勇者レオと仲間達
3話目になります。
よろしくお願いします。
オレをクソ共から救い、更には治療までしてくれた謎の神官と一瞬でクソ共をバラした戦士らしき2人の人物。
彼等は『神聖人理教団』という組織の一員だという。
神聖人理教団とは、昔から魔族と戦っている集団の事らしい。
その源流は魔族によって攻め滅ぼされたある王国の生き残りで、同じように魔族によって大切な物を奪われた人達が寄り集まって組織されたそうだ。
教団を名乗っているのが、神の教えというよりは魔族を殺すための手段を教義としているからだという。
中々にイカれた集団であったが、それはオレにとっては色んな意味で救いだった。
彼らがここに来たのは、魔族部隊が近隣の村々を蹂躙しているという情報を掴み、その討伐の為に赴いたからだ。
結果は間に合わず、オレが世話になった村人達は皆殺しにされた。
彼等はそれを謝罪したが、別に彼等が悪い訳じゃない。
一番悪いのは魔族のクソったれ共だ。
そしてその次に悪いのは、そんなクソ共に敗れ村人を救えなかったオレであった。
オレは彼等に頼み込み、教団へと入れて貰う事にした。
弱いオレでは断られると思っていたが、魔族を憎み滅ぼすことを志す者は同志であると、彼等は快く受け入れてくれた。
こうしてオレは仲間を得ると同時に、魔族を根絶やしにする為の力を付けていくことになる。
教団に迎え入れられたオレはまず自己紹介をした。
こことは異なる世界の日本という国から、こちらの世界へ勇者として召喚されたと。
そして力を持って調子に乗っていた所で、この様な状況に陥ったと隠さずに話した。
今更変にカッコつけている場合でもないし、彼等に対しては誠実でありたいと思ったからだ。
一通り話を聞いてくれたのは、神官らしきかなりの美人さんである。
だが男だ。
彼はオレの話を聞いて何か思うところがあったらしい。
まず、異世界から勇者を召喚するなんて方法に対して余り良い気がしなかったらしい。
これはオレに対してどうこうではなく、自分達の世界の事は自分達でどうにかするべきであるという至極真っ当な考えからである。
そもそも勇者召喚とは聞こえが良いが、やってる事は拉致と変わらない。
全く関りの無い異世界の人間を、自分達の都合で拉致し、更には殺し合いをさせるなんて道理に適ってないと憤る。
召喚された時は余り気にしなかったが、確かに言われてみればその通りだ。
異世界の勇者召喚なんていう、憧れていたシチュエーションに大分酔っていたな、オレ。
色々考えなければならない事はあるが、今のオレは魔族のクソ共を根絶やしにする事が最優先なのでその為の力が欲しい。
なので王国の召喚については全てが終わってから追及するという事でこの話は一旦止めた。
教団は魔族を滅ぼすために色々な研究や修練を重ねて来たというのだから、まずそれを学ばせて欲しいと頼み込む。
神官の男、フェルトはオレの意を汲んでくれた。
そしてこの日からオレは修行と、魔族討伐の日々を送ることになる。
フェルトから法力(教団では魔力をそう呼んでいる)の使い方を学び、彼の相棒である戦士・ガランから戦闘の手ほどきを受ける。
そして魔族との戦いでは学んだ力を実践し、これをせん滅するのが日課だった。
フェルトはハッキリ言うと天才だ。
法力の使い方が群を抜いて上手く、回復、補助、相手への妨害、攻撃などあらゆる系統の術を繰り出す。
器用万能の見本みたいな男でしかも滅茶苦茶美形で性格も良し。
何処の完璧系主人公だよって感じだ。
戦士のガランは質実剛健というか、派手さは無いが基本に忠実な戦い方をする。
ただ、基礎スペックがとんでもないレベルなので、通常技が必殺技とかいう、イカれた戦闘力を持っている。
余り饒舌な方では無いが、仲間を思う気持ちは強く、頼れる兄貴分って感じだ。
ちなみに教団では戦士の事を聖戦士と呼んでいる。
法術(魔法を教団はそう呼ぶ)をメインに使う者達は神官と呼ばれている。
この2人の他にも教団の聖戦士や神官、非戦闘員の方々と交流を深め、オレは充実した生活を送っている。
心の中にある魔族への憎悪は消えないが。
さて、神聖人理教団のこの世界における立ち位置だが、実の所かなり微妙な立場にある。
対魔族に特化した教義という名の戦闘法はかなり役に立っているのだが、この世界にある色んな宗派の宗教団体から爪弾きにされている。
