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見知らぬ来客

 その後もしばらく雑談をしながら食事をしていた時。


「お、来た来た」


 アンディが小さく、そう言った。

 来ていない注文はもうなかった筈だが。

 そう思いつつルカが振り返ると、そこには剣呑な雰囲気を醸している男が立っていた。

 その手には酒瓶が握られている。


「お前がアランか?」


 喧騒の中、低い声が届いてくる。

 もしやアンディの待ち合わせ相手か?

 ルカがそう思いつつアンディの方へと振り返る。


「どちら様?」


 違ったようだ。

 状況を理解しかねているルカをよそに、やり取りは進む。


「聞いているのはこっちだ。

 お前がアランか?」

「もしそうだったらどうする?

 一杯奢ってくれるのかな」


 男が圧を強めるが、アンディはのらりくらりと対応する。

 次の瞬間、男の酒瓶を持っている手が振り上げられ──


 ガッ!


 アンディの頭部を殴り、もう一方の手ですかさず胸倉を掴んだ。


「ちょ、何すんだよ!」


 反応が遅れたルカが男に食って掛かろうとしたところを、アンディが手で制する。

 男が暴れた拍子にルカたちが囲っていたテーブルが倒れて食器類が散乱し、周囲の注目を集めた。


「何だ喧嘩か?」

「いいぞやれやれ!」

「掴んでる方に銀貨一枚!!」


 客層通りの反応で勝手に盛り上がり始める。

 普段のアンディなら何の心配もないだろうが、今は相当酔った状態だ。

 ルカは胸に不安を燻ぶらせながらも、すぐ動けるよう構えつつ成り行きを見守る。


「今日中に荷物を纏めて街から出ていけ。

 怪我で動けなくなる前にな」


 男はアンディとルカに聞こえる程度の声量でそう要求しつつ、アンディを突き放した。

 それで理解する。

 この男がどういう立ち位置かを。

 アンディはよろめきながらも何とか倒れずに堪える。


「イタタ……

 何で出ていかなきゃいけないのかね。

 誰にこんなことしろって頼まれたんだい?」


 頭に手を当てているが、幸いダメージは少なそうだ。

 対する男は質問に応じない。

 忠告はしたと、戦闘態勢に入る。


「ちょっとくらい答えてくれてもいいと思うんだけ……ど!」


 転がっていた酒瓶を手に取り、男の顔目掛けて全力投球する。

 が、男は少し身を屈めて難なく躱し──


「うおっ!?」


 後ろの野次馬も寸での所で避け──


 ゴンッッ!!


 更に後ろの野次馬の顔にクリーンヒット。

 不意の一撃に野次馬は派手な音を立てて倒れた。

 男がその背後の出来事を意に介さずアンディとの距離を詰めようとする直前。


「今倒れたの、君のお仲間だけど大丈夫?」


 野次馬の方を指差すアンディ。

 その言葉に男はつい後ろを振り返った。

 失神している野次馬の姿を確認し、僅かに顔が歪む。


「ああよかった、勘違いだったらどうしようと思ってたんだ」


 鎌掛け。

 いや、こんな野次馬の中から正確に相手を狙ったからには確信があったのだろう。

 ならばこれは男に対する挑発か。

 手前の野次馬が避けなかったらどうするつもりだったのかは定かではないが。

 そんなルカの推測をなぞるかのように、男が憤怒の形相でアンディへと突進──

 した直後、何かに足を引っかけて態勢を崩した。


「おっとっと」


 その勢いに押されてか、アンディも後ろに下がるようにしゃがみ込み──

 グシャリ、と男の顔がその膝へとめり込んだ。

 そのままうつ伏せに床に倒れこんだ男の反応はない。

 拍子抜けの結果に周囲は静まり返ってしまった。


「騒がせちゃって申し訳ない。

 もう終わりみたいだからこっちは気にしないでくれ」


 アンディが回りに頭を下げると、野次馬は消化不良気味に各々の席に戻っていく。

 アンディは立ち上がりざま、突っ伏した男の足元から何かを回収する。

 それは二本のアンカーのようなものと、その後端に結ばれたワイヤー。

 直前に、アンディが床に打ち込んだものだった。


 ルカは倒れたテーブルを戻しながら、一連の騒動で感じた違和感を反芻する。

 投げられた瓶の着弾先、男が転んだ位置。

 無駄がなさ過ぎて、偶然なのかそうでないのか、整理がつかなかった。


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