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冒険者捜索_2

 道中を進んでいると、少し先に森の中には相応しくないものが姿を現した。


「……建物?」


 地に沈みかけて傾いた、妙に形の整った建築物のような長方形の物体だった。

 石のような素材でできており、所々に入り口や窓らしき穴が空いている。

 その脇には、文字のような記号の刻まれたぼろぼろの金属板が埋め込まれていた。


「昔の住居よ。

 この手の素材のは今も形を残してるのが多いみたい。

 今はもう全部解体されたけど、前は村の近くにもいくつかあったわ」

「そこら辺の生物が住み着いてることもある、念のためなるべく避けて通ってくれ」


 頑丈な素材で作られた旧文明の建築物は、ある程度の形を保って現代に残っていた。

 奥地に行けば行くほど手付かずのものが多くなり遺物も期待できるが、この付近のものは大体調査され尽くしているらしい。


 午前は順調に進めていたが、流石に接敵ゼロのままとはいかず、幾度か獣やゴブリンと遭遇。

 その都度、ランツが危なげない動きで一撃の元に切り伏せる。

 捜索が目的のため、死骸はそのまま放置して先を急ぐ。


 夕方に差し掛かる頃に仕留めた猪から手早く解体できる可食部を採取し、少し進んだところで野営地を選定。

 火を焚き、猪肉と野草、持ち込みの岩塩で夕食を作り終える頃には完全に夜の帳が下りていた。


「あんたら冒険者の認識票隠しときなさい。

 可能性は低いけど、明日目的の連中と鉢合うことも考えて」


 夕食の席で、レジーナが肉を咀嚼しながらそんなことを言った。


「何で?」

「救助に来た奴がCランクとEランクの冒険者でしたって、絶望ものでしょ」


 聞いたところ相手はBランクとCランクの混合チームという話だった。

 確かに自分達より下級の冒険者を見てどう思うかは想像に難くない。


「そういえばレジーナは冒険者じゃないの?」


 初対面の時から、レジーナは認識票を身に着けている素振りはない。


「私の本業はトレジャーハンター。

 ま、最近はこういった副業の比率が上がってるけどね」


 この時のルカには知る由もないが。

 彼女のトレジャーハンターは自称であって、その手口は遺跡荒らしそのものである。

 その為、アランダ村の用心棒かつ真っ当な考古学者兼トレジャーハンターのアンディという男と頗る仲が悪い。


「一人だと奥まで潜れねえからだろ……

 トレジャーハンター名乗るなら自分で探知くらいできるようになれよ」


 ランツが呆れたように横から口を出してきた。


「ちょいと前に連れてた斥候役の男はどうしたんだ?

 また逃げられたのか」

「うるさいわね、見解の相違よ」

「いつになったら見解が一致する奴と出会うんだよ」

「うっさいわね!」


 ボロルマが言った通り、レジーナの男癖は中々に悪いようだ。


「あんたこそ相方に頼りっきりだったから最近は村に籠ってばかりじゃない!」


 レジーナがヒートアップする。

 大声に釣られてか、近くから何かの鳴き声が聞こえた。

 少し話題を逸らした方が良さそうだ。


「前にランツが人と組んで冒険者やってたっていってたの、今言った相方?」

「ん?

 ああ、そんなこと言ったっけか」


 ランツが手ち持無沙汰に焚き木に薪を投げ入れる。

 曖昧に答えたその表情は、焚き火で揺らめいて分かり辛い。

 しかしその様子を見て、ルカは大体の事情を察した。


「こいつ、ウルっていうAランク冒険者と組んでたのよ。

 一年前に魔人二体とやり合ったときに玉砕しちゃったけどね。

 とても褒められた人間じゃなかったけど、頼りになる奴ではあったわ。

 こいつが若い時から──」


 話題変更には成功したが興奮の冷めないレジーナが早口で捲し立てる。

 一から十までの説明で、しんみりとした雰囲気が霧散した。


「俺は元々村のケツ持ちが本業だからいいんだよ。

 お前も男が見つからねえならこいつはどうだ」


 ランツも余計なことまで話し出すレジーナを止めるべく、ルカを生贄に差し出す。


「はあ?

