違法植物の捜索
それから二日後の夜。
二人はサージェン領を見下ろす位置に身を潜めていた。
結局、ランツは出発の少し前に、ルカに今回の依頼の全容を説明した。
予想通り、あれやこれやと理由を挙げて反発されたが、最終的には渋々だが同行してくれた。
「この辺で麻薬の原料栽培ねぇ……
わざわざ外の植物使ってまでして作るほどのもんなの?」
「普通に使うなら、ただ副作用の強いダウナー系って話だ。
問題視されてんのは、使い続けた場合の脳細胞破壊による判断力低下。
その過程で命令を続けてると、次第に警戒心とか反抗心が鈍って、拒否するって判断が出来ずに言いなりになるらしい。
付いたあだ名がスレイブメーカーとか何とか」
「ぐえっ、人権侵害の権化じゃん……」
最近出回り始めたことから、後半の効果はあまり認知されていないのが現状だった。
使いようによっては、大問題になりかねない。
「ここで解決の糸口を掴めりゃ昇格に報酬、ついでに世のため人のためにもなる。
今回の依頼を受けて良かったな?」
「勝手に決めて来といてよく言うよ……」
そんなことを話して過ごしていると、遠方に複数の松明のような明かりが見えた。
例の協力するという衛兵たちだろう。
二人は準備を整え、行動を開始する。
目的地周辺については事前にルカが視察を行っている。
3メートル前後の高さの柵に囲まれた地帯があり、低頻度とはいえ見張りの巡回も存在した。
現在は陽動の成果もあるのか、しばらく様子を見ても見張りの姿は見えない。
その隙に、二人は事前に確認していた老朽化した部分を選び、音を抑えて破壊。
空いた穴を潜り抜け、内部への侵入を果たす。
当然、外から見える範囲に目的の植物が栽培されている筈もなく、ここから探す必要がある。
「……金属っぽい臭いがする。
罠がありそうなんだけど、暗くて探せないや。
明かりつけてもいい?」
「周りに見張りがいなきゃな。
近付いて来る奴に注意しろよ」
ルカは足元を確認できる程度の光量を確保し、地を這いながら罠を避けて進んでいく。
その後ろにランツが追従する。
「見張りは一人もいねえのか?」
「少なくとも、僕には察知できないねぇ」
全員衛兵の方に向かったのか?
そもそも、今思えば元いた見張りの数は、多いとは言えなかった。
それに、ルカの迂回頻度から考えて、罠の数もそれほど多くはなさそうだ。
ならば何故、以前ここに侵入したであろう冒険者は帰って来なかったのか。
少なくとも、冒険者ギルドが信頼するくらいの実力はあった筈だ。
ランツの胸中に嫌な予感が燻り始めたその時。
「ちょっと待て」
「何?」
何かを察知したランツが、先行するルカを止める。
「弱々しいが、魔術っぽい何かがある。
罠かもしれねえ、迂回した方がよさそうだ」
「どこ?それっぽいの見えないんだけど」
地面に集中していたルカが顔を上げ、周囲を見回すが怪しいものは見当たらない。
「そのまま真っ直ぐ進んだとこだ。
他にも何個かある」
「ふーん、そう言われると確かに違和感あるかも。
危ない危ない」
ルカは気を取り直し、少し戻って別ルートを選択する。
あの魔術罠は、魔術が身近にある人間なら違和感として拾えるが、普通の人間にはまず気付けない類のものだ。
ランツは、前任者はあれに引っ掛かってしくじったのかと考えた。
指摘されたルカも魔術を使えるからか、それ以降は魔術罠も看破しながら進んで行く。
歩を進めるにつれて、鼻につくような甘い香りが漂ってくる。
そうして、二人は目当ての植物を発見した。
黒緑色の細長い葉と、紫黒に浮き出た葉脈。
ダルシートから伝えられた、ネクロシスリーフの特徴だ。
小さい明かりに照らされたそれは、明暗のコントラストも相まって、不気味に映った。
「見た目がキモいし臭いもキツイ……
これを証拠として持って帰るわけ?」
「それしかねえだろ。
一本拝借して行くぞ」
隅のネクロシスリーフを一本、無造作に引っこ抜いて袋に仕舞い込む。
後は引き返すだけだ。
「……順調すぎない?」
「やっぱりそう思うか」
これまでに何度か、ギルドの依頼で冒険者が侵入した筈なのだ。
それなのに、陽動の成果があるとしても、こうまで見張りが居なくなるのはおかしいのではないか。
とはいえ、この場に留まって考えてもどうにもならない。
何はともあれ体を動かし、脱出だ。
「帰り道の方が神経使いそうだね……」
「行きはよいよい帰りは怖いってか」
結果としては、侵入口付近まで何事もなく復路を通り抜けることができた。
そして、侵入口にて。
遠目に見て、十人以上の人間が待ち構えていた。
「完全にバレてるじゃん!
どうする……!?」
「バレてる以上、他から出ようとしてもすぐ見つかるだろうな……
とりあえず平和的手段で、ダメだったら拳で理解してもらうしかねえな。
ちょっと離れて付いてこい」
一応平和的手段を試みるということだが、ランツは完全に臨戦態勢だ。
頭を抱え込むルカを横目に、迷いなく侵入口へと向かっていく。
改めて確認すると、包囲している人間の装備は見覚えがある。
この周辺で統一されている、衛兵の物だ。
どういうことかとランツが口を開こうとする前に、リーダーと思しき男が怒声を上げる。
「領主から不審者が紛れ込んでいると通報を受けている!
貴様らが犯人だな!!」




