどこなの?)」


頭の中をぐるぐると回る疑問、いくら考えても答えは出ない。


《ガッ!》


「あぅっ!」


沙詠はそのまま地面に突っ伏してしまった。バシャンと水飛沫が飛ぶ、水溜まりに上半身から浸かってしまった。地面の窪みに足を取られたらしい。衣服はずぶ濡れになってしまったが、水溜まりのおかげで怪我はなかった。沙詠はすぐに上半身を起こす。濡れた衣服が肌に吸い付き、冷たさを感じた。


「ひぅっ……ふぇっ……」


沙詠はついに耐えきれなくなり、嗚咽を漏らし始めた。


「もぅ、いやぁ……かえでお姉ちゃん……さきちゃん……はづきお姉ちゃん……」


ポロポロと大粒の溢す沙詠。暗闇にひとり放り出され、怖くて、心細くて、泣くことしかできない。


「……うっく……ぅん……?」


その時、奥にぼんやりと光が見えた気がした。気のせいかと思い目を擦るが、確かに淡い光が見える。


「なに……あれ……」


まだ涙の溢れる目を擦りながら、足に力をいれて立ち上がる。とぼとぼと危なかしい足取りだが、一歩一歩しっかりと進んで行く。すると開けた場所に出た。中央には神社にあるような祭壇らしき小屋が置かれていた。光はその小屋から漏れていた。


「赤い光……」


沙詠はその祭壇に誰か人がいるのではないかと、期待しながら歩み寄る。近くに来ると、その祭壇が相当古いものであることがわかった。障子が貼ってあったと思われる襖は、長年の年月によりほぼ骨組みだけとなっている。沙詠はその骨組みの隙間から祭壇の中を覗いた。


「何か……光ってる?」


祭壇の中は四畳ほどのスペースがあり、中央の神棚で何かが発光していた。誰か人がいると思っていた沙詠はがっかりとしたが、新たにその発光物に興味がわいた。立て付けの悪い襖を何とかこじ開け、祭壇の中に入る。そして中央の神棚まで来ると、おそるおそる中を覗き込んだ。


「わぁ……」


神棚の中にあったのは真っ赤な水晶だった。球状で沙詠の拳ほどの大きさ、中心部はキラキラと輝いており、淡い光を放っていた。沙詠はその宝石に見とれていた。


「赤くて、きれい……」


そっと手を伸ばす沙詠。指先が水晶に触れようとした瞬間、水晶は強く光を放った。


「きゃっっ!!」


沙詠は驚いて手を引っ込める、あまりの眩しさに両手で目を覆った。


「ぅ……」


数秒経つと光は徐々に止んでいき、やがて発光しなくなる。そして不意に声がした。


「……人間、か?」


「えっ!?」


沙詠は驚く、どこからともなく声が聞こえてきたのだ。キョロキョロと辺りを見回すのだが、先ほどの光で目が眩んでしまったため、よく見ることができない。


「だれっ!?どこっ!?」


「何処を見ておる?ここじゃ、ここ。目の前じゃて」


ようやく目も慣れ、辺りを確認出来るようになったが、声の主を見つけることが出来ない。


「『目の前』って、玉しかないよ?」


「なんじゃ、しっかり見えておるじゃないか。その珠こそが妾じゃ」


「えっ!!」


珠をよく見ると、言葉に合わせて微妙に発光しているのがわかる。


「……赤い玉さんが、わたしに話しかけてるの……?」


「先程からそうだと言っておろう」


初めての経験で信じられないが、どうやら本当に珠が話しかけているらしい。喋る珠なんて見たことも聞いたこともない。沙詠は戸惑いを隠せなかった。


「どうして……玉、なんですか?」


「む……?まぁ、その……色々と事情があるんじゃ。それよりも……」


沙詠の質問をうやむやにして誤魔化す赤い珠。どうやら触れられたくない事情らしい。珠は話題を変えた。


「童、ここへ何をしに来た?」


「『わらし』じゃなくて、“さえ”です。わたしもどうしてここへ来たのか、わからないんです。ただ、声が聞こえてきて…………あっ!」


自分で言って気が付いた。あの時、葉月の部屋で聞こえた声と珠が発する声、その声が似ていたのだ。


「あなたが、わたしを呼んだの?」


「『呼んだ』……?妾がか?」


沙詠は頷いた。珠は見に覚えがないといった感じだ。


「『さびしい、もうひとりはいやだ』って。あの時、聞こえてきた声とあなたの声がにていたんです」


「…………妾は知らん。言うてもおらんし、お前を呼んだ覚えもない」


口調が冷たくなった気がした。怒らせてしまったと、沙詠はしょんぼりした。


「そう……」


「……」


「…………」


「…………」


会話が無くなってしまった。沈黙が辺りを支配しようとした頃。


「……でも、わたし“タマちゃん”に会えて良かったです」


「『たまちゃん』?それは妾の事を言うておる……わわっ!!」


不意に身体が浮くのを感じた。沙詠が両手で持ち上げたのだ。といっても身体は珠なのだが。


「さっきまでひとりで心細かったけど、今はタマちゃんがいるから大丈夫。これからよろしくね、タマちゃんっ」


「妾は童と馴れ合うつもりなど……うわわわっ!!止せっ!振り回すなぁっ!!」


珠を抱えたまま、くるくると回る沙詠。何はどうであれ、話し相手が出来たことが嬉しかった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「そんな、これだけ探しても見付からないなんて……」


茉奈は捜索隊の報告を受け嘆いた。沙詠が行方不明になった事を聞いて、すぐに捜索隊が組まれた。沙詠がいなくなったのは午後2時頃、現在時刻は午後6時。かれこれ4時間ほど経過していた。いくら広い屋敷内とはいえ、使用人総出で探しているのに手掛かり一つ見付からないのはおかしい。外は未だに大雨が降り続いていた。


