表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/39

血塗れのルールと不死身の怪物

ルール

・お互いに交互で武器を使って攻撃する。

・先行は挑戦者。

・武器は空間にしまわれており、百種類を超える武器から毎ターン一つを選ぶ。


 俺の前に現れた“ルール”を読む。

 イメージは掴める。けれど、実際にどう作用するのかはやってみなければ分からない。


 煙を出そうとするが、発動しない。

 手のひらに仮面を具現化しようとしても、不思議な力で阻まれてしまう。


 ――どうやら聞いていた通りのようだな。


「うー、うー」


 ミノタウロスが手をクイッと折り、何かを指示する。

 ……戦いは、もう始まっているのか。


 俺の右側の空間に、ヒビが入っているのが見えた。

 ミノタウロスはそこを指差し、何かを伝えようとしている。


 恐る恐る、手を突っ込む。

 そこには広がる空間――無数の武器が眠る気配を感じた。


「なるほど……ここにある武器で攻撃し合って、敵対心が出た方が負けってことか」


 ルールと照らし合わせると、そんな仕組みなのだろう。

 ライのように能力を使うことも、ジパングのように力任せで押すこともできない。

 ――確かに勝率が低い戦いだ。


 俺は一本の剣を取り出した。


「行くぞ――ハァアアアッ!」


 まずは俺のターン。狙うは心臓。

 思いきり突き刺す。


 岩のように硬いガタイを貫き、刃は確かに心臓へ届いた。

 鮮血が、無表情な地面を赤く染めていく。


「うー……うー」


 心臓を刺したというのに、ミノタウロスは笑っていた。


「嘘だろ……!」


 確かに貫通した。だが、手ごたえがない。

 ミノタウロスの構造は、人間とは違うのか――?


 次は奴のターンだ。


 防御も回避もできないこのルールで、あの巨体の攻撃を受ける。

 正直、めちゃくちゃ怖い。


 ミノタウロスが選んだのは、大きな斧。

 狙うは――首か、心臓か。


 致死傷を負っても、敵対心が出ない限り死ぬことはないらしい。

 要するに、“初手で倒せなければ詰む”。


「ハッ!」


 ミノタウロスが斧を振り下ろす。

 俺は反射的に目を瞑った。


 ――激痛。

 喉が裂けるような叫び声が漏れる。


 視界が揺れ、地面が傾く。

 目を開けると、俺の片足が――吹き飛んでいた。


 血が噴き出す。まるで噴水のように。


「ぐっ……なんで、殺さない……!」


 奥歯を噛みしめ、痛みに耐えながら睨みつける。

 だがミノタウロスは、ただ「うーうー」と唸るだけだった。


 失血死を覚悟したが、俺のターンになると――出血が止まった。


 ……そういうルールなのか。

 致死量の傷でも、ターンが変われば出血は止まる。

 だが、痛みはそのまま残る。


 汗が滝のように流れる。

 震える脚に力を込めて、なんとか立ち上がった。


「お前……まさか、楽しんでるのか……?」


 ミノタウロスの口元がわずかに歪む。

 狂気をはらんだ笑み――こいつ、本気で楽しんでやがる。


 俺は斧を選び、叫んだ。


「うおおおおおおおッ!」


 片足で跳び上がり、ミノタウロスの首を狙って振り下ろす。

 鈍い手応えとともに、首が吹き飛んだ。


 血が噴き出す。勝利を確信した――だが。


 奴の体が、まだ動いている。

 切断された首が、ギョロギョロと魚のように目を動かした。


「……嘘、だろ」


 心臓でも、首でもない。

 ――こいつ、不死身なのか?


 ミノタウロスのターン。

 奴は鉄砲を取り出した。


 ドンッ――。


 肩を撃ち抜かれる。

 痛みで意識が飛びそうになる。


「くっそ……こんな武器まであるのかよ!」


 俺は歯を食いしばり、次の武器を選ぶ。

 チェーンソー。


 エンジンをかけ、狂ったように叫ぶ。


「これで……終わりだッ!」


 ブオンッと唸る刃が、奴の胴体を切り裂く。

 分厚い筋肉と骨を削り、血が空間を染めていく。


 だが――敵対心は、出ない。


「まだ……倒せてないのか!」


 ミノタウロスの口元が、笑った。

 奴もチェーンソーを取り出す。


 ブーン……。

 それは死神の笑い声のようだった。


「やめろ……やめろォォォッ!」


 次の瞬間、肩からチェーンソーの刃が肉を巻き込む。

 じわじわと切断されていく感覚。

 神経が破裂するような激痛。


 悲鳴を超えた悲鳴が喉からこぼれた。


 ――絶望の中で、さらに深い絶望が待っていた。


 敵対心が溢れ出し、視界が闇に沈む。


 そして、俺の意識は途切れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