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樹下動物病院物語

作者: 賛桃 仁



ウチの庭ではサクラの花とコブシの花が一緒に咲く。見上げれば、ピンクと白…すき間の緑。…春だなぁって、思うんだ…。

この縁側から庭を観るのが大好きなんだ。

『縁は異なもの味なもの』って、誰かが言ったんでしょ?…エニシの縁の事だろうけど、縁側のエンも味なもの…有りだよなぁ…うん。

秋にはイタヤカエデが鮮やかに真っ赤になる。冬が近づくと一面に燃え立つ落葉が拡がって此処の庭は一時【京都】になる。


…あ…姉ちゃんが、いなり寿司の油揚煮てる匂いだ…父さん、好きだったもんなぁ…姉ちゃんの作る母さん直伝のいなり寿司…。

3回忌かぁ…早いなぁ…。

父さん、そっちで母さんと仲良くやって…るよな、あんなに大好きだったもんな…。いっつも2人で笑っててさ…。

この縁側でさ、父さんが…新聞なんか読んでて… 『…フッ…』って笑うと隣で洗濯もの畳んだりしてる母さんが『…なぁに?』って聞いて、一緒にフフッって、アハハって笑いだす…。オレ、大好きだったよ…2人の笑い声…。なんか、安心したんだ…あぁ、自分ちだって…。思い出すなぁ…。あぁ…イイ匂いだぁ…。


『耕ちゃん?』

『…あ?』

『あ?じゃないでしょ?律ちゃん姉ちゃんに、お座布団並べてって言われたでしょ?』

『…あ、今、やろうと思ってたんだよ。』

『また、ぼぉっとしてたんでしょ?もう…。ほら、早くしないとお寺さんが来ちゃうでしょ?』って、押入れから座布団出して並べ出した、この小生意気な娘の名前は、鈴。

『鈴、お前、今日、学校は?』

『勿論、休んだよ。』…勿論って…おまえ…。

『耕作父さんの3回忌だよ?学校なんか行ってる場合じゃないじゃないの!』

…父さん、雲の上で今頃泣いてるぞ…色んな意味で。

赤ん坊の頃は、とてつもなく可愛かったのに…ちっちゃい足バタバタさせて、ちっちゃい手でギュッてオレのパーカーの紐握ってた…のに、いつの間にかデカくなって小生意気になってしまったこの娘だが…父さんとも我が家の誰とも血縁は無い。

…鈴に初めて逢ったのは…。


『耕ちゃん、そろそろご住職お見えになるからって、律ちゃんが…』の低い穏やかな声の後に…ガツッと不細工な音に続く『いってっ!』…あくまでも低音な…。

障子戸を開けてその背の高い頭を下げ…た筈が、ガッツリ鴨居にぶつけた彼の名は、杉本仁汰。

毎度の事なので、オレも鈴も驚きはしない。逆にぶつけない方が珍しい事が悲しい。

『律ちゃん姉ちゃ~ん、杉仁さん(鈴は彼をこう呼ぶ)が、またやったぁ~。』やや呆れ顔でぶっきらぼうに鈴が台所に向かって歩きながら叫ぶ。

『…えっ?また鴨居?…もう…』って、姉ちゃんのため息混じりの声が聞こえて、こっちに来た。既に手には氷のうとタオル。赤くなってる杉本さんのおでこを触って『…わぁ…これは、腫れるわぁ…。』『うん…よりによって今日は殊更に…ハハッ』って、本人は苦笑いしてるし。

『…法事の間、これで抑えていられる?』心配そうに杉本さんの顔を覗き込む姉ちゃん。

『杉仁~、いいかげん学習しなよ、鴨居と自分の身長の距離感。』と小生意気な娘にたしなめられ『確かに…。』と落ち込む…タオルと氷でたんこぶ冷やしても、絵になるイイ男だ。

二人…勿論、姉ちゃんと杉本氏…は夫婦。…この二人も…あったなぁイロイロ…。


鴨居の下で他愛ないやり取りしている3人を下から見上げて想いに浸っていたら…『おーい、少し早かったかぁ~?』と玄関前から小路を通って住職が庭に現れた。

『あらっ、ご住職、お着きでしたか。御出迎えせずに申し訳ありません。』この中で一番常識人の姉ちゃんが縁側で手をついて御辞儀する。

『どうぞ、良かったら、こちらからでも。御履き物は玄関にお持ちしますから。』と手早く案内する。

『いや、俺が早く来過ぎたんだ、律ちゃん、相変わらず気ぃ遣いだなぁ…他人行儀は止めてくれよ。ここん家は、俺の実家みたいなもんだろが。』 恩恵寺住職俗名葉山俊吉…葉山のジィは、ヨッコラショと縁側に腰掛けた。

『そうだよ、ね、葉山ジィ、年寄りのふりしてもたもたしてないで早く、草履脱いで。私、置いて来るから。』と鈴が急かす。

『…リン…』葉山のジィは、鈴をこう呼ぶ。『…お前は少し気を遣った方がいいぞ。ほれ、頼むわ。人は《謙虚と敬愛》を忘れてはならん。』住職は草履を脱いで鈴に渡した。

『はい、承りました。お預かり致します。ご住職様、御高齢の御様子にお見受け致します、お足元、くれっぐれも、お気を付け下さいませ。』との鈴の返しに、住職の口許が少しばかりヒクついていた。

…この2人、なかなかの相方だと思うけどな…。

住職は、額を氷で抑えて立っていた杉本さんに『相変わらず、でかいな、2代目。なんだ、またぶつけたのかよ。』

『ハハッ…学習出来てなくて…。』ニガ笑いする2代目。

『…その内、鴨居が遠慮するぜ…。ま、何度ぶつけたって、律ちゃんが傍に居て冷して手当てしてくれるさ。』

『…はい、有難いです。』

『…ったく、はなから一緒に居れば良いものを…回り路しやがって。根性無しが。』

『…それ、言わないで下さいよ。』

『律ちゃん姉ちゃん、お客さん見えたよ。』草履を持って玄関に行ってた鈴がパタパタと走り戻って来た。

『あ、有難う。今行くわ。』祭壇の花籠なんかを整えていた姉ちゃんは足早に出迎えに行った。

『ほぅ、祭壇の花も随分と集まったなぁ。』

『そうなんですよ。朝早くから御近所の皆さんとか、動物病院の患者の飼い主さん達とか…御花だけでもっていらして下さって…御焼香して下さる方もいらして…。皆さん、忘れずにいて下さって…。』

父さんの最期の言葉は『…イヌせいじゃないからな…』だった。『…年寄りの野良犬を庇って…暴走車になんぞに跳ねられやがって…バカ野郎、一番オマエらしい逝き方しやがって…。』住職…長年親友の葉山のジィは祭壇の笑顔の父さんに向かって話し掛けてた。葉山のおじさんだけが言える言葉だなって思った。

『おじさん、それ、けなしてんの?褒めてるの?』

『なんだ、耕ちゃん、居たのか?』

…えっ…ホントに、今、気付いた訳じゃないよね?

『…居るでしょ。一応、施主だよ?オレ。』

『…お前さんの存在感の消し方は追随を許されん。』

『…消してるつもりはないんだけど…。』存在感を出そう?と立ち上がったオレを見ながら『なかなか出来ないよね、生まれ持った才能だよね。』と腕組む小生意気娘。

『そうだよなぁ。』と感心げに頷く住職。

…なんだよ、こんなんで意気投合しやがって。


姉ちゃんに招き入れられた参列者が席に着き、ざわつきが収まり、線香の匂いが漂う。 

住職が居ずまいを正し、御数珠を持った手を合わせて…おりんの音が響き、お経が始まる。

…前列並びに、オレ、杉本氏、姉ちゃん。そして鈴…神妙な顔をして父さんの写真を見上げてる。

…この鈴と初めて逢ったのは…。


シューッ、シュンシュン。

反射式ストーブの上に載ったヤカンがお湯を沸騰させて騒ぎ出す。ふと時計を見ると1時半…寝てたか…。

テスト勉強中だった。

数学…図形の証明…気分を変えよう。古文にしよう。いや、その前にヤカンに水を足さないと。

部屋をそぉ~と出て寝ている父さんや御犬達を起こさない様に足音を潜めて少し軋む階段を降りて廊下を通り台所に行った…のに、沸騰していたヤカンに水を入れた途端に『ジュ~!!』と派手な音が。

…ヤカンの中に意味深い水の泡が見えた…。

…起こしちゃったかなぁ…。

廊下づたいの父さんの部屋は寝静まったまま。居間で好き勝手に寝ている御犬達は…暗がりでしっかり眼が光っていた。

『…ごめんな、寝ていいぞ』声を極力潜めて言ったけど…解ったのか?2頭してデッカイ欠伸(?)して答えて?くれた。

部屋に戻ってストーブの上にヤカンを置くと…シュッ…と鎮まった。

燃えるストーブの火を眺めながら足元を暖めていると…何だか…色んな事を思い出して来て…うつらうつら…。


オレの名前は樹下きのした耕平。来年、受験を控えた17歳、高校二年生です。

家族は、家で動物病院やってる獣医の父、耕作。オレが中学入学の時に天に召された母、咲。3年前に嫁いだ律子姉ちゃん。シェパード系大形雑種の御犬の佐吉と佐与兄妹。それと父さんを慕って懐いて?ウチに住み込んでる副院長…いや、今では彼が居ないとウチの病院は立ち行かない…の杉本仁汰氏。