「この雨で外に出ることは考えられねぇが、一応これから外も探してみる」


「お願いします、カジさん……きゃっ」


突然、茂雄は茉奈の頭をワシワシ撫でた。


「なんてぇ顔してやがんだ。そんな顔してたら、嬢ちゃんも出て来るに出て来れねぇだろ」


暗い顔をする茉奈を元気付けようとしてやった事だった。最初は驚いた顔をしていた茉奈も、茂雄の気持ちが伝わると笑顔になった。


「ふふ、そうですねっ」


「うしっ、その面だ!……って、おめぇもだぞ、葉月っ!!」


「ふっ……うっ……」


葉月は子供のように泣きじゃくっていた。沙詠がいなくなったのは自分の責任だと思い込んでいるのだろう。


「情けねぇ面すんじゃねぇよ」


「……だって、わた、しが……私が沙詠ちゃん、しっかり、見ていたら……こんなことにはっ……すみませっ、すみませんっ!!」


自分を責め続け、楓に何度も謝る葉月。涙が幾筋も頬を伝う。茂雄は葉月の頭もワシワシ撫でていた。


「葉月のせいじゃねぇ、自分を責めるな」


「でもっ、でも……」


「そうよ、葉月ちゃんたら考えすぎよ。お腹が空いたらすぐ出てくるって……」


《カタカタ……》


「(楓さん……)」


しかし、暁彦は見逃さなかった。楓が必死に身体の震えを押し殺しているのを。娘を心配しない親がいるわけがなかった。


「みんなーっ!!」


「華恵、見つかったのか!?」


大声をあげて走って来る華恵に視線が集まる。沙詠が見つかったのではないかと皆期待した。


「暁彦、ごめん。こっちは見付かってない。だけど、手掛かりになるかもしれない」


華恵はそう言うと、右手に持ったそれを差し出した。それは三毛猫のぬいぐるみだった。


「猫のぬいぐるみ、ですか?」


「一階の物置部屋の近くに落ちてたんだ。今、椿が調べてる」


「楓さん、これ沙詠ちゃんのじゃないですか?」


暁彦は華恵からぬいぐるみを受け取ると、楓に差し出した。しかし、楓は首を横に振った。


「沙詠のじゃないわ」


「っ……ぬいぐるみ?見せてくださいっ!!」


いきなり暁彦と楓の間に割って入ってきた葉月。暁彦と楓は驚いた。


「これっ!!私の部屋で沙詠ちゃんが遊んでいたぬいぐるみですっ!!」


「葉月さん、本当に!?」


「はい、元は私のものだったんですけど、沙詠ちゃんが気に入ってくれて、あげたんです」


「ということは、そのぬいぐるみが落ちていた物置部屋の近くに、沙詠ちゃんがいるかもしれませんね」


「みんな、行ってみよう!」


暁彦、葉月、茉奈、華恵、楓の四人は物置部屋へ。茂雄には外への捜索にあたって貰うことになった。






結局、その日沙詠を見付けることが出来なかった。あの後、物置部屋付近を調べたが、ぬいぐるみ以上の手掛かりを掴む事が出来ず、捜索も明日の早朝まで中断された。しかし、暁彦は諦める事が出来ず、消灯後物置部屋へとやって来たのだった。


「(あれ……?誰か、いる?あれは……)」


物置部屋の近くにやって来た時、人影を見付けた。人影は辺りを忙しなくウロウロとしていた。


「沙詠……沙詠、どこなの……?お願いだから、出て来て……」


「楓、さん?」


「!」


人影は名前をよばれるとビクリと身体を震わせた。


「……暁彦くん」


「楓さん、少し休んだ方が……」


今さっきまでずっと探し続けていた楓。ろくに休んでいないはずだ。


「休んでなんていられるわけないじゃない!!沙詠はまだ見付かってないのよ!?」


いきなり吼える楓。彼女は取り乱し、冷静さを失っていた。暁彦はそんな楓に動ずることなく、ただ静かに見つめていた。


「……っ!ご、ごめんなさい……私ったら」


「いえ、気持ちはわかりますから」


我に帰る楓、自分を見失うほどに彼女は沙詠の事を心配していた。


「どう、しょ……どうしよ、暁彦くん……あの娘、今頃独りで泣いてるわ……」


「大丈夫……大丈夫ですよ、きっとすぐに見付かりますから。沙詠ちゃんがいつ帰ってきてもいいように、いつも通りの楓さんでいましょう」


「うん……うん……」


涙を見せる楓をそっと宥めながら、暁彦は微笑んだ。楓も段々と落ち着きを取り戻し始めた。


「恥ずかしいトコ、見せちゃったわね」


「みんなには内緒にしておきます。後は僕にまかせて、楓さんも休んでください」


「うん、ありがとう。そうさせてもらうわね……」


楓はそう言うと、その場を後にした。


「…………」


暁彦は疑問を抱えていた。これだけ探しても見付からないのは、やはりおかしい。暁彦は沙詠に会ったことはないが、楓から聞いた沙詠の性格上、極度の人見知りで内気な彼女が自分からいなくなるのはありえない、況してや子供だ。内部の人間が沙詠を?それこそ考えにくい。このHOEの住人がそんなことをするわけがない、暁彦は住人達を信頼していた。外部の人間の犯行?いや、この屋敷は防犯設備が整っていて、外部の人間が易易と侵入出来るはずがない。しかも外部から侵入した形跡は全くない。その他の要因として考えられるのは。


「……事故?いや、見た限り安全対策も万全だし、事故が起きそうな場所なんて……ん?」


暁彦はふと気付いた。正面にある行き止まりの通路。その部分だけ壁の色が違う、古びた色をしていた。


「ここだけ、壁の色が違う……いや、古いのか。そういえば『何年か前に改築した』って葉月さんが言ってたっけ」


この色の違う壁は、改築する前の屋敷の壁なのだろう。壁に触れてみたが、特に変わった様子はない。ぬいぐるみはこの突き当たりの壁に落ちていた、と華恵は言っていたが、近くに手掛かりは無さそうだった。


