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村を訪れる冒険者

 ルカがボロルマの手伝いを始めて一ヶ月もする頃には、粗方の仕事をそれなりの水準でこなせるようになっていた。


 ある日、ルカが冒険者ギルドに向かっている途中、中央広場で騒ぎが起きていた。

 人だかりの隙間から覗いてみると、粗野な風貌の男がランツに殴り掛かって見事なカウンターでKOされるところだった。

 酒場か露店で暴れていたところを注意されて逆上したのだろう。

 村での生活は当然全てが順風満帆とはいかず、細かいトラブルは珍しくない。

 後始末を横目に通り過ぎ、冒険者ギルドで形ばかりの依頼報告を終えると、珍しくギアースに声を掛けられた。


「ルカ、村長がお前に用があると言っていた。

 二階に居るから都合の良い時に声掛けてくれ」

「わかりました、すぐ行きます」


 何の用か見当もつかないが注文通り二階に上がり、村長の部屋をノックする。


「ルカです、用があると聞きました」

「おう、入ってくれ」


 部屋に入ると、相変わらず殺風景な光景が広がる。

 村長が読んでいた書類をテーブルの隅に退け、顎でソファを示すので腰を降ろす。


「急に悪いな、最近はどうだ」

「どう……と言われても、良くしてもらっていますとしか」


 これまでの自分達の扱いからしても、こちらを慮ってくれる人間だと理解している。

 だが、いざ本人を前にして胡散臭い笑みを向けられると、どうにも落ち着かない。


「お前さんも冒険者だし、そろそろ村に慣れて来ただろう。

 ここらでうちの詳しい冒険者事情を話しとこうと思ってな」

「なるほど」


 納得したような返事をしたが、わざわざ村長自ら話すような内容なのだろうか。

 ともあれ教えてもらえるのはありがたい。

 ルカは村長の話に耳を傾けた。


「この村を訪れる冒険者の種類は大きく分けて三つ。

 一つ目は境界外の探索を目的とした奴ら。

 魔獣狩りやら遺跡巡りやら目的はそれぞれだが、ここら辺の危険度を理解した上で臨むベテランだ」


 ルカが村に居着いてから一ヶ月、小さな諍いを除けばアランダ村の生活は平穏だった。

 それは彼らが度々境界外に向かう結果、村の東付近の脅威が定期的に取り除かれてるためである。


「二つ目は依頼のついでに立ち寄った奴ら。

 ほぼ村に出入りする商人やらの護衛ついでだな。

 村そのものに用があるわけでもなし、基本的に滞在期間は短い」


 彼らも盗賊駆除という面で間接的に村に貢献してくれる。

 盗賊は北から西の森にねぐらを構えるが、獲物を狙うのは往来の多い南側が主である。

 そういった輩を返り討ちにして数を減らしてくれているのだ。


「その二つが受けるような依頼が滅多に来ねえから、うちのギルドに直接の実入りは無いんだよなぁ……」

「あ、あはは……」


 村長は彼らが受けるような依頼をこの村で受注できると計算していたようだが……

 ミリィ曰く、こんな辺鄙な村のギルドに依頼を持ってくるような物好きはいないらしい。

 大抵の冒険者も他所のギルドで依頼を受けて村にやってくる。

 一階の冒険者ギルドは閑古鳥が鳴き続けている状況だ。


「で、三つ目は付近の冒険者ギルドで爪弾きにされた連中。

 大半がナバリスからの流れ者じゃないかね」

「さっきも外でランツがそんな手合いを黙らせてましたね」


 村で発生するトラブルの原因の大半がその三つ目。

 彼らの実力はまちまちだが、総じてごろつき紛いの連中だ。

 僻地の小さな村と侮って、ゆすりたかりを目的に訪れる輩も少なくない。


「そいつらは基本的に用心棒組や自警団に任せてるが、人手が足りない状況だ」


 村長は肩を大きく落とし、疲れたように溜息を付く。



「そもそもは一年前に魔人の二体同時襲撃があってな。

 詳細は割愛するが、その時かなり大きい被害が出た。

 こっちは一体ならどうとでもなる戦力だったが、二体は捌き切れなかった。

 当時の用心棒組も何人もやられちまったよ。

 ギアースの奴も、その時左腕をやっちまって一線を退いた」


 ルカは魔人について詳しくないが、一体に大都市一つが壊滅させられた記録もあると聞いたことがある。

 魔獣とは一線を画する、最も危険な存在だとも。


「ミリィからここの境界を広げたのは数十年振りの快挙って聞きましたけど。

 本当に厳しい環境だったんですね」

「ああ。

 前領主と連携して、伝手を頼って金を集めて人を集めて。

 金、名誉、腕試し、恩赦、浪漫……

 色んな目的を持つ奴を寄せ集めて戦ってきたのさ」


 村長の顔を見ても、サングラスに自分の表情が映るのみで表情は伺えない。

 懐かしむような声色から心情を推し量るのみだ。


「いかん、昔話に浸ってる場合じゃねえな」


 村長が両手で自身の両頬を軽く張る。


「改めて説明しとくと、うちでは魔獣以上と正面切って戦える奴を用心棒、そのサポートを自警団として分類してる。

 他は有志の冒険者の手を借りて何とか回してる状況だ。

 その用心棒も今となっては……七人か。

 その中でこの村に根を下ろしてるのは四人で、残りの三人は都合のいいときに村に滞在してもらう契約になってる。

 契約と言ってもあくまで本人の善意によるものだからボコボコと穴が空くんだが」

「用心棒、四人もいたんですか?」


 村にいるのはランツとナーシュの二人だけと認識していたが、後二人は誰だろうか。


「ジャックと、お前はまだ会ってないだろうがアンディって男がそうだ」

「あの医者の先生も?」

「唯一の医者なもんで、大事を取って極力前には出ないようにしてもらってるがね」


 ジャックは戦闘を得意とするような人間には見えなかったが、人は見かけによらないものだ。

 また、そういった采配が原因で負担が増えた結果、ナーシュが根に持っているのだろうと思い至る。


「アンディさんについては仰る通り、会ったことないですね」

「ここに住んでるとはいっても、本人の趣味も兼ねて境界外の探索に出てることが多い。

 長いときは三ヶ月くらい出たまんまだ。

 今ももう二ヶ月くらい経ってたか」

「……一人で、ですか?」

「サバイバルを地で行くような奴だからな。

 もちろん最悪の事態になってる可能性はあるが、まあ心配いらんだろ」


 一人で三ヶ月も境界外で過ごすなど信じられない。

 この村で用心棒と言われている人間の実力の高さを改めて実感する。



「で、ここからが本題だ」


 村長はまじめな顔になり、ルカの方に向き直った。

 やはり、説明だけでは済まなかった。

 この流れから切り出される話題は良い類の話ではなさそうだ。

 ある程度予想していたので顔に出さないよう努力したが、ルカの内心は苦虫を嚙み潰したようだった。


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