祈ったところで救ってくれる訳でもない神よりも、自分の手で戦う事こそ救いの道だってのが神聖人理教団だからな。
そりゃあ相容れないわ。
現状では教団は対魔族の傭兵として活動している。
同時に魔族によって住む所を失った人達の受け入れも行っている。
その結果勢力が拡大しているのだが、それに対して国々や別の宗教団体が危機感を抱いているとか。
馬鹿馬鹿しい話である。
魔族という脅威を前にしても、人類は国家間でも宗教間でも足並みが揃っていない。
そんなんだから負けそうになってるんだよ。
この世界に召喚され、教団の人達と出会って数年になる。
オレは見違えるように強くなった。
まだまだ粗い所はあるが、修行と実戦によって教団でも上位に入るレベルの力を付けた。
元々チートっぽい力は持っていたから、それを伸ばすことで大幅に強くなったのだ。
ちなみにフェルトとガランは教団最強クラスだ。
超人的な強さを持つに至ったオレだが、昔の様に調子に乗ることは無い。
一度痛い目に合ったといのもあるが、結局どれだけ力を付けても守り切れない人達がいて、その度に悔しい思いをしていたからだ。
それに忌々しい事だが、上位の魔族は手強い。
オレとフェルト、ガランの3人掛かりでも容易に倒せる相手ではないのだ。
奴等のトップに君臨する魔王は更に強大な力を持っている。
現時点のオレ達では勝てるかどうかも怪しい。
時間はかかるが、地道に力を付けてその上で魔族の勢力を削っていくのが一番の近道なのだ。
それからまたいくらかの月日が流れた。
オレも20代半ばとなり、いまや勇者としてその名に恥じない力を身に着けた。
フェルトは相変わらず美形で凄まじい法力を身に纏っている。
もうアラサーのはずなんだが、その美貌は益々輝きを増している。
某国の姫やら貴族から声を掛けられているのだが、本人にはその気はなく、魔族殲滅を目指している。
そしてガランだが…彼もまた力を付けた。
だが、オレ達と違ってガランは力を得るのに大きな代償を払っていた。
元々ガランはこの世界でも特に珍しくない、冒険者の一人であった。
魔物を狩ったり、傭兵として魔族と交戦したりなど、それなりの腕前の普通の人間だった。
相棒であり、幼馴染の女性と結婚し子供を儲けた事で冒険者を辞め、村で狩人として生活していた。
そんな彼の村がある日、魔族に襲われた。
妻と子供を逃がす為ガランは必死になって戦ったが、結果は語るまでもない。
オレと同等、いやそれ以上の地獄を見せられたガランは駆け付けた教団の人達に救助された。
ガランは復讐を誓った。
だが、特に秀でた力を持っていた訳ではないガランでは、どれだけ頑張っても大した力を得る事は出来ない。
そんな彼がどうやって教団トップクラスの力を得たのか、そして払った代償とは何か?
答えは人体改造である。
魔物の血肉を体内に取り込む禁忌の行為だ。
血肉を取り込むという事は勿論食事的な意味ではない。
筋肉や骨、内臓を人体に移植する事だ。
狂気の沙汰としか思えないが、ガランはそれを望んだ。
仮令死ぬこととなっても、自身の実験データが有効活用されれば良いと、そして魔族殲滅を実現する為、改造手術を受けたガラン。
ガランは見事手術を耐えきり、力を得た。
だがそれは、自分の寿命を縮めるという代償を伴った。
フェルトがガランと組んでいるのは実力もあるが、ガランの身体のメンテナンス係としての側面もあった。
そんなガランもいよいよその命が尽きようとしていた。
魔物の血肉を取り込んだ副作用や拒絶反応が起きる周期が徐々に狭まっている。
余命はいくらなのかは分からないが、そう長くはない。
本人もそれは分かっているだろう。
オレ達もそれを嫌でも理解していた。
そんな中、オレ達の元にある吉報が届く。
各国の王達がついに重い腰を上げたのだ。
今までは自国の防衛を第一に軍隊を引き篭もらせていた国々が軍を派遣し、人類連合軍を結成したのだ。
この数年でオレ達勇者チームを中心した教団が、強大な力を持つ上位魔族の多くを討ち取って来た。
これによって今まで劣勢だった人類側が初めて優勢になり、この勢いで魔王とその他の魔族を討つべく各国の王達が結託したとのことだ。
長年教団は、魔族を討つべく国の王達に進言したが、却下されていた。
今になってようやくこれまでの努力が実を結んだわけだ。
今更になって勝ち組に乗ろうとする奴らに思う所があったが、これ以上無い追い風なのは事実だ。
