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二日酔いの作戦

「言いたいことはわかるが、俺にも考えがあってだな……」


 開口一番、ランツはやけにむくんだ顔で眉をしかめながらそう言った。


 ここリミエヌルの町で発生している連続失踪事件調査の作戦会議から一夜開けて、昼食時を過ぎた頃。

 協力して事件解決にあたることになった二人の冒険者、ルカとランツが宿の食堂で顔を合わせていた。


「いや、特に言いたいことはないし、今日お互いどう動くか決めてたわけでもないし」


 ルカは米粉の麺を口にしつつ、羽目を外した男の末路を冷めた目で見ていた。

 昨日に続き、失踪事件について聞き込みを行ったが、新たな情報を得られる見込みがなかったので昼前に中断した。

 そして宿に帰り食事を摂っていたところに足取りの覚束ないランツが現れ、今に至る。

 情報交換できていなかったが、どうやら利用している宿が一緒だったようだ。


「こっちは念のため改めて情報収集してみたけど、もう目ぼしい発見は出てこなそうだね。

 そっちの考えとやらは何?

 何かいい作戦があるの?」

「おう、あの後、衛兵が酒場に来てな。

 一杯奢って件の盗賊の情報を色々聞いといた。

 ねぐらの場所も目星がついたぞ」


 その勢いで追加の酒が入り、結果的に二日酔いになってしまったという言い分だった。

 テーブルの対面に座っているのに酒臭さが漂ってくる。


「へえ……つまり……どういうこと?」

「盗賊にカチコミかけるに決まってんだろ」

「いやいや、急すぎない?」


 もう少し平和的に外堀を埋める方法はあると思うのだが、ランツとしては既に強行的な方向に舵を切っていた。


「お前も言った通り、犯人に繋がる証拠はもう情報収集じゃあ出てこないと思っていい。

 それにお互いこの事件に長々と時間をかけるつもりもねえだろ。

 だったら次はどうする?

 ある程度は強引に行くしかねぇ」


 ランツは酔い覚ましに白湯を一気飲みして続ける。


「教会相手は強硬手段に出るには裏付けがなさすぎる。

 だから消去法で盗賊からだ。

 盗賊だったらぶん殴っても文句が出ないどころか感謝されるって寸法よ」


 右手で拳を作りながら、爽やかな笑みを浮かべて宣う。


「そんで例の使用人と繋がりがあるかどうかも吐かせりゃいい。

 そいつらが犯人だったら事件解決、違った場合でも被疑者が一つ減るわけだ。

 どっちにしろ町の脅威も減ることになるしな」

「うーん、まあ結果的にいい感じにはなるだろうけど……」


 ルカは腕組みしながら考える。

 強引ではあるが、確かにそれなりのリターンは得られそうに思える。

 だが、それには大前提がある。


「でもやり合うことになっても勝てそうなの?

 盗賊連中がどの程度の規模なのかは判明してる?」


 こちらの戦力は二人。

 ランツは腕に自信があるようだが、ルカは人と殺し合いをした経験などない。

 相手の戦力が不明な状態では尻込みしてしまう。


「これまでの襲撃事件から、多くて十人程度の規模らしい。

 こんな平和な田舎町に狙いを付けるだけあって実力も大したことねえはずだ。

 腕に自信があるなら『境界』周辺を行き交う荷物を狙うだろうしな」


 なるほど、伊達に二日酔いになったわけではなく、細かいところまでちゃんと情報収集していたらしい。


「そう言うならランツの判断を信じるけど……そうするといつ仕掛けるつもり?

 こっちは戦闘の方は援護くらいしかできないけど、索敵や罠察知くらいなら」

「いや、場所はある程度わかってるし盗賊は俺一人でどうにかなる。

 今日の夕方から出て夜に仕掛けるつもりだ。

 だが万が一、明日の朝までに俺が戻ってこなかったらちょいとヤバイのが相手ってことだ。

 その場合お前は手を引いた方がいい、これまでの情報をギルドに報告して町を出て行くこった」

「軽く言うねぇ……」


 だが、ルカの素人目に見ても、外見や立ち振る舞いから、ランツはそれなり以上の実力者であると感じた。

 Cランク冒険者の平均的力量がどの程度かなど把握していないが、この男からすると本当に盗賊の数人程度は問題にならないのだろう。

 万が一のことも考えているあたり、慢心ということでもなさそうだ。


「その間、お前にゃやってほしいことがある。

 俺が出る前に教会に盗賊の様子見に行くと伝えるから、その後連中に動きがないか見てほしい」

「盗賊と教会に繋がりがあるかの炙り出しってこと?」


 ランツは曖昧に頷く。


「先入観なしで動いてもらいたかったから言わなかったが、ここまで来たから伝えとく。

 詳細は伏せるが、俺の依頼主は……あー、教会が黒だから証拠見つけて……どうにかしてこいと言っててな。

 話を聞くと確かに俺も……教会の人間が犯人だと思うような内容だった」


 どこまで話していいのかを考えているのか、ランツは所々詰まりながら事情を説明する。


「そんでお前が情報収集してくれてたが、まあ裏付けになる情報は出てこなかったわけだ」

「ちょっと聞き込みした程度で証拠が出てくるなら、もう事件解決なり犯人逃走なり事態が進んでるでしょ」


 そりゃそうだと、互いに苦笑する。


「もちろん犯人が別ってこともあるし、協力者の存在も疑ってる。

 それでも第一の焦点は教会だ。

 冒険者二人がちょろちょろ周りを探っていて、一人が盗賊と喧嘩しに行き、一人が無防備に現れる。

 犯人ならこれ幸いと手を出してくる可能性がある」


 ここまでちゃんとした考えを述べられると、二日酔いの顔もベテランの風格に見えてくるから不思議である。

 ルカは、ランツの提案に従うことにする。


「じゃあ教会まで二人で行って、理由を付けて僕だけ残らせてもらう?」

「そうだな……いや、別にするか。

 俺が一人で教会に行って、後でルカも様子見に来るとでも言って森に行く。

 お前はしばらく隠れて周囲を伺って、何もなさそうなら教会に入ってくれ」

「了解、適当に様子見する」

「わかってると思うがお前は餌みたいなもんだからな?

 何かあったらすぐ逃げろ、怪しい動きがあったことだけわかれば後でいくらでも詰める口実になる」


 そこまで話した後、二人は別れて夕方に向け準備をする。


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