第2節 エルフの森で出会った妖精のような種族
レオンの眼前には信じられないような光景が広がっている。まるで妖精のような可憐な姿の種族にレオンは見とれてしまい、その優雅な動作と儚げな美しさに心を奪われた。
レオンの前を通り過ぎていく彼女たちの姿は、まるで空想の世界から抜け出してきたかのようだった。長身で細い体つきに、艶やかな金髪が風に靡いている。そして何より印象的だったのは、大きくて吸い込まれそうな瞳と、人間とは一線を画した美しさだった。
「人間の常識を越えた美しさだ。でもこの世界では当たり前なのかもしれない」
レオンはただただ見とれるしかなかった。前世で目にしたことのない姿に、新鮮な興味と驚きを覚えずにはいられなかった。同時に、この世界ならば当然のことかもしれないと思わされた。
彼女たちが通り過ぎた小路には、キラキラと輝く粉のような物質が散らばっていた。その輝きにも心を奪われ、レオンは足を止めてしまう。すると、その粉を踏んでしまい、つま先から足首にかけて粉がまとわりついていった。
「おやっ?この粉は一体?」
レオンはその粉に手を伸ばし、指先で軽く触れてみた。粉はレオンの指先に絡みつき、溶けて消えるようにして体内に吸収されていった。それと同時に、レオンの体の一部が弾力のある質感を帯び始め、まるで光を放っているかのようだった。
「な、な、なんだこの現象は!?」
明らかに超自然的な出来事だった。人間の常識を超えた粉の正体がわからず、レオンは戸惑いを隠せなかった。しかし同時に、この世界に関する好奇心がより一層掻き立てられていった。
レオンの体から次第に輝きが失せていき、体の質感も元に戻った。あの一瞬の現象は完全に消え去ってしまった。前世の記憶にはない経験に、レオンは改めて戸惑いを隠せなかった。
「一体あの粉は何だったんだ?できることなら詳しく知りたい」
レオンの心は強く動かされていた。この世界の正体に関する疑問は深まる一方で、その不思議さにも魅力を感じていた。ここには前世では味わえなかった新鮮な驚きと発見が待っているのかもしれない。
そんな期待を胸に、レオンはエルフの彼女たちの後を追うように、森の奥へと歩を進めていった。そしてその先に待ち受けていたのは、エルフの住む集落だった。
エルフの集落は、木々に抱かれたような森の中にあった。木の幹を利用した家屋が立ち並び、上空を葉の橋が幾つも走っていた。巨木の上部には建物らしき構造物すらあり、その景色は地上から想像をはるかに超えていた。
「ここが伝説のエルフの村なのか…。確かに想像を絶する光景だ」
木々に同化しながらも、息をのむほどの美しさを放つエルフたちの集落。レオンはただただ見とれるしかなかった。前世の知識では理解できない生活様式と、自然に溶け込んだ集落の様子に、好奇心は高まる一方だった。
エルフたちの日常を垣間見ると、彼女たちは昔ながらの伝統的な生活様式を守り続けているようだった。薪を拾い、花を手入れし、家事に励む姿が目に付く。しかし同時に、木々の根元から湧き上がる泉の水を利用したり、森の中の不思議な草花を活用するなど、この世界なりの知恵や習慣も見受けられた。
しかし見渡す限り、人間のようすは一切見られなかった。忌々しい対象なのか、人間を視界に入れることを避けているのか。その理由はわからないが、レオンは人間には見せない側面があると理解せざるを得なかった。
このようにエルフの集落は、人間の常識からかけ離れた文化や生活様式を持っていた。しかし同時にその神秘的な雰囲気や美しさにも、レオンは強く魅了されていった。
不思議な光景に見入っているレオンに気づいたのは、一人の金髪のエルフの少女だった。彼女は鋭い視線でレオンを見つめ、警戒の色を隠さなかった。
「外人よ、何をしておる?」
威嚇するように発せられた言葉に、レオンは冷や汗を掻いた。望んでいない場所に踏み込んでしまったことに気づき、民族への畏怖の念すら覚えた。しかし同時に、一人のエルフの少女の圧倒的な美しさにも見とれてしまった。
「申し訳ありません。私はただ旅人でして、このエルフの里の習慣を知りたかっただけです」
謝罪のように頭を下げると、少女の表情は少し和らいだように見えた。しかし警戒の眼差しは変わらなかった。レオンは丁重に質問を続けた。
「あの粉は一体何でしたか?私の体に変化が現れたのですが」
エルフの少女は、慎重にレオンの問いかけに耳を傾けた。そして静かに答えた。
「あれはフェアリーダストという、森の精霊の粉末だ。この森に棲むあらゆる精霊から採れるが、人外の者が触れるものではない」
「フェアリーダスト? そんな物まであるのですね。この世界は本当に不思議なものだ」
レオンはエルフの少女の答えに感心し、新たな驚きを覚えた。フェアリーテイルの概念がここでは現実のものになっていて、人知を超えたものが実在することに気づかされた。
「普通の人間には分かり難いことだろう。この森はかくもエキゾチックな場所なのだ」
エルフの少女は人間をあなどるような言葉を投げつけた。しかしレオンにはその意味が充分に理解できた。前世の記憶があったからこそ、人間の限界を超えた力が宿るこの森の不思議に気づけたのだ。
「エルフさま、この森については更に知りたいことがあります。お聞かせ願えませんか?」
謙虚な言葉とともに、レオンは純粋な好奇心からその問いを発した。エルフの少女はしばしの間、レオンの様子を睨んだ。そして渋々ながらも、森の習慣を説明してくれることにした。
以降、レオンはエルフの少女から、この森の概要について学んでいった。森に満ちる精霊の気配、木々と共生する生活習慣、人外との交流を嫌う風習など、人知を超えた世界観に次々と触れていった。そしてさらに重要な事実も知ることになるのだった。