この報告を聞いたガランは静かに呟いた。
「……間に合ったな」
長く続いた人類と魔族の争いの決着は近い。
今回の戦いは最初にして最後の大決戦になる。
大雑把な話としては、教団の聖戦士軍団を筆頭に各国から集まった連合軍は、魔族の領域で魔王の根城が近い大草原で魔族の軍と対決する。
その戦いの間を縫って、オレ達勇者チームが魔王城へと潜入し魔王を討つ。
シンプルイズベスト過ぎて拍子抜けするが、魔王を打ち破れる戦力はオレ達しかいない。
勿論、連合軍が魔族軍を打ち破ったら、オレ達の応援として駆けつける手筈だが。
最後の決戦を前に教団の本部で仲間達と必勝を祈願してのパーティーを行った。
和やかな雰囲気だが、やはりそこには最後の戦いに向けた決意を感じさせるものがあった。
「よう、やってるかい?」
オレに声を掛けて来たのはかつてオレ達と肩を並べた聖戦士の内1人だ。
魔族との長く続く戦いで身体の彼方此方を失いながらも、魔物の血肉を取り込んで戦った歴戦の猛者だった。
今は流石にガタが来て、最前線からは離脱しているが本部の守りを担う重要戦力でもある。
「俺ももうちっとばかり若ければ参戦したんだがなぁ」
「いや、おっさんマジで無理すンな。ガラン程じゃないにせよ、アンタも結構ヤバイ所まで行ってるンだろ? 魔王のクソヤローはオレ達が必ず討ち取ってやる。アンタは此処でガキ共と一緒に吉報を待ってろよ」
「カカカ、期待してるぞ」
出会った当初よりも皺と傷の増えた顔でおっさん……ドルマンは破顔する。
ドルマンにも随分と鍛えられた。
法力についてはフェルト、戦闘についてはガランとの修行で鍛えたが、ドルマンからは主に戦術や戦う上での心構えなどを学んだ。
あの頃の俺は若者にありがちな視野狭窄に陥っていて死にかけた事が良くあった。
そんなオレにドルマンは戦って、その上で生き残るためのノウハウを叩き込んでくれた。
なんだか懐かしい気持ちになる。
それからいくつか思い出話に花を咲かせた。
パーティーも山場を迎え、俺は酒で火照った身体を冷ますべく、会場から少し離れた所で佇んでいた。
そこで物思いに耽る。
これまでの戦いで人類側は有利な所まで進めたが、その分犠牲も多かった。
嘗て聖戦士の1人で教団トップクラスの実力を誇った男がいたが、彼は上位魔族との戦いで命を落とした。
彼だけじゃなく、他にも多くの聖戦士や神官達が散って行った。
漸く、彼等の無念を晴らせる時が来たんだ。
そして1人また1人と戦いの中で失われていく命もある一方で、新しく聖戦士や神官として力を付けていった者達がいる。
魔族に襲われた町や村の生き残り達が皆、力を求めて教団にやってくる。
そうやって教団はどんどん力を付けて来た。
ここには多くの人達がいる。
魔族に全てを奪われ、復讐の為に戦う者、守る者達の為に命を懸ける者、他にも色々な理由でここにいる者達もいる。
その中でも気になるのは災孤児達だ。
この孤児達の中に聖戦士や神官を目指す者がいるが、出来ればその道は選んでほしくない。
辛い事や悲しい事がある中でも、その後の人生は明るいものであって欲しい。
血を流し、憎しみの炎に焼かれながら殺し合いをするのはオレ達の代で十分だ。
少しばかりボンヤリしていたオレの前にフェルトとガランがやって来た。
「おー、今夜の主役2人がこンなところで何しに来たンだい?」
「貴方もその主役でしょうに」
オレの軽口にフェルトが苦笑して答える。
「あー、そろそろドルマンのおっさんがウザ絡みする感じか」
あのおっさん酒が進んでくると絡み上戸になるんだよな。
「……まぁ、そんな所だ」
ガランも苦笑交じりにそう答える。
普段は口数も表情の変化も少ないガランだが、それなりに長い年月でチームを組んでいたこともあり、表情の変化も読めるようになったし、会話も結構続くようになっていた。
「いよいよ……だな」
「ああ」
「ええ、そうですね」
まぁ、野郎3人なんで姦しいってことは無いんだが、これで結構話が通じるんだよね。
「魔王がどの程度か知らンが、負ける気はねェ……2人とも、頼りにしているぜ?」
「最善を尽くそう」
「任せて下さい」
決戦は近い。
俺達3人は必勝を誓った。
ありがとうございました。
評価を頂けると嬉しいです。
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