プロローグ
初めての投稿になります。
よろしくお願いします。
かつて人類と魔族が互いに争い、血で血を洗った忌まわしき『人魔戦争』の終結から200年。
その戦争を終わらせた英雄・ジューダが興したアマルガム王国の宮殿にて、盛大な記念式典が行われていた。
自国の高位貴族及び、他国からの重鎮を招いたその式典はまさに豪華絢爛を極め、その威光を世界に知らしめるものであった。
式典には英雄・ジューダも出席していた。
ジューダは魔族であり、その寿命は人の物よりも遥かに長い。
国を興してからは100年程、王として国を統治していた。
その後は息子であるジュリアスに王位を譲り自身は一線を退いていた。
現王ジュリアスは偉大な父の後を継ぎ、同じく100年間国をまとめ上げていた。
そして終戦から200年を記念したこの場において、息子でありこの国の王太子であるジュドー第一王子と、その婚約者であるアマーリエ・コレル公爵令嬢のお披露目を行おうとしていた。
一通り挨拶も終え、和やかなムードが漂う宮殿内でまさかの事態が起きる。
先程紹介された第一王子のジュドーが突如壇上へ上がった。
そのジュドーの隣には婚約者の姿は無く、代わりにピンク色の髪をした美少女が立っていた。
その周りには王太子の側近である、宰相令息、騎士団長令息、更に平民ではあるものの、国で一番の商人の息子が少女を守る様に立っていた。
その光景に式典に参加した者は訝し気な目を向ける。
予想だにしてない王太子達の行動に、ジューダもジュリアスも呆気にとられていたが、次の王子の言葉に絶句する。
「私、ジュドー・アマルガムはアマーリエ・コレル公爵令嬢との婚約を破棄する!」
その宣言に宮殿内は騒然となる。
先程まであった雰囲気は霧散し、一気に混乱と剣呑な空気が場を支配した。
そんな中で婚約破棄を告げられたアマーリエ・コレル公爵令嬢は大きく息を吐いた。
愚かな男へと成り下がったとは思っていた。
いずれ何かをやらかすとは思ったが、まさかこのタイミングで行うとは…。
アマーリエは頭を押さえ、もう一度大きく息を吐いた。
「理由をお聞かせ願えますか? 殿下」
冷静に、王妃教育で得た処世術でジュドーに問いかけるアマーリエ。
だが、ジュドーはそんな彼女を鼻で笑いながら告げた。
「ふん。言わなければわからないのか? ならば教えてやる。貴様はこの麗しきフレイア男爵令嬢を虐めていたな? それが理由だ!」
自信満々に告げる第一王子に会場中の者達が絶句する。
そんな下らない理由で婚約破棄をするとは正気か? と。
アマーリエも理由はある程度推測していたが、まさかここまで頭の悪い発言をするとは思っていなかったため、呆れて物も言えなかった。
そんなアマーリエの姿に何かを勘違いしたのか、得意気にあれこれとベラベラ喋る第一王子。
フレイアとの馴初めや賛美、そして彼女を妬み、嫌がらせをするアマーリエへの罵倒。
勿論アマーリエ本人はフレイアに対して虐めなど全く行っていない。
その存在は認知していたが、関わることなく放置していた。
一応、婚約者としてジュドーにはいくらかの苦言を呈したが。
昔はこんな男では無かったのだが……一体どうしてこうなったのか、アマーリエには理解出来なかった。
10年前、初めて出会って婚約を交わした時のジュドーはとても利発で、流石はあの英雄・ジューダの血を引く者だと感銘を受けたものである。
婚約者として、将来の王妃として彼を支えるべく王妃教育を頑張る毎日であった。
何時からだろうか、ジュドーが彼女との関りを避けるようになったのは。
王妃教育が始まってから暫くの間は良く会っていたし、親しく交流をしていた。
忙しい合間を縫って会っていた日々だったが、徐々に疎遠になって来た。
そして年頃になり、王国内の学園へ通うようになってからはほぼ会う事も無くなった。
お互い公務で忙しいという事もあったが、それでも最低限の交流さえほとんど無くなっていたのだ。
代わりにフレイア男爵令嬢がジュドーとよく一緒に行動をしていた。
フレイアは元平民だったが、後に男爵の娘であったことが発覚し男爵家へ迎え入れられた。
元は平民であったためか、普通の貴族令嬢と違い感情表現が豊かで、その可憐で庇護欲をそそられる容姿から多くの男性を魅了した。
ジュドーだけでなく、彼の側近さえも彼女に夢中になり、その為学園内で色々と面倒な出来事が起きた。
フレイアは多くの男性に囲まれる一方で、女性からはとても嫌われていたのだ。
その結果虐めなどの問題が起き、それを男性陣は女性陣の嫉妬によるものだと断定し、対立する事になる。
結果、学園内の雰囲気は最悪のものになった。
アマーリエは公爵令嬢であり、王太子の婚約者という立場から女性陣の筆頭へと祭り上げられていた。
その為、フレイアに起きた虐め問題の首魁として男性陣に見られていたのである。
虐めなどに関わっていないアマーリエはこの状況に困惑した。
そもそもアマーリエは学園に所属しているものの、公務で他国へと渡っていることもあり、在籍期間は半分程度だ。
交流も殆ど無くなり、情もとっくに尽きて義務感だけで結ばれているジュドーとの仲を嫉妬して、フレイアを虐めるなどアマーリエにはあり得ない。
それらをきちんと説明し、誤解という事で話は終わったと思っていたのだが、まさかの記念式典でこれである。
壇上で得意気に喋っているジュドーに対してついて英雄の怒りが爆発する。