この御仁、不思議な方で…見た目は、背もデッカイし、顔の造りも並以上でワイルド系。動物以外にはあまり興味が無い。…あ…でも、良く子供達相手にキャッチボールしてる…そんな時、良い顔してるんだ愉しそうで…好きなんだろうな子供…。その上、その子達の乱投を取り逃がす事が、まず無い。身体能力の高さを物語る。少年野球クラブのコーチを断ったウワサもある…。

…なものだから、ウチの患者の飼い主さん達の何人かでひっそりファンクラブがあったりもするらしいけど…。

自分の事はあまり話さないけど…大学はカナダの獣医学科って教えてくれた。ウチに来る迄、カナダやアフリカに居たんだって。時々、国際電話がかかってきて、【クオリティ英会話上級編】が実演されてる。…何で、そんな人物が父さんを慕っているのか…謎でならない。

律姉ちゃんはオレより8歳上。短大を卒業して、母さん代わりに家の事や動物病院の手伝いとかしてたんだけど、チワワの予防接種に来ていた飼い主のおばさんが是非ウチの息子の嫁にって言って…。

父さんが何度も『良いのか?本当に良いのか?』って、姉ちゃんに聞いてた。でも、姉ちゃんは『優しそうな人だし、お父さんや耕ちゃんの様子、いつでも見に来て良いって言って下さってるし、私を望んで下さるんだもの…私、行きます。』って、いつもと同じ様に笑ってた。

でもさ、でも…オレだって知ってるよ、姉ちゃん、他に好きな人居たでしょ?その人…姉ちゃんの結婚式の時、ウチで留守番してた人だよね?姉ちゃん、その人の白衣、いっつも大事そうに嬉しそうにアイロン掛けてたじゃないか…。ほつれたり破れたりしてる場所を白い糸で星や月の形に刺繍したり縫ったり。オレは…その人が兄ちゃんになるんだって思ってたのにな…。


…あ…実は、本当の姉弟じゃないんだ、姉ちゃんとオレ。

…あれは、母さんの葬儀の時。手伝いに来てた御近所のおしゃべり好きな奥様方の話し声。

『…咲さん、こんなに早くに逝ってしまうなんてねぇ…。』

『ガンだって判った時にはもう…。具合良くないの、旦那さんの樹下先生にも話さなかったって…。』

『…我慢しちゃったのねぇ…咲さんらしい…。でも、まだ耕ちゃん12歳でしょう?』

『そう…あぁ…あれから12年経つのねぇ…。』

『あら、あなたも知ってた?』

『知ってるわよぉ…母親が独りで産んで育てられずに置き去りにしたんでしょ?今は空き地のあのアパートだった部屋に…。隣に住んでた律ちゃんも父子家庭で…そのお父さんも居なくなっちゃったって…一緒に行ったんじゃないかって…。』

『…そうそう、夜中、赤ん坊の泣き声が止まなくて、大家さんが見に行ったら、困り果てた蒼白い顔した律ちゃんが赤ん坊抱っこしてあやしてたって。』 

『騒動聞いて駆け付けた咲さんが…とにかく2人にご飯とミルクあげなくちゃ、お風呂入れてあげなくちゃって、家に連れて行って…咲さんが赤ん坊抱き上げたら咲さんの指、ギュッて握ったんだって。それ見て気持ちが緩んだのか、それまで我慢してたのか、律ちゃんが咲さんのエプロン握り締めてポロポロ泣き出したって。もう、咲さん、2人を離せなくなっちゃって…。』

『樹下先生とこ、お子さん居なかったもんねぇ…』

『そこで葉山さんの登場よ。』 

『あ、警察のね?』

『そう…。まぁ~上手いこと納めたのよね。』

『樹下先生、「律子と耕平ってんだ。ウチの娘と息子だ。律子、美人だろ?」って、それは嬉しそうで。』

『咲さんだって…「見て見て、耕ちゃんのほっぺモチモチなの」って…それこそ、お日様みたいに笑って。』

…と、おばさん達は、涙をエプロンで拭ったり、鼻水かんだり…。オレが廊下で聞いてるとは知らなかったろうな…。

『いい?この事はこれ以上広めちゃ駄目よ。秘密よ。特に耕ちゃんの耳には絶対にいれちゃ駄目よ!』…入ってました、耳に。

『勿論よ。』 

『そうよ、咲さんを悲しませちゃいけないわ!』

…使命に燃えてた奥様方、ごめんね…その話もう知 ってたから。話してくれたの、当の母さんだから。

母さんが亡くなる前に…。

『…他の誰かから聞くのじゃ嫌なの、どうしても私から教えてあげたいの。耕ちゃんと律ちゃんに出逢ってウチに来てくれて、私とお父さんがどんなに幸せだったか…私の最後の我儘。』って。初めは、何言ってんだって驚いたけど…母さん、オレと姉ちゃんの事、思い出しながら本当に嬉しそうに楽しそうに話すんだ…その間、姉ちゃんがオレの手をずっと握ってくれてた。

『…本当に楽しかったぁ…毎日が嬉しいの連続。有難うね。私の事、【母さん】にしてくれて。2人とも大好きよ。』って、涙こぼしながら…毎日洗濯物を外に干してたから、あんなに日焼けしてたのに…白くなっちゃた手でほっぺた撫でてくれたんだ。…思い出したんだ…前に父さんに言われたんだ。『…いつか、お前に好きな人が現れた時、お前が好きになった相手の笑顔は、お前が全力で守るんだぞ。樹下家の家訓だからな!』…だから、オレは、全力で、母さんの笑顔を守るって、決めた。オレのオロオロモヤモヤしたキモチなんかどうでもいいやって思った。母さんの事、大好きなんだから。母さんを悲しませたらダメだ!って。

でも、涙と鼻水でグシャグシャになっちゃって…『がーざん、ぼ、ぼぐだっで、だいずぎだぉ…』…って言うのが精一杯だった。

でも、その言葉で、母さんも姉ちゃんも泣き笑いしてくれたんだ。母さんが『おいで』って言ってオレと姉ちゃんを抱き締めてくれた。

…あの時、オレは、何とか、大好きな2人の笑顔を守れた…と思ってる。

《シュン!》

思い出話はお仕舞い…とでもいう様に、ヤカンのお湯の音で今に戻された。

そう、テスト勉強中なんだ。

進路は、まだ決まってない。イロイロ思い悩む事はあるんだ…って、ヤバい、また脱線してしまう。

えっと…そう、古文…万葉集の三大歌人は…柿本人麻呂、山上憶良、大伴家持。古今和歌集は…六歌仙。…新古今和歌集は…西行、藤原定家と…教科書から書き取っていたら…

…カツッ…カツッ…

ん?誰かが歩いてる?こんな時間に?3時半だよ?

カツッ…カツッ…カツッ…足音は続く。

…ハイヒールの音だよなぁ…夜のお仕事のお姉さんかなぁ。タクシー掴まらなくて、歩いて御帰宅中?

…カツッ……カツッ……カツッ……

ん?スピードが落ちた?

…カツン……カツン………

え?消えた?忍び足?ウチに近づいて?…え?玄関前?だ、だれ?

…ゴソゴソゴソ……ガサガサ……モッソ…『…フェ…』……ふえ?

……モソモソ…………カッ…カツッ……カツ、カツカツカツカツ…………。

…ん?あれ?…足音が…消えた?…フェードアウト?……おぉ?

…あ、あの…えっと…お、音から想像すると…だ、誰かが…あ、歩いて来て…玄関前で止まって…えっと…えっと…ゴゾゴソして…フェ?フェって?…で、居なくなった…?はぁ!?…居なくなったぁ~!?フェって、何!?何だよぉ~ウソだろぉ~!?

嫌な予感しかなかった。ドキドキした。心臓が口からでそうって、血の気が引くって、こういう事?

オレは膝から力が抜けそうな脚をもたつかせながら部屋の扉を開けて階段をドタドタとかけ降りていた。

…なんでゴゾゴソするんだよ、フェってなんだよ…なんで居なくなるんだよ!

不思議な事に爆弾とか、危険物だとはこれっぽっちも想像しなかった。早く、早く玄関に行かなくちゃ。気持ちが焦って脚がもつれそうだった。裸足…あ、靴下のまま三和土におりて玄関の引き戸をガラッと開けて外に出た。飛び石を飛んで?フェンスを開けた…その右側に…あった。表札の下…それが…置いてあった。…あってしまった…。

…それは、ベビーバスケットの中でタオルと毛布にくるまれた……赤ん坊だった。

薄いオレンジ色のタオルの中で、その赤ん坊は口をキュッと閉じて眠っていた。

オレは、取り敢えずバスケットを持ち上げた。あ、お、起こしちゃいけない…わ、結構重い……落としたらどうしよ…困った…動けない。オレの身体はバスケットを抱えたまま…固まった。

『…耕ちゃん?こんな早くに…何してるの?ファ…』スエット姿で欠伸しながら奥から現れた副院長。

『あ!杉本さん…た、助けて…動けないんだ。』

『え?動けない?…なんで?…バスケット…?あっ!』中腰でバスケット抱え右足を踏み出そうとしたままの、あまりにも不自然な姿勢で固まっていたオレを、憐れみを含んだ…何がしたいんだ?みたいな眼で見ていた杉本さんは近づいてバスケットを覗いて息を飲んだ。