「……くそ、手詰まりか」


暁彦は舌打ちすると、壁を背もたれにドカッと座り込んだ。あれやこれやと思考を巡らすが、沙詠に繋がる道筋は見えてこない。


「沙詠ちゃん……」


暁彦に諦めの文字が浮かびそうになった時、それは起きた。


―……なっ……うっ―


「うん?」

何か聞こえた気がした。空耳かと暁彦は思ったが。


―……皆、先に逝ってしまう……―


「!」


次は、はっきりと聞こえた。どこからともなく聞こえてくる悲し気な女性の声だった。


―……それならば、いっその事、初めから人との関係を持たなければ……―


「(この頭に響いてくる感じ……前にも、どこかで)」


暁彦がこのような経験したのは二度目だった。一度目は華恵を丘で見付けた時、彼女の心というか思いのような声が聞こえた。これも誰かの心の声なのだろうか。


―……この思い、せずに済むのかもしれぬ……―


その声が頭に響いた瞬間、いきなりもたれ掛かっていた壁が、眩い光を放った。


《ヴンッ!》


「なっ!?」


突然のことで対応出来ない暁彦。続いて脳が揺れるような感覚、自分の身体が自分のものでないような嫌悪感を感じさせた。そして身体がズブズブと壁に飲まれていく。


「うっ!くそッ!」


必死に抵抗しようとしても、暁彦ひとりではどうすることも出来ない。青白い光が再び強く発光した。


「うわぁぁあああッッ…………」


暁彦の声がぱったりと止む。徐々に光も収まり始め、視界がはっきりする。そこには最初から誰もいなかったように暁彦の姿は消えていた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「タマちゃん」


