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村を取り巻く環境

 ヴェロンダルは、王を持たない国家だ。

 人類の生存圏を大陸南西から東へ北へと伸ばしていった過程に出来た新興国家。

 結果として、力のある四人の大貴族がそれぞれの領を治め始め、互いの均衡によって成り立っていた。

 それぞれ北のメニーゼフ家、東のフェルモネ家、西のワルファルス家、南のザインメッツ家。


 ヴェロンダルと隣国ヨルムートは、古くから不仲である。

 いくつもの軋轢が積み重なり、十五年ほど前まで紛争状態が継続していた。

 現在は多少ほとぼりが冷め、冷戦状態にある。


「俺とバルザックは、ヨルムートからの亡命者なんだ。

 当時はヴェロンダルとヨルムートの関係が特に険悪で、市民権を得るには兵役に就く必要があった。

 バルザックはメニーゼフ領の貴族、ヴァレール家に仕えることになった。

 この国の貴族の大半は戦争を支持していたが、融和を唱える者もいた。

 ヴァレール家はその内の一つで、あいつもその思想を支持していたよ。

 市民権を得てからも、そのまま仕え続けていた。

 そんな中で、その当主が暗殺された。

 犯人に繋がる証拠は残っていなかった。

 疑われたのは……あいつだ」


 当然、バルザックが疑われた。

 国内感情の面から見ても、槍玉に挙げられる下地としては十分だった。


「証拠もなく犯人扱いされたんですか?」

「恐らく、元からそういう筋書きだったんだろう。

 あれよあれよと裁判が進み、主君殺しの罪で死刑判決だ。

 ヴァレールの人間はあいつを擁護したが聞き入れられなかった」


 過去の事とはいえ納得できず、ルカの拳を握る力が自然と強くなる。

 ナバリスで関わったサージェンと言い、貴族に対して悪い印象ばかりが先に立つ。


「それでもヴァレールは立ち回り、当時のメニーゼフ当主に助けを求めた。

 現在は先代に当たる、ガストン・レオン・メニーゼフ様。

 この辺りを開拓した立役者でもある、覚えておけ」

「あれ、そうだったんですね。

 村長が中心になって開拓したとばかり思ってました」


 少し前に、村長が昔を語っていたような記憶がある。

 色んな立場や身分の人間を集めて臨んだとかなんとか。


「あの人も方々に広い伝手を持ってるが、直接的な権力を持ってるわけじゃないからな。

 結果的に、難航していた開拓への従事を条件に、恩赦が出されることになった。

 俺も開拓には別口で参加していて、他の連中ともその時に知り合ったわけだ」


 当時のメニーゼフ領東部は魔境そのもので、周囲の被害は甚大だった。


「ここを平定したことにより、周辺の人間、特に貴族連中は大いに喜んだ。

 ガストン様と主だった関係者は、半ば英雄扱いだ」

「ランツなんかは大抵の上の連中に嫌われてるけどさ。

 そういう実績があるから、正当な理由無しにちょっかい掛けてくる奴は少ないんだよね。

 例えるなら、天然記念物の害獣みたいな?」


 酷い言われようである。

 だが、妙に納得できる表現だ。

 ギアースも心なしか、笑いを堪えているように見えた。


「そして、今から三年ほど前か。

 魔族との突発的な交戦で、ガストン様が重症を負われ、そこから状況が大きく変わった。

 あの方と配下の騎士団の引き上げ。

 その頃にはここも村として安定していたから戦力的な問題は起きなかったが。

 それをきっかけに、メニーゼフの当主交代が行われた。

 ガストン様の怪我はそこまで酷くはなかったが、強引に進められたと聞く。

 後継の方はゴルドー・レオン・メニーゼフ様……いい評判は聞かないな」

「ギアースさんは会ったことないんだっけ?

 我が身可愛い典型的な守銭奴だよ。

 今はまだ周りの目もあってこの村への援助を続けてくれてるけど、噂ではここを騎士団の駐屯地にしたがってるとか。

 一応言っとくと、この村の皆は先代様を慕ってるけど、他の貴族を毛嫌いしてる」


 そういった背景もあり、村長は聖環教と懇意にしている。

 また、現在魔術師ギルドとも連携の話を進めている最中だった。


「そこから、再びおかしな方向に話が転がった。

 ヴァレール家がヨルムートと裏で繋がっていた国賊などと告発され、一門悉殺。

 もうすぐ恩赦を受ける筈だったバルザックは、そのままメニーゼフ領を追われることになった」


 それが、ギアースの語った『ある罪』の概要だった。


「それからあいつはヴァレール家の生き残りを探し始めた。

 領外に出ていたご息女の身柄が確保できていないという話だったからな。

 それと同時に、その汚名を晴らすために貴族の裏側について調べ始め、今に至る。

 定期的に村長と情報交換しあっていて、今回はランツに受け渡しを頼んだ形だな」

「サージェンの件も、貴族の案件だったから、積極的に手伝ってくれたんですね」


 ギアースの説明により、この村を取り巻く環境の一端を知ることができた。

 貴族周りの裏事情は、想像以上に闇が深いようだ。


「じゃあ、ナバリスでフェルモネ家の協力があったのって、メニーゼフ家の取り計らいってことですか」

「恐らくはガストン様個人の計らいだと思う。

 ここの開拓前の状態は、フェルモネ領にとっても脅威だったと聞く。

 それもあって、あちらは恩義を感じているという話だ」


 悪い印象しかない貴族階級だったが、ガストンという人物は傑物のようだ。

 ギアースとミリィの口ぶりからもそれが感じられた。

 そしてバルザックも、印象通りの人物と見て良いだろう。


「そんなわけで、バルザックについての悪い噂は話半分に聞いてくれ。

 会う機会は少ないだろうが、頼れば力になってくれる筈だ。

 逆に奴が困っていたら、可能なら手助けしてやって欲しい」

「僕にできることなんて少ないですけど、何かあれば喜んで」


 そう言うと、険しかったギアースの表情は僅かに綻んだ。


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