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勇者レオの末路

過去の去回想はこれで終わりになります。

 遂に人類と魔族の最終決戦が始まった。

聖戦士軍団を筆頭に、人類連合軍が魔族軍へと攻め入る。

オレ達は魔王城へと潜入し、魔王打倒を目指した。

魔王城は広いが、拍子抜けする程敵の抵抗が無い。

全ての戦力を軍の方へと向かわせたのか?

そうなると寧ろ人類軍の方が厳しいかもしれない。

聖戦士軍団は一騎当千の猛者が集まる最強の軍だが、中位以上の魔族が群れを成しているのであれば苦戦は必至だ。

正直連合軍の戦力はそこまで期待できるものでもない。

一刻も早く魔王を仕留め、加勢する必要があるかもしれない。


 長い回廊を抜け、王の間と言える広い空間へと出た。

その玉座に魔王がいた。


「よく来た。勇者とその仲間達よ。歓迎しよう。私が魔王。この世界の頂点だ」  


 ふん、RPGのラスボスよろしく大物ぶった態度でいらっしゃる。

直ぐにその首をぶった斬ってやりたいところだが、聞きたいことがある。


「ハジメマシテだな。魔王サンよぉ」


 内心に湧き上がる黒い激情を抑え込み、俺は魔王に問う。


「挨拶がてら一つ、聞かせて欲しい事がある」


「ほう、何かね? 言ってみると良い」


「アンタが何故こんな戦いを仕掛けたかってことだよ」


 この人類と魔族の戦いが始まったのは、突如として魔族側が人類の生活圏内を襲ったことに端を発する。

それまではお互い不可侵で、交流は皆無だった。


「ふむ……その事か。いやなに、特に大した意味はない。強いて言えば、ホンのささやかな願いの為だよ」


 本当に特に何でもない口調で魔王は答えた。


「なンだと……ささやかな願い? そんなどうでも良さそうな事の為に、戦争吹っ掛けやがったのか?!」


 その魔王の返答に瞬間的に頭が沸騰しそうになった。


「「……」」


 フェルトもガランも無言ではあるが、凄まじい怒りと殺気を魔王へと向ける。


「魔族と人間が呼ぶ我々には、生まれた時から一つの目標がある。至高の頂、つまりは魔王になるという事だ」


 オレの、オレ達の内心など軽く無視するかのように魔王は語る。


「我々の世界では長らく魔王が不在でね。よって皆、魔王をとなるため長い間戦っていた」


 今まで人類へちょっかいを掛けなかったのは、内輪で争っていたのが原因だったという訳だ。


「そして長き戦いの果てに、私が魔王となり頂点へと至った。そう、私は本懐を遂げたのだ」


 魔王は大仰に手を広げ、そう語る。


「全ての上に立った私は気が付くと孤独であった。周り全てが下郎に成り下がったためにな」


 お山の大将になったら周りに誰もいなくなったってか? そりゃご愁傷様で。


「かつて死力を尽くして競い合った好敵手は皆死に絶え、新たに私に挑む強者も出てこなかった。頂点に到達してからの毎日は何とも虚しいものであったよ」


「だから、暇つぶしに人類側に戦争を吹っ掛けたってのか……フザケタ事を抜かしてンじゃねぇッッッ!!!!」


「その通りではあるが、少し違うな。人類との戦いで我々魔族の中から、もしくは人類の中から私に対抗する強者が現れる事を期待しての事だよ」 


 ……陸でもない理由であるのは半ば分かっていたが、ここまで馬鹿馬鹿しい理由だったとはな……恐れ入ったよ。

これならまだ、世界征服だとか、強い者が支配する弱肉強食の世界を作るためとかの方がよっぽどマシだった。 


「よーく分かった。テメェは死ねッ!!」


 問答無用で俺は魔王のクソカス野郎に突撃した。

会話中に自己強化と攻撃術の詠唱は終わっている。

隣をガランが並走する。

オレは右、ガランは左に分かれての左右からの同時攻撃だ。