「何じゃ?」


「タマちゃんは、ずっとここにひとりで住んでいるんですか?」


「そうじゃ」


「どれくらい?」


「かれこれ……三百年くらいかの」


「300年っ!?すごく長生きなんですね……。でも、そんなに長い間、ずっとひとりで、さびしいと思ったことないんですか?」


沙詠の質問に珠は沈黙した。また、怒らせてしまったのか、それともただ聞いていなかったのか、沙詠はわからない。


「……わからぬ」


「えっ?」


珠はぽつりと呟くように言った。


「わからないんじゃ……。大抵の奴は妾を見ると、畏れて逃げ行く。妾はいつも独りじゃったし、それが普通じゃと思っていた。今までも、そしてこれからもな」


珠は孤独だった。畏れられ、避けられ、忌み嫌われ、ずっと独りで生きてきた。沙詠は亜人種である自分と、どこか共感を覚えていた。


「……かえでお姉ちゃんがよくわたしに言ってくれるんです」


「……?」


ふと、沙詠が口を開く。珠はそれを静かに聞く。


「『沙詠、友達をいっぱい作りなさい。一緒に笑ったり、泣いたり、ケンカしたり……そんな友達がいっぱい出来たら、毎日がきっと楽しくなるわ』って」


「『友』か……」


沙詠はコクリと頷く。


「わたし、はずかしがりやで……なかなか友達できなくて。でもねっ!今日、はづきお姉ちゃんがいっしょにあそんでくれて、とってもうれしかったっ!」


「(そうか、此奴も……)」


嬉しそうに笑う沙詠。沙詠もまた孤独だったという事に珠は気付く。


「タマちゃんとわたしも、もう“友達”だよねっ!」


「沙詠……」


屈託の無い笑顔を向けてくる沙詠。珠には少女の笑顔が眩しすぎた。同時にこの純粋無垢な少女を傷付けてしまうのではないかと躊躇してしまった。


その時。


「……ぁぁぁあああッッ!!」


《ドッス―ンッッ!!》


「!」


「ひっ!?」


誰かの絶叫と、重たいものが落下したような音が聞こえてきた。突然の物音に沙詠は恐怖を感じる。


「た、タマちゃん……今の、なに……?」


「わからぬ。じゃが、もうひとり来たようじゃ」


「えっ?」



恐る恐る祭壇から、物音のした方向を覗き込む沙詠。そこにはひとつの人影が蠢いていた。


「ててて……ケツ打った……。一体、何が起こって……ここは?」


人影は辺りを見回し、すぐに祭壇がある事に気付いた。


「あれは……?」


人影は祭壇に向かって近付いて来る。沙詠は思わず祭壇内へと隠れた。


「っ!」


「……沙詠、何故隠れる?」


「(こわい人だったらどうするの!?)」


「普通は妾のような異形なものに恐怖を感じるのじゃが……」


喋る珠よりも人が恐い沙詠。その辺りが何とも純粋な彼女らしい。


「沙詠ちゃーん!!いたら返事をしてくれーっ!!」



人影は大声を上げて少女の名前を呼んだ。声からして男のようだ。


「(えっ……どうしてわたしの名前、知ってるの……?)」


「簡単じゃ、お前を探しに来たのじゃろう」


沙詠はもう一度、祭壇から覗き込む。そこには名前を呼びながら必死に探す、青年の姿があった。


「沙詠ちゃーん!!どこにいるんだーっ!!返事をしてくれーっ!!いないのか…………んっ!?沙詠ちゃん!?」


「うっ!?」


目が合った。沙詠はまた思わず隠れる。青年は駆け出した。


「あっ……うっ……」


「じゃから、お前は何故隠れるんじゃ?」


「待って!!沙詠ちゃん!!沙詠ちゃんだろ!?」



祭壇の奥へと走る沙詠、しかし奥は行き止まりである。沙詠はその場に踞った。手の平の赤い珠をぎゅっと握った。


「タマちゃん……タマちゃん……」


「(この怯え様は異状じゃな……)」


「はぁっ、はぁっ」


祭壇の入り口まで来ると青年はゆっくりと沙詠に近付く。沙詠は怯えて、目を閉じ獣耳を両手で塞いでいた。


「っ……っ……」


青年は沙詠の前までやって来た。小刻みに震える沙詠を見て、その場にしゃがみ込む。


《スッ……》


青年は沙詠に向かって手を伸ばす。淡い桃色の髪に指が触れた。


「ひっ!!」


沙詠は短く悲鳴を上げる。昔の辛い過去を思い出しているのかもしれない。青年は優しく沙詠の頭を撫でた。



「っ……っ…………ぅ?」


最初は怯えていた沙詠も、青年の手の温もりが伝わると、恐る恐る目を開けた。


「驚かせてごめんね、君が沙詠ちゃんだろ?」


そこには優しく微笑む青年の笑顔があった。沙詠は青年の顔を見つめる。


「楓さんから聞いて迎えに来たんだ」


「かえで、お姉ちゃんが……?」


「うん、みんなも心配してる。一緒に帰ろう」


「…………うっ……ふぇっ……」


みるみるうちに沙詠の大きな瞳に涙が溜まる。溢れそうだと思った瞬間、沙詠は青年に抱き付いた。


「うわぁぁああんっっ!!」


「よしよし……よくひとりで頑張ったね、えらいえらい」


青年は優しく抱きしめながら沙詠を宥める。今まで張り詰めていた糸がぷつりときれたように、沙詠はわんわんと泣いた。


「(どうしてかな……この人は、こわくない……)」


青年の温もりを身体全体で感じながら、沙詠はそう思った。穴の空いた心が満たされていくように、青年の優しさと安心感にいつまでも包まれていた。








「落ち着いた?」


「っ……はいっ」


「そっか、良かった」


落ち着きを取り戻した沙詠を見ながら、優しく微笑む青年。彼は沙詠の隣に腰を下ろしていた。


「自己紹介がまだだったね、俺は暁彦、霧ヶ崎暁彦。ほら、沙詠ちゃん屋敷に来たでしょ?その屋敷で働いてるんだ。そこで、楓さんから聞いて沙詠ちゃんを探してたんだ。本当に見つかって良かった」


沙詠にもわかるように、暁彦はできるだけわかりやすく説明した。その甲斐あって沙詠は理解してくれたようだ。しかし、沙詠の表情は暗いままだった。


「……ごめんなさい」


「えっ?」


いきなり謝る沙詠。暁彦は不思議に思った。


「なんで謝るのさ?」


「いきなり、いなくなって……みんなに心配かけて……わたし、悪い子です」


「沙詠ちゃんのせいじゃないよ、あれは事故だったんだから」


「でも……きゃっ」


暁彦は沙詠の頭をわしわし撫でた。


「沙詠ちゃん……みんなね、何かしら迷惑なり心配なりかけちゃうものなんだよ。だから助け合って生きていく。沙詠ちゃんも心配かけた分、楓さんの言うこと聞いて助けてあげなきゃねっ!」


