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田舎町の教会、最期の日

「お楽しみのところを邪魔して悪いな」

「「……は?」」


 想像もしていなかった乱入者に、ルカとマヌエルの声が重なる。

 姿を現したのはランツだった。


「き、貴様、盗賊はどうした!?」


 帰ってくることはないと断じていた男が目の前にいる。

 先ほどまで勝ち誇っていたマヌエルは完全に取り乱していた。


「そりゃあぶん殴って来たさ。

 気合入った連中で、負けを悟ったらほとんどの奴が自害しやがった」


 後味が悪いと、舌を出しながら事も無げにランツが言う。


「そんな中、一人だけ泣いて許しを乞う根性なしがいてな。

 そいつが色々教えてくれたぜ、なぁマヌエルさん。

 いや、聖環教会を追放されてる本名モーガンさんだったか」

「馬鹿な!?

 知っている奴はいないはずだ!」


 モーガンという名を聞き、目を見開いて驚愕するマヌエル。

 その様子を見て、ランツはほくそ笑む。


「シラを切られたら面倒だったが、当たりのようだ。

 ま、どのみち現行犯だけどな」


 どうやらカマをかけたらしい。


「この教会も聖環教に申請出してないらしいな。

 こんな東の辺境だからって、バレないと高括ってたのか?」

「何故……貴様、まさか、聖騎士か?

 私を粛清しに来たとでも……」


 手に刺さったナイフを抜いたマヌエル改めモーガンの顔は蒼白になっていた。


 聖騎士とは、聖環教会において、異端審問と敵対勢力滅殺を目的とする、強硬派最精鋭の役職である。

 そのやり口は、手段を選ばないことで有名だ。


「俺がそんな偉そうなご身分に見えるか?

 まあそう見えるような顔立ちで誤解させたのは申し訳ねえけどな。

 俺はただ、教会からの依頼であんたをどうにかしろと言われただけだ。

 できれば生かして、てな」


 嘯くランツの顔は、もちろん大層な立場の人間と見紛うような顔立ちには見えない。


「とりあえず大人しく出頭したらどうだ?

 そうすりゃ俺も多少は口添えしてやるよ。

 女子供に襲い掛かった後、ボコボコにされて大人しくなりましたってな」

「ほざけ……」


 モーガンはこれまでの温厚な態度をかなぐり捨て、ランツに向かって前かがみに戦闘態勢をとる。

 ルカの頭に、先ほど自分が吹き飛ばされた場面が蘇った。


「ランツ、そいつ速い!

 あと傷がすぐに回復する!」


 簡単な言葉で手早く忠告しつつモーガンの右手を見やると、やはりナイフの傷が完治していた。

 その直後、モーガンの姿が消え、次の瞬間ランツに肉薄する。


 ドンッ!!


 響く打撃音。


「ぎっ……!」


 苦痛の声を漏らしたのは、モーガンだった。


「おー、速え。

 ドーピングか?」


 見ると、モーガンの右の拳を、ランツが左手のガントレットで受け止めていた。

 突きを放った右手の指が何本かあらぬ方向を向いている。


「ぐう……?

 馬鹿な、何故……!?」

「そりゃ動きが単純……ああ、怪我が治らない方か?」


 これまではすぐに回復していた怪我が治らずに困惑しているようだ。


「魔術によるスケープゴートやら形代やらの真似事だろ?

 理屈はわかってる、対策済みだ……!」


 見ている側には何をしたのかわからないが、ランツはモーガンの回復手段を看破ており、無効化したようだ。

 狼狽えるモーガンに対し、右の回し蹴りが放たれる。

 モーガンは辛うじて左手でガードするが、体重差が祟り大きく吹き飛ばされる。

 音からして、左手も折れただろう。

 モーガンは満身創痍といった体で立ち上がった次の瞬間、迷うことなく走り出した。

 部屋の入り口から、外に向かって。


「……ん?