『…どうしたんだい?このコ。』

『オ、オレ、テスト勉強してて、そ、そしたら、ヤカンがシュンって。で、万葉集と和歌集が…カツカツってカツンカツンって。モゾってフェって、で、足音が消えちゃって~…そ、そしたら、そしたら、此所に、これがぁ~。』俺は、アタマに浮かんだ単語を列べるだけだった。

『…落ち着け、耕ちゃん。』…そうだよね。

『だ、だって、杉本さん、コイツ、置いて行かれたんだっ!ウチの前に!こんな寒い外にぃ!カツカツって、ヒールだろ?女だろ?なんだよ!母親だろ?』オレは喉の奥が熱くなって涙が出てきた。

『…何事だ?こんな時間に…。』父さんがパジャマにカーディガン羽織って両脇に御犬達を伴って、ゆるゆる登場。『ん?耕平、お前、なんでそんな格好で外に…ん?そりゃ、籠か?』首をポリポリ掻きながら覗いてる。

『…院長…。起こしてしまいましたか…。』すまなそうな杉本さん。

『最近、眠りが浅いんだ…年は取りたくないよなぁ…。』

『何言ってるんですか、まだ60過ぎたばっかりでしょ?』

『いやぁ、お前もこれ位になったら分かるさ…日毎にな、こう…』

…だあぁ~っ、もぉ~っ。

『2人とも!なに呑気に年寄り談議してるのさっ!それどころじゃないだろ!これ!赤ん坊だよ!』

『お前、何そんなに声張り上げてご近所迷惑だろうが…あぁ、赤ん坊かぁ…なんで?』

『置いてったの!ヒール履いた人物が!ウチの前に!』…もぉ、何度…も言ってないけどさ…苛立ってきた。

『…ふぅん…杉本…?…お前、まさか…?』疑いの眼差しで副院長を見る院長…。

『院長、止して下さいよ。』サラッと受け流す副院長。

『そうだよなぁ…なんでまた…ウチは犬猫なら預かるがなぁ…。うーん…ま、とにかく中に入ろうや。皆して風邪引くぞ。』

『そうですね。耕ちゃん、それ、バスケット、渡して。』杉本さんに手を差し出して貰ったんだけど…なんか、手がへばりついて離せない。泣き笑いのオレの顔見て、杉本さんは、軽く頷いてくれて、バスケット抱えたオレごと後ろから支えて家の中に押し入れた。


『何にしても、赤ん坊相手にワシ等だけじゃ何も出来んな…やっぱり女手が…律子に来て貰うか。…5時か。』柱時計を見ながら父さんが受話器を持った。

電話の先は律姉ちゃんの嫁ぎ先。

『……あ、もしもし…ん?律子か?済まんな、朝早くに…。お前、起きてたか?お義母さんは?』

『お、おはよう、父さん。…どうしたの?こんな時間に。お義母さんは、まだ眠っておられるわ。』

『ん?…あぁ、そうか……お前、しばらくこっち来られるか?…来てから話すが…そうだなぁ…そちらさんには、耕平が腹壊したとでも言っとけばイイさ。』

『…って事は、耕ちゃんは大丈夫なのね?…うん、分かったわ…こっちの支度済んだら帰るわ…。』

『…お?…そうか…じゃあ、待っとるわ。気を付けてな…。』受話器を置いた父さんは杉本さんに向かって『律子、【帰る】とさ。』

『…帰る…ですか…。』

『…あぁ…帰る…だなぁ…。』…なんで2人で伏し目がちなの?


『…フェ…ファァ…』未だ、オレが抱えているバスケットの中で赤ん坊がグズりっていうの?始めた。

『…アッ…フェ…アァ~』

『わっ!ど、どうしよ!泣く?泣くの?泣き出す?』オレが泣き出しそうだった。

『あ、お腹空いたのかなぁ…それともオムツが汚れてるかなぁ…。こ、耕ちゃん、やっぱり、1度、そのバスケット置こうか?』 

『う、うん』オレは、へばりついて汗ばんで来た手を何とか離して床にバスケットを置いた。握り締めてた掌に縄目模様が出来た。


杉本さんが赤ん坊を両手で抱き上げて長い指を開いた左手で抱いて右手でお尻をトントンしてる…。

『杉本さん、赤ん坊あやしたことあるの?』

『あ?あぁ…オランウータンの、ならあるよ。』…オラン…おさる…あぁ…獣医あるあるだ…にしても慣れてる。

『耕ちゃん、バスケットの中に何か入ってないかぃ?』と言われて見ると、小さい粉ミルク缶と哺乳瓶と紙オムツが数枚とオシリフキって書いてあるのとオクチフキって書いてあるヤツ。ティッシュ、あと…あ、キレイに丸めた着替えが何枚か…ガーゼのハンカチ?が数枚…。…と、タオルの生地のピンク色のドラミちゃんの縫いぐるみ…。

…重たいわけだ。

『…手紙とかは?』

『…えっと…入ってないよ。』

『…そうか…。ん?なんだい?佐吉さん。』

…と、今まで寝てた?御犬の佐吉がムクリと起きて 近寄って来て赤ん坊のお尻をクンクンして、半分巻いてるシッポを立てた。

『やっぱりオムツか、佐吉。』彼等のボスの父さんの問いに『フッ』と鼻息で答えた。

杉本さんが少し困り顔して『…仕方ないですよね?』と父さんに聞く。

『汚れたままにしてる方が虐待だな。』…?何の話?

『耕ちゃん、其処に座布団…角を上にして…こう、ひし形に…敷いてくれるかい?』あ、これでイイ?

杉本さんは赤ん坊を座布団対角線上に寝せて、手早くティッシュ、オシリフキと紙オムツを右側にセットする。赤ん坊はされるがままに…見ると、口を《ホ》の時の形にして上を見ている。『ごめんな、少し我慢してくれな…』

…あっ、そうか…。さっきから杉本さんと父さんが話してた意味が分かった。この赤ん坊、女の子だ。この2人、何で判ったんだ?

『…さあ、これでさっぱりしたろ?』杉本さんは、手際よくオムツを替え終えて、赤ん坊に向けるには勿体ないカッコいい笑顔で話し掛けた。…うん、ファンクラブの騒ぎになりそうな位にカッコいい。

『ハッ…ハッ…ハッ』オムツ替えの間、口をホの字にしていた赤ん坊が足を蹴ってハッハッし出した。

『おぉ~、お次はメシだな。出すもん出したら腹減ったか?おい…って…なぁ赤ん坊、お前さん、名前は…?』父さんはバスケットの中を探り出した。

『…お?コレは…?』赤ん坊をくるんでいたバスタオルのタグに赤い糸で縫い付けてあったSUZUの文字。

『…ス…ズ?』オレは父さんに同意を求めた。

『だなぁ…お前さん、スズさんか?』父さん、顔が…緩んできたよ。

『名前、判ったんですか?』いつの間にか、ミルクを支度してきた杉本さんが哺乳瓶をシェイクしながら言った。

『おぅ、スズさんだ。リンリンの鈴かなぁ♪?リンリンリ~ン♪』父さんが個性的なメロディを付けてスズを抱っこした。

『あ、お願い出来ます?』

『おぅ、任せろ。さぁ、スズ、ミルクだぞぉ…ほら…』スズは、口元にある哺乳瓶の乳首を口唇で探して、口に入った途端、ングングと力強く飲み出した。

『は、そうかぁ、腹減ってたかぁ…』父さんは込み上げてくる笑顔を止められずにいる。目尻も下がってユルユルだ、顔。

『流石に、上手いですね、院長。』

『当たり前だ。お前と違ってワシは…ブランクあるが本物で実戦済みだ。』スズはあっという間にミルクを飲み干した。…そして、父さんによる基本的な…背中トントンからの…ゲップ…。

『ほっ、イイコだなぁ、スズ。』…父さん…顔がとろけてる…。

既に、おじぃちゃんぽいけど…オレも…こんな風に抱っこされて…ミルク飲んでたのかなぁ…って、眺めてたら、父さんにお尻をトントンされながら抱っこされていたスズの目が、次第にトロンとしてきて…『あ…寝ちゃいましたよ、スズちゃん。』杉本さんが囁いた。スズは口を半開きにして気持ち良さそうに眠っていた。

…思わず口から出た。『…かわぃぃ…。』

『…そうだねぇ…。』杉本さんも頷いていた。…なんで、置いて行ったのさ、こんなカワイイのに…。

『…腹が立ってきたな…。』父さんがポツリとつぶやいた。

『…えっ?』驚いて顔を見ると『…あ…違った…腹が減ってきたな。何時になった?』しらっとした顔をして時計を見ている父さん…腹が立ったって言ったのは…間違いじゃないだろ?

