第6節 二人を守れなかった1周目の結末
しかし、レオンには二人の命を守る力がなかった。イリーナが属するエルフの森国は、東の帝国からの侵攻を受け、徐々に追い詰められていった。強大な魔力を持つ帝国軍の前に、エルフ軍は手も足も出ず、あっという間に土地を手放していった。
最初は国境の村々が侵略の標的となった。平和な村は一夜にして火の海と化し、逃げ遅れた村人は次々と虐殺された。エルフの民は森に逃げ込んだが、帝国軍は徹底的に掃討作戦を行い、隠れ家を燃やし、森を焼き払った。無数の集落が消し去られ、多くのエルフが惨めな最期を遂げていった。
首都周辺に残された兵力で頑強に抵抗したが、魔力の肥大化した帝国軍の前に遥かに力及ばず、どんどん押し込まれていった。やがて首都の城門は破られ、宮殿は次々と占拠された。血で染められた宮廷の壁際には、無残な姿で斃れた侍女の死体が転がっていた。
最終的に王族を守護していた近衛兵の最期の1人が討ち死にし、イリーナを含む王族の命運は危うくなった。宮殿の奥からは王女の絶叫が聞こえ、逃げ遅れた宮女の悲痛な叫び声が響いた。だが、やがてそれらの声も消え失せ、静まり返った宮殿に虚しい沈黙が訪れた。その後、イリーナの行方は誰もわからなくなってしまった。
一方のアデリナが住む人間王国でも、次期女王を巡る内戦が勃発した。アデリナは母后の死去により、当然次の女王家としての地位を継ぐべき立場にあった。しかし他の王女候補たちが野心を燃やし始め、お互いに女王の座を狙い始めたのである。同じ血を分けた姉妹同士が熾烈な権力闘争を繰り広げ、各候補は自身の支持母体の貴族や家臣を糾合し、軍勢を形作っていった。
やがて対立は小競り合いから本格的な戦闘への発展となり、首都の町や近郊の村は内戦の舞台と化してしまった。両派の軍勢が次々と侵攻し、町は焼け野原と化し、村は荒らされた。農地も畑も蹂躙され、町の民から農民にいたるまで、多くの無実の命が内戦の犠牲となっていった。
アデリナが率いる一派は当初有利と見られていたが、しだいに劣勢に回り始めた。他の候補に期せずして多くの貴族が離反し、兵力の大半を失ってしまったのだ。最終的にアデリナの本陣である宮殿は攻め落とされ、アデリナ自身も捕虜となってしまった。
捕虜となったアデリナは、勝者の手により並々ならぬ拷問を受けた。全身に無数の切り傷を負わされた。かつて気高く佇んでいたアデリナの姿は無残に崩れ去り、ひどく傷つき血に塗れた姿で現れた。そして最後は、内戦の余興とでも言わんばかりの戯れとして、絞首刑に処された。
このように二人の悲劇的で無残な最期を目の当たりにし、レオンは心の底から絶望した。
「大好きだったのに...二人を守れなかった。この力のなさは情けない」
かつて強く憧れを抱いていた二人が無残な最期を遂げてしまった。レオンの無力さゆえに守ることができず、ただ虚しく見守るしかできなかった。二人への想いは実らず、レオンは自責の念に引き裂かれた。