更にフェルトが法力による攻撃術を重ねる。

魔王の正面と、オレ達の横を追尾する3面攻撃という合計5か所同時攻撃だ、避けられるものなら避けてみろ。

オレの持つ刀とガランの斧、そしてフェルトの3方向から来る攻撃術、どれも牽制なんて生温いものではない、必殺の威力を持った一撃だ。

どれか一つでも当たれば、そう思っていたオレ達の攻撃は魔王に一つのダメージすら与えていなかった。


「なンだと……」


 魔王はオレとガランの一撃を片手で止め、フェルトの攻撃を展開した防御魔法で完璧に防ぎ切ったのだった。

そしてオレ達2人をそのまま弾き飛ばす。


「ふむ……この程度か? これでは期待外れも良い所だ。あまり私を失望させないでくれよ?」


 空中に吹っ飛ばされるも何とか体勢を整え、着地したオレ達に、魔王は事も無げに告げる。

クソがッ……強敵なのは承知の上だが、まさかここまでデタラメな強さだとは……。

真面にやり合えば勝てない、という事を今の攻防で思い知らされた。

だからと言って、降参なんざしないがな。


「ふふ、どうやら対抗手段はあるようだな。面白い。見せてみるがよいぞ」

 

 舐め腐った態度を取りやがって……いいだろう、やってやるよ。


「フェルト、頼むぞ。ガラン、こうなったら出し惜しみは無しだ!!」


「応!」


「わかりました」


 最初の一撃は自己強化のみでの全力だった。

だがそれは軽くあしらわれた。

更に魔王はその気になれば恐らくオレ達を瞬殺出来た。

だが、戦いを楽しみたい奴は様子見に徹してそうしなかった。

余裕扱きやがって……あそこでオレ達を倒さなかったことを後悔させてやる。


 フェルトは法力を練り上げてオレ達に強化術を施す、オレ達も力を集中し更に能力を強化する。

自己バフと味方バフの重ね掛けだ。

本来ならこれは効果の強い方が弱い方を打ち消す為、両立は出来ないがそこはフェルトの天才的な才能で可能とした。 

とは言え、普通は出来ない強化である以上、体にかかる負担も大きいため短期決戦用の切り札だ。

最初のプランではコンビネーションを駆使して少しずつ、確実に魔王を削っていく予定だったが、中途半端な戦い方では一瞬で捻られるだろう。

全力全開でブチ殺してやる!


 オレとガランのフェイントや緩急をつけたコンビネーションと、フェルトのサポートで魔王とは互角以上に戦えていた。

徐々にだが戦況がこちらが有利になって来ている。

だが、魔王にはまだ余裕が有る。

この戦いを楽しむ余裕が。

逆に押しているハズのオレ達にはそんな余裕が無かった。

魔王の攻撃で受けた傷はフェルトが瞬時に癒してくれるが、体力や法力の消耗は激しく、無理矢理な強化を施されている為、体にかかる負担は大きい。

追い詰めてはいるが、このままではオレ達の方が潰れてしまう状況だった。


 何度目になるか分からない攻防を終え、魔王とオレ達の距離が開く。


「ククク、素晴らしいぞ。勇者達よ。これ程に苦戦するのはいつ以来だろうか」


 魔王にも確実にダメージは蓄積されているが、それでも過去の戦いでかなりの修羅場を潜っていることもあり、まだまだ余力を残している様だ。

反対にオレ達の方はもはや限界だった。

身体がぶっ壊れてる勢いで力を出してるから当然だが、それでもこれだけやっても届かないという事実に絶望しそうになる。


「ッ……クソがッッッ!!!!」


 荒い息を吐いて悪態をつくが現状どうすれば目の前の魔王を倒せるか、見当もつかなかった。

こうなったら自爆特攻でも仕掛けて、人類軍に後を託すか?

それも人類軍が魔族軍に勝利したという結果が前提だが。


「流石は魔王……今まで倒してきた魔族達とは次元が違う強さですね」


 フェルトがポツリと呟きながら、懐から何かの薬の様なものを取り出す。

何だ? 回復薬の類か?

