即席チームの情報整理
日が落ち、空が完全に暗くなった頃。
教会から町に戻ったその足で、冒険者二人は打ち合わせという体で町中の小さな酒場にやってきていた。
店内は仕事上がりの農夫でそこそこ賑わっている。
先ほどまで依頼キャンセルという選択肢が頭を過っていたルカだが、考えを改めていた。
ランツという男は外見とは裏腹に、言葉の端々に親しみといったものが感じられ、話しやすい男だった。
報酬取り分等の折り合いが付けば、同業者の仕事振りの勉強がてら、共同作業させてもらうのもありだと。
「お前は冒険者のEランクか、また面倒臭い依頼を受けたもんだな」
エールを流し込みつつ、ランツがルカの首にある黄色の認識票を見て言う。
「僕は旅の途中でして。
急ぎでもなく、途中まででもいいという依頼だったので軽い気持ちで受けてみました。
他の依頼は時間が掛かりそうなものが多くて」
ルカは米の炒め物を口に運びながら答える。
ランクについて問われ、ルカもランツの認識票を確認する。
ランツの首には青色の認識票がぶら下がっていた。
「そういうランツさんは……青色ってことはCランクでしたっけ?
今回のは現状調査がメインの駆け出し向けの段階の依頼だと思ってたんですが」
冒険者のランクはF~Sに階級分けされ、それぞれの色の認識票で識別できるようになっている。
ルカは黄色のEランクで駆け出し、ランツは青色のCランクで中堅といったところだ。
「堅っ苦しいのはなしで頼むわ。
俺の方は冒険者は副業でな、別の奴と組んで動いてた程度だ。
そんで話がややこしくなるから教会の連中には黙ってたんだが、俺は知り合いから依頼を受けててな。
今回は冒険者ギルドの依頼と関係ねえんだ」
胸元の認識票を指で弾きながら言う。
教会を訪ねたところ、認識票を見て冒険者ギルドの依頼で来たのだと勘違いされ、都合が良いのでそのまま話を進めたと補足された。
「了解。
じゃあそれぞれ別口からの依頼なわけだけど、良ければ共同作業にさせてほしいんだけど、どう?」
「取り分が減るわけでもなし、俺の方も早めに終わらせたいところだから構わねえよ」
ルカの提案に、二つ返事でOKが出た。
「ただ、調査の方は結構そっちに任せることになると思う。
いや、任せきりにしようってわけじゃない、もちろん俺も動くつもりはある。
だが失礼なことに、こういった町だと俺みたいな見た目のよそ者は不審者扱いされかねなくてな。
込み入った裏話なんかは聞くのに苦労すんだ」
確かに、ただでさえ低ランク冒険者はならず者と紙一重の扱いを受けかねない立ち位置だ。
また、ランツは暴力的な印象こそ受けないが、威圧感のある風体である。
争いごとに縁が薄い田舎町では、どうにも警戒されてしまう。
「その代わり荒事が起こるなら、限度はあるが俺の方メインで対応する。
それでいいならな」
ルカも二つ返事で了承、今回の依頼に対して手を組んであたることになる。
内心でガッツポーズするルカ。
作業は分担で報酬は一人前だ。
さらに暴力沙汰発生時の不安もある程度解消された。
ランツは事件解決まで持っていくつもりのようで、そこまでいければ報酬額も期待できそうだ。
そこからは周囲の喧騒に紛れるように、小声で話を続ける。
「そっちも教会関係者が犯人の可能性が高いと思ってるってことで良い?」
「疑うなって方が無理だろ」
行方不明に際して痕跡がゼロ。
孤児二人については教会の人間の犯行だとすれば難しくない話である。
だからこそ二人とも、まず教会に足を運んだ。
「一応昼の間に少し聞き込みしといたんで、情報整理ついでに聞いてほしい。
そこからそっちの見立ても聞きたいんだけど」
「おう、行動が早くて大変よろしい」
ランツが葡萄酒とつまみの料理を注文した。
自分は足を使った調査をしなくても良さそうだとでも思っているのか、気が抜けているようだ。
「とりあえず教会の人についてなんだけど、神父さんとシスターさんには会ったよね。
後は孤児院として世話をしている子供が三人と、使用人が一人いるらしい。
使用人は見た?」
「いや、マヌエルとロザリーとやらの二人に会っただけで他は見てねえな」
「衛兵さんが言うには、最近町周辺の巡回中に東の森でその使用人をよく見るんだってさ」
教会は町の東外れに立っており、その更に東に森が広がっている。
「東の森って教会のすぐ近くのか。
何してんだって?」
「その場で何か作業してるようなところは見たことないって。
少し前から森の奥には盗賊らしい連中が出入りするようになったらしくて、町の人間は近寄らないように言われてるらしいんだけど、使用人は変わらず森に出入りしてると。
盗賊の方は町自体にはちょっかい出さずに旅人や馬車を襲ってるらしいって言ってた」
盗賊くらい早く捕まえろとは思うが、元々平和で衛兵の数も少ない町に突如現れたようで、手が回っていないらしい。
冒険者ギルドの依頼にも出ていた記憶はないが、その内貼りだされるのかもしれない。
「盗賊だけだと痕跡を残さない誘拐は難しいと思うけど、使用人の手引があれば可能なんじゃないかと思って」
「盗賊は初めの失踪が起きた三ヶ月前からこの辺に居たのか?」
「正確なタイミングはわからないって言われた。
だからあくまで可能性があるっていう程度だねぇ」
「ふーん、気になる話ではあるな。
他には面白い話はあったか?」
ランツが更に蒸留酒を注文した。
まだ飲むつもりのようだ。
「面白いかどうかはさておき……
もう一人の被害者の農夫は教会に近い場所に田んぼを持ってたらしい。
天涯孤独で、もうしばらく消息不明が続くようなら残った資産が競売に出されるとか」
「農夫の件は考えない方がいいかもな。
他二件と同一犯って保証もない。
それを言ったら子供の二件もそうなんだけどな」
「ふむ、なるほど」
可能性でいうならいくつも考えられる。
三件とも同じ目的で行われた犯行。
孤児ばかり狙うとわかりやすいため、カモフラージュとして農夫が狙われた。
農夫だけ、意図せず事件に関わってしまい口封じされた。
別の犯人が同一犯に見せかけ、農夫を狙った。
今ある情報では結論は出せそうにないので、『何故』を主点に考えるのはやめるべきか。
気になった話はその程度だ、とルカが話し終える。
大体情報が整理された。
犯人予想は教会関係者か盗賊。
二つがグルの可能性も十分ある。
「教会側の仕業だと仮定すると、単独犯なのか複数犯なのかも問題だよね」
「大人連中全員グルだと考えるべきだろ」
「だとしたらショックだなぁ……
神父さんもシスターさんも普通にいい人そうに見えたのに」
「悪党ほど人を騙すのが得意なのが相場ってもんだ。
それにロザリーってシスターは主に子供の世話してるんだろ。
俺らを見てビクついてたし、何か後ろめたいことでもあるんじゃねえか」
自分はそんな素振りは見なかったし、ランツに怯えてただけなのではとルカは思ったが、言わないでおく。
「じゃあ今日はこのくらいで解散としますかね」
「おう、お疲れ。
情報料代わりに俺が払っとくから上がっていいぞ」
「え、いいの?
じゃあゴチになります」
ランツはまだ飲むようで、注文を続けている。
「結構飲んでるけど明日のこと考えてる……?」
「この程度問題ねえよ」
ならいいけど、と、ルカは自分の宿に戻っていった。
翌日、ランツは昼過ぎまで宿の部屋から出てこなかった。