 マジかよ逃げやがった、タマなしが!」


 一瞬の隙を突かれたランツもすぐに後を追って走り出す。

 逃げないよう挑発を繰り返したつもりだったが、当てが外れた。

 というより、流石にあそこまで追い詰められたら誰だって逃げの一手を取るだろう。


「俺は追う、お前らは町に行ってろ!」


 走りながら、ルカとロザリーに指示を出す。

 いきなり窮地に立たされ、色々な情報を突き付けられ、形勢逆転して。

 部屋に残された二人が、目まぐるしく変化した状況に呆気に取られながらも子供たちの縄を解きにかかる。


「えーっと、助けていただいてありがとうございます……」

「いえ、何というか……大変でしたね。

 行方不明の人たち、無事だといいんですが」

「そうですね、居場所等聞き出せたらいいんですけど」


 そんなこんなで子供たちを解放した。

 だが睡眠薬の摂取量と体積の関係か、全く起きる気配がない。

 そういえばモーガンも睡眠薬入りの食事を口にしていたはずだが、怪我を治す原理で睡眠薬の影響も回避したのだろうか。


「ここにいるのも危ないですし、ランツのいう通り町の宿にでも行きましょうか。

 僕が二人抱えていきますよ」

「いえいえ、私も普段力仕事してるので私が二人連れていきます」


 そんなやり取りをしていると、小さな音がして呻き声を上げるように地面が震えた。

 一瞬の静寂の後、徐々に揺れが大きくなってくる。


「おい、あのジジイが自爆した!

 崩れるぞ、外に逃げろ!」


 遠くからランツの切迫した声が聞こえる。

 二人は顔を見合わせ、ロザリーが二人、遅れてルカが一人、近くにいた子供を抱えて走り出す。


 石壁が悲鳴を上げ、床が波打ち、沈んでいく。

 崩れ落ちる瓦礫が体のあちこちを打ち付けるが、気にしている余裕はない。

 大きめの落下物を何とか回避しつつ、入り口までたどり着く。

 だが、建物が限界を迎えたのか、前を走っていたロザリーの頭上に大量の瓦礫が降り注いだ。

 それを後ろから見たルカは、反射的に抱えていた子供ごと全力でロザリーを前に突き飛ばす。

 間一髪、ロザリーと子供たちが教会の外に体を投げ出された直後、建物が完全に崩れ去る。


 轟音。

 そして鼓膜が壊れたかのかと思うほどの静寂。

 充満していた粉塵が音もなく沈み、視界が徐々に回復する中──胸から下が瓦礫に埋まったルカが見えた。


「ル、ルカさん!?」

「どいてろ!」


 ランツが人間と思えない力で瓦礫を退けていく。

 程なくルカの全身が確認できた。

 幸いなことに息はあるようだ。

 だが、その脇腹には細めの木材が深々と刺さっており、大量の血が流れていた。


「あ……」

「クソがっ」


 致命傷だ。

 明らかに内臓を貫通している。

 現代の医術では治せるはずもなく、そもそも人を呼ぶ時間もない。

 仮に一流の回復術師がこの場にいたとしても、手に負えないだろう。

 一般的な回復術というのは、程度の違いこそあれ人間の自然治癒力を高める類ものだ。


 弱々しい呻き声が響く。

 彼のためにできることは、最早楽にしてやることくらいだろう。

 ランツは意を決してナイフを手に取り、ルカに近づく。


「ま、待って、待ってください!」


 意図を理解したロザリーがランツを必死の形相で止める。


「私、回復術が使えます、治せます!」

「見りゃわかんだろ、もう無理だ。

 苦しませてやるな」

「お願いします、やらせてください!」


 振り解こうとするランツに尚もしがみ付く。

 自分達を助けてこうなったのだ。

 この場で何もしなければ、ロザリーは一生後悔するだろう。

 ランツは額に手を当て、大きくため息をつく。

 ルカの苦しみを長引かせることになってしまうが……


「わかった、やるなら早くしてやってくれ」

「あ、ありがとうございます……すみませんが合図をしたら木を抜いていただけますか」


 傷を治すというのなら当然の流れだが、気が重くなる。

 ロザリーはルカの傷口に手を当て、意識を集中する。


「お願いします」

「ルカ、すまん……!」


 刺さっていた木材が引き抜かれ、血が溢れ出す。

 直後、傷口に当てているロザリーの手が淡く光り出す。

 苦々しげに成り行きを見守ること一分、二分……


「終わり、ました」


 そう言って倒れ込むロザリー。

 その両手は血で染まっていた。

 ランツが諦観混じりでその結果を確認する。


「……冗談だろ」


 信じられないといった表情で、穴が開いていたはずの箇所を見つめる。

 内部まではわからないが、見た目上傷口は完全に塞がっており、ルカは弱々しくも呼吸を続けていた。

 それまでの暗澹とした空気とは裏腹に、月は煌々と輝いていた。


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