手持ちは全て使い切ったと思ったが、まだ在ったのか。

ふと見ると、隣のガランも同じような物を取り出していた。

まだあるなら俺にもくれよ、回復したら魔王に特攻をかけてやる。


「これは奥の手中の奥の手です」

 

「最終手段だ、受けてみろ」


 そういって2人はソレを一気に飲み込んだ。

その瞬間、凄まじい法力が2人から溢れ出した。


 「なッ……!?」


 「……ほう?」


 驚愕に目を丸くするオレと、興味深げに唸る魔王。

フェルトとガランから発する法力も凄まじいが、その容貌の変化も驚くべきものだった。

顔中だけじゃない、目に見える部分から血管が浮き出ている。

明らかにヤバい。

あの薬は寿命を前借りして、限界を遥かに超えた力を得る禁薬だった。

オレにだけそれを渡さなかったのは、この世界の事はこの世界で生きる自分達で解決するべきだという彼らなりの矜持と、オレの命を守るためだった。

2人はこの戦いで死ぬつもりだった。


 「あああああああああああああああああああッッッッッ!!!!!!!!」


 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッ!!!!!!!!」


 雄叫びを上げる2人の姿はいつも見慣れたソレとは全く違うものだった。

常に冷静で、笑みを絶やさないフェルト、寡黙で仏頂面なガラン。

今の2人は正に獣の様だった。


 「ぬぅッ?!」


 魔王の身体に光る鎖の様な物が巻き付く。

あれは最上級の拘束術だ。

上位魔族でも身動きが全く取れなくなる、極めて強力な戒めの鎖だが、これには一つのリスクがある。

無理矢理拘束を引き千切った時、そのダメージが術者にフィードバックされるのだ。

つまり、魔王にこの鎖が破られる事となったらフェルトは……。


 「グゥ……これは……だが、この程度で我を封じれると思うなよ!」


 流石の魔王も完全に動きを封じられると思われたが、メキメキと音を立てながら拘束から逃れようとする。

不味い……このままではフェルトが……。


 「がああああああああああああああああああッッッッッ!!!!!!!!」


 その時ガランが魔王目掛けて一直線に奔る。

その速度は凄まじく、蹴り出した地面が爆発した。

音速を超える速度で魔王に肉薄し、ガランは最強最速の一撃を魔王に叩き込んだ。


 「舐めるなッッッーーーーーーーー!!!!」


 ガランの一撃が魔王を両断するかと思われたその時、フェルトの拘束を引き千切り、両腕で魔王は必殺の一撃を防ぐ。

命を燃やし尽くして放たれたガランの一撃は凄まじく、ガードした魔王の両腕を切断し、肩口に食い込んだ。

だが、魔王の命を絶つまでに至らなかった……。


 数多くの戦いを経験し、遂には至高の頂に至った魔王すらも心胆を寒からしめる極限の一撃だが、彼奴はそれを防ぎ切った。

その安堵に一瞬だけ彼奴の頭から抜けていたのだ……このオレが。

あの2人程でなくても、死力を尽くせば限界くらい超えられる!

オレは残った力の全てを掛け、魔王に突貫する。

両腕を絶たれているので、ボディがガラ空きだ。

ガランの身体が丁度死角になっていたこともあり、オレの最後の一撃は驚くほど簡単に魔王の心臓へ吸い込まれていった。


 全力の一撃は魔王の心臓を突き破り、完膚なきまでに破壊する。

強大な力を持つ魔王とて不死身の生物ではない。

特に魔族にとって心臓は魔力の源でもある重要な核だ。

これを破壊されては最早どうやっても助からないのだ。


 勢いのまま柱にまで突っ込み、魔王を縫い付ける。

断末魔も、ラスボスらしい称賛などの声もなく魔王は息絶えた。


 「……勝った」


 ついにあの魔王を倒した。

だが、俺の心にはそれを成した達成感も喜びも湧かなかった。

魔王の遺体から愛刀を引き抜く。

それを杖代わりに歩き、仲間達の姿に目をやる。

2人は既に絶命していた。


 ガランの命はそう長くなかった。

さっきの無理矢理なブーストで全部使いきったのだ。

フェルトも限界に達していた身体をブーストさせ、拘束術を魔王にかけ、それを打ち破られた反動で命を落としていた。

涙が止まらなかった。


 何時までも泣いている訳にはいかない。

まだ人類軍は戦っているかもしれないのだから。

魔王の首を持って戦場に行けば、直ぐにでも決着はつくだろう。

オレはフラフラになりながらも刀を持って魔王の遺体の前に立つ。

そして刀を振り上げた所で、


「その必要は無い」


 その言葉と共に放たれた魔力弾の直撃を受け、オレは吹き飛ばされた。


「ガハッ……」


 奇襲を受け倒れ込む。

攻撃を食らった!?

