ゴブリン転生、敵対心の世界
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「もういいかな。私疲れたんだけど」
「あ、はい。大丈夫です」
女神は既にスイッチがオフになっているようだ。
言葉に覇気は感じられない。
女神が話を終えようとするなら、俺は従うしか選択肢はないだろう。
女神は物事に飽きた子供のように、足をプラプラさせて俺に視線を飛ばす。
何も言わない俺の姿を見て、会話終了のホイッスルが鳴ったかのように、女神は少女の笑顔のような無垢な表情を浮かべる。
「じゃあ転生させるよー。あ、そうだ一つ言い忘れていた。
私が構築した世界では自然死以外の死は禁止だ。つまり殺すことはできないから」
「え、じゃあどうやって相手を倒すんだ。殺さない程度に気絶させるとか?」
去り際に飛んでもなく重要なことを言ったせいで、俺は思わず驚いてしまう。
しかし女神は退屈そうに欠伸を浮かべている。
彼女が俺に苛立つように、俺も苛立ちを覚える。
この感情だけなら鏡を見ているような気分だ。
「私が構築した世界には、敵を倒したいという『敵対心』が心にある。
戦闘において、通常の世界でいう致命傷を与えることができれば、相手の敵対心を砕くことができるのさ。
敵対心が砕かれた者は戦意喪失し、敵対心を砕いた者に従うようになる。
だから、殺すという概念はない。
皆、戦うときは心の中に芽生える敵対心を砕くことを目標に戦う。
つまりお前はゴブリンとして、私が授けた能力を武器に、破滅の置時計を持つ人間の敵対心を砕くことが目標になる。
後はそうだな、魔物たちの悩みも人類にあるから、ついでに解決してやってもいい。
これで本当に以上だ。オーケー?」
「敵対心を砕くということについて、いまいちイメージが湧かないけれど、とりあえず大丈夫です。
というかもう俺との会話に飽きていますよね。さっさと行けよって思っていますよね?」
「正解だ。
じゃあ、ゴブリンとして何度もやり直していいから、三日間の期限で魔物たちが暮らす世界を救ってくれ。じゃあな」
女神は最後に宝石のようなキラキラした笑顔を浮かべる。
ようやくストレスから解放されたような清々しい姿勢に、俺は風船のように膨れ上がった苛立ちが今にも破裂しそうになる。
ごっくん。
しかし俺も餓鬼ではない。大きく息を吸い込み、様々な怒りの感情を呑み込むことに成功した。
お腹の底がマグマのようにグツグツ音を立てているけれど、今は知らん。
色々と抱えて自殺してしまったけれど、どうやら俺はまだ永遠の眠りにつけないようだ。
新しい世界が、ファンタジーに染まった世界であることは、何となくイメージできた。
種族や能力など、正直掴めていないことばかりだけれど、もう一度俺にチャンスがあるのなら、俺は自分を信じてみることにした。
心の整理が一旦ついたところで、酷い眠気に襲われる。
体がふわふわ軽くなっていく。
綿毛が空へ旅立っていくように、俺の体が宙に浮く。
猫のように眠たい表情で、俺は心地よさに包まれ、やがて泥のように眠りについたのさ。




