帰還して一息
「はぁ……」
代わり映えのない晴れた日の午後。
冒険者ギルド アランダ支部で、受付嬢のミリィがカウンターに突っ伏しながら大きなため息を吐く。
バルザックとの連絡役は主に彼女の役割だ。
本来なら彼女は今頃、ナバリスでバルザックとの情報受け渡しが終わり、調査名目で久しぶりの都会を楽しんでいる予定だった。
なのに、今回はとある事件のせいで留守番となり、村で険しい業務に勤しんでいた。
襲い来る睡魔と壮絶な死闘を繰り広げていると、不意に入り口のドアが開かれる。
一瞬で飛び起き、訪問者に向かって営業スマイルを向ける。
「いらっしゃ……あれ?」
顔を見せたのは、ここ一ヶ月少々村を出ていたランツとルカだった。
「おかえり、随分早かったんじゃない?」
その問いに、ナバリスで起こった事件を思い出しながら、ランツが苦い顔で答える。
「色々問題に巻き込まれて、結果的に仕事が早く片付いたんだよ」
ナバリスでバルザックに聞いた話から、帰り道を常に警戒していたが、トラブルは起こらずに帰還できた。
来客に気付いたのか、奥からギアースも姿を現した。
二人の胸元を確認して、小さく頷く。
「……少々心配だったが、二人とも昇格できたようだな」
「あっホントだ。
オメデトー!」
祝福の言葉を受けた二人の反応は両極端だった。
「あ、ありがとうございます……」
照れるルカと。
「……イヤミか?」
うんざりした様子のランツ。
「はぁ……俺は村長に報告してくる」
「お土産は?」
「ねぇよそんなもん」
恒例になっているやり取りを終え、ランツは二階へと上がっていった。
その後ろ姿を目で追うミリィたちに、ルカが申し訳なさそうに話しかける。
「ごめん、村の皆さんにはお世話になってるから何かお土産買おうかと思ったんだけど……
ほんと後半に色々あってそんな暇なくて」
「あ、いいのいいの!
いつもの挨拶みたいなもんだし、あたしだって他の街に行ってもそんなもん買ってこないし」
それはそれでどうなの、と突っ込みつつも、ようやく人心地ついた。
何だかんだとこの村に馴染んできたのだと実感する。
「それで、初めてのナバリスはどうだった?
元々はあっちに根を下ろす予定だったんだろう」
ギアースの言う通り、ルカは少し前までナバリスを目指して旅をしていた。
その途中である事件に遭遇し、その縁で現在はアランダで生活している。
「いやぁ、賑やかで華々しいとこでしたけど、聞いてた以上に闇が深い印象ですね。
ちょっと居ただけでトラブル続きで。
今回はバルザックさんたちがいなかったらどうなってたか……
あ、バルザックさんがギアースさんによろしく伝えてくれって」
それを聞いて、バルザックは珍しく眉を下げて笑った。
「そうか。
あいつは元気だったか?」
「それはもう、すごい頼りになる人ですよね。
連れの人も落ち着いてて、それに比べて……」
ランツは何故、普段は落ち着いているのに突然暴走するのか。
「あの、向こうでガルムとか狂犬とか聞いたんですけど、それってランツのことなんですか?」
これまでの様子から、本人には聞くに聞けなかったが、やはり気になってしまう。
ギアースやミリィなら何か知っているだろうと思っての質問だった。
「ぷふっ!
狂犬って、一応気にしてるみたいだからあんたでも本人の前で言わないほうがいいよ」
吹き出しながら忠告するミリィ。
わかっているから本人がいない今聞いているわけだが。
その後をギアースが説明してくれる。
「あいつが一年近く前まで、ウルという男と組んでいたことは知っているな。
ガルムとは、その二人に付けられた異名だ。
何年前だったか、赤狼と呼ばれていたウルとランツが組み始めた。
ウルは恐ろしく破天荒な男で、ランツが抑え役に回ることが多かった。
だが、お前も身に染みているように、あいつも暴走することがある。
結果的に、あいつも狂犬などと揶揄されるようになり、まとめてガルムと呼ばれるようになったらしい」
ウルという人物は既に亡くなっていると聞いた。
それにしても、ランツが抑え役とは、とんでもない人物だったようだ。
「ねえ、バルザックさんの連れってどんな人だった?
あたし会ったことないんだよねぇ。
ギアースさんは知ってる?」
「俺も存在を聞いた限りだな」
二人からそんな質問を返される。
どんな人と言われても、中々困る。
「僕自身、ランツを釈放させるために一緒に行動してもらった間に話した程度ですけど──」
「釈放って……
また何かやらかしたの?」
冷ややかな目のミリィからの突っ込み。
「あっこれ黙ってろって言われたことだから聞かなかった方向でお願いします……
で、アレクっていう人なんだけど。
何かこう、オーラのあるイケメンだったなぁ」
「へぇ!
今度紹介してもらおっと!」
ジト目から一転、目を輝かせるミリィ。
そんなに出会いに飢えているのだろうか。
そういえば、と、ふとバルザックたちの発言について思い出した。
「あの二人、この村に入れないみたいなこと言ってましたけど、何か事情があるんですかね?」
その質問に、ギアースは腕を組んで唸る。
しばらく考え込んだ後、口を開いた。
「バルザックは表向き、ある罪を問われてメニーゼフ領を出禁とされている」
思ったよりかなり重い話が出てきてしまった。
「……すみません、聞いていい話じゃなさそうですね」
「いや、あいつと知り合ったのなら知って貰った方がいい」




