元Sランク冒険者流インタビュー
その後、アンディは酒場の主人に騒動の際に壊してしまった備品等について弁償。
ついでに個室を借り、ルカと二人掛かりで伸びている襲撃者を運んだ。
外の騒ぎが聴こえてくる程度の安普請だが、内で多少騒いで外が気にすることもない筈だ。
「こいつらの事、いつから気付いてたんですか?」
二人の男を運び終えて扉を閉めた後、ルカが問う。
少なくとも、この酒場に入ってから一時間以上は経過している。
その間、ずっと周囲を伺っていたのだろうか。
「夕方、宿に帰る前から付いてきてたね」
二人の男の両手両足を縛りながら答える。
つまり、ルカとこの酒場に向かっていた最中も尾行されていたということらしい。
特に警戒していなかったとはいえ、ルカには気付くことができなかった。
「じゃあすぐ捕まえれば良かったじゃないですか」
「向こうから話しかけてくれることで判別したいことがあったからだよ」
そう言われ、接触時を思い出す。
お前がアランか、確かそれが第一声だった。
「不本意だけど、さっき話したように僕って結構顔が売れてるからさ。
僕を僕として接触してきたのか、ただのアランとして接触してきたのか。
最初にそれを切り分けたかった。
不安だったけど、ちゃんと誰何してくれる礼儀正しい人物で助かったよ」
礼儀正しかったかどうかの是非は置いておくとして。
前者であれば今回の件とは無関係の、アンディ個人に対する恨みによる襲撃の可能性がある。
だが今回は後者だった。
そもそも元Sランク冒険者が相手だと知って喧嘩を売るような物好きは少ない。
偽名を使うことで、相手が仕掛けてくるハードルを下げる結果にも繋がる。
加えて、アンディがアンディとして目立ちたくなかったという個人的な考えもあった。
「それに、見ればわかるけどこいつが荒事担当、こっちは報告役。
僕から仕掛けて報告役に逃げられたら面倒だし」
それ故長い時間を掛けて酔った振りを印象付けた。
侮って店内、あるいは外に出た後に接触してくるように。
気付けば、アンディは顔こそ多少赤いものの、先ほどまでの深酔いの様子はなかった。
「こいつ、結構腕が立ちそうだったしね。
君がこいつに突っかかろうとした時は少し焦ったよ」
その割には初手で一発貰って以降、流れるように相手を無力化していたが。
結局、アンディの思惑通りに事が進んでいたということになる。
「でも、かなり短絡的な脅しをしてきましたね。
もしここで僕らが逃げ帰っても、第二第三のアランさんが現れるだけなのに」
「どうだろうね。
交渉に掛かる時間が延ばせれば良かったのか。
単純に、これで本当に交渉破談に追い込めると思ってたのかもしれない。
もしくは他の狙いがあるのか」
アンディはそこまで言って、転がっている二人の方を見る。
「それを知るために、色々聞いてみようか」
報告役と思しき男の顔に、コップの水を叩き付けるように浴びせた。
すると程なくして目を覚まし、慌てたように身動ぎをする。
その後周囲を見回し、状況を理解したのか大人しくなった。
「手荒な真似して申し訳ないね。
まあそっちが先に手を出してきたんだから自業自得だ。
で、いくつか聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
あくまでも普段通り、友好的に話しかけるアンディ。
対する報告役も床に転がったまま、明るい調子で言葉を返してくる。
「こちらこそ連れが失礼を働いたようですいませんね。
俺に答えられることであればお答えしますとも」
自分は無関係だと白を切ることも予想していたが、報告役の反応は一見潔いものだった。
あるいは気絶している間に荒事担当が口を割ったと考えているのか。
「助かるよ。
で、君らは何で僕に絡んできたわけ?」
「もちろん頼まれたからでさあ。
俺らが旦那に直接恨み持ってるわけじゃありませんから」
「誰に頼まれたんだって?」
「そりゃわかりません。
依頼主だって当然足が付かないように警戒してたんで」
「じゃあ仕事の報告方法は?
報告先を教えられているか、どこかで落ち合うことになってるんじゃない?」
「いえ、前払いで貰ってますんで会う予定はもうないんですわ」
そんなわけあるか。
アンディの謙ったやり方では埒が明かない。
ルカが口を出そうとすると、アンディが横向きに倒れている報告役の前に立ち──
「ゴホッ!!」
その腹に思い切り爪先を叩き込んだ。
温和な態度による質問からの、突然の暴力。
ルカはその予想外の落差に萎縮してしまう。
アンディは咳き込む報告役の前にしゃがみ込み、変わらぬ口調で話を続ける。
「そりゃ通らないでしょ。
早く教えてくれた方がお互いの為だと思うけど」
「ほ、本当に知らねえんですって……」
「あ、そう」
今度はその手を報告役の肩へと伸ばし、ゴキリとその関節を外した。
痛みにのたうつ報告役。
その様子を見ながら少しの間を置き、対話が再開される。
「じゃあ簡潔にいこうか。
依頼人に繋がる情報があれば話してくれ。
ないなら黙ってていいよ、後でそっちの男に聞くから」
やはり口調こそ変わらないものの、その言葉からはこれまで込められていた親しみが消えていた。
怖気が走る。
仮に、本当に有用な情報を持っていない場合、どうなるのか。
どこまでやるのか。
「俺も、そいつも何も知らねえ!
何されたって話せねえんだよ!!」
「なら黙ってていいって言ったよね。
それと一応言っとくけど。
君らが来てくれたから僕らの邪魔する奴がいるってわかった。
悪魔の証明をせずに済むから気が楽になったよ。
君らが何も知らなくても、僕はどうにかしてそいつを見つける。
ここからは単なる僕の憂さ晴らしだ」
そこまで言うと再び報告役に手を伸ばし──
「──ひ、東区の八番地にある空屋敷……
そこで明日の五時に報告することになってる。
知ってるのは、それだけだ」
黙っていても事態は悪化するだけと理解した報告役は、情報を吐き出した。
「本当だろうね」
首を上下に振る報告役。
わかった、とアンディは報告役の後方に移動し、その体を起こす。
「わかった、ありがとう。
じゃあ次に起きたらすぐ荷物を纏めてこの街から出ていくことだ。
もう一度その顔を見かけたら命の保証はしない」
そう警告した後、裸絞で再び失神させた。
「……こ、殺すんですか?」
恐る恐る聞くルカ。
「おいおい、怖いこと言わないでくれ。
言うこと聞いてくれる以上は、もう手は出さないって。
同じ手順でそっちの男にも話を聞いて整合性取りたいから寝かせただけだよ。
じゃあ次行こうか」
そうして今度は荒事担当の男を起こし、情報を吐かせる。
こちらは口が堅かったが顔に出やすい男だった。
報告役の情報をちらつかせて反応を伺ったところ、依頼主との待ち合わせは正しい情報と判断できた。
アンディとルカは、再び寝かせた男たちの縄を解いて外に放り出した。
「じゃあ僕はこいつらが起きた後、変な動きを見せないか確認していくから。
君は先に帰っててくれ。
あ、大丈夫だとは思うけど一応尾行とかに気を付けてね」




