田舎町の邂逅
「ごめんくださーい」
晴れた昼下がり、町外れの小さな教会に、栗色の髪の少年が小さく声を響かせた。
少々緊張した様子で、周囲を伺う。
元々礼拝者が少ないのか時間帯の関係なのかは不明だが、教会内の目に見える範囲は無人だった。
周りを確認した後にもう一度声を掛けようと、少年が息を吸った直後。
バタバタと音がして、奥のドアが開く。
「すみませんお待たせしました、何か御用でしょうか!?」
忙しなく現れたのは、修道服を着た肉付きの良い若い女性だった。
慌ただしさが反映されたように、癖のある黒髪のあちこちが跳ねている。
「すみません、お忙しいところ。
冒険者のルカと言います。
冒険者ギルドから、この辺りで行方不明者が連続で出ている件について調査依頼を受けてます。
良ければお話し聞かせていただけないでしょうか?」
ルカと名乗る少年は、用件を告げながら胸元の認識票を持ち上げた。
「ああ、失踪事件の!
助かります、ご存じかと思いますがうちの孤児院の子供も行方不明になっていて……
解決に向けて動いてただけるのであればありがたいです。
あ、私はシスターのロザリーと申します。」
矢継ぎ早に話した後、お辞儀をした。
「それで、先ほども同件で別の冒険者様がいらして、夕方に当教会の神父が対応することになっています。
よろしければその時ご一緒に話を聞いていただいた方が手間が省けると思うのですが、如何でしょうか?」
「あ、そうですか。
……わかりました、また夕方に改めて顔を出させてもらいます」
ロザリーの提案に、ルカは表情にこそ出さないが内心困惑しつつも了承し、出直すことにした。
農業の町リミエヌル。
米と香辛料が特産品の中規模の町である。
よくある田舎町で、若者の数は少ない。
「メンドくさいことになったなぁ……」
教会から離れ、町中を歩きながら、ルカは独りごちる。
『境界』に面する港街ナバリスを目指す途中でこの町に立ち寄り、簡単な依頼があればと冒険者ギルドに立ち寄ったのが昨日のこと。
平和な町のようで依頼が少ないのか、冒険者ギルドの建物は小さく、冒険者の姿もまばらだった。
そんな中で引き受けたのが今回の依頼である。
それが他の冒険者とバッティングしたようだ。
彼は冒険者として登録してまだ日が浅いため、規約を完全には把握できていないが、この手の依頼は誰かが引き受けたら、一旦募集を打ち切るものと考えていた。
もしくはギルド職員の手違いか、怠慢か。
依頼の内容は、三ヶ月前から連続して発生している失踪事件に関する調査、および可能であれば解決。
最初の犠牲者は孤児院の男児。
衛兵が調査するも犯人特定に繋がる痕跡は見つからず、単発の誘拐事件として調査打ち切りとなった。
世知辛いことだが、人手が足りないこのご時世ではよくある対応である。
そして一ヶ月前に孤児院の女児、一週間前に町の農夫が同様に行方不明となった。
そのため今後も被害が続く可能性大と判断され、町から冒険者ギルドにも調査依頼が出されたという形になる。
これまでまともな手掛かりが得られていないためか、冒険者ギルドの依頼は途中キャンセル可能、調査結果に応じて報酬支払いという条件だった。
ルカとしてはさっと調べられるところまで調べ、貰えるようなら報酬を貰い、次の人里へ向かおうと考えていた。
件の冒険者と揉めそうなら依頼キャンセルしようと思いつつも、世のため人のため金のため、夕方まで調査を進めることにする。
孤児院併設の教会は先ほど訪れたため、もう一人の被害者である農夫周りについてだ。
ルカは事前に冒険者ギルドから聞いていた農夫の住所へと向かう。
そして農夫の住居周りを調べてみても、明確な手がかりらしきものは当然見当たらない。
事件について住人に聞き込みを行い、少々気になる情報を得ることができた程度だ。
日が完全に落ちる前、再度町外れの教会を訪れる。
昼と同じように教会の入り口で声を掛けると、ロザリーが出迎えて案内してくれた。
神父ともう一人の冒険者はすでに中で待っているそうだ。
他愛もない世間話をしつつ教会内を進み、一つの部屋に通される。
応接室だろうか、質素な部屋の中で待機していた二人がルカ達の方を見た。
「お待たせしましてすみません。
連続失踪事件についてお話を聞けるということで伺いました、冒険者のルカと言います」
ルカが遅れたことに対する謝罪も兼ねて挨拶をした。
何はともあれ第一印象が大事だ。
「いえいえ、私もこちらの方も来たばかりですのでお気になさらず。
この町で聖環教の神父を務めているマヌエルと申します」
そう名乗った神父は人の良さそうな笑みを浮かべて応える。
小柄な初老の男性で、白髪の頭頂部はやや寂しい。
聖環教とはこの辺りでは馴染みがないが、西の方では大きな勢力を誇る宗教である。
「冒険者のランツだ。
同業ってことで、そっちとは細かい話が必要と思うが後回しにしよう。
マヌエルさんも忙しいだろうし、まずは事件について知っていることを手短に聞かせてもらおう」
もう一人は先客である冒険者。
黒髪の日焼けした若い男で、地味な印象を受けるが威圧感のある筋骨隆々とした体付きをしている。
細かい話とは、依頼受注バッティングの件だろうか。
提案に反対する理由はないので了承する。
ルカも勧められて椅子に腰掛けると、案内してくれたロザリーは一礼して席を外した。
「まずは事件調査に動いていただいたお二人に感謝を。
こういっては何ですが、教会の運営も厳しい状況でして……
うちの子供たちが行方不明となっても、衛兵様に動いていただく以上のことができず」
マヌエルは教会の内情を話しつつ、苦笑を浮かべる。
「今回町の方から予算を出していただき、冒険者ギルド依頼が出された形になります。
冒険者ギルドに提供した情報以上のことは存じていませんが、聞きたいことがあればご質問ください」
そんな前置きの後、冒険者二人は質問を投げかけた。
そしていくつかの問答の後。
粗方予想はしていたが、事前に冒険者ギルドから聞いていた以上の目新しい情報は得られなかった。
神父に礼を言い、二人は教会を後にした。