時計は6時半になる前だった。

父さんはスズをバスケットの中にそぉっと寝かせた。少し、もがいたけど、父さんが胸元をトントン軽く叩いてやると、スズは一度グーッと伸びをしてまた寝入った。その様子を見て、皆が静かに立ち上がると…入れ違うように御犬の佐与さんが来てバスケットの傍で伏せ状態で座り込んだ。そして両前足の上に顎を乗せていた。上目遣いで父さんを見るその目は『…アタシが見てるから大丈夫よ。まかせて。』と言っているに違いなかった(オレには確かに聞こえた…)。だって、その証拠に『おぅ、佐与、頼んだぞ』って父さんが言ったら『ワフッ』って答えて半巻きシッポで畳をパタパタ2度叩いたんだ。

『取り敢えず、朝御飯の支度します。律ちゃんが作り置きしててくれた干し大根菜、水で戻しておいたんですよ。院長、好きでしょ?大根菜の味噌汁。』杉本さんが台所に向かった。

『おっ!いいなぁ~油揚げ、忘れるなよ。』

『耕ちゃん、手伝ってくれな…って、どうした?』オレは、スズの隣で四つん這いになって固まっていた。

『ス、スズの頬っぺた触ったら、寝ながらオレのパーカーの紐握り締めて来て…離さないんだよぉ~う、動けない…。紐引っ張ったら、起きちゃうかなぁ…。』

『何やってるんだ、お前は…。』呆れ顔で父さんがため息をつく。隣で見ていた御犬の佐吉と佐与までが…『…フン…』って横向くんだ…。

『す、杉本さ~ん』苦笑いしてる杉本さんが割った卵をかき混ぜながら『耕ちゃん…学校は?』『今日、創立記念日で休み。』『そうか。じゃ、ゆっくりで大丈夫なんだね…。』

『…そ、そうだけど…。』…一緒に寝てな…ってコトかなぁ…。

『なぁ…杉本…。』父さんが杉本さんの隣で声かけた。

『はい?あ、だし巻き玉子で良いですか?』卵焼き器片手に杉本さんが答える。

『おう、ワシは味噌汁と漬物ありゃ…なぁ、俊吉に連絡してみるかな…子供を棄てるなんて言葉にするのもおぞましいが…いや、万一、考えたくはないが、犯罪が絡んでないとも言い切れんしな…。あいつなら、動いてくれるだろ…。』

『…そうですね。葉山さん、ご住職だし、いろんな意味で顔が広い警察ОBだし…現役時代、相当怖かったって、噂、聞きました。』

『…ふん、らしいな…ウチに来ちゃ酒飲んでクダ巻いてるが…どれ』父さんが受話器を取った。

『…あ、オレだ…済まんな朝早くに…おぅ…。…俊吉、頼み事があるんだが…今日、時間あるか?…ん、少々厄介事なんだ…それがな…』

父さんと葉山の叔父さん(俊吉)は幼なじみで今でもずっと、お互いに何かあったら一番に駆け付ける仲。

『…そうか、じゃ頼んだぞ…。』簡単な応答で父さんは電話を切った。

『葉山さん、来て下さるんですか?』だし巻き卵に添える大根おろしをすり出した杉本さんが聞いた。

『…取りあえず方面に聞いてみて、朝勤済んだら後で来るってさ。』

『そうですか…。何か判ると良いですねぇ…。』

『…そうだなぁ…。ま、飯にするか。』

杉本さんの手料理での朝ご飯になった。

…オレのパーカーの紐は…結局、オレがパーカーを脱ぐことになった。…なかなかの大仕事だったが、何とか杉本さんの手を借りて…で、今は違うトレーナー着込んで食卓の出し巻き卵に箸を伸ばしている。スズは、オレのパーカーの紐握り締めて、ポアッと寝てる。

朝ご飯を終えてお茶を3人で飲んでいた時。

『おーい、耕作、いるよな?入るぞ。』と玄関の戸がガラッと開くと同時の力強い声がした。声とは真逆の少し擦り足の静かな足音が居間の前で止まり、戸が開く。

『よう、おはよう、樹下家。』

『おはようございます。』

『おはよう、おじさん。』

『…おう、世話かけるな。』

樹下家(?)3者三様の挨拶が済んだ。

『…この子かぃ…女の子かぁ…。』

…だから、皆、なんで分かるの?

『…俊吉、向こうで話そうか?』

『…おう。耕ちゃん、後でお茶くれるかい?』おじさんがそう言って父さんと2人で父さんの部屋に入って行った。

オレがお茶を運んで行くと、部屋で2人が腕組みして渋い顔でタバコ吸ってた。

…これから…込み入った話が始まるんだなぁ…って思って、静かに部屋を出て居間に戻ると、佐吉がスズのバスケットの中をクンクンしていた。

『…あれ…杉本さん、佐吉が匂い嗅いでる…オムツ濡れたのかなぁ…?』

オレが伝えると『そうかもね…あ…耕ちゃん、やってみる?教えてあげるよ。』

『えっ!オ、オレが?』…オ、オムツ…?

『そう。だって、暫くスズちゃんを預かる事のなるかも知れないし、僕は病院もあるし、院長は出来るけど…ま、みんな出来た方がいいじゃない。な、やってみ?』…やってみ?…って…?

オロオロするオレを置き去りにして、杉本さんの実践レクチャーは始まった。

『抱っこ、出来る?そう、片方の手で頭から首にかけて支えて、もう片方でお尻を…そうそう。』言われたようにスズを抱っこした。 ち、小さい…軽い…壊さない?大丈夫か?

オレで…。

『ベビーベットは無いから、座布団で。さっきみたいに対角線上に、こう、置いて…そうそう。』…オレの背中に複雑な汗がわいた頃…。


父さんの部屋では…込み入った話が…。

『…じゃあ、まだ何も届け出なんかは出てないんだな?』

『…あぁ…下の奴らに聞いてみたんだが…迷子やら誘拐やら…事件含みのものはな…。』

『…そうか…事件に巻き込まれてないなら、一安心だ。』父さんが一口お茶を飲む。

…ここで葉山のおじさんがタバコをもみ消す。

『…さて…これからだが…』と言いかけて身を乗り出した時…

『う!うわっ!杉本さんっ!こ、これ!デッカイ方だよ!』オレの震える大声が家中に響く。

『………』顔を見合せ黙する初老の2人…。

『耕ちゃん、大丈夫だよ。ほら…』落ち着いた杉本さんの声が続く…。

気を取り直した別室の2人。お茶を飲んで…

『…まず…』

『わーっ!て!杉本さん!手に!わーっ!』悲鳴。

『耕ちゃん、落ち着け。拭いて洗ったらキレイになるから。佐吉達ので慣れてるじゃないか』冷静。

『…………。』眼を伏せ黙する…初老の2人。タバコの煙が無情にたなびく…。

『…フッ…存外、楽しそうじゃねぇか…。』

『…楽しいって状況か?あれ…。』

苦笑いの2人が一息つく。

『…耕作、お前、耕ちゃんの時の事、思い出してんのか?』

『…ん…やっぱりな…ま、様々、状況に違いはあるがな…。』

『…耕ちゃんの母親からは最近、連絡あるのか?』

『いや…。咲が逝く前まで何度かあったが…あちらさんも、新しい家族が出来たようで…咲に「あの子の事は忘れたい」って言ったらしい…。咲が泣いてたよ「自分の命掛けて身体を分け与えて産んだ子なのに…その子の事を忘れたいなんて…どうして?」って。』

『…そうか…咲さんが戸籍は変えないでおいてくれって言ってたんだよな、いつか母親が迎えに来るかも知れないからって。』

『…咲がそうしたいならって、預かるつもりで育て始めたんだが…そんなわけで迎えになんか来ないだろうって…咲が、自分の命が消える前に本当の子供にしたいってな…。最期のワガママだ、なんて言いやがって…。』

『…そうだったなぁ…。律ちゃんは、先に籍に入れてたな…あの父親…クスリで刑務所で逝っちまったからな…。』

『この話だけは、律子に生涯絶対に知らせないつもりだ。…知らなくてイイ…。』

『そりゃそうだ。』

『 ただいま…お父さん?』律姉ちゃんの声がした。

玄関前の父さんの部屋で『おっ、来たな…律子、こっちだ。』父さんが応えた。

『律ちゃんか?呼んだのか?』葉山のおじさんが吸っていたタバコをもみ消した。

『男3人じゃ、ままならんと思ってさ…女手が欲しいところだ…。それに…あいつも…なんか有りそうなんだよ…。…あいつの性格で…まだ話してくれんが…。』

『…ふぅん…そうか…律ちゃんだからなぁ…でも、顔見るの久しぶりだな…。』

律姉ちゃんが父さんの部屋の襖を開けた。

『…あら、葉山のおじさん、いらしてたんですか。お久しぶりです。』

おじさんを見て姉ちゃんが入口で膝をついて挨拶した。

『よっ、律ちゃん、久しぶり…なんだ?少し痩せたんじゃねぇか?ちゃんと飯食わせて貰ってるのか?あの気取ったババァに。』…実は、葉山のおじさんは姉ちゃんの嫁ぎ先のチワワの飼い主が気に入らなくて結婚にも反対だったんだ。

『もぅ…相変わらずなんだから…おじさんたら…ちゃんと食べてますよ。お父さん、私、居間に。』父さんに目配せして襖を閉めて廊下を歩いて居間に入って来た姉ちゃん。

『あ、姉ちゃん、おかえり!オレ、やった!やったよぉ~…』オレは達成感に満たされていた。スズのオムツ替え(…しかも、大きい方の)を完了し、今また、ミルクを飲ませるという上級編に挑んでいた。

『…え?…何を?…何か…えっ…?』姉ちゃんのおっきな目が見開いた。

『……待って…状況が掴めないのだけれど、どうしたの?この赤ちゃん…。』って、バスケットの傍に座りこんで杉本さんの顔を見てる。

『ね、姉ちゃん、なんで杉本さんに聞くのさ?』

『…だって…耕ちゃんより判り易い説明してくれそうなんだもの…』

…ね、姉ちゃん…ヒドイよ…たとえ事実だとしても…。

『…ハハ…ちょっと厄介なんだけど…昨夜…あ、今朝か…耕ちゃんが…』って説明し出した杉本さんの話の内容は、ホントに簡潔。オレのあの説明で、良くここまで理解してくれたね、杉本さん!

