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二つの戦線

「オォアアアァァ!」


 男が剣を振りかぶり、怒りのままに飛び掛かって来た。

 上段からの振り下ろしを、ランツが剣で受け止める。

 想像以上に重い。

 が、押し切られる程ではない。

 鍔迫り合いの形のまま、目線だけ動かして状況を確認する。


 後から出て来た五人の内、目の前の男を除いた四人はバルザックたちの方へと向かっていた。


 衛兵たちは遠巻きに動かない。

 バルザックたちの登場により、日和見を決め込んだようだ。


 後ろまで確認する余裕はないが、ルカはフリーだろう。


「大勢のお友達を連れてはしゃいでたのに、全員そっぽ向いてんじゃねえか。

 あんた嫌われてんだろ」


 目の前の男は随分と短気なようなので、とりあえず追加で煽っておく。


「余裕ぶってんじゃ……ねえ!」


 男は勢いよく剣を押して小さく距離を取り、荒々しい動きで連撃を見舞う。

 ランツが一つ一つの剣撃を受けつつ機を狙っていると、相手が上段に大きく振りかぶった。

 その一撃を切り落とすべく、タイミングを合わせて剣を振り下ろす。

 だが──


「ッ!」


 振り下ろされたのはランツの剣のみ。

 男の動作はフェイントだった。


「間抜け!」


 今度こそ振り下ろされる男の剣。

 それを何とか、左手のガントレットで受け止める。

 しかし勢いを殺しきること叶わず、剣先が肩を捉え、小さく血が滲む。


「うおぁ!」


 地に振り下ろされた剣を跳ね上げ、肩口に食い込んだ相手の剣を押し返した。

 その反動で大きく両者の距離が離れる。

 肩の傷を確認する。

 動かすと多少痛むが、動作に支障はない。


 剣戟の間、ルカも援護の隙を伺っていた。

 だが、男が常に射線を切るようにランツの影に移動するため、チャンスが訪れない。

 男の実力は本物だった。

 それもその筈、今回の捜索をランツが行うことは事前に漏れている。

 当然それを始末する場合に備え、十分な戦力が用意されていた。


「威勢がいいのは口だけだったなぁ!!」


 男の怒涛の連撃が、再びランツに放たれる。

 ランツは防戦一方で、只管攻撃を受け止め続けている。

 好機と見たのか、男は意識を己の剣にだけ向ける。

 闇夜に響く金属音が、徐々に音量とテンポを増していく。

 一層と速さと威力を増し、息を吐く暇もなく襲い掛かる剣閃の嵐の中で。

 防御の姿勢を見せていたランツが、不意にその中の袈裟斬りを受け流した。


「おぉっ……と」


 受け止められることを前提とした攻撃に専心していた男の身体が泳ぐ。

 その脇腹に、ランツのガントレットがめり込んだ。


「ぐォッ」


 位置取りを気にすることもできず体勢を崩す。

 その隙を狙って、今度こそとルカの弓が一射、二射と男目掛けて矢を弾いた。


「うぉお!?」


 男は既の所で矢を躱し、ランツが射線を遮る位置へと移動する。

 両者ともに軽く息が上がっており、その間に最早挑発の応酬はない。

 少しの間を置いて、再び打ち合わされる刃と刃。

 今度はランツも防戦一方ではなかった。

 先程の防戦で、剣筋、癖、呼吸をある程度は掴んだ。

 相手の斬撃を受け、避け、弾きながら、隙を見つけては剣、あるいは拳で反撃を行う。

 そんなやり取りを続ける内に、男の表情が徐々に険しくなる。

 そう、状況は徐々に男に不利になりつつあった。


「クソがぁッ!」


 渾身の横薙ぎをランツにガードさせ、その勢いを利用して脇を駆け抜ける。

 進行方向にはネクロシスリーフの栽培地を囲っていた柵。

 男はその脚力で、3メートル近くあろうかという柵を飛び越えて行った。


「腰抜けが、逃げんのか!」


 ランツの叫びが空しく響き渡る。

 罵声とは裏腹に、男の判断の速さには舌を巻いた。


「まあ、逃げるだろうな」


 その声振り返ると、バルザックともう一人が近くまで歩いて来ていた。

 ランツと男が激戦を繰り広げている間に、バルザックたちは四人の男を制圧していた。

 男はもう一方の戦線が崩壊することを悟って逃走したのだ。


「ったく、短気なくせにしっかり周りが見えてる野郎だ。

 そっちの方は……大した怪我もなさそうだな」

「どうする、追うか?」

「いや、あの中は罠が仕掛けられてる。

 今から捕まえるのは無理だろ」


 逃げ出した者はさておき、この場の事を済ませることにする。


「衛兵さんたちよ。

 手ぇ出さなかったってことは、こっちの言うことに従うってことでいいのか?」

「……ああ、先ほどは申し訳ないことをした。

 我々は領主の一派に身内を人質に取られて従っていた。

 奴の失脚に繋がるのなら、何でも協力するし、これまでの裁きも受けよう」


 まあそんなとこだろうな、と頭を掻く。

 これからどうしたものかと腕を組む。


「人質とやらの問題はどうしたもんかね。

 俺らは俺らで、逃げられる前に冒険者ギルドの内通者をボコる必要あるんだよなぁ」


 とはいえ、ここの領主にもすぐに報告が届くだろう。

 このまま放置して証拠隠滅や人質に危害が加わるのは捨て置けない。


「なら、こちらは俺らが受け持とう。

 例の捜査権限の証書を貸してもらえれば、どうとでも動ける。

 ついでに、領主殿に直接尋問できる機会が得られるかもしれんしな」


 バルザックからの提案は正に渡りに船だった。


「頼めるか?

 バルザック様様だぜ」

「貸しひとつということにしておこう」


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