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英雄とヒドラとドワーフの村

村へ戻ると、ドワーフたちはライの姿を見るなり――ゴキブリを見つけた俺のような勢いで逃げていった。

 ほとんどのドワーフがジョイの後ろに隠れ、覗くように俺たちを見ている。


 エリィは腕を組み、俺の登場を心底嬉しそうに迎えてくれた。

「さすが、私が待っていた英雄君だね。彼がヒドラ?」

「ああ。なんとか勝てたよ……一回、負けたけど」

「ってことは、タイムリープしたってこと?」

「そういうこと。……正直、あれはもう懲りた。痛いし、やり直すのも面倒くさい」


 俺がため息をつくと、エリィは鼻歌交じりで笑う。


「こ、こ、こいつだ! 引き連れてるってことは……つまりそういうことか、ノアス!」


 ジョイが震える声を上げた。小さなゴリラのような体格に似合わず、足がガクガクと震えている。まるで生まれたての小鹿のようだ。

 そのギャップが少し面白い。


「そうだ。戦って、なんとか勝てた」


「初めまして。僕はヒドラのライといいます。あの鉱山に住みついて、あなた方に迷惑をかけていたようですね。けれど安心してほしい。僕は彼――ノアスに付いていくことを決めた。だから鉱山は自由に使ってもいい。その代わりに、ノアスの願いを聞いてほしいんだ」


 ライが丁寧に説明する。

 俺には敵対心がないが、ドワーフに対してはどうか分からない。俺が間に入らなければ、また争いになるかもしれない。内心ヒヤヒヤしていた。


「……どうやら本当にヒドラを倒したようだな。一介のゴブリンが……信じられん」


 ジョイは戸惑いのまま、立派な髭をいじっている。ヒドラ、俺、ヒドラ、俺……と視線を往復させながら、どんどん髭を触る速度が上がっていく。


「約束は果たした。防具と武器を作ってくれ。できれば明日には届けてほしい」

「分かった。どんな奇跡が起きたのかは分からんが、約束は約束だ。俺たちが手を焼いていたヒドラを倒したんだ。認めよう。

 今から鉄を掘って、明日までに仕上げて届ける、か……」

「難しいか?」


 少し考え込んだような顔をしたので、俺は伺うように尋ねた。


「いや、問題ない。一日も経たずに届けてやる。ちょうどこの近くに、人間に水場を奪われたスライムたちが暮らしていてな。彼らの“スライムタクシー”を使えば、すぐに運べる」

「スライムタクシー……? とにかく助かる。じゃあ頼んだぞ。あ、あと一つ、頼みたいものがある」

「なんだ、言ってみろ」

「投石機のようなものを数台。ここらの岩を使って人間たちにお見舞いしたいんだ。あれがあれば、混乱を起こせる」


 人間たちは、相手がゴブリンだけだと思っている。

 そこにヒドラと鉄装備の軍勢が現れ、さらに投石機で攻撃すれば、必ず動揺する。

 戦争のことは詳しくないが、動揺している敵が弱いことぐらい、素人でも分かる。


「投石機は少し時間がかかるが、二日以内には仕上げる。ただし、作れても二台か三台だ」

「ああ、十分だ」

「よし、決まりだ! お前たち、久しぶりに鉄を掘りに行くぞ! 一気に掘って、風呂入って、スライムたちに会うぞ! 行くぞ、ドワーフたち!」

「オッス! オッス! オッス!」


 ジョイの号令に、ドワーフたちは歓声を上げてピッケルを掲げた。

 その足音が地面を震わせ、地響きとなって遠ざかっていく。――活気のある音だった。


「初めまして、だね。えっと、名前は?」

「ライだ。貴方はノアスの知り合いか」

「うん。ノアス君の友達のエリィだよ。よろしく、でいいのかな?」

「友達、か」

「ん? どうかした、ノアス君」

「いや、独り言だ」


 ――友達、か。


 俺には縁遠い言葉だった。

 友達だと思っていた奴らは、みんな俺を裏切った。


 エリィの無垢な笑顔が、胸の奥の冷たい部分を少しずつ溶かしていく。

 空のように澄んだ笑顔だ。


「僕は精一杯、君たちに尽くすよ」

 ライも自然に手を差し出す。

「新しい仲間に――乾杯だね」


 エリィは嬉しそうに笑い、ライと握手を交わした。

 新しい出会いの瞬間。

 俺も自然と、頬が緩んでいた。

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