『…そんなことがあったの…耕ちゃん、驚いたでしょう?よく気づいてくれたわね…(ね、姉ちゃん、分かってくれて有難う!)こんな寒い朝に…外に置いて行かれたままだったら、今頃どうなっていたか…名前は…スズちゃん?』

『…ん、そうみたい、このタオルのタグに赤い糸で書いてあった…。この中にミルクとかオムツとか色んなもの詰め込んでた…』とオレはバスケットの脇に並べて置いた《スズ用品》を指差して言った。

『…こんなに色々入れて…?』姉ちゃんがため息ついて言った。

『…まあな…どういうことなのかねぇ…』いつの間にか来ていた父さんもため息ついた。

『…まぁ…本人じゃなきゃ分からない事情ってのもあるんだろうが…なぁ…』葉山のおじさんため息を続ける。

…《フ~ン》…御犬の佐吉と佐与さんもバスケットの傍でため息ついた…。

思わず、皆で吹き出して笑えた…。

空になった哺乳瓶を見て杉本さんが『…飲みほしたかぃ?…じゃ、耕ちゃん、さっきの院長みたいに…こう、スズちゃんの身体を立てて…背中トントンって軽く叩いてみて。』お教え通り…えっと…こう肩に上げて…上体を立たせて…トントン…『…グフッ…』…スズ、お見事!オレも!杉本さん、拍手、ありがとう!

『と、とにかく、スズちゃんのオムツ替えとミルクは済んだのね。佐与さんが護ってくれてるなら安心ね。…お父さん、スズちゃんの着替えなんかも、もう少し必要でしょ?私、買い物してくるわ。夕食の食材も…。』姉ちゃんが台所に行って冷蔵庫の中身をチェックし出した。

『え?姉ちゃん、晩御飯まで居られるの?』オレは久々の姉ちゃんの手料理にワクワクして訊ねた。

『…うん…そうね…暫く、こっちに居るわ。…いい?お父さん…』そういう姉ちゃんの声は少し元気がなかった。父さんの答えを待ってる間の顔も何だか少し…えっ…?…どうしたのさ、姉ちゃん…。

『…そうか…そりゃ、こっちは大助かりだ。杉本の飯にもそろそろ飽きてきたしな。スズのオムツ替えの度に耕平の悲鳴聞かされたんじゃ、堪ったもんじゃない。』

『おっ?じゃあ、今夜は律ちゃんの飯か?いいな、俺も交ざっていいか?』葉山のおじさんてば…解るよ、その気持ち。

『勿論!大歓迎です。』姉ちゃんが笑顔になって応えた。

『嬉しいねぇ…俺の事歓迎してくれるの、此処のウチくらいだ…よし、檀家から貰ったとっておきの日本酒持ってくるよ。今夜は酒盛りだぁ!』…お酒が好きで陽気な葉山のおじさん、警察早期退職して、お寺を継いだんだ。

『あ、律ちゃん、味噌、律ちゃんが作って置いてくれたの、もう無くなりそうなんだけど、まだ、どっかにあるのかな?』杉本さんが台所に向かう。

『あ、大丈夫、作っておいたのが外の倉庫にまだあるわ。えっと……わぁ…冷蔵庫が見通し良すぎる…買い出し、大仕事になりそう…フフッ。』

…姉ちゃん…さっきと違って、ホント嬉しそうだ…。

『おい、杉本、車出して、買い物付き合ってやってくれ。病院はワシが診とく。』

『あ、はい、分かりました。律ちゃん、もう行けるかい?』

『うん、有難う。助かる。』

『じゃ、上着取ってくるよ。あ…院長、今日、シェルティのシャン君が術後経過観察に来ます、切断部分の…。』

『…あぁ、ガンの仔だなぁ…分かった。』

『それと…製薬会社が新薬の説明に来るかなぁ…。』

『そいつは…お前が居る時に、また来てもらおうな。』

『そ、そうですね。連絡入れておきます。』

…杉本さんには分かっている…父さんがセールス大嫌いな事。

『耕ちゃん、何が食べたい?…皆で食べるならお鍋なんかどお?』

『うん、鍋!あと、姉ちゃんの唐揚げも!』どうする?ワクワクが止まらない。

『唐揚げね、わかった。じゃ、行ってくるわ、杉本さん、お願いします。』

『はい、はい。』

姉ちゃんと杉本さんは連れ立って買い物に出掛けた。

葉山のおじさんは日本酒取りに戻った。

父さんは、病院(ウチから渡り廊下で繋がってる)に向かった。

…オレは…オレは…寝ちゃダメだよな?テスト勉強だよな?…でも、スズの傍には誰か居ないと…あ…御犬の佐吉と佐与さん、貴方達を信用していないわけではないよ…。とりあえず、部屋に戻って、教科書とノートとペンケースを持って来ることにした。

…この時、誰も気づいて居なかったんだ…バスケットの底の裏に付箋が付いていた事を…。


買い物に出掛けている姉ちゃんと杉本さん。

食材の前にスズの着替えを買い終えた。

店員のおば様に『あらっ、赤ちゃんは?おじいちゃん(…父さん?)とおじさん(…オレ?)とお留守番?そう…いいわねぇ…。パパさんは荷物持ちなのね?フフッ…ウチも一緒よぉ。ママ、助かるわよね。』って言われて…2人して愛想笑いしてるし…。

『…お鍋…石狩鍋よね…鮭と白菜…長ネギ…と…あ…鶏肉。』

『耕ちゃんのリクエスト唐揚げかい?…あれ、普通のとちょっと違うよね…何か入ってるの?』

『そう…柚子こしょうと蜂蜜入れるのよ、お母さんに教えて貰ったの。』

『へぇ…俺も好きだなぁ…あれ。』

『そう?良かった…。』姉ちゃん、楽しそうだ。…ここは野菜売り場。

『あ、スズちゃんのミルクも買い足しておこうかな…。ここのメーカーの…あ、これ。』

『…良く見てるねぇ…律ちゃん。』…日用品赤ちゃんコーナー。

『……何となく思うんだけれど…スズちゃんのお母さん…スズちゃんを置き去りにしていったんじゃないと思うの…。』

『…どうして、そう思う?』

『…だって、あんなに色々入れて…ミルクだって、缶があるといつも飲んでいるのが分かるでしょ?知らずに他のメーカーに替えると合わないでお腹壊す子だっているじゃない?着替えだって、オムツだって必要なもの支度して…日頃、キチンとお世話をしている証拠だわ。ドラミちゃんの縫いぐるみだって…。あの子の事、可愛いんだと思う…心配なんだと思う…。』って、肉売り場から…。

『…うん…。』

『…だから、きっと、迎えに来るわ。そんな何日もじゃない…何か事情があって、どうしようもない事情があって、ウチに預かって欲しかったんだって思う…思いたいのかも知れないけれど…。』

『…なるほど…。』

『…え…言ってる事、おかしい?』…魚売り場に移って、姉ちゃん、鮭とイクラ購入。(イクラ、きっと醤油漬けだな…はぁ~楽しみ)

『…いや…院長もそう言ってた。オレもそう思ったし…。だから、取り敢えず、葉山さんに犯罪の可能性を調べて貰ってたんだ。』

『…とはいえ、どんな事情があるにせよ、こんな風に置いて行くのはいけないことなんだけれど…。…来るわよ…きっと…迎えに…。』姉ちゃん…オレらとは違うって、思いたいよな…。

『…そうだと良いよね…。』視線を落とす姉ちゃんを見てる杉本さんも、オレらの事、知ってるんだ。

…買い物かごが3個めだ。

『…うん…。あ、牛乳も買わなくちゃ…えっと…。』

『律ちゃん、売り場向こうじゃ…?…あ…れ…?』

杉本さんが指差した乳製品売り場の行く手に…見覚えのある人物…。

『…あれ?律ちゃん向こうに居るの、旦那さんじゃ……』杉本さんの言葉が詰まったのは…その人物が女性と一緒に買い物をしていたから。

仲睦まじげに見つめ合ってチーズを選んでいる…しかも女性の姿は紛れもなく妊婦だったから…。

杉本さんは、売り場を探して引き返していた律姉ちゃんが自分の隣でその二人の光景を驚きもせずに眺めているのに気が付いた。視線に気づいたのか、ふと妊婦の女性がこちらを見つめる。それにつられるように、その男性も…。

…これってありきたりな言葉を使うと修羅場…?

その人物は整えるようにひとつ息をして、杉本さんと律姉ちゃんの方に向かって歩いてきた。その妊婦の手をそっと繋いで。

『…律子…。えっと、杉本さん、ご無沙汰してます。』

『えっ?…あ、あぁ…こちらこそ…。』さすがの杉本さんもこの場面に添う言葉が見つからなかった。

『…こんな所で会うなんて…あぁ、実家から近いもんな、このマーケット。帰ってたのか、実家。』

『…そう、用事があって…暫く実家に居るつもりです…お義母さんには、後で連絡しておきます。…えっと…はじめまして麻希子さん。律子です。…体調は大丈夫ですか?』

姉ちゃんは、その妊婦さんに向いて訊ねた。

『…えっ?…あ、あの…はい、もう平気です…。』

姉ちゃんが麻希子と呼ぶ妊婦さんはうろたえて…無意識に自分のお腹を庇っていた。

『…そう、良かった…浮腫みが出てるって聞いてたから…。優一さんも元気そうね…。』

『…あぁ。』優一さん…沢上優一…姉ちゃんの旦那さんだ。

…ど、どういうこと…?

