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アランダ村_3

 冒険者ギルドの二階に上がったランツは、一つの部屋の扉を二回ノックする。


「村長、入るぞ」


 勝手知ったるなんとやら、返事も待たずに扉を押し開けると、インクの匂いが漂ってきた。

 中にいた人物は、部屋の中央でソファに腰を沈め、一通の手紙に目を通していた。

 目の前のローテーブルの上にはインクとペン、それに何通かの手紙が散乱している。


「おう、帰ったか。

 わざわざ帰りの挨拶しに来たのか?」


 村長と呼ばれた人物も、気にするでもなくそのまま手紙を読みつつ返事する。

 長身痩躯の初老の男性で、白髪混りの黒髪をオールバックにまとめたその生え際は後退の跡が見える。

 屋内にも関わらず丸いサングラスをかけていた。


「伝えることがあってな。

 例の依頼で孤児を三人連れて来たが、疲れてたみたいなんで先に教会に預けて来た。

 顔合わせは後回しで構わねえか?」

「ああ、構わん構わん」

「それとは別に、移住希望者と検討者を一人ずつ連れて来た。

 下でミリィに相手してもらってるから、手が空いてるなら挨拶と色々説明もしてやってくれ」

「おお、どんな奴だって?」


 村長は手紙をテーブルに置き、顔を上げた。

 ランツとの付き合いは長い。

 少なくとも問題を起こすような奴は連れてこないだろう。

 後の興味はこの村の利になるかどうかだ。


「その辺も含めて説明しときたい」


 ランツもテーブル向かいの席に座り、話を続ける。


「一人はルカって名前の若い男で、旅の途中の新米冒険者。

 こいつが検討中の方だ。

 ちょっと前に魔術が使えるようになったのが原因で色々あって故郷を逃げ出してきたって聞いてる。

 ナバリスに行く予定ってところをここに寄ってもらった」

「そいつはどこ出身?

 歳はいくつだって?」

「メルベリアの……マーレホタとかいう田舎の村だったか。

 十五か十六のハズだ」


 話を聞き、村長は思案する。

 マーレホタはメルベリアの東側にあり、境界からは離れた村だと記憶している。

 そんな魔力の薄そうな場所で、成人間近の歳で魔術を発現したというのは滅多に聞かない話だ。

 いや、彼としては聞いたことがない。

 魔術についてはそこまで詳しくないが、もしかすると掘り出し物なのでは、と打算的な考えを始める。


「あ、魔術については隠してたんだったか……

 そいつまだ弱くてな、自衛も厳しそうなんだわ。

 適当に理由付けて鍛えてやってくれねえか、そいつが受けるかどうかは別として」

「何だ、随分面倒見が良いが気に入った奴なのか?」

「知らん仲でもなし、後進を育てるのは先達の役目だろ。

 俺もそのお陰でここまで生きて来れたわけしな」

「そりゃ殊勝な心掛けだが、だったら自分で鍛える流れだろ……」


 そうは言う村長も、気が乗らないわけではなかった。

 人を育てるのが嫌いなわけではない。


「魔術に関しても、使える連中に鍛えてくれるよう話を通してもらえると助かるんだが」

「無理、というか無意味だろ。

 あいつら良くも悪くも規格外だ、普通の魔術なんか教えられん」

「だよなぁ」


 この村の用心棒組も何人かは魔術を使えるが、誰も彼もまともな魔術師とは言い難い。


「だが今魔術師ギルドとの連携の話が挙がってる。

 話が進んだ場合は数か月くらいで教師クラスの奴がここに派遣されるかも知れん。

 まあそのルカって奴がそれまでこの村に居りゃあの話だがな」

「節操ねえなぁ」


 今でも領主と聖環教にパトロン紛いのことをさせている上に魔術師ギルドもか、と。

 それでもこの男なら上手く立ち回ることが出来るだろうと思っている。


「そいつはそんくらいで、もう一人がちょいと特殊でな。

 そっちはロザリーって若い女で移住希望者、リミエヌルでシスターやってた。

 立場的には例の失踪事件の関係者で、被害者側だ。

 ここからは内密に頼む。

 ガキの頃から虐待を受けてたって話で、受けた怪我を只管魔術で治して生き延びてきたらしい」


 そこまで言い、自身がリミエヌルで見た光景を思い出しつつ言葉を続ける。


「その魔術ってのがちょっと尋常じゃなくてな。

 リミエヌルでは他人の、内臓損傷待ったなしの脇腹に空いた風穴を一分程度で完治させた」

「……」


 説明された事象を理解するのに数瞬を要した。

 この村にも一流と言って良い回復術を使える医者がいるが、そんな芸当出来る筈もない。


「マジなのか?

 なんでそんなのがあんな田舎町で燻ってたんだよ」

「詳細は聞けてないが、今まで人には使ったことも見せたこともないらしい。

 暴力三昧のとこから逃げ出して力を隠してシスターとして教会に潜り込んだって話だ」

「それを件の神父は知ってて手元に置いてたのかね?」

「知ってたら一般シスターって扱いはされねえだろ。

 邪法に手を染めてるような奴だぜ」


 ここでも村長は思案を始める。

 その女性が協力してくれるのであれば、例え村で重症者が出ても治療ができる。

 これまでこの場所で魔族、亜人と戦って重症を負い、峠を越せなかった同志を思い出す。

 だがその裏に目を向けると。

 人の口に戸は立てられない。

 結果として奇跡のような回復術を使う術師が居ると周囲に知れ渡るだろう。

 となれば確実に、それを狙う悪意が集まってくる。

 ただでさえ境界外の脅威に晒されている状況で、これ以上厄介事を増やすのは上手くない。


「俺は直接助けられたわけじゃねえんだが」


 眉間に皺を寄せて黙り込む村長に、ランツが声を掛ける。


「この村で暮らすからには変なゴタゴタに巻き込ませるつもりはねえ。

 だから前もってあんたに話してる。

 悪いが面倒事が起こらないように調整頼むわ」


 ランツの言葉に現実に引き戻される。

 取らぬ狸の皮算用は村長の悪い癖だ。

 それに、本人は明言しないがどうにもランツは連れて来た連中のことを気に入っているようだ。

 信頼されているからには無碍には扱えない。


「ああ、とりあえずは本人の意思も確認せんとな……」

「じゃあ挨拶してやってくれ。

 そこそこ待たせちまってるしな」


 そう言ってランツが立ち上がって歩き出す。

 村長も溜息をつきながら立ち上がり、落としどころを計算しつつ、ランツの後を追う。

 そうして二人は部屋を出て、階段を下りていく。


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