ニカッと笑う暁彦。沙詠は一瞬呆気に取られたが、暁彦を見ると笑顔で元気良く答えてくれた。


「……はいっ!」


「沙詠。お前、いつの間にか普通に会話出来てるじゃないか」


「えっ!?」


何処からともなく聞こえてきた声に、暁彦は驚いた。しかし暁彦は、予想外にも沙詠が全く驚いていない事に気付く。


「あっ、本当ですっ」


「珠が……喋ってるのか……?」


沙詠の両手の平に乗る赤い水晶の珠。沙詠は平然とその珠と会話していた。


「沙詠、見よ。これが妾を見る凡人の反応じゃ」


「そうなんですか?……あの、“タマちゃん”って言うんです」


「『タマちゃん』?」


未だに驚きを隠せない暁彦。どういう構造なのか、怪奇現象なのか、全くわからない。しかし何だか声に聞き覚えがある気がする。


「若造、よく迎えに来た。ピーピー泣いて、騒がしくて敵わんかったからの。早う連れて帰るが良い」


「タマちゃん、わたしそんな泣いてないですっ」


「先程までわんわん泣いとった癖によく言うわ」


珠と平然に会話する沙詠が凄く感じられた。驚いてばかりもいられず、暁彦は珠に話しかけた。


「珠さん、あの……」


「何じゃ?」


「見た感じ、この辺は行き止まりのようなんですが、帰り道とか知りませんか?もし、知っていたら……」


「知らん」


暁彦が言い切る前に珠に言葉を遮られた。


「そうですか……しゃあない、地道に探すか。沙詠ちゃんここで待ってて、ちょっと辺りを見てくるから」


「わたしも行きますっ」


「沙詠ちゃん、危ないかもしれないし。ちゃんと戻ってくるから、珠さんと待ってて、ね?」


「わたしもさがしますからっ!手伝わせてくださいっ!タマちゃんも手伝ってくれるよね!?」


「はぁっ!?何を呆けた事を……そのような事お前達だけで……うわわわわっ!!」


「タっマっちゃっん〜〜っ!!」


《ブンブンブンブンッ!!》


沙詠は珠を持った両手を上下左右に振り回す。


「振るなっっ!!わ、わかっ、わかったからっっ!!振るなぁっっ!!」


「はははっ、沙詠ちゃんには敵わないな」


「笑うてないで助けろぉぉっっ!!」


前までの静けさが嘘のように、洞窟内は賑やか声で溢れていた。



「うぇぇ……酔った……何故、妾がこのような事を……」


「珠さん、すみません。助かります」


「全くじゃっ!」


「タマちゃん、友達同士、助け合わなきゃダメなんだからね」


「それはお前が勝手に申し……待てっ!悪かった!!だから振るなっっ!!振らないでくれっっ!!」


沙詠は愚痴漏らす珠を振り回そうと、大きく振りかぶった。珠は慌てて沙詠を止める。


「沙詠ちゃん、せっかく手伝ってくれるのに可哀想だよ?仲良くしたげて」


「はぁい」


「(沙詠……いつか覚えておれよ……)」


助け船を出した暁彦、しかし珠は沙詠の両手の中で密かに復讐を誓うのだった。二人と珠は祭壇の入り口から外へと出た。その瞬間、聞こえた。


―珠を奪わんとする者……この祠より生きて帰さん……―


「!!」


「えっ?」


「……?」


二人とひとつの珠にしゃがれた老人のような、奇妙な声が洞窟内に反響した。沙詠は暁彦にしがみつく。


「今のは……?」


「……面倒な事になった」


「えっ?」


暁彦が聞き返した瞬間にそれは起こった。


《ズンッッッ!!!》


大地が大きく揺れた。


「きゃぁぁあああッッッ!!」


「うおッッッ!!」


大地の大きな振動にバランスを崩して倒れそうになる。何とか両手を地面に付いて転倒を免れる。


「一体、何が……!!?」


「神官共め、最後まで下らない真似を」


苛立ちを込めてそう言う珠。とりあえずここを脱出するのが先決だった。


《ゴシャッッ!!》


「うぁッッ!!」


「きゃあああッッ!!」


暁彦のすぐ隣に落石が落ちた。地面を抉りながら落石は四散する。幸い四散した小石が当たったぐらいで大事には至らなかったが、命中していたら命はない。


「若造ッ!!走れッッ!!」


「くッッ!!」


珠が叫ぶと同時に、暁彦は沙詠を抱えて走り出した。大地の振動は止まることなく続き、上からは落石の雨霰。恐怖を圧し殺し、暁彦は駆けた。


「左じゃッ!!そのまま走れッッ!!」


珠の指示通り動く暁彦。珠は帰り道を知らないと言っていたし、本当に帰り道を教えてくれているのかもわからない。が、今は珠を信じて走るしかなかった。


「ハァッ!ハァッ!」


「うぇっ……ぐすっ……」


沙詠はあまりの恐怖で泣く事しかできない。珠の指示通り動く暁彦になされるがままだった。


「辛抱せいっ、若造ッ!!もう少しじゃッッ!!」


「うッ!くぅッ!!」


心拍数が跳ね上がり身体が悲鳴を上げるが、分泌されたアドレナリンが暁彦を麻痺させる。そのおかげで限界以上に走り続ける事が出来た。珠が途端に叫ぶ。


「止まれッッ!!……何じゃとッッ!?」


「ハァッ……ハァッ……そんな、行き止まり……」


珠に案内され着いた場所は行き止まりだった。いや、良く見ると道があった形跡がある。しかしこの地鳴りの落石で道が塞がってしまったのだ。


「珠さん!!他に道はッ!?」


「生憎、妾は此処しか知らん」


「そんな……」


「えぐっ……ひっく……」


刹那。


《ゴゴゴゴゴッッ!!バキッ!ビキビキッッ!!》


「天井がっ!?」


「なッ!!?」


物凄い轟音が響きわたり、天井を見上げた。すると天上の岩に幾つもの亀裂が走っていく。もし天井の岩が崩れて落ちてこようものなら、暁彦達の命はない。


「(もし、天井が崩れてきたら…………もう、引き返してる時間もない……。どうすれば……?)」


死が頭を過る。自分ではどうすることも出来ない事態に諦めざるを得なかったその時。


「若造ッ!!妾を投げよッ!!」


途端に珠が叫んだ。理解出来ない行動に暁彦は戸惑う。


「そっ、そんなことしたらッ!!」


「つべこべ言わず早くせんかッ!!」


《バキャッ!!!》


「!!?」


恐れていた事態が起きる。天井が崩れ、大量の岩が暁彦目掛け降ってきたのだ。


「死にたいかッッ!!!」


「!!」


珠の覇気の籠った怒鳴り声に暁彦は自棄になる。半ば放心気味の沙詠から珠を奪い、天上に向けて思い切り投げ付けた。


「どうにでもなれぇぇえええッッッ!!!」


暁彦の手を離れた赤い水晶は、淡く発光しながら天上へと飛ぶ。そして巨大な落石にぶつかりそうになった瞬間、珠は眩く発光した。その発光は洞窟内を照らし尽くすほど、暁彦と沙詠は目を覆った。


《パッッキャァァアアアンッッッ!!! 》


珠は破裂し四方八方へと飛び散った。赤い欠片のひとつひとつが、きらきらと輝き降り注ぐ。自分が死ぬかもしれない窮地だったのにも関わらず、綺麗だと感じてしまった。そして砕けた珠から何かが現れる。


「……金色の、狐……?」


それは神々しい光を纏った大きな狐だった。ふさふさとした毛並み、一本一本の長い体毛が艶々と輝いて見える。二等辺三角形の尖った両耳とは対照的に、もこもこふわふわとした尻尾が優雅に揺らめいていた。


「クァァアアアンッッ!!!」


狐は咆哮しながら大きく口を開けると、迫り来る巨大な落石に向かって、激しい紫電を吐いた。紫電は空気を切り裂き巨岩を貫く。


《ズガシャァァアアアアンッッッ!!!》


耳をもぎ取られそうな轟音が鳴り響く。


「沙詠ちゃんッ!!」


「うっ!!」



暁彦は沙詠に覆い被さるようにして、降ってくるだろう落石に備えた。が、岩はいつまで経っても落ちてくることはなかった。


「ぅ……あれ……?」


恐る恐る見上げるとあの巨大な岩が綺麗さっぱり消えていた。大狐の吐いた紫電が巨大な岩を木端微塵に破砕していたのだ。


「天上に風穴くらい空くかと思うたが……久しぶりじゃからなぁ、力の制御が効かんわ」


口からパリパリと、微量の紫電を漏らしながら大狐は言った。


「むっ?あれは……そうか」


大狐はある事に気付く。先程、巨大な岩が落ちてきた天井。そこの岩の隙間から、明かりが漏れているのだ。大狐はニヤリと笑うと宙を蹴って駆けた。そして暁彦と沙詠の下へ音もなく着地する。