優一さんは、深呼吸をして『…ご実家のお義父さんには、ちゃんと1度…ご挨拶に伺うよ。…許しては頂けないだろうけど…。』

『…父は。分かってくれるわ。2人で決めたんだから…。』

『…2人で…か…。…相変わらずだね、君は…。…じゃ、僕達急ぐから、失礼するよ。杉本さん、…なんか…こんな場面に遇わせてしまって申し訳なかったね。』と軽く会釈して謝る(?)優一さん。

『…あ…こちらこそ…なんだか…不作法で…。』男子2人は会釈を重ねて別れた。

自分の旦那さんが他の女性(しかも身重の)と遠ざかる後姿を姉ちゃんはぼんやりと眺めていた。

と、一息ついて肩の荷を下ろしたみたいに何か振り切れたみたいに『…あ、牛乳ね…そうだ…カボチャも買おうかな…。杉本さん、ここで、ちょっと待ってて。』って杉本さんに手で合図して野菜売り場に小走りで向った。

『…あぁ…分かった…牛乳買っとくよ。』そう返事した杉本さんは…姉ちゃんの後姿…どんな気持ちで、そんなに見つめてたのさ?

買い物カゴ4個分の食材諸々を車に積んで…杉本さんは運転席と姉ちゃんは助手席に乗り込んだ。

『ごめんなさいね…おかしな場面に立ち会わせてしまって…。』

『…いや…逆に、俺の方が邪魔してしまったみたいだ…ごめん…。』

『そんなことない…居てくれて助かった…。私…彼女…麻希子さんに初めて会ったんだけど…挨拶出来た…。』姉ちゃんは深呼吸をした。

『…そう?…なら、良かった…。』

車のエンジンを掛けようとした杉本さんの手を止めた。

『…このまま、ウチに戻って、大丈夫かい?』

『…う~ん…と…少し…聞いて貰いたいかも…話。…お父さんに話す前に。』

『…じゃ、少し、ドライブしよ。』

杉本さんは河川敷迄、車を走らせた。


『わぁ…久しぶりだわ、ここ。』姉ちゃんは車を降りて、河川敷緑地(もう冬枯れだから正しくは緑じゃない)の歩道でおっきく背伸びした。

『あ…あそこの橋の下に御犬の佐吉と佐与さんがダンボール箱の中で丸くなってたのよね…耕ちゃんと杉本さんとお散歩に来た時に、見つけて…耕ちゃん、可哀そうだってボロボロ泣き出して…』(やめてよ、姉ちゃん、昔の話…)

『そうだった…で、御犬達、ブルブル震えてて…かなり冷え込んだ…11月だったもんな…よく、生きててくれたよ。』

『そう、で、杉本さん、慌てて自分のダウンジャケット脱いで入れて包んで…自分の方がブルブル震えて、おっきなクシャミ連発でウチに帰ったのよね…。フフッ…。』

少し笑って、川を眺めながら、穏やかに姉ちゃんは話し出した…。


『…私…実は…赤ちゃんが授からない体質なの…お母さんが入院してた病院で検査して貰って…判ってたんだけど…だから、結婚は難しいだろうなって、思ってたの…。でも、沢上からお話戴いて…事情話したんだけど、それでもいいってお義母さんも優一さんも言ってくれたの…。だから、私、結婚決めちゃった…。』杉本さんの方を見ずに話続ける姉ちゃんを腕を組んでずっと見ていた杉本さん。…姉ちゃんは続けた。

『…あの2人…優一さんと麻希子さん…私達が結婚する前からずっと付き合っていたんですって…本当はずっと一緒に居たい人だったんだって。でも、お義母さんに私との結婚勧められて…どうしても言いだせなかったんですって…女手一つで育てて貰ったしって…。…でも…好きな気持ちは止められないわよね…どうしても別れられなかったって…。麻希子さんの手、離せなかったって…。』

『…お腹の子供の父親は…?』杉本さんがそっと訊ねた。

『…勿論、優一さん。』姉ちゃんが吹っ切るように上を向いた。

『私から、言ったの。彼女の所に…戻ってあげてって。お父さんお母さんが居るのに…ちゃんと居るのに…一緒に居たいって思ってるのに、2人で赤ちゃんの傍に居て守ってあげられないのはおかしいわ。』

『…律ちゃんは、それでいいの?』

『…2人の気持ちが…すごく解って…解り過ぎちゃって…自分の気持ち、誤魔化して我慢しても…好きは止められないじゃない…?消えてくれないもの……後から…ドドドッて押し寄せてくるんだもん…何度も何度も…イヤになっちゃくらいに…苦しくて。』

『………。』杉本さんは黙ったまま。

『2人で決めたの、離婚…。でもね、お義母さん…許して下さらなくて。お義母さんだって自分の孫が産まれるんだもん、嬉しいはずなのに…私のせいで意地を張らせてしまって…。…それで、優一さん、家を出て…麻希子さんの所で暮らしているの…もう、3ヶ月になるかな…。…赤ちゃんが産まれる前には届けを出したいんだけどね、離婚の…。私が居なくなれば、お義母さんだって、自分の気持ちに素直になられるわ…。』

『…聞いて良いかな…?』

『…ん?』

『…今の律ちゃんの…優一さんに対する気持ちは…?』

『…ずっと一緒に居たい人って…思えるようになれなかった…。…一緒に暮していれば…身体を…合わせれば…そういう気持ちになれるかなって思ってたんだけど……。』姉ちゃんは堰を切った様に話し続けた。

『…優しい人だし…子供産めないのにそれでも良いって言ってくれる人、そんなに居ないだろうなって。…結婚して、今まで育ててくれたお父さんに安心して…肩の荷降ろして貰いたかったし…。もし、結婚できなくて、ずっとウチに居たら…私、家事以外何もできないし、この先、耕ちゃん結婚したら、お嫁さんの邪魔になっちゃうかもしれないし…悲しいもの、そんなの…。』

姉ちゃん、馬鹿なこと言うなよ。姉ちゃん事邪魔にするような嫁さんなんか、貰うかよ!

『…わたし…』姉ちゃんはフーッとひと息ついて続けた。

『…わたし…わたしもね、好きな人が居たの…大好きな人…。わたしよりずっと大人で…一緒に居ると何故だかふんわり安心できて、自分の気持ちが柔らかくなるの…その人の隣が…とても居心地良くて…ずうっ~と傍に居たいって思ってた…。…でも…子供が大好きで、その人。わたし…この人の子供は産めなんだ…って思ったら…好きって言う資格ないなぁって思ったの…。』姉ちゃんの声は少し震えていた。

『…わたしのせいよね、好きな人が居るくせに他の人と結婚するなんて…自分の事ばかり考えて…。わたしが結婚を断っていたら、優一さんだって、きっと麻希子さんの事、お義母さんに話せたわ。誰もつらい思いしなくて良かったのに…。』杉本さんは、考え事をする時のいつものように右手の親指で下顎を触って残りの4本の指で口元を覆っていた。

『…なんか、話し過ぎちゃった。そろそろ帰んないとね。石狩鍋だもんね。』身震いしながら涙が浮かんだ眼と口元に笑みを作って姉ちゃんが言った。

『…そうだね…。』杉本さんがフーッと大きくひとつ息を吐いて車に乗り込んだ。

エンジンを掛けて…すっかり冷え込んだ車をヒーターで暖め始める。

『ねぇ…杉本さん…聞いてイイ?』姉ちゃんが冷たくなった両手に息を吹きかけ擦り合わせながら言った。

『…いいよ。何だい?』

『…杉本さん…好きな人…いる?』

ハンドルに片手を添えて前をじっと見ていた杉本さんがふと応えた。

『…うん、いるよ。』

『…そう…なんだ…。そうよね…。』視線を膝に落とす姉ちゃん。

『…どんな人なんだろ…杉本さんの好きになった人…気持ち、ちゃんと伝えた?』

『…出逢った頃からずっと好きだったなぁ…何でも一生懸命で、可愛くて…あったかくて一緒に居ると心地いいんだ…。でも時々、おっちょこちょいで早とちりなんだよ…その人。周りの人間がどんなにその人の事を大切に思っているか解ってないんだなぁ…。ずっと…傍に居るのが当たり前に思いこんでて…そしたら、急に結婚決めちゃって…その人は10歳も年下で…俺もいい歳だし自分から言い出せなくてね…好きだって…他の人の嫁にはなるなって…。…ずっと、傍に居て欲しいって…。…俺は、その人の花嫁姿を見守る程割りきれなくて…情けない話、仕事に託けて式に出なかった…。』

『………。』

『その人が洗濯してアイロン掛けてくれる白衣…どんなに汚しても、あちこち破れても一生懸命汚れ落としてくれて、きれいに繕ってあって…星とか三日月とか…。その白衣は、柔らかくて、あったかくて…。』

ね、姉ちゃん、姉ちゃん、聞いてる?…これ、誰のことか、分かってるよね?

