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風変りな昇格試験

 翌日の午後、冒険者ギルドの応接室にて。


「先日の件は引き受けていただけるのでしょうか?」

「ああ、一応そのつもりで来た」

「ありがたく存じます」


 ランツは昨日コンタクトを取ってきた、ダルシートというギルド職員と再び面会していた。

 ランツの返答を聞き、ダルシートは恭しく一礼する。


「それで、そっちが持ってる情報は共有してもらえるのか?」

「勿論です」


 そこから、ダルシートは渦中の貴族、サージェンについての情報を話した。

 だが、昨日集めた情報と大差なく、目新しい情報はなかった。


「調査を引き受けると言った手前で悪いが、そっちの方はあんまり明るくない。

 これまでも他の冒険者に調査させて被害が出てると言ってたな。

 そいつらがどう動いてたのかはわかってるか?」


 扱っている麻薬の売人や取引現場、もしくは関わりのある組織のアジト等がわかれば少しは楽ができそうなのだが。


「ええ、こちらも調査依頼とお伝えしましたが、足を使うような作業は不要です」

「……というと?」


 まだ向こうの話は終わっていなかった様だ。


「先ほどの説明でも触れましたが、彼が扱っているとされる麻薬の原料は外界由来の植物です。

 通称ネクロシスリーフ。

 現在は外界からの持ち込みが禁じられているので、この周辺で栽培されているのでしょう。

 そして、推測の域は出ませんが、その場所もある程度の目星が付いています。

 サージェン卿の領地の、ある一角です」

「なるほどな。

 つまり、禁止されてるその葉っぱを栽培してる証拠を押さえりゃいいわけだ」


 違法植物を自分の領地で栽培するとは大胆だが、人目に触れるわけにはいかない以上あり得る話か。

 そして、範囲が絞れているにも関わらず、証拠を掴めずにいるということは──


「そんで、前任の連中はそこに踏み込もうとしてやられたってことか」


 違法植物栽培の量刑など知らないが、貴族としての立場が危うくなりかねない。

 それなり以上の警備体制が敷かれている筈だ。

 思わせぶりなダミーの可能性もあるが、そこがほぼ目的の場所であると考えて良さそうだ。


「それにしても、あんたも意地が悪いな。

 調査って話がその実、貴族の領地に不法侵入させようとは」

「繊細な話のため、引き受けていただく前にはお伝えできかねますので。

 お時間を取らせずに済む方法だと受け取っていただければ」


 悪びれずに涼しい顔で釈明するダルシート。


「それに、今回は反省を踏まえてもう一手打つ予定です。

 非公式に衛兵と協力し、タイミングを見て適当な理由を付けて、偽の捜査を行ってもらいます。

 拒否されないよう目的地から少し離れた場所にするつもりですが、多少の注意は引けるでしょう」


 本来であれば、ランツは不法侵入など大して気にもしない。

 だが、それを事前に他人に知られていて、且つお膳立てまでされるとなると、どうにもやり辛い。

 とはいえ、ここまで知って『やっぱり辞めます』等という訳にもいくまい。


「それで、決行はいつにすればいい?

 あとは現地の歓迎に備えて、知り合いにヘルプを頼んでもいいのか?」

「早い方が良いでしょう。

 目的地までは徒歩で一日弱掛かります。

 差し支えなければ明日出発、明後日の深夜に動いていただければ。

 増員については、他言無用でお願いしたいので控えてください。

 貴方一人か、お連れを含めた二人でご対応願います」


 当然の注文か。

 とはいえ戦闘が目的ではなく、適当に問題の植物でも千切って持ち帰れば依頼達成と考えて良さそうだ。

 余程警備の網が細かくない限り、ルカを連れて行けば難しくない話だ。

 索敵や罠の察知等、役に立つ。

 本人に詳しく説明すると、十中八九で倫理面を理由に同行を嫌がるだろうが。


「わかった。

 だが、こっちはそっちの依頼で法を踏みつけることになる。

 仕事で下手打った場合はこっちの責任だが、それ以外についてはケツを持ってもらいたい。

 念のため、依頼発行と依頼内容についての証書を作ってくれ。

 名義はギルドでもあんた個人でもいい」


 不法侵入の方はどうとでもなるが、違法植物の所持は言い逃れが難しい。

 それに、このダルシートという男がサージェンや裏社会と繋がっている可能性もある。


「かしこまりました。

 ……が、手厳しいですね」


 そんなランツの内心を察したのか、ダルシートの笑みが僅かに引きつった。


「気を悪くしないでくれ。

 この手の話で裏をかかれた経験が多いもんで、つい慎重になっちまうんだ。

 あんたを特別疑ってるわけじゃない」


 過去に元相方が適当に依頼を受けた結果、様々な苦境に立たされた記憶が蘇ってくる。

 しばらくしてダルシートが証書を作成、内容を確認し、宿へと帰ることにする。




 ランツが宿へと帰る頃には、日が落ちかけていた。


 トラブルに巻き込まれていないかと多少の不安を胸にルカの部屋を訪れたが、何事もなく無事のようだった。

 彼はこれまでのナバリス散策について興奮気味に語り出した。

 海、船、機械、露店のお値打ち感、武具屋のラインナップ、海産物の味、等々。

 この年頃の男子が、初めてだという都会で見聞きすることは、全て目新しく映るだろう。

 ランツもそれは理解しているので、初めの内は微笑ましく聞きに回っていた。

 だが、その話が長引くにつれて、これまで慣れない調査や交渉に時間を費やして疲労した頭に僅かな苛立ちが混じってくる。


「そんな観光を満喫中のお前に朗報だ。

 財布の中も寂しくなってる頃だと思って、冒険者ギルドで話をつけて来た」

「……え?」


 これ以上は付き合ってられないと、皮肉と冗談を交えて今後の予定を突き付ける。


「昇格試験を特別コースに変更してくれるってよ。

 受験料が要らない上に、合格すれば報酬が貰える。

 内容は法律的にグレー寄りだけどな。

 明日出発で明後日現地到着予定だ、用意しとけよ」

「ちょちょっ、どういうこと!?」


 一応本人に説明して同意を得ようと思ってはいたが。

 他にも今日中に済ませたいことがあるため、キャンセルだ。


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