城内に隠れていた魔族のクソ共か?

見上げるとそこには魔族の軍隊がいた。

その先頭に立っている奴は…魔王軍参謀のジューダ。

参謀なんて肩書を持っているが、上位の魔族共を悉くオレ達に狩られた結果、その地位に就いただけのクソザコだ。

だが、こいつは人類軍との決戦の場にいたはず。

コイツがここに来ているという事は……。

無念だ……だが、教団にはまだ戦える者達はいる。

他の国々だってそうだ。

何より魔王や上位魔族はほとんど消した。

最終的には人類は勝つだろう。

ならばオレのやるべきことは……目の前のゴミ共を出来るだけ処分するだけだ。

刀を構え、最後の特攻を仕掛けるべく命を燃やす勢いで法力を練り上げる。

そのオレに冷や水を浴びせるような声が響く。


「そこまでだ、勇者よ。剣を収めよ」


 そこに現れたのは人類軍とその王達だった。


「……なンで、アンタ達が魔族のクソ野郎共と一緒にいるンだよ?」


 ハッキリ言って困惑していた。

戦っていなかったのか?

いや、奴等の装備を見ると戦闘の跡が残っている。

意味が分からねぇ……。


「ふっ、未だに古い価値観に縛られているか。所詮は大局を見極められん愚物であったようだな」


 馬鹿にしたような目でオレを見下す、人類の王達。

一体どういうつもりなんだ?