『…言い忘れてた…私の好きな人ね…子供だけじゃなく…動物も大好きで…棄てられてた仔犬2匹、自分のダウンに入れて…自分は風邪ひいちゃう人なの…』

両手で頬を抑えながら姉ちゃんの声は涙声だった。

『…言い忘れた…俺が好きな人が造る味噌はとんでもなく美味くて、その人が造る柚子こしょうと蜂蜜入れる唐揚げ…あれ、食い物ばっかりだな…。』

笑った杉本さんの視界がふと狭くなったのは…姉ちゃんが杉本さんの首元に抱きついていたから。

…姉ちゃんは泣き笑いの顔で呟いた…。

『…私の好きな人…大好きな人…。ずっとずっと…一緒に居たい人…。…やっと、言えた…。』

…杉本さんが姉ちゃんを抱き寄せた…。

『…俺の好きな人…。大好きな人…。もう…何処にも行くな…。…ずっと…ずぅ~っと、傍に居ろ…。』

…車も、温まった頃だった。

姉ちゃんと杉本さんは、唇を重ねていた…。


オレは居間でスズの様子を見ながら…ウトウトしていた…だって、昨夜殆ど寝てないでしょ?

…スズ寝てる間,オレも寝ちゃおうかなぁ…なんて考えてたら、電話が鳴って…。

姉ちゃんの嫁ぎ先の沢上のオバサンだった。姉ちゃんは出掛けてますって言ったら父さんに代わって欲しいって言って…父さんと暫く話してたな…。

『…なるほど…事の次第は分かりました…。後の事は、律子の言葉で聞きますよ。…いやぁ~そちらがいらしてくれても…当の2人が決めたんでしょうから…いや、謝って戴くことでは…本人同士の問題だと思いますから…。ご安心ください、律子はこちらで護ります。』

…ん?謝る?…本人同士の問題?…護る…?…って?…姉ちゃんのこと?

受話器を置いた父さんを見た。…何だか、ほっとした顔をしていた…。あれ?…問題なんじゃないの?

『…あ?聞いてたか?』目が合った父さんがオレに確かめた。

『…ん?…うん…なんか…姉ちゃんのこと?』

『あぁ…喜べ!律子が帰ってくる!』って、若干笑みを浮かべている様な気がしたんだけど…?父さん…。

…えっ!?…今、なんて言った?帰ってくるって…姉ちゃんが?…えっ?…ってことは…えぇ~っ?

『ただいまぁ~遅くなっちゃって。』って…玄関の戸が開いて、姉ちゃんが❮帰って❯来た。

…杉本さんと一緒に。


…いろいろ、思い出しちゃったなぁ…。法事ももう終わり近い。身内でこじんまりとした法要だから…ね、父さん。

参列してくれた方々は皆さん、お帰りになった。

残ったのは家族と葉山のおじさん。

『ご住職…葉山のおじさん…お疲れさまでした。食事の支度しますから…少し、お休みになられたら?』

『おぅ…お疲れさん、お互いな…。どれ、庭でも見ながら…。』葉山のおじさんは縁側に座った。

『今、お茶をお持ちします。…鈴ちゃん、手伝って。』

『はーい。』姉ちゃんと鈴は連れ立って台所へ向かった。

オレは父さんの写真を見ながら…また…そう…あれから…。


あの後、姉ちゃんは離婚して…再婚したんだ。勿論、杉本さんと。

自分が邪魔になるとか子供の事とか言ってたら…父さんには『2度と言うなよ。律子。お前は咲が手塩に掛けた愛娘なんだ。邪魔になるような代物になんぞ育て上げたつもりはない!子供が産めないだ?それがどうした!もっと胸張って威張ってろ!』って。

杉本さんには『俺は…片思いじゃないって判った以上、二度と律ちゃんの手を離さない。』って。『おう、杉本、良く言った!』って言いながら杉本さんの肩を叩いた父さんの眼が潤んでた。

姉ちゃん、ボロボロ泣いてた。

男2人にここまで言われて…姉ちゃん、どうよ。


でね、鈴のバスケットの下についてた付箋…それに書いてたんだ、携帯電話の番号と名前…。何かの拍子に下に張り付いちゃったんだな…気がついたのは三日後だった。

葉山のおじさんと父さんがその携帯番号に電話をしたら…出たのは、警察だった。

…鈴の母親は、その前の日、事故に遭って…亡くなっていた。

葉山のおじさんが調べてくれたのに依ると…

鈴の母親はシングルマザーで美容師だった。

なんでも独立できるチャンスがあってどうしても連泊の断れない仕事があって、でも、鈴を預かって貰う先が無くて、ウチの噂(姉ちゃんとオレのことか?)を耳にして置いて行ったらしい。1週間の仕事の予定後に迎えに来る筈だった…のに…仕事先のハワイで、自動車事故に巻き込まれたんだって…。

鈴の父親は判らず…母親の親族も引き取るとは申し出なかった。…『ウチには関係ない。迷惑だ。』…なのだそうだ…。

杉本さんと姉ちゃんが養女にって申し出たんだけど…父さんは敢えて自分の戸籍に養女として迎えた(2人に奇跡的に実子が産まれた時のこと考えたのかな…)…ま、実際に育てたのは姉ちゃんだけど…戸籍上は姉ちゃんと鈴は姉妹。オレの妹になる。

こんな風に…オレは鈴を育て(?)いや、鈴と暮らしている内に❮保育❯に興味が湧いた。

面白くて愉しいんだ、子供に接する事って。毎日色んな発見の連続で。こっちが育てられるんだ、【人】として【心】が。

自分が向いてるって思った、仕事としても携わっていたいって思った。

動物の死を扱う獣医にどうしても心が追いつけない気持ちを父さんに話した。保育の事も。茶化されたり反対されたりするかな…って思ったんだけど…父さんは言ってくれた。

『…良いんじゃないか?やりたい事を出来るのが一番だ。…ワシも…お前達に、毎日育てられた…親に…なれたかなぁ…。良く言われる事だが…子育てってのは、本当に毎日が奇跡の連続だそ…子供たちの心を作る時間を一緒に過ごせるんだ…ま、キレイ事ばっかりじゃないけどな…。うん…お前は、子供に心が近い…。子供にとっても、そういう人間が傍に居て自分を見てくれるっていうのは幸せな事だと思うぞ…。良い選択だぞ、きっと。』って。

ものすんごく嬉しかった。泣きそうになった。父さんに抱き付きたい位だった。父さんは、オレの事ちゃんと見ていてくれたんだ…。

オレは保育士になって…今、【こぞう保育園】で【耕ちゃん先生】やってる。

…父さん、母さん…有難うね…。オレと姉ちゃんを育ててくれたこと…オレは…父さんと母さんのおかげで…子供でいられた…幸せな幸せな子供でいられた…。貴方達はオレ等が幸せな子供でいる事を許してくれた…。感謝…なんて言葉なんかじゃ言い切れないよ…。

そうそう…続きがあるんだ…。


『耕ちゃん、食事の支度出来たよ。皆でここで食べようって。テーブル出すの手伝って。』鈴が部屋に来た。

『…ん。』座布団片づけて、縁側の観える部屋の真ん中に座卓を置く。父さん自慢の大きな杉の1枚座卓。

『葉山のジィ…起きてる?食事だよ。』タバコをふかして庭を眺めていた葉山のおじさんに鈴が声をかける。

『起きてるよ。』

『ジィ…いい加減、タバコやめなよ。この前も検診で言われたんでしょ?…肺…。』

『何だよ、リン、心配してくれんのかぁ?』

『当たり前でしょぉ~。』応えながら、鈴はパタパタと足音を立てて台所に向う。

鈴の後姿を見つめる葉山のおじさんと目が合った。

『…耕ちゃん、聞いたか?当たり前に心配してくれるんだってさ…オムツブンブン振って、この廊下パタパタ歩いてたヤツがな。』

『ハハッ…そうだね。』…思い出した…鈴のオムツ姿。

『…早いもんだな…。歳とるわけだ…俺も。』葉山のおじさんがしみじみもらした。


おじさんは、ずっと独身だった。2枚目って程じゃないんだけど…何となく雰囲気があって昔からカッコ良かったし、安定の公務員だったし、けっこうモテたと思うんだ…けど。

オレ、昔、恋にやぶれて、その現場をおじさんに目撃されて…父さんとおじさんと杉本さんに【失恋おめでとう会】を開いて貰ったことがあって。一度父さんに聞いたことがあるんだ。葉山のおじさんは、なんで結婚しなかったの?って。そしたら父さんが『…たぶん…大純愛してるからだな、今も。』って。

なに!それ、なに?知りたいじゃない?聞きたいじゃない?でも父さんは『勿体無くて、ワシの口からなんか話せん。』って。

…そんな勿体無い大純愛の話を…本人から聞き出す程、オレも不作法じゃないから…おじさん、いつか、聞かせてよね?大純愛…。



『耕ちゃ~ん、手伝ってぇ。料理運んで~』姉ちゃんの声だ。オレは台所へ向かった。

葉山のおじさんは、改めて、仏壇の前で父さんと向き合っていた…。幼馴染で親友の父さんの命が消えたと解った時のおじさんの涙と震える肩…目に焼き付いてるよ…。


『…いつもと変わり映えしないけど…召し上がれ、』

姉ちゃんの料理…野菜の炊合せ、キュウリとミョウガの酢の物、大根の漬物、南瓜の塩煮、揚げ出汁豆腐、茄子の味噌炒め、鱈の塩麹焼き、茶碗蒸し…と、稲荷寿司とジャガイモの味噌汁…みんな父さんの大好物だね…。…精進じゃないけど…あ、鶏の唐揚げも作ってくれたぁ…。

姉ちゃんが拵えた父さんの御膳を祭壇におく。少しのお酒と一緒に…。

皆が席についたと同時に

『いっただきまぁ~す!』鈴が手を合わせ、箸を握り締め眼を輝かせて食卓を見つめてる…好きだよな、お前も。

『う~ん…やっぱり、おいひい…。律ちゃん姉ちゃん~。』口いっぱいに稲荷寿司頬張って叫ぶ。

額に冷湿布張った杉本さんと葉山のおじさんはお酒を注ぎ合ってる。姉ちゃんは幸せそうに皆の様子を眺めてる…。…あぁ…ウチの食卓だぁ…。…あれ?