 ルカぁ?」


 ランツに比べてレジーナの表情は一目瞭然。

 不機嫌な視線でルカを上から下まで睨め付ける。


「ガキだしヒョロいし金の匂いもしない。

 もう少し修行と立身出世して出直しなさい」

「さいですか……」


 勝手に相方候補に挙げられ、勝手にダメ出しされ、ルカとしては溜息しか出ない。


「それに今日の所は上手く先導出来てたけど、明日からが本番。

 魔獣に出くわす確率が跳ね上がるわよ」


 魔獣。

 名前だけはいくらでも聞く、人類の天敵と呼ばれる存在。

 しかし実際何が恐ろしいのか、ルカは知らなかった。

 聞くは一時の恥、この機会に教えてもらおうとする。


「魔獣について詳しく知らないんで、何が脅威なのかとか注意事項とか教えてもらえると嬉しいんだけど」


 レジーナは知らなかったのか、といった呆れた表情でルカを見る。

 彼女のこういった視線には最早慣れつつあった。


「まあ境界にでも居なきゃ知らなくても無理はねえだろ」


 そんな冷えた空間にランツが助け舟を出す。


「学者染みたことは説明できねえが。

 魔獣ってのは体の大部分を魔力で作った組織に置き換えてる奴の総称だ。

 だから獣と銘打ってるが、トカゲ、鳥、虫、果ては魚と何でもござれってな」


 初耳だった。

 特に獣以外も含まれるという点。

 これまで道中はあまり空には警戒していなかった。

 人を襲うような鳥など、大型のものに限られるため察知し易いだろうと。

 だが、鳥や虫の魔獣などというものが存在するのであれば話は別だ、警戒度を上げる必要がある。

 聞いておいて良かったと思うが口にはしない。

 レジーナの視線の温度をこれ以上下げたくないため。


「体が魔力で出来てるっていうのは何か利点があるの?」

「用途は二つ。

 一つ目は、身体強化だ。

 程度はあるが単純に強度と膂力が段違いになる。

 極まった奴は並の武器じゃ傷一つ付かねえ。

 それに魔力で修復できるんでダメージもすぐに回復する。

 一応消耗させることには繋がるけどな」


 話を聞くに、かなり魔力に依存する身体構造のようだ。

 それ故に魔力濃度の低い境界内側で滅多に魔獣を見ないのだろう。

 だが相手にするとなると相当な脅威になりそうだ。


「もう一つは魔力タンクみたいなもの。

 それを利用して、原始的なものとはいえ一瞬で魔術を使ってくるわ。

 わかりやすいのは火を吹いたりね。

 厄介なのは生態に即した使い方をする奴。

 鳥であれば風、水辺にいる奴であれば水を操作して、攻撃だけじゃなく予想できない動きをする事もある。

 他にも本来爬虫類みたいのは私が得意とするとこだけど、寒さに弱い奴が周囲の温度を操ることもあるから困りものだわ」

「物理寄り、魔術寄り、バランスの三つのパターンがある。

 力の強弱と体の強度でどれかわかるから、よく見て判断しろ」

「よく見て、か……」


 経験を積めば見てわかるようになるのだろうか。

 実際に力比べをするか魔術を使われるかしないと判断できないと思うのだが。


「でも、体が魔力で出来てるってことは、さっきの魔術無効化を使えばワンパンじゃない?」

「ありゃ魔術に効くだけで、魔力自体にはそこまで効かねえんだよ。

 無意味ってわけでもねえが、割りに合わねえから最後の手段だ」


 そう旨い話はないらしい。


「結論、溜めた魔力の純度とか見た目で判断できない要素はあるけど、原則としてデカイ奴ほどヤバイ。

 手に負えそうにない奴が出てきたら逃げるわよ」

「まあ人間に対して恐ろしく好戦的だから、見つかったら逃げられるか怪しいがな。

 そんなわけで、お前の働きに俺らの命運が掛かってるからしっかりやれってこった」


 ルカが一日掛けて積み上げた、小さな自信の山がぐらりと大きく揺らぐ。


「魔獣についてはわかったけど、魔人は?

 何で人型だけ別の名前で呼ばれてるの?」

「魔人が別枠扱いなのは謂れがあるが、今は気にしなくていい。

 今回出くわすことはねえだろうし、もし出会ったら俺らだけじゃ全滅だな」


 不安だけを煽るような言い方で濁され、話は終わった。

 その後は交代で見張りを立てつつ休息を取り、次の日を迎える。

 魔獣の話を聞いた後の森は、それまでとは違った恐ろしさを感じさせた。

 初めて境界の外に出ての探索一日目は、序の口のようだった。


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