《ふわり。》


「……沙詠ちゃん、俺の後ろに」


暁彦は沙詠を自分の後ろへと隠す。いきなり現れた巨大な狐、暁彦は喰われてしまうんじゃないかと暁彦はひやひやした。


「すっごーいッ!!タマちゃんって大きな“ワンちゃん”だったんだーっ!!」


「戯けッ!妾は狐じゃッ!あんな人間に媚びる毛むくじゃらと一緒にするなッ!!」


暁彦とは正反対に大喜びする沙詠。黄色い瞳をキラキラ輝かせている。沙詠は動物が好きなのかもしれない。


「その声、もしかして……珠さん?」


「如何にも」


「えっ?あの、さっきまで珠で……あ、さっき割れたから……中から狐が?」


暁彦は信じられないことばかりで、頭はショート寸前である。軽く混乱していた。


「つまり、珠で狐なんです……」


「残念じゃが」


「あぅっ」


《ひょいっ》


暁彦が言い切る前に狐は言葉を遮り、沙詠の襟首をくわえて持ち上げた。


《ガシャッッ!!》


「!」


先程まで沙詠が立っていた位置に岩が落ちてきた。狐が引っ張らなければ、沙詠に岩が直撃していただろう。狐は沙詠を真上に放り投げ、自分の背中に乗せた。


「此処で悠長に話してはいられん、乗れ」


「ふわふわ~っ!」


狐の上に乗った沙詠は、ふさふさの毛並みに大満足、撫でたり頬擦りする。


「えっ……でも……」


「早くせんかッッ!!」


「はいっ!!」


狐の剣幕に圧され、暁彦は慌てて背中に乗る。確かに感動するくらいの手触りだった。


「しっかり捕まっておれよッ!!」


「えっ……ちょっ、おわぁぁッッ!!」


「きゃあ〜っ!!」


狐は地面を強く蹴った。その速度と勢いに振り落とされそう になり、暁彦は沙詠ごと狐にしがみついた。狐は宙を駆け、落下する岩を踏み台にして、どんどん上へと登って行く。暁彦は振り落とされないように必死だった。


「きゃははははっっ!!」


「たっ、たまっ!珠さんっっ!!てっ、天井はっ、いきっ!行き止まりぃーっ!!」


「まぁ、見ておれ!」


暁彦の心配を他所に大狐は天井へと辿り着く。そして、大狐が目指していた場所を見付けた。


「(明かりが漏れる、岩の隙間……ここじゃッ!!)」


大狐は大きく口を開いたかと思うと、またもや口から激しい紫電を放出した。


《ズガガガガッッッ!!!》


「たっ!珠さぁぁあああんッッ!!」


荒々しい紫電は岩壁にいとも簡単に大穴を開けた。発生した砂塵は外へと流れていく。狐もその大穴へと飛び込んだ。


「うっ……」


暁彦は砂塵で目を瞑る。肌に感じる空気が変化した気がした。


「……今宵は月が綺麗じゃ」


「……えっ?」


大狐の言葉で静かに目を開けた暁彦。そこに広がる光景に息を飲んだ。


「わぁ……」


「……本当、だ」


そこが空だと気付くのに時間はかからなかった。そこには星の海が広がっていたのだ。大きな満月と小さな星達が、夜空というキャンパスに散りばめられ、鮮やかに彩る。来る前の大雨が嘘のような快晴だった。狐が開けた岩肌は屋敷裏の山頂に繋がっており、空へと飛び出したのだった。


「三百年の歳月が流れても、空だけは昔と変わらぬ」


懐かしむように、けれど切なそうに、一言そう呟いた大狐。暁彦はその時、大狐が何故か寂しそうだと感じた。大狐はその夜空を惜しむように、空を幾分か舞っていた。沙詠がきゃっきゃっと喜んでいたから、気を使ってくれたのかもしれない。大狐は原っぱへとゆっくり降り立った。


「タマちゃんっ!もういっかい、もういっかいぃ~っ!」


「い、生きてる……」


地面に着地するやいなや「もう一回」とねだる沙詠。それに比べ暁彦は放心状態だった。


「……えぇいっ、さっさと降りぬか」


「わぁっ」


《ドサリ……》


中々背中から降りようとしない二人を、狐はうざったそうに振り落とした。暁彦は沙詠を抱えたまま地面へと落ちる。


「いたた……何も振り落とさなくても……あれっ!?」


「……タマちゃん、いないです……」


今さっきまで、もこもこふわふわの背中に乗っていた筈なのに、狐の姿は綺麗さっぱり消えていた。


「幻……だったのか……?」


「そんなわけないですっ!タマちゃんはさっきまでそこにいましたっ!」


沙詠は小さい拳を振り回しながら、精一杯否定する。今にも泣き出しそうな表情の沙詠、暁彦は優しく撫でた。


「沙詠ちゃん、そうだね。珠さんは照れ屋さんだから、きっと先に帰っちゃったんだね」


「うん……でも、また、会えるかな?」


「うん、すぐ会えるよ」


「本当っ!?」


暁彦の言葉を聞いて安心したのか、沙詠は笑った。信じられないことばかりで夢だったのかもしれないと思う。だが、見て、聞いて、感じたあの瞬間は決して嘘ではなかった。暁彦は強くそう思うのだった。


「さっ、帰ろっか?」


「はいっ……あ、あれ?」


沙詠の膝がガクガクと震えていた。今になって、疲れが押し寄せてきたのだろう。今日は色々な事が有り過ぎた。暁彦は沙詠に歩み寄ると、背中を向けてしゃがみ込んだ。暁彦が沙詠をおぶると言うのだ。


「さぁ、掴まって」


「あのっ、でも……」


「それじゃ、歩けないでしょ?いいから」




沙詠はおずおずと暁彦の背中におぶさった。沙詠は軽いので暁彦は難なく持ち上げることが出来た。


「ご、ごめんなさい」


「いいのっ、いいのっ。さっ、屋敷に帰ろう」


「はいっ」


暁彦の首にきゅっと手を回す沙詠。暁彦の背中が大きく感じられた。


「タマちゃーんっ、ありがとーっ!またねーっ!」


どこかで聞いているかもしれない狐に向かって沙詠は叫んだ。そんな沙詠を背中におんぶしながら、暁彦は屋敷へと戻った。



「そんな大声出さぬとも聞こえておるわ」


木の枝の上で、沙詠と暁彦の二人を見送る人影。月明かりにその姿が晒される。


「社から出るつもりは毛頭なかったんじゃがな。助けた成り行きとは言え、どうしたものか」


女だった。しかも、息を飲むほどの美しさだった。足下まである長い金髪が、月明かりにキラキラと反射する。まるで江戸時代の姫君のような、鮮やかな着物を身に付け不敵に微笑むその姿は、誰をも虜にしてしまうだろう。そして頭部から覗く尖った対の獣耳とふわふわもこもこの尻尾。それと、彼女はなぜか目を閉じたままだった。