『…姉ちゃん、もう一人来るの?』箸と食器の支度がもう一人分あった。

『…あ、うん。お父さんの…昔のお友達がね、少し遅れますって。』

…ふぅん…誰かな?

『リン、お前、四月から三年生だろ?進路、決まったのか?』葉山のおじさんがリン…じゃない鈴に聞いた。

『…ん?…うん…まは、いまってはい(まだ、決まってない)』味噌汁のジャガイモでほっぺた膨らませて鈴が応えた。

『…咬んで飲みこんでからでイイ…。』若干あきれ顔で葉山のおじさんが言った。

『…んん…だって、急に聞くんだもん。』…良く噛んで飲みこめな、鈴。

とりなす様に姉ちゃんが『この前、三者面談に行ったの。先生がね、いい意味でも悪い意味でもマイペースだって、おっしゃってたわ。』

…男三人は黙してうなずいた。

『…何か、やりたい事あるのか?』

『やりたい事だらけだから、困ってるの。野菜や果物作る農業もやってみたいし、動物の勉強もしたいし…あと…そう、いろんな所に行ってたくさんの人と会いたい!日本だけじゃなくて、海外の!…で、どうすればいいかわかんなくなる…。』

『…どれも、大変な案件ばっかりだな…。』

『まぁ…このリンに机で黙って書類書いてろ…ってのも無理な話だがな。』

…一同、ニガ笑う。

『でもね…私には、この家があるってことは分かってる。自分には帰れる、戻ってこれる場所があるって。何時だって、待っててくれる人達がいるってことは、わかってる…。』南瓜食べながら…結構大事な事言ってるんだぜ、鈴。

『…そうなの…?…鈴ちゃん、私、泣きそうに嬉しいわぁ…。』姉ちゃんが、ホントに涙ぐんでるし…。

『…色々…やってみればいいよ。やってみて…自分のホントにやりたい事を見つければいい…。』って杉本さん。

『…って、耕作も生きてれば、言うわな…。』って、葉山のおじさん。

『うん!ありがと!』とびっきりの笑顔だなぁ、鈴…。

『ま、あと半年は考えていいんじゃない?あ、でも、お前、選択肢選べるだけの成績は取っとけよ!』って、オレ。

『…わかってるけど…耕ちゃん言っても説得力なぁい…。』って、おい…茶碗蒸し食いながら言うなよ。


『…なぁ、耕ちゃん、こぞう保育園増やす話、聞いたぜ?』男3人で縁側で2次会。

葉山のおじさんが聞いてきた。

『ん?うん、何故か…最近、園児が増えて来ちゃって…定員がね…。で、園長が第二こぞうを作りたいって。』

『…で?お前さん、どうするんだい?打診されてんだろ?第二こぞう保育園長。』

『えっ?そうなのかい?』驚いた杉本さんが聞く。

『…わっ、ホント地獄耳だよねぇ、おじさん。』

『ふっ…まだまだ…俺の網にかからない話は無いよ。』…偉そう…。

『耕ちゃん、受けるのかい?その話…。』杉本さんがオレの盃に冷酒を注いでくれた。

『…う~ん…まだ、応えてない。…自信無いし…。オレに園長なんて出来ると思う?』

『俺は、こぞう保育園の園長の眼を信じるなぁ。』…す、杉本さん…ううん、兄ちゃん…。

『…人ってのは、入れ物でけっこう育つもんだぜ。耕ちゃん。』…深いなぁ…おじさん…。


酒に弱いオレが、部屋の隅でうたた寝し出して、鈴に毛布を掛けて貰っていた頃、杉本さんと葉山のおじさんがしんみりと3次会…。

『なぁ、杉本よ。』

『はい?』

『…俺んとこの寺な、近々…閉めようと思ってな。』

『…え…本気ですか?』思いもよらない話だった。

『…後継ぎも居ないしな…まぁ寺として譲るって手もあるんだが、ここはキッパリとな…隣町の結恵寺が檀家引き受けてくれるって言うし…代々の檀家には申し訳ないけどな…。…俺も歳には勝てないさ。』

『…まだ早いでしょ…。』

『…いやそうでもないさ…でな、お前さんに頼んでおきたい事があるんだよ。俺もいつかは耕作達と合流しないとならんし…。』

『…なに弱気な事言ってるんですか。』

『いやいや、世の常だ…。で、今の寺の土地な?寺の跡地なんて、買い手は付かないだろうな…と思っていたんだが…檀家の高齢者施設がな、こじんまりとした施設を作りたいって、話を持ってきてな。譲ろうかと思ってんだよ。』

『…そうなんですか…。』

『…イロイロ厄介な手続きをせんとならんがな…数々の手間賃を差っ引いても、ソコソコは残ると思うんだ。…それな、樹下家で使ってくれんか?この先、リンにしろ、耕ちゃんにしろ、お前さん達だって、入り用は有るだろ?』

『えっ?何言ってるんですか!いや、ダメですよ、そんなこと。僕らだって、そのくらいの蓄えは…。』杉本さんが真顔で言った。

その顔を見て、(解ってるよ)と言うように少し笑っておじさんが続けた。

『…俺はさ…田舎の7人兄弟の末っ子で口減らしに寺に預けられた。先代は、俺を大学まで行かせてくれて、警官になりたいって我儘も許してくれて…有難いと思ってる…けど…最後まで先代には遠慮があってな…。唯一、耕作のこのウチが…何でも許してくれる、俺にとっての【家】なんだ…お前達の代になっても変わらず俺を迎えてくれるだろ?…有り難いよ…。』

『…葉山さん…。』

『…少しくらい、お前達の役に立ちたいんだ…。頼まれてくれないか?』

『…その話、保留です。律子や耕ちゃんと相談します。』

『…おう、善処してくれな。』

葉山のおじさんが一口冷酒を飲んだ。

『…俺の話も聞いて貰ってイイですか?』杉本さんが話し出した。

『おう、話せ話せ!』上機嫌の葉山のおじさんが杉本さんのグラスに冷酒を注いだ。

『…俺、父親知らないんですよ。医大生だった母親…乱暴されて身籠って…周りは大反対で誰も味方してはくれなかったのに、無謀にも俺を産んじゃって…。』

葉山のおじさんの笑顔が消えた。

『…そんな母親の事、事件の担当だった若い警官がね…物凄い親身になってくれたって…。その後、その人、刑事さんになったんですが…進学の度に、まとまった金額が母親に送られてきてたみたいで…俺は何も聞かされてなくて…その刑事さんが、「子供には金の心配させないでやってくれ。心配せずにやりたい事をやらせてやってくれ」…って。後から隠す母親から無理やり聞き出したんですけど…仕舞には、大学に行く時、入学祝だって大金が送られてきて…その刑事さん、警察辞めてて、その退職金だと思うんですよ…。』

『…お人好しなヤツもいるもんだなぁ…。』

『…ホント、そうなんですよ…。母親言ってました。…片親は大変だったし、俺も人並みに反抗期あったりして…経済的なだけじゃなく、その人からの手紙が、どんなに心の支えになったか知れないって…。その人からの丁寧な手紙の一文字一文字を指でなぞってると勇気が湧いて来たんだそうです。…俺、その【足長おじさん】にどうしてもお礼がしたくて…そのお人好しさんの住んでる町を母親からやっと聞き出して…ここの病院で院長…お義父さんにこの話したら、良く似たやつ知ってるって。ストレートに話してもヤツは認めないだろうから、知らんぷりして、この町に居たら良いって、言ってました。』

『…ふ~ん……。』庭のコブシに視線を向けて静かに冷酒飲んでる葉山のおじさん。

『…俺、この町に来て、本当に良かった…樹下病院に来て…院長に出会って…律子に逢えて…家族が増えて(オレもだよね?)…葉山さんに逢えた…。』

『…立派に育ったな…2代目。』杉本さんの顔を見ずに葉山のおじさんがうつ向いて満足そうに呟いた。

『…はい…おかげ様で…。』杉本さんが深くお辞儀をした。


『ウチの母親…今までずっと独り身で、小さな村の診療所に居たんです。患者が居るからって、殆ど無休で…。けど、町村合併で診療所閉鎖することになって…どうするの?って聞いたら…。』杉本さんは少し笑いを浮かべて

『…そのお人好しの…押し掛け女房になっちゃおうかな…って言ってました。』

…目を見開いた葉山のおじさんが庭に向かって呑み込もうとしていた冷酒を見事に吹き出した。

…ガラガラ…・

玄関が開いた。

『…こんにちは…。』穏やかな女の人の声がした…。






我が家の愛犬達の様子を見ている内に、【樹下家】のエピソードが浮かんで来ました。

耕平、耕作、咲、律子、鈴、杉本さん、葉山のおじさん。御犬の佐与、佐吉。

これから、少しずつ、彼等のエピソードを1話ずつ、描いて行きたいと思っています。

今、葉山のおじさんの若かりし頃のエピソードが浮かんでいます。

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