「この愚か者がッ! 貴様は自分が一体何をやったか分かっているのか!?」
「これはこれはオジイサマ。無論分かっていますよ。そうでなければこのような場でこんな事を言う筈がないでしょう?」
どことなく馬鹿にしたような態度でジューダを見下ろすジュドー。
その英雄に対する不遜な態度に参加者たちの目つきが剣呑な物に変わる。
そしてジューダの怒りも最早殺気と見紛う程に苛烈な物へと変化する。
このような状況でもジュドーはヘラヘラと笑っていた。
「よもやここまでの愚物へと成り下がっていたとはな……もう良い、貴様は廃嫡する。周りの側近共もだ。元王太子の愚行を止めずに貴様達は今まで何をやって来たのだ!?」
そうジューダが告げるもジュドー達は軽く流すような態度をしていた。
先代の王にして稀代の英雄からの宣言にまるで堪えていないようであった。
そんな彼らを訝しく思っていた所、ジュドーの隣にいたフレイアが彼の袖をクイッと引く。
ハッとした顔になり、ジュドー達は壇上で喚くように騒いだ。
それが何ともワザとらしく、下手糞な演技を見ているようで不気味であった。
ジューダもそう思ったらしく怒りから困惑へと顔を変えていく。
だが、直ぐに気を取り直し衛兵たちに指示を出す。
「あの馬鹿共を壇上からさっさと引き摺り下ろせ!」
衛兵達が壇上に上がり、元王太子と側近達を拘束しようとした所で、それまで一言も喋らなかった彼女が静かに口を開いた。
「やれやれですね。もうこんな下らない茶番など終わりにしましょう?」
鈴の鳴るような声とはこのような物なのだろう。
そんな声を発した彼女、フレイアは片腕をそっと上げると何かの呪文を唱えた。
その瞬間、式典のほぼ全ての参加者たちの身動きが一切取れなくなった。
「なっ?!」
こんな魔法はありえない、英雄・ジューダすらも動けない程の強力かつ広範囲な捕縛魔法など。
ジューダは元より、現国王ジュリアスやアマーリエも魔法使いとしての力量はこの国でも最上級のものだ。
更に式典の警備を務めている騎士団長及び衛兵達が装備している武具は、対魔法に優れた逸品だ。
並の拘束魔法など弾いてしまう。
しかしながら、フレイアが発動させた魔法には全く効果が無く、皆動きを封じられた。
壇上に上がった者達には魔法は発動されておらず、元王太子と側近達はおろか衛兵達も自由に動けている様だ。
訳が分からない。
身動きが取れない参加者たちは一様にそう思った。
「なンだよ。もう終わりかよォ。せっかく断罪返しから真・ざまぁの逆転コンボを決めようかと思ってたのによォ……」
元・王太子ジュドーがまるでチンピラのような言葉でフレイアに文句をつける。
「貴方が面白い余興をやるからという事で付き合いましたが、正直に言って、下らな過ぎです。さっさと終わらせましょう」
対してフレイアは学園での砂糖菓子のような甘ったるい口調ではなく、ハッキリとした物言いをしている。
彼女を知る者はその違いに大きく戸惑うだろう。
「チッ、まぁいいか。気を取り直して真・ざまぁを始めるか」
そうジュドーは言い、壇上から拘束されている者達を見下ろし、話始める。
「さーて、ミナサマ。なぜ今、自分達がこんな目に合っているかわかるかい?」
仮にも王族であったとは思えない物言いだ。
「まぁ、わからンよね。そりゃそーだ。俺だって昔はこんな事になるなンて思っていなかったしなあ」
一体この男は何を言っているのだ?
とにかく行動原理が分からない。
会場にいる多くの者達はそう思った。
「さて、この状況を語るには、200年前の人魔戦争から話す必要がある」
そしてジュドーは語る。
この国の人間ならば皆、当たり前の様に知っている伝説であり、過去の真実。
かつて人類と魔族は二つに分かれ、戦いに明け暮れていた。
互いに憎み合い殺し合い、大地を荒廃させていた。
その原因となっていたのが魔族を統べる存在、魔王。
そして人類の救世主、勇者であった。
魔王と勇者の世界を賭けての戦い、それが人魔戦争であった。
魔族の絶対君主である魔王と、人類の救世主である勇者は、その肩書に反し多くの魔族と人類を巻き込んで争った元凶だったのである。
そしてその裏には、世界を滅ぼすことを目的とした邪教の影もあった。
何時までも終わることなく続く戦争、憎しみの果てにあるのは双方の共倒れである事に気付いた英雄・ジューダは戦争を止める為に様々な事を調べ、魔王と勇者の本質、そして邪教の存在を知る。
彼は密かに人類の王達と接触し、その真実を伝えた。
全てを知った者達はジューダと王達を筆頭に魔王と勇者に反旗を翻し、そして打ち破った。
その後暗躍する邪教の教団も倒し、ついに人魔戦争を終わらせたのだった。
それがこの200年の間に伝わる『人魔戦争の真実』である。
「ンな訳ねぇだろ、ボケがッッッ!!!!」
先程まで淡々と人魔戦争の話をしていたジュドーはいきなり激高し吐き捨てる。
「まったくフザけた話だよ。よくもまぁこンなデタラメを流布してくれたもンだよな? クソ共が」
突然の激高と歴史の真実を否定するジュドーに皆、困惑とも恐怖とも怒りともつかない気持ちを抱く。
「ちゃンと話してやるよ。本当の人魔戦争の話をよ」
そしてジュドーは語りだす。
真の人魔戦争とその結末を。
ありがとうございました。
評価を頂けると嬉しいです。
また、感想や誤字脱字報告もして頂けると嬉しいです。