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緊急依頼の打診

「結論を言うと、今遭難の可能性がある冒険者チームがあって、お前さんにその捜索チームに加わって欲しい」

「捜索ですか」


 心の中で胸を撫で下ろす。

 村でトラブルを起こす冒険者の対処を手伝えと言われたらどうしようかと考えていたところだ。

 モヒカン頭の男に見た目で侮られて逆上されるイメージが脳裏に克明に浮かんでいた。


「捜索範囲は東にそこそこ潜ったところだ」

「え゛……

 東って、境界の外……てコトですか?」


 思わず汚い声が出る。

 ルカは到底境界外を探索できるレベルには達していない。

 そもそも捜索とはどういうことか。

 冒険者が境界の外で遭難、即ち最悪の結果ということではないのか。


「もちろん強制じゃないが、一旦話を聞いてくれ」


 村長はこちらの反応を気にせず話を進める。


「うちのギルドは外に向かう冒険者に、あるサービスを有料で提供してる。

 周辺の地理情報の共有と、申告のあった期間を過ぎた場合にこっちからお迎えに行くって内容だ。

 で、そいつらに地図ベースでどの辺まで探索に行くのかとそのルートを聞いといてな。

 予定期間を過ぎたらルートを辿って捜しに行くんだが、その際に使うのがこいつ」


 ゴン、と鈍い音を立てて、テーブルの上に無骨な鈍色の鉱石が置かれる。


「この周辺で採掘できる物で、割ると約一ヶ月間、元に戻ろうと引き合う磁力に似た性質を持ってる。

 範囲は魔力濃度に依るんだが、この周辺だと半径1kmくらいってとこで、奥に進むほど効果範囲は広くなる。

 顧客の出発直前に割って、片方をこっちで保管するわけだ」

「捜索に際して一応の目印はあるんですね」


 便利な鉱石があったものだ。

 一ヶ月で引力が消えるのも都合が良い。

 予めいくつかに割って時間を置けば、別の塊に引っ張られる心配が無くなる。

 だが、そのサービスについて腑に落ちない点がある。


「そのサービス、悪用されませんか?

 冒険者側は待ち伏せして救助側を襲ったりとか、ギルドは契約をすっぽかしてお金だけ取るとか。

 そもそもそんな状況で遭難者が生き残ってる可能性は低いと思うんですけど」

「良い所に目を付けるな」


 村長がしたり顔で返してくる。

 反応を見るに、その辺りも考慮済みのようだ。


「細かいところまで触れるつもりはなかったが、説明しとこう」


 説明が好きなのか、何やら楽し気に見える。


「冒険者側には手付金のサービス料とは別に、探索深度に比例した高めの供託金を預けてもらう。

 申告の期間内に戻ってくれば全額返却、そうでなければ捜索に向かって生死問わずこっちで貰う」

「なるほど。

 救助側を襲うメリット以上の金額を預けさせるわけですね」

「こっちは相手の戦力も把握できてるしな」


 凶行の抑止力としては十分だろう。

 完全にネジの飛んだ狂人相手でなければ。


「契約不履行については相手がこっちをどう見るかだな。

 あくまで任意のサービスだ。

 信用できなきゃ利用せずに探索に出りゃいい」

「……そう言われると、その通りですね」


 商売の基本である。

 信用できない、あるいは高いと感じるなら買わない、利用しない。


「救助に行くまでに死んでるだろって話は当然だな。

 実際これまでも捜索に出たケースは何件かあるが、大抵が全滅済みか鉱石の反応を追えなかった。

 残りもチーム半壊、累計すると生存率は二割未満だ。

 だがそれでも二割弱で命を拾える可能性がある、それをどう取るかってな」


 無対策なら確実な死が待っているところを僅かでも生存の可能性を残せる。

 それは実際に生死の縁に立った時、確固たる寄る辺になるだろう。

 あの世に金を持っていけるわけもなし、遺産を残すべき相手がいないような場合は利用しない理由はない。


「ありがとうございます、制度については納得できました」


 それを聞いて村長は満足そうに頷く。

 逆にルカとしてはこれからのことを考えて辟易するばかりだ。


「今回の捜索候補は五人の冒険者チーム。

 魔獣狩りを目的として、大体50kmくらいの距離を往復するコースを取る。

 捜索開始の申告期間は十日。

 予定では八日で帰って来るって話だったが、今日で九日目になる。

 明日帰って来なけりゃ明後日に捜索チームを出す」


 本来の帰還予定日を既に過ぎているのか。

 小さなトラブルで遅れているだけだと良いのだが。


「チームの内訳はランクBが四人、Cが一人。

 不意打ちを受けなきゃ中型の魔獣までなら問題なく討伐できる面子だろう。

 言い忘れてたが、うちでは境界外にでる冒険者について、ランクC以上を強く推奨してる。

 Cだけじゃじゃなく、B以上の同伴がベターだな」

「僕のランク、Eなんですけど……」

「まあまあ、最後まで聞いてくれって」


 話を聞くに連れて頭が痛くなってくる。


「今の所捜索チームはランツともう一人、丁度いいところに帰ってきた用心棒がいてそいつに頼んである。

 戦闘面はその二人で十分と踏んでるが、問題はそいつらが偵察能力なしってことだ。

 今はその手のスキルを持ってる奴が少なくてな……」


 言いたいことは分かった。

 だが他に適任はいないのかは甚だ疑問だ。


「もう少しこう……現地に慣れた人はいないんですか?」

「当初はボロルマに頼んだ。

 そしたらあいつからお前を推薦された」


 青天の霹靂である。


「お前さんに押し付けようとかとかそういう魂胆ってわけじゃない。

 ここでもナバリスでも、境界近くに居る以上いずれ確実に何らかのアクシデントは起こる。

 そういった状況でも対処できるよう雰囲気を掴んどくべきって判断だ。

 同行する二人がいりゃ今回の範囲なら安全といっていいしな」


 人手不足ってのが一番の理由だが、と小さく付け足される。

 確かに、隣り合わせの世界について無知な状況で何かあっては困る。

 万全な状態で感覚を掴めるのであればまたとない機会か。

 それに、何より──


「わかりました。

 村長や皆さんには良くしてもらってますし、微力を尽くしますよ。

 実力不足なので何かあっても責任は取りかねますが」


 話を聞き始めた当初は本当に気が進まなかったが、最初から断るという選択肢はなかった。

 自分のような流れの新入りにも分け隔てなく接してくれる村人には、本当に感謝している。

 人手不足で困っている状況で、自分程度が役立てるなら、よほど無茶な内容でもなければ受けるつもりだった。

 供託金の下りから、取り分の割合は少ないだろうが実入りも期待できそうだという打算も含めて。


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