魔族と仲良く雁首揃えやがって。


「まぁ、そう目くじらを立てる事はございますまい。バルト王よ」


 バルト王……人類連合軍の宗主国の王で、オレを召喚した張本人だ。

そいつに慇懃に声を掛ける魔族のジューダ。


「ふむ、確かにその通りであるな。良かろう、勇者よ。貴様に全てを教えてやろう」


 そういって奴はゆっくりと語り出した。

勇者召喚からこれまでの事を全て。


 この世界で魔王が誕生し、人類と争いをする事になったのは、先程魔王本人が言っていた通りの理由だった。

基本的に魔族は魔王を目指し、人を見下しているが、何も全ての魔族がそういう訳でも無い。

主に中位から下位に位置する魔族は、本気になって魔王を目指したり闘争を求めてはない。

だが、魔王によって人類と争うようになってからは、そういった争い事に興味の無い魔族まで駆り出され、人類と殺し合いをさせられる事となった。

力こそ全てな価値観の魔族だが、極端なのは高位魔族なので力の弱い者達は戦いを強要された犠牲者でもあるとのことだった。

血を流し死んでいく同胞を前に、終わらぬ戦いに疲れていた弱小魔族の代表であるジューダはこの状況を打破する為に、人類の王達と密かに接触を図った。

人類側も同じように疲れ切っており、ジューダの提案を秘密裏に受け入れた。

その提案は魔王及び、上位魔族の抹殺である。

奴等さえいなくなれば、このバカげた戦争も終わり、人と魔の共存する理想の世界を体現出来るという話だ。


 とは言え、それはかなりの困難を伴った。

まず、上位魔族の力は単騎で一軍を殲滅できるほどに強力な物だ。

人類側の戦力で真面に対抗できるのはそれこそ『神聖人理教団』位の物である。

だが魔王を討つ戦力としては心許無いのがネックとなっていた。

そこで奴らは考えた。

魔王に対抗できる戦力を別の場所から呼び出せば良いと。

それが勇者召喚だった。


 そうして奴らは勇者を召喚するための研究を行った。

そして見事にオレを引き当てたという訳だ。

だが、奴らとしてはオレが勇者だった事に大層ご不満があったようだ。


 「多くの代償を払い、呼び出した勇者が貴様の様な愚物であった事には大いに落胆したものだ……」


 溜息を吐きながらそう語るバルト王。

フザケンナ。

テメェらの勝手な都合で呼び出しておいてソレかよ。

魔族もクソだが、コイツらも同等にカスだな。

オレは心の中で吐き捨てる。


「だが、この世界を救う勇者としての知性も品性も感じられない、煽てればすぐにのぼせ上がる下郎が、まさか魔王を屠るに至るとはな……世の中何があるか分からんものだ」


 ……言ってくれるな。

確かに召喚当初のオレが頭勇者な馬鹿ガキだった事は否定しねぇが、それでもクソミソに貶される謂れは無ぇ。

それに、コイツらは早々にオレに見切りを付けた。

オレに対して全く期待など抱かず、適当に煽てて城から放逐したって訳だ。

オレがソロプレイだったのはそう言う事だった。


「あれから更に時間と費用を掛け、勇者召喚を試みたが残念ながら成功には至らなかった」


「そんな中で、廃棄した筈の貴様が狂信者共の元で上位魔族と戦っていたとは……予想外であったわ」


「……」


 狂信者?魔族共に全てを奪われ、絶望の中でも折れずに戦った教団の皆を狂信者呼ばわりか。

多くの者達が、教団に散々世話になっていながら、白眼視していたのはこういう価値観が根付いていたからだという訳か。

救えねぇな……。

俺達はこんな奴らの為に命をかけて戦っていたのかと、そうやるせない気持ちを抱くと同時に、俺は気付いた、気付いてしまった……。


 今この場には連合軍と魔族のクソカス共しかいない、そして奴らの鎧や武器には戦闘の跡が生々しく残っている。

つまり、教団の聖戦士達は……。


「テメェら……教団の聖戦士達はどうした?!」


「ふっ、言わなくても分かるだろう?」


 オレを嘲笑いながらバルトのカス野郎が手を上げる。

そしてこれ見よがしに武器を掲げるクソカス共。


「最初からそう言うつもりだったという訳か……」


「その通りだ」

 

 オレの問いに答えるクソ野郎、ジューダ。


「人魔共存の未来には、教団の様な狂った復讐者は必要ないのだよ」


 続けて答えるカス野郎、バルト。


「そして…その教団の思想に汚染された勇者もなッ!」


 クソがそう叫んだ瞬間、オレの身体に凄まじい力が圧し掛かった。


「グ……ガッ!?」


 一瞬で身動きが取れなくなる。

会話の中でオレは溢れ出る怒りと憎悪を押し殺し、ひたすら力を溜めていた。

目の前のクソカス共を葬る為に。

満身創痍で本来の十分の一程度の力しか出せないだろうが、それでもクソ共数匹は纏めて葬れる算段だった。

だが、力が溜まりきる前に先手を取られてしまった。

奴等もまた、会話の中でオレを封じる魔法の発動を行っていた。


「如何かね? 計100人からなる、我ら人魔の合同魔法による封縛術は?」


 得意気に語るクソジューダ。

搔き集めた力でこの束縛から逃れようとしたが、ビクともしない。

万全の状態ならこの程度の術なんぞ打ち破れるのに。


 クソがあああああぁぁぁぁッッッッ!!!!

声を上げる事すらできない俺は、心の中で叫びつつも、ひたすら術から逃れるべく足掻いた。

そんなオレの首筋に、冷たい刃が触れる。

カス野郎がオレの愛刀を突き付けてくる。


「ふむ、中々の業物であるな。魔王を討ったこの剣で、貴様も葬ってやろう」


「ふふ、では私は更に斬れ味が増すよう、強化術でも掛けておきましょうか」


 カス野郎はよりによって、オレの愛刀でオレを殺ろうっていうのか!

そしてクソ野郎は汚ねぇ魔力でオレの愛刀を穢そうとしている。


「聞け! 今ここに、悪しき存在たる魔王と勇者を討ち滅ぼす事によって、長きに渡る戦乱の世に終止符が打たれる!」


「人と魔はこれより共に手を取り合い、永遠の平和が世に訪れる事になるだろう!」


 何が悪しき存在だ、テメェらの方がよっぽど悪じゃねぇか!

裏でコソコソ悪巧みして、命懸けで戦っている人間を馬鹿にし、散々いい様に使い捨てておいて、自分達が正義みたいな面をしやがって。

絶対に許さねぇ……。

今ここで、死ぬことになっても、オレはテメェらを絶対に許さない。

どんな事をしてでも、根絶やしにしてやる。

心の中で呪詛を吐き散らす。


「さらばだ! 異世界の来訪者よ。」


 そう抜かしたカス野郎の一撃を受けた所で、オレの意識は絶たれた。

ありがとうございました。

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