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第3節 老魔法使いモルガンから学ぶ

数日が経ち、ようやく森の奥から人っ子一人を発見したのはモルガンだった。杖につかまりながら寄ってきた老魔道士の風体は、一見した目から非凡な雰囲気を放っていた。レオンが感じ取ったのは、彼が人間ではないということ。垂れ目の鋭い眼光、大きく突き出た鷲のような鼻、そして太く逞しい体躯。この老人はまるでドラゴンの化身のようだった。


「おや、人払いのようだが...そなたはどちらの国の者かな?」


荒々しい口調とは裏腹に、老人の問いかけには好奇心があふれていた。レオンはここに来る前の出来事や、前世の記憶の存在までを率直に話した。これ以上嘘をつく必要はないと直感したのだ。


「私は...この世界に迷い込んでしまった旅人です。正直、この世界の正体も、私がどうしてここに居るのかもわかりません」


老魔道士はしばらくの沈黙を経て、ゆっくりと口を開いた。


「ふむ...わしはモルガンと申す。そなたの境遇は不思議極まれりということか」


そう言うと、モルガンはレオンの方を真剣な眼差しで見つめた。するとその老体からは思わぬ魔力が漲り始め、レオンの身体の隅々までを探るかのようだった。


「見た目には普通の人間に過ぎぬが...なんと大したる魔力の densidade を秘めしや。この世界に精通せし魂がそなたに宿りしということか」


モルガンの瞳から放たれる魔力の気配に、レオンは圧倒された。彼こそが本当の魔法使いなのだと肌で感じ取れた。また、レオンの前世の記憶を見抜いていたことにも驚きを隠せなかった。


「そうか、この世界には魔法というものが存在するのだな。私は正直、戸惑いでいるところだ。何か助言があれば力になってほしい」


「ふむ...」


モルガンはしばしレオンの様子をうかがった後、ゆっくりと頷いた。


「分かれり。そなたこそ前世の記憶を持ちしこの世界に転生した者ということか。わしが力になれるのならば、喜んで助言をしょう。まずはこの世界の実情から教えん」


その後、レオンはモルガンに連れられるがままにその森の奥の小屋へと赴いた。そこは老魔道士の隠れ家でもあり、レオンが新しい世界を学び、理解する場ともなった。


レオンの転生した世界は、人間だけでなく様々な種族が入り交じる、まさにファンタジーの舞台そのものだった。人間の国、エルフの森国、獣人種の大平原国といった具合に、多様な種族が自らの領土を持ち、独自の文化を築いていた。


しかし残念なことに、種族間の対立は絶えることがなかった。特に人間とエルフ、エルフとドワーフの間には長く因縁が続いており、たとえ今は表立った戦争がなくとも、緊張関係が常に漂っていた。


「だが、中にはわしらのような者もいる。全ての種族に敬われ、魔力の粋を極めし者ならん」


モルガンは自身のような立場を説明した。彼はドラゴン人族の老魔道士として、この世界の魔法の粋を極めた者であり、あらゆる種族から敬われる存在だった。ということは、必ずしも種族間の壁は乗り越えられないわけではないと、レオンは感じ取った。


魔法については、この世界でも知識と修行が必要不可欠だとモルガンに教わった。特殊な才能がなければ、誰もが魔道の道を歩むことはできないという。そしてレオンの持つ前世の知識と、揺るぎない探究心は、この道を究めるのに恰好の素質があると高く評価された。


「そなたなれば魔力を得ることも容易いであろう。前世の経験知識を基に修行に励めばな」


困難な道のりが待っていると承知の上で、レオンはモルガンから本格的な魔法修行を受けることにした。前世の知識を存分に活かしながら、一から魔道の基礎を学んでいった。


《魔法の発動》の方法、《魔力の活用》の仕方、《呪文詠唱》の技法。モルガンから惜しみなく教わる中で、レオンは着実に魔力の扱いを体得していった。前世の教養と記憶があったおかげで、短期間のうちに基礎的な理解を得ることができた。


一方で、本物の魔力を手にするためには、過酷な修行と鍛練が不可欠だと、モルガンは口を酸っぱくして言った。


「法力を得ることで心身ともに重圧が掛かる。道半ばで心が折られぬかを試されるのだ」


そしてそれは、まさに試練の連続だった。魔力を精神から発揮し得るか、果たして肉体的にもその衝撃に耐えられるか。レオンは日々を過酷な修行に明け暮れ、幾度となく心が折れそうになった。


大地から魔力を呼び込み、自らの生命エネルギーに変換する。その練習の繰り返しだけで、手足が震え、意識を遷ろうとした。しかしその都度、前世の記憶が支えになった。現代の知識と経験を思い出すたびに、精神力が湧き上がってきたのだ。


「くっ...この修行は並大抵のものじゃない。でも前の世界での思い出を呼び起こせば、何とか継続できる」


レオンは必死になって修行に打ち込んだ。度重なる失敗と絶望に見舞われながらも、前世の記憶を支えに乗り越えていった。モルガンからの指導には常に厳しさが付き纏っていたが、その裏にはレオンの資質を認めた期待があったことを、レオンは理解していた。


「そなたの可能性は十分にある。しかし道のりは遥かに険しい。自らを奮い立たせる源を見失うでない」


中には肉体的にも精神的にも、修行の苦しみに耐えられず、道半ばで投げ出してしまう者も少なくなかった。しかし、レオンには前世からの記憶があったおかげで、そうした危機に陥ることがなかった。


修行は過酷を極めたが、レオンは前世の様々な記憶を手掛かりに乗り越えていった。幼少期の思い出、青春時代の経験、大人になってからの出来事。それらすべてを呼び起こし、自らの内面を奮い立たせていったのだ。


そうした日々を重ねていく中で、レオンは魔力をただの呪文の詠唱以上のものだと実感していった。魔力とは人の精神力が顕在化したもので、心から湧き出でる力だったのだ。


レオンは次第に、この世界の掟に精通していく中で、深い洞察力を身につけた。常に探究心を持ち続けることの大切さを知り、人生についての見識を養っていったのである。


そしてついに、モルガンから魔道の基本を一通り教わり終えた時が来た。


「よくぞ修行を成し遂げた。そなたの境遇から見ても、並々ならぬ資質があったということだろう」


モルガンはレオンを見上げながらゆっくりと語った。レオンは一瞬たじろぎながらも、すぐさま強く頷いた。この道のりが決して平坦ではなかったことを、自分自身が一番よく理解していた。


「長い道のりだったが、そのおかげで多くのことを学ぶことができた。今の私にはいくつかの目的もあります」


「目的とは...エルフの王家の姫イリーナか。そしてあの人間の第一王女アデリナのことであろう」


レオンの心に宿る恋心を、モルガンはすでに見抜いていた。この老魔道士の目は人の内面までも射抜いていた。レオンは素直に頷いた。


「はい、二人を守り抜きたい。この力を得て、二度と失うことはできません」


「ふむ...」


モルガンはしばしの沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。


「もしそなたの決意が本物ならば、わしはその道を手伝わん。この先は更に困難が待ち受けるであろう。しかし方法はある。それについて詳しく教えてやろう」


この師弟の約束こそが、新たな試練の始まりとなった。レオンの2度目の人生は、イリーナとアデリナへの恋心を成就させる物語へと展開していく。前世の記憶を武器に、この世界の掟を乗り越えられるかどうか。レオンの本当の試練はこれからだった。

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