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冒険者捜索_4

 ルカが音を頼りに先行した二人を追いかけ、ほどなくして。

 その存在を目の当たりにする。


 事前に聞いた情報通り、体高2m弱程度の巨大な蜥蜴のような姿。

 昨夜聞いた、『デカイ奴ほどヤバイ』という言葉が思い起こされる。

 もしかしなくとも、かなりヤバイ相手なのではなかろうか。

 見た目の大きさに比べて全身は細く、体積自体は然程でもなさそうなのがせめてもの救いか。


 暗灰色の体表に、一般的な爬虫類とは一線を画す巨大な牙と爪。

 何よりも印象的なのは、その凶悪さを感じさせる真紅の瞳だった。

 こちらを向いていないのに憎悪、嫌悪感が脳に直接伝わってくるようだ。

 こいつは絶対に人間を見逃がさない──

 いつか聞いた『人類の天敵』という言葉が、力量的な脅威だけではないと確信できてしまう程に。


 ランツはそんな化け物と、真っ向から打ち合っていた。

 魔獣の牙、爪による攻撃を剣と左手のガントレットで弾き、逸らし、回避する。

 打ち合う都度、耳を塞ぎたくなるような轟音が周囲に撒き散らされ、その衝撃にランツが顔をしかめる。

 屈強な体格と、その見た目以上の筋力を誇るランツではあるが、魔獣相手の力比べでは圧倒的に分が悪いようだ。

 魔獣が軽く振るう爪を全力の振り下ろしで叩き落し、その反動で吹き飛ばされるように距離を取る。

 そんなやり取りの中で隙を見つけて攻撃を搔い潜り、すれ違いざまに魔獣の脇腹に渾身の一撃を見舞う。

 魔獣の鱗の強度を超えて裂傷を与え、そのまま背後へと回り込こもうとするが振り回された尾により迎撃される。


「くっ!」


 ランツは辛うじて身を伏せて魔獣の尾を躱す。

 空を切った尾が、近くの樹を細枝のように圧し折った。


 体勢を崩したランツに襲い掛かろうとする魔獣の横顔に、レジーナが放った氷の槍が突き刺さる。

 音からして相当な貫通力を備えていたことが伺えるが、それでも軽く刺さる程度の効果に留まっていた。


「かったいわね!」


 その隙を突いて何とかランツは体勢を整える。

 気付けば直前に与えた脇腹の傷は、魔獣の魔力によって既に塞がり始めていた。


 それを見たルカの心中に浮かんだのは、理不尽という思い。

 ランツもレジーナも奮戦しているものの、魔獣に決定打を与えるには程遠い。

 小さなダメージはすぐに回復され、その間にも二人の疲労、ダメージは蓄積する。

 時間が経つほど不利になるのは明白だ。

 こんな化け物相手に勝てるのか、と。


「おいまだかよ!?」

「見りゃわかんでしょ、我慢しろ早漏!」


 二人の喧嘩腰の掛け合いでルカは我に返る。

 レジーナはランツの隙をフォローするように立ち回っており、攻撃の頻度は低い。

 改めて観察すると、所々で足を止めて何かをしているようだ。

 その周辺から微かな違和感が感じられるが、その原因は掴めない。

 とにかく、彼女が何かを終えるまで時間を稼ぐことができれば勝機はあるということか。


 この距離ならば危険は少ないだろうと、魔獣の注意を引くために弓を構える。

 そして二人が射線に入らないタイミングで、魔獣に向けて矢を放つ。

 矢は魔獣の背に当たりこそすれど、刺さることすらなく弾かれた。

 そして、魔獣が徐にルカの方に向き直る。

 その苛立ちを表した顔は恐ろしく、周囲の空間すら歪んでいるように見える。

 ──いや、実際に歪んでいた。

 その口から吐き出されようとする炎の熱量によって。

 口の両端から、赤い炎が迸る。


「下がって!」


 レジーナの忠告。

 一瞬遅れて、ルカがその場から離れるのと同時に魔獣の口が開かれ、火球が吐き出された。

 ルカが元いた場所に正確に着弾して爆散し、熱と焦げた臭いが周囲に充満する。

 何とか被害を免れたが、少しでも反応が遅れたら無事では済まなかっただろう。

 幸い、ルカに対する魔獣の追撃はない。


「バカ、危ねえから余計なことすんじゃねえ!」


 戦闘に関しては様子を見ていろと言われてたが、つい手を出してしまった。

 だが注意を引いて時間を稼ぐという目的は達成した。


「完成!」


 レジーナのその言葉を聞き、ランツは彼女の方へと走り出す。

 魔獣はその迂闊な動きを見逃すことなく、その横腹に向けて爪を薙ぎ払った。

 その一撃を何とか剣で受け止めたものの、勢いを殺せずに吹き飛ばされる。


「ぐっ……」


 起き上がって何とか距離を取ろうとするも、その先には人の背丈ほどの段丘があった。

 ランツは魔獣と段丘に挟まれて逃げ場がない。

 これで終わりだと言わんばかりに、全速力で突進する魔獣。

 その体躯がランツと接触する一歩手前──


「グオオオオオオオオッ!!」


 空気が震えるほどの魔獣の咆哮が響き、その突進が停止。

 その肩には見えない何かが深々と突き刺さっており、大きく空いた傷穴からは大量の血が噴き出している。

 それはレジーナによって大量の魔力と時間を掛けて段丘の側面に設置された、高い透明度と強度を誇る氷の杭だった。

 その完成の知らせを受け、ランツは劣勢を演じて魔獣を誘い出したのだ。


 注意深く見れば確認できるであろう氷の杭も、森の雑多な視界の中で視認するのは容易ではない。

 刺さった見えない杭に理解が及ばず、上手く動けない魔獣に追撃を仕掛ける二人。

 それに対して魔獣は、自身の被害も顧みず、発狂するように周囲に炎をまき散らし始めた。


「チッ!

 折角の仕込みが全部パアだわ」


 氷で作られた罠は他にもあったようで、魔獣の吐き出す炎により溶けていく。

 その水がさらに蒸発し、辺りは異様な湿度と熱気に包まれた。

 怒り狂った魔獣は炎を撒き散らしながら二人に向かって突進を始める。

 先程までの片手間のような攻撃ではない、相対する者に絶望的な恐怖を与えるような死の暴威。


「って、さっきのだけで十分だったみたいね」


 それとは正反対に、レジーナは魔獣の様子を見て冷笑し、地に手を当てる。

 その指先から魔獣へと静かに氷の床が伸びて行くが、我を忘れた魔獣はそれに気付かない。

 そして氷は周囲の熱に負けずに魔獣の足元へと到達、足を滑らせて盛大に転倒した。


「──ぷっ」


 たまらず吹き出すレジーナ。

 ランツは魔獣の顔を目掛け、剣を構えて全力疾走。

 魔獣はまだ起き上がれていないが、近付かせまいとランツに向けて炎を吐き続ける。

 まともに受ければ全身大火傷を負うだろう炎に対して能力を展開、無効化しつつ直進。

 その勢いのまま剣を口の中から上顎目掛けて突き刺した。


「レジーナ!」


 合図を受け、レジーナが魔獣の脳天目掛けて跳躍、その手に作り出した氷の槍を振り下ろす。

 先ほどまでの堅牢さが嘘のように、あっさりと鱗を抜いて頭蓋骨を貫通。

 蜥蜴の魔獣は、それまでの死闘が幻だったかのようにあっさりとその生に幕を下ろした。


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