「これも何かの因果なのかもしれぬ」


女は一言呟くと闇に消えるように姿を消したのだった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



それからしばらくして、屋敷に着いた頃には朝になっていた。暁彦や楓以外にも、昼夜を問わず沙詠を探し続けてくれた人達がいて、早朝にもかかわらず温かく出迎えてくれた。沙詠はその頃、暁彦の背中でぐっすりだったが。


「沙詠ッッ!!」


「楓さん、大丈夫。疲れて眠ってるだけ」


沙詠が帰ってきたと聞いてすぐに飛んできた楓。目元が赤いのは、眠れなかったからだろう。


「本当っ、に……心配させて……この娘ったら……」


「すぅ……すぅ……」


暁彦の背中で眠る沙詠の頭を撫でた。ぽろぽろと涙を溢す楓だが、彼女の表情は笑顔だった。


「良かっ、た……本当に、良かった、です……うぇぇっっ!!」


「葉月まで泣く必要はないだろう?沙詠は無事だったんだから」


葉月と椿も起きていたのだろう。泣き叫ぶ葉月を椿は優しく宥めた。


「暁彦も良くやったな、お疲れ様。お前も疲れただろう、話は後で聞く。ゆっくり休むといい」


「ありがとう、椿さん。うん、そうさせてもらうよ」


今まで気丈に振る舞っていた暁彦だったが、屋敷に着いて安心したのか、どっと睡魔が押し寄せていた。「今日はもう休め」と椿が気を使ってくれた為、暁彦は沙詠を楓に渡すと自室へと戻った。ベッドに入ってすぐに暁彦は意識を失った。








―が、……たの?―


─だよ、……さんて言うの―


「ん……」


どのくらい時間が経ったのだろうか、暁彦は誰かの話し声が聞こえた気がした。


「お姉ちゃん。この人こわくない?」


「兄さんは大丈夫だよ、すごくやさしいんだから」


「(あれ、この声……?)」


聞き覚えのある声にうっすらと目を開けると、見知った顔が視界に入る。沙詠と沙癸だった。二人はまじまじと暁彦の顔を覗いていた。


「あれ……沙詠ちゃんと、沙癸ちゃん……?」


「ッ!?」


「さきちゃん、そんなにこわがらなくても大丈夫だってばぁ」


起きた暁彦と目が合うと、沙癸は直ぐ様沙詠の後ろへと隠れた。それでも気になるのか、沙詠の後ろからひょっこり顔だけ覗かせていた。暁彦はベッドから上半身を起こす。


「おはようございますっ……ってあれ、もう“こんばんは”かな?」


「(“こんばんは”ってことはもう夜か?あら、外も暗くなってら)

んーと、ふたりともどうしたの……?」


ボサボサの頭を掻きながら、重い瞼をこじ開ける。


「かえでお姉ちゃんに、『“兄さん”をおこして来て』って言われたんです」


「そう、ん……『兄さん』?それって、俺の事?」


「あっ、はい……そう呼んじゃ……だめ、ですか?」


沙詠の潤んだ瞳と上目使いの視線。暁彦は兄性本能を擽られる。


「いいよ、沙詠ちゃんの好きな様に呼んでくれて構わないから」


「はいっ、兄さんっ!」


暁彦がそう言って微笑むと、沙詠も嬉しそうに笑った。


「わ、わたしもっ!わたしも“お兄ちゃん”って呼ぶ!」


「うん。いいよ、沙癸ちゃん」


沙詠に対抗心を燃やしたのか、沙癸もそんなことを言う。暁彦は沙詠と同様に微笑んで答えた、沙癸も嬉しそうにする。


「兄さん、早く行きましょう?」


「行くって、どこに?」


「食堂ですっ」


グイグイと暁彦の腕を引く沙詠。何故、彼女が食堂に連れて行こうとするのか、暁彦には心当たりがない。急かされて渋々立ち上がった。


「早く行くのーっ!」


「わっ、ちょっと待って……」


もう片方の腕を沙癸に掴まれた。沙詠と沙癸に急かされ引っ張られ、暁彦は食堂へと連行された。そのまま、食堂の入り口へとやって来た。


「みんな、まってますから」


「『みんな』って?食堂で何かあるの?」


「早く入るのーっ!」


「えっ、ちょっと」


何もわからず、食堂へと押し込まれた。ふたりも暁彦の後に続いて入る。


「あれ、どうして真っ暗なんだ?」


食堂は明かりが消され真っ暗だった。少なくとも常夜灯は付いている筈なのに、それさえ点灯していないのは不自然だ。と、思っているうちに、突然明かりが点灯した。眩しさに目を覆った暁彦。


《パンッ!パンパンッ!》


「沙詠ちゃん沙癸ちゃん楓さん、HOEにようこそーっ!!」


「えっ……これは……?」


そこにはクラッカーを手にした、HOEの面々が集まっていた。状況を飲み込めない暁彦に葉月が駆け寄ってくる。


「すみません、暁彦様。みんなで楓様達の歓迎会をしようって事になって。暁彦様にも相談しようと思ったんですけど……気持ち良さそうに眠っていたので……」


「お前なら賛成してくれると思ってな。悪いが勝手に決めさせてもらった」


申し訳なさそうにする葉月をフォローしながら椿が言う。どうやら、楓さん達の歓迎会を企画したらしい。


「これから一緒に生活する仲間がやって来たんだ、これぐらいしても問題ないだろう?」


「ああ、もちろん!みんなさすがだねっ!」


暁彦の笑顔を見ると、周りも安心したのか微笑んだ。


「さぁさぁ、今日は沙詠ちゃんと沙癸ちゃんが主役ですよ」


「えっ……わたし?」


「わーいっ!」


沙詠と沙癸も不思議そうな顔をしており、自分達の歓迎会だとは知らなかったようだ。しかし、茉奈にパーティー主役帽を被せてもらうと嬉しそうに喜んだ。心配したほど人見知りもなく、楽しんでいるみたいだ。


