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煙を纏う異色のゴブリン、英雄を討つ

戦況は悪くない。

 人間たちはやはり手ごわい。想像以上に前線で犠牲者が出ているが、最初の戦争の時とは比べ物にならないほど、魔物たちは実力を発揮している。


 さらに、人間の国に潜ませていたスライムと一部のオーガによる奇襲が成功し、大混乱を引き起こした。

 スライムとは、人間に擬態して王国へ潜入することを条件に交渉した。最初はリスクを理由に拒まれたが、「協力がなければ勝てない」と説得を重ね、ボディーガードとしてオーガを数名付け、ようやく承諾を得たのだ。


 だが油断はできない。

 すべては順調に見えるが、それは――ライオットがまだ参戦していないからだ。

 すでに彼は戦場へ向かっている。最前線か、あるいは後衛の加勢か。

 もし俺がこの場に現れなければ、戦況はひっくり返されていただろう。


 ――ここでライオットを倒す。

 この勝負こそが、人類と魔物の行く末を分けるターニングポイントになる。


 俺は剣を構えた。

 以前の戦闘を思い出す。何もできなかった。ただ瞬きをする間に敗北していた。


 だから今回は、先に仕掛ける。

 俺は体から煙を溢れさせ、周囲を包んだ。


「ほう、ゴブリンが煙を使うか。やはり異色の存在だな。だが――」


 来たッ!

 ライオットが一瞬で目の前に迫る。突風のような高速移動で煙が流れを変えた。

 その変化を感じ取り、剣を構える。

 ギリギリで、奴の一撃を止めた。


「初見で俺の攻撃を止めるとは」

「生憎、二度目でね」


 皮肉を吐き、距離を取る。

 俺の周囲には煙が留まっている。奴の光の速さに対応するための準備だ。

 わかっていても、さっきの一撃は本当にギリギリだった。


 ――ライとの戦闘に似ている。


 煙を奴の視界へ放ち、包み込む。

 その一瞬の隙を突いて地面を蹴る。剣を振るう。

 だが視界を奪われてもなお、奴は俺の攻撃に反応して防いだ。


 剣を弾かれ、腹に膝蹴りを喰らう。息が詰まる。体勢を崩しつつも、間一髪で距離を取った。


「中々いい腕だな」


 余裕の笑み。――ムカつく。

 だが、俺は確かに強くなっていた。

 以前は何が起きたのか理解すらできなかった。だが今は違う。煙の能力と合わせれば、ギリギリ渡り合える。


 俺は攻撃を止め、守りの構えに入る。

 ペースを奴に握らせる――それが罠だ。


 案の定、ライオットは弾丸のように突っ込んできた。

 煙の流れで感知し、ギリギリのところで受け止める。


 一撃、二撃、三撃――。

 一瞬でも反応が遅れれば、即死。緊張の連続。


 奴は笑みを深め、大剣を再び構える。


「俺たち人間は頭の良さがウリだ。この戦闘靴には速度を上昇させる装置が仕込まれている。そして俺の鍛え上げた大剣――その一振りで、これまで何人も沈めてきた。だが……お前は違うな。煙の動きを読んで、俺の動きを先読みしている。見事だ」


「なるほどな。やっぱり光の速さにはカラクリがあったか。――一つ忠告してもいいか?」


「忠告?」


 俺の防御が続き、完全にペースは奴のもの。

 彼はそう確信している。俺の攻撃が通じず、煙でギリギリを耐えている――そう思い込んでいる。


 だから、表情が軽い。油断が見える。

 相手がゴブリンだからだ。どれだけ異色でも、所詮ゴブリン。そういう先入観。


「敵に、易々と自分の能力を明かすな。それは愚者のすることだ」


 俺は言う。鼻で笑うライオット。


 だが、短い戦いの中で俺は奴の癖を見抜いていた。

 ――最初の一歩は必ず右足。

 防御の時も、右足を一歩下げて体重を乗せる。

 そして静かに深呼吸を挟んだ後は、大ぶりの一撃。


 つまり、奴の軸は右足。


 ならば、その軸を折れば――。


「愚者か。ゴブリン風情に言われるとは癪だな。お前も煙の能力を見せておいて偉そうに言う立場じゃない」

「そうか。愚者には、愚者にしか見えない景色があるらしい」


「この野郎……見せてやるよ。今まではお遊びだったってことをな!」


 挑発に乗った。ピキリとした表情――わかりやすい。

 奴は自信家で、格下を見下す傾向がある。そんな男が煽られれば、当然冷静さを欠く。


 しかも今、奴には焦りがある。

 最前線での混乱を早く収めたい。

 なのに、俺が立ちはだかる。攻めても倒れない。焦りが怒りに変わる。


 ライオットが深呼吸を挟んだ。

 ――右足が、前に出る。


 大剣を振りかざし、突っ込んでくる。

 これを――待っていた。

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