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いざ境界

 翌日。


 ルカはある程度回復したその足で、失踪事件解決の報告に冒険者ギルドへ向かった。

 ランツが事前に概要を報告していたこともあり、手続きは滞りなく終わり、報酬を手にする。


 ランツは思いの外事件解決が早かったこともあり、時間を持て余していた。

 休暇と言わんばかりに町をぶらつき、酒場で杯を重ね、ぐうたらと過ごす。

 あの日の雄姿はどこへやら、完全に無法者予備軍にしか見えない。


 ロザリーは境界の村への移住について子供たちと相談した。

 子供たちは戸惑いながらも、安定した暮らしという言葉に移住を決意する。

 結局、本人も一抹の不安を覚えながらも、一緒に付いていくことにした。

 その流れで、ランツとルカに改めて子供を紹介する。

 腕白なオルン。

 真面目なユート。

 大人しいリタ。




 さらに二日後。


 予定通り、アランダ村から馬車が到着した。

 御者は恰幅のいい穏やかな雰囲気の男で、名はベックといった。

 ランツと顔見知りのようで、軽い挨拶の後は近況とこの町の特産品について話し合っていた。

 これから立ち寄る町で色々物資を買い付けていくようだ。

 この町でも物品を見て回る為、出発は翌朝となった。


 リミエヌルからアランダまでの距離は馬車で約六日間。

 一日目と三日目は宿場町で宿を取り、その後はアランダに到着するまで野宿となる予定である。

 僻地へと進んでいく関係上、後半は人家も疎らになるためだ。

 道のりも、前半は舗装された街道だが、後半は森を抜けることになる。




 馬車での移動を開始してしばらくすると、子供たちが暇だ、酔った、尻が痛いと騒ぎ出す。

 が、ロザリーだけでなく男衆三人も面倒見がよく、馬車から降りて肩車したり、馬に乗せてやったりと手慣れたものだった。


 一日目の宿場町で宿を取り、物資を補給。

 そして二日目。

 野営の準備を済ませ、有り合わせの材料で作った夕食を摂り、子供たちを寝かしつけた後。

 大人たちは焚き木を囲んでいた。


「思ってたより危ない事件だったんだねぇ。

 そんなことがあるって分かってたら、君たちを迎えに来なかったよ」


 冗談交じりにそういって笑うベック。

 話題はリミエヌルの失踪事件について。

 ベックが話を聞きたがったので、問題なさそうな部分を搔い摘んで説明した。


「あの婆さん、あんたに詳細話さなかったのかよ……」

「君を信用してのことなんだろうけどね。

 まあ、今回は何事もなくてよかったよ」


 そう言って、沸かしたお茶をそれぞれに手渡した。

 ランツの言う婆さんとは、依頼主のことのようだ。


「実際、皆さんがあのタイミングで来てくれなかったら私達、酷いことになってましたよね……」


 ロザリーは暗い表情で焚き木を見つめる。

 少なくとも、ロザリーと子供たち三人は研究材料とでも称して使い潰されていただろう。


「ま、事件も無事解決、それが縁で若い子がうちの村に来てくれることになって、私らからするとありがたいけどね。

 ちょっと危ないこともあるけど、アットホームないい村だよ」

「ベックさん、それ若い連中にはダメな言い方な……」

「そうなの?

