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旧友との再会

 ナバリスは、大まかに東西南北と中央の五区画に分けられている。

 東側は、境界側に位置することもあり、冒険や工事に関する品を扱う店が集まっている。

 西側は、他の街からの来訪者の玄関口になっていることから、それらを対象とした商業区画だ。

 南側は港湾機能を担い、漁業関連の施設が並ぶ。

 北側は、この街の住人が暮らす住宅街という色が強い。

 そして中央には、行政関連施設が集中している他、貴族の邸宅等が存在する。


 詰まる所、中央に近付くほど地価等が高くなる。

 ランツの探していた宿、海の灯亭はそんな中央区の西寄りに存在した。

 西側の宿という事前情報から西の区画だろうと考えたことと、知人の印象から離れた高級宿だったため、先ほどは見落としていた。


 宿の受付で訪問先と用件を告げると、部屋番号が伝えられた。

 すんなり通される防犯体制に疑問を抱きつつ、すぐ横の階段を上がり、手入れの行き届いた廊下を渡る。

 扉毎に部屋番号が加算されていくのを眺めながら、目的の部屋へと辿り着く。

 扉を叩くと、程なくして男が顔を出した。


「……部屋を間違えてないか?」


 その男は訪問者の姿に心当たりがないことを確認して、警戒心を露わにそう告げる。

 短く刈り上げた黒い短髪に褐色肌の大男。

 口調こそ静かだが、そこはかとない威圧感を感じる。


「ご挨拶だな、バルザックさんよ。

 戦友の顔を忘れちまったのか?」


 肩を竦めて皮肉を返す。

 尤も、ある程度予想していた反応だったが。


「ん?

 ……お前、もしかしてランツか?」


 バルザックと呼ばれた男は暫しの思考を経て、その表情が疑惑から驚愕、そして笑顔へと変わった。


「おお、久し振りだな!

 すぐに思い出せというのは無茶振りが過ぎるだろう。

 そもそも、どうしてここが分かったんだ?」

「野暮用ついでに、不定期連絡の代理を頼まれたんだよ」

「なるほど、そういうことか。

 なら立ち話もなんだ。

 むさ苦しくてすまんが、とりあえず入ってくれ」


 ここからは聞かれると拙い話題が出るかもしれないからと、部屋の中へと招かれる。

 前置きとは裏腹に、中は整理整頓されていた。


「随分と良い所に泊まってんなぁ。

 イメージとかけ離れてて探すのに苦労したぜ」


 彼らが滞在する宿と比較すると、ランクが二つか三つ程違いそうだ。


「連れのことを考えると、どうしてもな……

 出費は痛いが仕方ない」

「そういや訳ありのが居るって話だったか」


 取り留めのない話をしながらテーブルへと移動し、向かい合って座る。


「これが頼まれた届けもんだ」

「お疲れさん、確かに受け取った」


 ランツがテーブルの上に乗せた封筒を、バルザックが手繰り寄せる。


「こっちの資料も渡せるように整理するから、悪いが一日か二日待ってくれ。

 しかし、ついでとはいえお前が来てくれるとは。

 村の連中は元気か?」


 バルザックとアランダ村とのこういったやり取りは、散発的に行われていた。

 定期的に拠点を移すバルザックが郵便等を通じてアランダ村に所在を伝え、必要に応じて村からバルザックに使者を送る形式を取っている。


「ちょっとしたトラブルは起こってるが、なんとかやってるさ。

 皆、特にギアースがよろしく伝えてくれってよ」


 バルザックとギアースは、村の開拓期以前からの友人だった。


「あいつのリハビリはもう終わったのか?

 結構前に包丁を握ってると聞いたが」

「握力はもう戻らねえらしい。

 ただ、料理自体は性に合ってるみたいだ。

 リハビリって言い張って、ギルド長代理の役割放り出して裏で仕込みしてるよ」


 二人して笑い合う。

 その後も軽く近況を語り合った後、ランツが本題を切り出す。


「で、こっちの用事に関連してあんたに聞きたいことがある」


 彼はこれまでの経緯を搔い摘んで話した。

 一月ほど前のアランダでの騒動、先ほどのギルドでのやり取り。


「このままだとサージェンとかいう貴族の事を嗅ぎ回ることになりそうだ。

 もしそいつの事について何か知ってたら教えてくれ」


 バルザックは冒険者稼業を営む裏で、事情により貴族関連について調査を行っている。

 ランツの調査相手が貴族となったため、渡りに船という状況だった。


「サージェンか。

 本格的な調査は後回しにしていて触り程度しかわかってないが。

 ここからすぐ北西に領地を持つ、下級貴族だ。

 境界の外に関心があるようで、冒険者ギルドに調達関連の依頼を投げることが多いと聞く。

 お前に話を持ち掛けたギルド職員の言う黒い噂というは、裏組織と繋がってるといった類の話だろう。

 少し前までは大した動きはなかったが、最近は麻薬密造やらに手を出してるらしい。

 その原料が外界の植物由来の特殊な奴だとか何とか」

「はーん、ギルドとしても悪行に加担したって受け取られかねないんで、始末をつけたいってとこか?」


 そういえば、先ほど裏路地に入った際もジャンキーが目に付いた。

 噂が正しければ、その貴族が麻薬の蔓延に一枚噛んでいるということ。


「じゃあ問題の機械も、依頼経由で持ち帰らせた物をそのまま隠匿したわけか」

「いや、外界から色々と持ち帰らせているとしても、ここは境界を出入りする際の検閲が厳しい。

 鑑定機関を通さず懐に忍ばせるのは難しいだろう。

 サージェンがその機械を入手したというなら、別ルートだろうな」


 そう簡単な話ではないらしい。

 だが、今回の依頼のような別の角度から切り込むことで、尻尾を掴む近道となる可能性はある。

 面倒な話だと思っていたが、瓢箪から駒だったのかもしれない。


「参考になったぜ。

 他にもやることがあるんで、今日はこれでお暇させてもらう」

「ああ、わざわざ悪かったな。

 何かあったら俺にも知らせてくれ。

 それと、村に帰る前に一杯くらい付き合え」


 旧友と再会し、用事を済ませるついでに参考情報を得て、宿を後にする。


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