「楓も、はい」


「ありがと」


華恵に主役帽から主役帽を受け取る楓。


「何してるの、華恵ちゃんもだよ?」


「あっあたし!?なんでっ!?」


何故か華恵も、葉月から主役帽をもらい困惑する。


「この前、華恵ちゃんの歓迎会出来なかったでしょ?だから今回、華恵ちゃんの分も合わせて……なんか、取って付けたみたいでごめんね?」


「ううんっ、そんなことないっ!すごく嬉しいよ、ありがとうっ!」


満面の笑顔で嬉しさを現す華恵。葉月の気持ちはしっかりと華恵に伝わっていた。


「さぁーって!宴だぜっ!!トシっ!準備出来てるかっ!?」


「うん、ばっちりさ」


「ったく……おめぇら、ただ飲みてぇだけだろ?」


一升瓶を片手にわいわい騒ぐ茂雄と俊樹、それを見て溜め息をつく春実。でも三人とも嬉しそうだった。






歓迎会も終盤に差し掛かった頃、暁彦は食堂のテラスに佇んでいた。


「(良かった。楓さん達、楽しんでくれてるみたいだ)」


皆と楽しそうに会話する楓や、デザートを幸せそうに頬張る沙詠と沙癸。彼女達を見ながら暁彦はそう感じていた。ふと、視線を外へと移す。そこには昨日と同じ綺麗な夜空が広がっていた。





『三百年の歳月が流れても、空だけは昔と変わらぬ』





「(あれは夢じゃなかったんだよなぁ……?)」


暁彦は昨夜の出来事を思い出していた。屋敷から洞窟へ瞬間的に移動したことも、その洞窟で巨大な狐に出会ったことも、全ては夢だったのではないかと思う。しかし、視界に映る景色、肌で感じた空気、記憶そのものがそれを現実だと認識させていた。


「(未だに信じられないけど……)

あっ」


突然、視界が何かに覆われた。


「だ〜れだっ?」


触れて伝わる温もりと後ろから聞こえる声。誰かの手が暁彦を目隠したのだ。この声には聞き覚えがある。


「……楓、さん?」


「あったりー」


声と同時に視界を覆っていた手が外される。振り返ると、そこには案の定、楓が立っていた。


「隣、良いかしら?」


「どうぞ」


「ありがと」


少し端に寄って、楓に場所を譲る暁彦。楓は礼を言うと、暁彦の隣へやって来た。


「……綺麗な星空ね。都会じゃ、まず見れないわ」


「昨日もこんな夜空だったんですよ」


「そうなんだ」


楓は酒を飲んでいたらしく頬をほんのり赤くしていた。そっと前髪を掻き上げる彼女。暁彦はそんな女性らしい仕草に見とれてしまう。


「暁彦くん」


「は、はい?」


「沙詠を見付けてくれて、本当にありがとうございました」


「えっ……」


突然、頭を下げる楓。暁彦は困惑する。


「ちょっ、ちょっと待って!!頭を上げてくださいっ!!」


「暁彦くん、本当っに……私っ、沙詠が……見付、かって、なかっ、たら……」


「わっ!!」


頭を上げた楓、それを見て驚く暁彦。何故なら、楓の目には涙が浮かべられていたからだ。


「楓さん、泣かないでっ!!大丈夫ですよっ!だって、ほら沙詠ちゃん無事見付かったんだしっ!!」


「暁彦っ、くんには……何て、お礼っ言えば、いいかっ……」


「いや、そんなっ!!いいですからっ!!実際、俺何もしてないしっ!!」


「それでもっ……私っ……」


泣き出してしまう楓。さっきまでオロオロしていた暁彦だったが、何故か楓を見て微笑んでいた。


「楓さん、俺さ……楓さんみたいな人がいてくれて、嬉しいです」


「えっ……?」


不思議そうな瞳を向けた楓。暁彦の微笑む顔が瞳に映った。


「沙詠ちゃんや沙癸ちゃん、楓さんを見ていて思ったんです。本当の“家族”みたいだなって……」


「暁彦、くん……」


亜人種差別は未だ根強く残っている。その恐慌の中でも、亜人種を認めてくれる人がいる。暁彦はそれが嬉しくてたまらなかったのだ。


「沙詠ちゃんと沙癸ちゃんの懐き様や、楓さんが必死に沙詠ちゃんを探す様子。まるで親子の様でした」


「……そうね、私も、そう思ってる。沙詠や沙癸にも、そう思ってもらいたい」


「それは大丈夫ですよ、ほら」


暁彦が指差す方向を向くと、二人の少女が元気よく駆け寄って来るのが見えた。


「「かえでお姉ちーゃんっ!!」」


沙詠と沙癸だった。楓の下へ駆け寄ると、ケーキを乗せた皿を差し出した。


「このケーキ、すごくおいしいよっ」


「お姉ちゃんも食べて食べてっ」


「沙詠……沙癸……」


無邪気に笑う少女達、こんなにも慕ってくれる彼女達。それは楓の愛情がしっかりと彼女達に注がれていた事を意味していた。楓は少女達をそっと抱き寄せる。


「お姉ちゃん、泣いてるの……?」


「あーっ!お兄ちゃん、かえでお姉ちゃんをいじめたでしょー!?」


「えぇっ!!」


驚く暁彦、いつの間にか悪役にされてしまった。


「ち、違うわよ、沙癸」


「ちがうの?」


「うん。ただね、嬉しかっただけなの。沙詠と沙癸が、私の事“お姉ちゃん”て呼んでくれることが……」


沙詠と沙癸の頭を愛おしく撫でる楓。目を細めて気持ち良さそうに頭を預ける。


「沙詠、沙癸。いつまでも、お姉ちゃんの傍にいてね」


「うん、お姉ちゃんっ」


「お姉ちゃんも、ずっとそばにいてね」


「うんっ」


「(楓さん、あなたの娘達は、あなたの愛情でしっかり育っていますよ)」


寄り添う三人の姿を見ながら暁彦はそう思った。


「暁彦くん」


名前を呼ばれ、視線を送る暁彦。


「ありがとう」


笑顔で再びお礼を述べた楓に、暁彦も笑顔で返した。


「どういたしまして」








その日、HOEに新しい仲間が加わった。ふたりの仔猫とその母親。仔猫達は内気だが、母親や仲間の優しさに包まれすぐに打ち解けるだろう。HOEの名前通り、ここに住む者達に末永く幸せが訪れますように。



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