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答えだと思ったもの

 結局、交渉の場は翌日の午前に設けられることになった。

 ルカとアンディは宿で一泊し、魔術師ギルドへと足を向けた。

 アンディが入場口で守衛らしき人物に話しかける。


「おはようございます。

 本日予約をしているアランという者ですが」


 ルカは一晩経ってすっかり忘れていたが、アンディは偽名を使っている。

 身分証明書の類は必要ないのかと疑問に思ったが、支障があれば昨日の時点で問題になっているだろう。

 特に引き留められることもなく、ルカも随伴として敷地内へと入場することができた。


「そういえば今はアランさんでしたっけ」

「おいおい、しっかりしてくれよ」


 交渉に向かうアンディとはすぐに別れることになる。

 気を付けるに越したことはないが、致命的な場面でドジを踏むことはない、ルカはそう判断した。


 敷地内には魔術師ギルドと魔術学校が併設されており、いくつもの棟が並んでいる。

 道を歩いていると制服を着た生徒とすれ違う。

 入場から居心地の悪さを感じていたルカだったが、何の変哲もない生徒たちを見て多少落ち着いた。


「────」


 ふと、普段聞きなれない語調、語勢が耳に届く。

 出所は校庭の方。

 見ると、教師と複数の生徒が集まり、的に向かって魔術を放っているところだった。


「アランさん、あのごにょごにょ言ってるのは何ですかね」

「ん?

 そりゃ詠唱でしょ」

「詠唱?」


 単語の意味は分かる。

 だが、魔術を使うのに詠唱など必要なのか。


「いや、僕も魔術については詳しくないけど。

 普通の魔術師はそれっぽい言葉を並べて魔術を使うものじゃない?

 まあうちの村の連中みたいに、無言でとんでもない魔術使ってくるのもいないでもないけど」


 思えば、ルカが魔術を行使する場面を直接見た相手は二人。

 レジーナと、少し前にルカの左足を切断した女性のみ。

 もしかすると、詠唱無しの魔術は高い練度が必要なのかもしれない

 自分は、詠唱等の基礎的な技術を飛ばして魔術を使おうとしていたから上手くいかなかったのでは?

 そう考えている内に、校庭で魔術の練習を行っていた集団は撤収を始めていた。

 あわよくば詠唱の内容を盗み聞きできれば、と思った矢先に。


「君も色々見て回りたいだろうし、ここらで別れようか。

 こっちはいつ終わるかわからないし、満足したら先に宿に戻っててくれ」


 そう言って気を利かせたのか、アンディは一人敷地の奥へと歩いて行った。

 一人残されたルカは周囲を見回す。

 野外で授業を行っていたのは先ほどの集団のみだったようで、他は疎らに道を歩いている生徒のみ。

 歩きながら並び立つ棟の中をさり気なく覗いていくと、それぞれで授業が行われている。

 流石にそんなものを外から眺めても得られるものはない。

 当初の予定通り、部外者にも開放されているという図書館へと向かうことにする。


 入口から真っ直ぐ進み、広場に出る。

 広場を囲うように並び経つ建物、その一つが図書館だった。

 他の建物に比べると一回り小さいその入口へと立つ。


 鼻を突く、本独特の匂い。

 入口付近に並んだテーブルと椅子。

 その奥には所狭しと棚が並んでおり、その中に本が並べられているのが見える。

 紙が流通し始めてからしばらく経つが、本というものはまだまだ庶民には手を出しづらい立ち位置だ。

 それがこれだけ集まっているというのは壮観である。


 ただ、それはルカにとって都合の良いことではなかった。

 参照したい本を探すのにどれだけの労力を要するのかを考えると、気が滅入ってくる。

 ともあれ、入口横のカウンターから目を光らせる司書らしき人物に頭を下げて中へと進む。


 幸い、棚の上には見出しが掲げてあった。

 その見出しを確認しつつ、棚の間を右往左往する。

 魔術関係の棚が見つからない。

 とにかく一般的な学科に関するような本が多い。

 魔術学校とはいえ、通常の学問も学ぶのだろうか。

 そんなことを考えながら棚の上に目を凝らしていると、ようやく目当てのコーナーにたどり着いた。


 棚に並んだ本のタイトルを読んでいく。

 魔術の歴史、魔術の基礎、魔術と呪術の関係、大魔林、魔術完全ガイド、etc・・・

 お堅いものから首を傾げるようなものまで、節操なく・・・もとい幅広く取り揃えられていた。

 いくつか手に取って開いてみるが、すぐに拒否反応が出て棚に戻す。

 やはり一から魔術を学ぶのは自分にとって現実的ではないと感じてしまう。

 そんな中、これだと思う一冊が目に入ってきた。

 詠唱辞典。

 手に取り目次を確認すると、各属性の初級魔術から上級魔術まで網羅しているようだ。

 ページを読み進める。

 どうやら詠唱は効果毎に固定の口上となっているらしい。

 また、同じ属性の魔術では重複するフレーズも多い。

 思ったより単純だ、とルカは感じた。

 口上も共通言語のもので、理屈はわからないが真似はできそうだ。

 だが、部外者のルカには本の貸し出しは認められない。

 何かメモを取れるようなものを持ってくればよかったと思いつつ、いくつか初級魔術の詠唱だけ頭に詰め込み、図書館から退出した。


 早速試し撃ちと行きたいところだが、部外者が道端で堂々と魔術を行うわけにもいかない。

 入場口で退場手続きを行い、頭に抱えた情報が零れ落ちないように気を付けつつ、街外れで人気のない場所を探す。

 ようやくの実践だ。

 何とか覚えたものの一つ、単純に火を出す初級魔術の口上を思い出す。


「ん、んっ」


 咳払いをするルカ。

 何故か込み上げてくる気恥ずかしさを振り払い、詠唱を始める。


「火種が集い、熱が昂る。

 炎よ、形を成せ」


 詠唱中に炎のイメージを作り上げ、終了と共に解き放つ。


「発火!」


 ルカの渾身の詠唱に呼応し──


「・・・」


 小さな小さな火花が一瞬、音を立てて広がり・・・

 それだけだった。


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