アランダ村_1
一行を乗せた馬車が村の西の門に停まった。
ベックを除く全員が、長い旅路を終えた安堵の息をつきながら地面に降りる。
時刻は日が傾き始めた頃だった。
「荷下ろしくらい手伝うぜ」
「いや、子供たちも疲れてるみたいだし、早めに挨拶を済ませて休ませてあげな」
そう言って馬車を進めるベックに謝意を述べ、村の見張り番に挨拶した上で、一同は村の中に入る。
アランダ村。
大陸東端のヴェロンダル国、その北方メニーゼフ領のさらに東に拓かれた小村である。
地形的には北と西に森があり、東側を川が流れていた。
ざっと見ると、家屋の数は50前後で、新興の村にしては活気を感じる。
ベックが言うように、子供には六日間の旅が酷だったようで、疲れが見て取れた。
「こいつらは先に教会に預けるか。
三人分くらいの受け入れ準備は出来てるだろ」
孤児は元々この村の孤児院で引き受ける予定だったため、準備は出来ているだろうとランツは踏む。
「先に村の上役の方に挨拶させなくて大丈夫ですか?」
「細かいことは気にしない爺さんだから大丈夫だ。
こんな疲れた面で会わせてもなんだし、俺から説明しとく」
気にするロザリーにそう言い含めて歩き出す。
何事も軽く扱う印象のランツの言に少々の不安はあるものの、その後ろ姿を全員で追う。
アランダ村の教会は南側に位置していた。
教会の裏側には、関係者用の住居であろう大きめの家屋がある。
どちらも、村の他の建物に比べると、しっかりした作りに見える。
「ここは神父不在で、今は婆さんのシスターが仕切ってる。
基本的なことは手伝いの夫婦と子供らで回してる感じだな。
おーい、エルディナさん」
教会の中に向かってランツが呼びかけると、奥から老齢のシスターが姿を現した。
長い白髪で中肉中背、顔には深い皺が刻まれている。
「早かったねランツ。
連れを見るに、無事解決してきてくれたんだろうね」
「あんたが一週間でやってこいって言ったんだろ……」
「事実、解決出来たんだろ?
つまり見立ては正確だったってこったね」
このエルディナと呼ばれたシスターが、ランツにリミエヌルの失踪事件解決を依頼した人物だった。
「孤児はこいつら三人だ。
長旅で疲れてるから休ませてやってくれ」
エルディナに挨拶と軽い自己紹介をする子供たち。
「あんた達も色々と大変だったね。
部屋に案内させるから夕食時まで休んでな」
子供たちにそう笑いかけながら告げると、お手伝いと思しき中年女性を呼び、子供たちを案内させた。
「で、そっちの二人は?」
そしてルカとロザリーを値踏みする。
「事件解決の協力者で、ここに移住するかもしれん二人だ。
こっちがリミエヌルの教会でシスターやってたロザリー。
こっちが旅の途中で新米冒険者のルカ」
「そりゃ世話になったね。
私は聖環教本部からここに派遣されてるエルディナってもんだ」
厳格な雰囲気の外見とは裏腹な砕けた口調に、紹介された二人は思わず顔を見合わせた。
戸惑いつつも、軽く会釈して名を名乗る。
「詳細はまた後で報告する。
まだ村長に顔出してねえんだ」
「そうかい、引き留めて悪かったね。
報告待ってるよ」
そうして三人は教会を後にした。
「何というか、あんまりシスターって感じの人じゃなかったですね。
……あっ悪い意味じゃないんですけど!」
「そうだな、あんたの方が十倍シスターって感じだな」
ロザリーの呟きにランツは破顔する。
その言い方に含みがあるように感じられ、むくれながら意見する。
「ちょっと悪意を感じる言い方に聞こえるんですけど」
「十倍じゃ足んなかったか?
まあガキんちょだけ預けて心配だろうが、悪い人じゃねえから安心してくれ。
ああ見えてかなり偉い立場らしいしな」
そんな取り留めのない会話を続けていると、村の中心にある広場に出た。
そこには疎らに露店が並んでおり、冒険者や商人たちが品を吟味している。
「簡単な市場みたいな感じ?」
「ああ、境界周辺で採れたもんの一部や、内側から持ち込まれた日用品が出てる。
持ち込みついでだろうが、珍しいもんもあるからこんな辺鄙なとこにもちらほら商人が来るんだ。
旧文明の機械とかも出ることがあるぞ、動く奴は滅多に見ねえし売買までひと手間掛かるが」
村に入った際に感じた活気の正体はここだった。
ランツは広場に面したひと際大きい二階建ての建物に向かっていく。
入口と看板がそれぞれ二つあり、『酒場 天国と地獄亭』『冒険者ギルド アランダ支部』と書かれていた。
「村の酒場はこの一つだけで、冒険者ギルドと併設されてる」
「え、この村冒険者ギルドがあるの?」
「ああ。
ただ、結構無理やり開いたみたいでな……」
ランツの言葉が濁った辺り、運営に問題があるのだろうか。
一行は冒険者ギルドと書かれた入り口に入っていく。
併設と言われた通り、中では酒場とギルドで明確な区切りはない。
時刻は昼下がりと言えど、酒場側は客がちらほらと見えるのに対し、ギルド側は酔っ払いか何かと思しき人影が一人、テーブルに突っ伏しているだけだった。
掲示板を見ても依頼はスカスカだが、村の人口等を考慮すれば当然か。
ランツが言葉を濁すのもさもありなん。
「あ、おかえりランツ!」
ギルドの受付カウンターから騒がしい挨拶が飛んでくる。
挨拶の主はくすんだ金髪を結い上げた、小柄で元気そうな若い女性。
「おうただいま。
村長は二階にいるか?」
「うん、いつも通り書類整理してるんでしょ。
それよりお土産は?」
「旅行してきた訳じゃねえんだぞ……」
まるで兄と妹のような気安さだ。
そんな女性に大男からのドスの効いた忠告が刺さる。
「客が来てるだろう、態度と言葉遣い」
「は、はあい……」
普通の身なりのため受付カウンターに入り込んでいた一般人かと思いそうになったが、どちらも冒険者ギルド職員のようだ。
「客がいなくてもちゃんとしとけ。
俺は村長と話した後に連れてくるからちょっと待っててくれ。
おいミリィ、この二人に茶ぁ出して、村のこととかの質問に答えてやってくれ」
そう言ってランツはカウンター横の階段を上がっていった。