 あっはっは、若い子は細かいこと気にするんだね」


 適当なベックの物言いに、ランツのツッコミが入る。


「そういえば、二人はどこの出身なんだい?」


 唐突な話題の変化に、ロザリーは目を泳がせる。


「あ、私は、……詳しくは、覚えてなくて……」

「僕はメルべリアのマーレホタっていう村から出てきました」


 過去には触れられたくないだろうなと、ルカがフォローに割って入る。

 現在ルカ達がいる国がヴェロンダルという名で、メルべリアはその西側に位置する。


「へえ、メルベリアからとなるとそれなりに距離があるね。

 まだ若いのに、何かやりたことでもあって?」

「いえ、特にそういのがあったわけではないんですけど……

 とある理由で村にいるのが難しくなってしまって」


 いずれベックにも知られる可能性は高いが、今の段階では魔術が使えることは伏せておく。


 魔術を使えるということは、必ずしも幸運なことではない。

 境界以外では、魔術を使える者は特に貴重であり、その身柄を狙う輩は多い。

 公的な組織であれば徴兵、裏の関係であれば人身売買等。

 自分の身を守るため、魔術を使えるようになった人間は大抵、魔術師ギルド等の後ろ盾を得るか、境界近くに身を隠す。

 ルカは後者を選んだ。


 元々村での扱いが悪かった上、魔術を使えるようになったことが知られてしまった。

 身内も既に他界していたため、すぐに村を出るという結論に至った。


「そういえばお前、あの神父に一発KOされたって聞いたが、ちょっと実力不足なんじゃねえか?」

「え?

 いや、あのエセ神父、見た目から想像もできない動きしてたんだけど……」


 ランツも気を使って話題を変えようとしたのかリミエヌルの事件に話を戻すが、その内容はルカとして少々賛同し難かった。

 確かに自分でも実力不足なのは重々理解しているが、モーガンの身体能力は常軌を逸していた。

 ……逸していたよね?あれに負けたのはしょうがないよね?と、助け船を求めるようにロザリーへと視線を向ける。


「そうですね、あの人の動きは私からすると、文字通り目にも止まらなかったんですが……」


 ロザリーのフォローで何とかルカの面目は保たれた。

 ちょっとカッコ悪かったですけど、という心無い一言は聞かなかったことにする。


「あれは負荷も無視して薬か何かで無理やり身体能力を上げてたタイプだろうな。

 そのせいで自分の動きについていけねえから、行動の前にわざわざ狙いを定めてた。

 バレバレのテレフォンパンチだ」


 ランツの見立ては正しく、モーガンがルカを攻撃した際も、ダメージをかばう振りをして距離とタイミングを測っていた。

 カムフラージュさえなければ予備行動に気付けていた、とルカは思うが、それは戦場では通用しない。

 そういった駆け引きも含めて対応できなければ敗北、そして死に直結する。


「あのくらいの相手はどうにかできないと境界付近じゃやってけねえぞ。

 ナバリスも大概物騒な街だ、知り合いもいないで厄介ごとに巻き込まれたら対処できねえだろ。

 もうちょっと……修行っつーと前時代的だが、なんとかした方がいい」

「うん、新米冒険者の死亡率はかなり高いって聞くね。

 悪い連中も多くて色々あるみたいだし。

 アランダの方が直接的な危険は多いと思うけど、まあランツ君みたいなのが何人かいるからね」


 ランツの言葉にベックが笑いながら相槌を打つ。


「冒険者を続けていくと決めたわけじゃないけど、確かに自衛手段はあるに越したことはないか……」


 そんな話をしている内に夜も更け、男三人で見張りを交代しつつ、三日目の朝を迎える。




 その後の旅も途中までは順調に進んでいたが、五日目から散発的に盗賊と遭遇するようになった。

 だが、いずれもルカが事前に察知し、ランツが対応しようとすると、盗賊は蜘蛛の子を蹴散らすように逃げ出し、戦闘には至らなかった。


「顔パスだね、楽で助かるよ」


 ベックが笑いながら馬車を進ませる。


「やっぱりランツさんって有名なんですか?

 あなたの顔を見て逃げてるように見えますけど」

「この徳を積んだ顔を見れば、悪いことしようって連中も考えを改めるんだろうよ」

「あっはっは!

 後光が差して見えるよ!」


 ツボに入ったのか、ベックが大笑いする。


「それより、あいつら見逃すの?」

「普段なら追ってストレス発散相手にするが、今回はゲストが乗ってるから余計な手間は掛けねえよ」

「後光が差すような人物でも盗賊相手にストレス発散するんだ」

「前に言わなかったか?

 盗賊相手ならぶん殴って感謝される、正に徳を積む行為だ」




 そして移動開始から六日目、一行はアランダ村に到着した。


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