もしも僕が独裁者になったら、絶対「いい独裁者」になるのにな
なんとなく興味を持って、さまざまな暴君・独裁者に関する本を読んだ。
彼らは強大な権力を振りかざして人民を苦しめ、やがては反乱にあい、最後には失脚していく。
まるで童話か昔話のようによくできている。
そして、読んでいると僕はこう思うのだ。
もし僕が独裁者だったら、絶対“いい独裁者”になるのにな、と――
独裁者にいいなんてないだろ、全部悪いだろ。なんて言いたい人もいるかもしれないけど、ちょっと聞いて欲しい。
僕には自信があるのだ。
僕だったら、一国を好きなようにできる権力があったとしたら、絶対にいい奴な独裁者になれる自信が。
まず独裁者ってのは人の話に耳を貸さない。
仲間や部下の話など一切聞かず、自分のやりたい政策を推し進め、どんどん暴走していく。
まあ、独裁ってのはそういうことをするって意味だから、当然ではあるんだけど。
でも、僕は違う。
僕だったらみんなの話を聞いて政治を行う。
別に心が広いからじゃない。だって、自信がないから。国の行く末を一人で決めるなんてとんでもない。
多分僕は、「あれはどうしたらいい?」「これはどうしたらいい?」って聞きまくりながら、国を動かしていくことになると思う。
僕と反対意見を言う部下に「あ、そっちのがいいかも!」なんて言ったりね。
側近ポジションの人から「たまには自分で決めて下さいよ」なんて怒られちゃったりして。和気あいあいとしたムードになりそうだ。
とりあえず、僕は人の話をよく聞く独裁者になることは間違いないだろうな。
それに独裁者が絶対やることといえば、粛清や虐殺だ。
気に食わない者、歯向かう者を、有無を言わさず捕え、処刑する。
独裁者が独裁者たるためのメインイベントといってもいい。
僕が独裁者になったら、絶対こういうことはやらないだろうな。
まず僕は人を叩いたり殴ったりするのがもうダメ。罪悪感抱いちゃう。多少ムカつく奴がいてもなんとなく許しちゃうことが多い。
僕の政治に逆らう者がいたとしても、まずそいつの話をじっくり聞いてやる。
それでいて向こうの意見にもよさそうなところがあったらなるべく取り入れる。
もし向こうの方がリーダーに相応しいなと思ったら、席を譲ってやったっていい。ってこれじゃ独裁とは言えないか。
仮に絶対こいつとは意見が合わないって奴と出会ったとしても、処刑まではしないと思うな。
例えば、せいぜい地方に飛ばすぐらいの刑にして、慎ましく暮らすようなら許してやる。
僕は気が弱いから、粛清や虐殺は絶対しないんだ。
言論弾圧も、独裁者おなじみのムーブだ。
ようするに僕や国の悪口を言ったら、秘密警察みたいなのを向かわせて逮捕させるってことなんだろうけど……。
僕はそういうのは気にしないんだよね。
友達から悪口言われたことなんかいくらでもあるし、インターネットをやってれば時には過激なことを言われることもある。
だけど、僕はそういうのはいちいち相手すると疲れるからスルー。相手にしない。
だって弾圧なんてやったってイタチごっこだし、手間がかかるだけじゃん。
もし、僕が国のリーダーになって、僕の悪口を言ってる奴を見かけたら、とりあえずはスルー。右から左に聞き流す。
場合によっては「なかなか的を射てるな」って褒めちゃうかも。
さっきの粛清の話と被るけど、悪口の中には正しいと思えるようなものもあるだろうしね。
だから言論弾圧もしない。
僕が独裁者になったら、国民が好きなように意見を言える国にするだろうね。
それと独裁者というと、贅沢三昧することが挙げられる。
自宅を豪邸にして、高級な物食べて、美女をはべらせて、自分の銅像を建てて……なんかこうして羅列するだけで成金丸出しで恥ずかしくなる。
僕が独裁者になったら贅沢はしないだろうね。
家なんて別に普通の家でいいし、女の子にもさほど興味はない。
自分の銅像なんか絶対建てたくない。むしろ罰ゲームでしょこれ。
食事はそこらの店で売ってるものでいいし、ファッションもディスカウントストアで買うようなシャツとズボンで十分だ。
そんなところに使う金があるなら、新しいゲームを買うとか、マンガを買うとかそういうことに使いたい。
金は自分の人生がちょっとだけ楽しくなる程度に稼げればいいんだ。
後のお金は国民のために使えばいいんじゃないかな。
きっと感謝されるに違いないね。
――とまぁ、色々考えてきたけど、僕が独裁者になったらきっと人の話をよく聞き、命を大切にして、言論も封じ込めず、贅沢もしない“いい独裁者”になると思うんだ。
だから、僕に権力をくれたら、絶対今までに滅びた悪の独裁者みたいにはならないのにな……なんて考えちゃう。妄想しちゃう。
まあ、こんなバカげたことを考えてる時点で、僕には独裁者になる資格や才覚なんてないんだろうけどね。
きっと僕は、誰も傷つけないような気の弱い平凡な一般市民として一生を終えるんだろうな……。
この十数年後、彼はある国の頂点に君臨することとなる。
苛烈な圧政を敷き、おぞましいほどに贅を尽くし、おびただしい犠牲者を生み、21世紀――いや史上最悪の独裁者として歴史に名を残すこととなる。
そして――滅びるのである。
完
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