家出娘達の旅
名前通り真っ白になっているシオを置いてグレイ達は部屋を出ていくとちょうどジークが冒険者と別れた所に出くわした。
「あれ?もしかしてもう、終わった?」
『うん』
「ごめん!それで話はどうなったんだ?」
「問題なく終わったわ。それで……」
話の途中でレイラはまるでお化けでも見たような顔をしながら入口を見た。ジークも後ろに何かあるのかと振り向く。
二人の視線の先には白髪の男とそれに付いて歩く若い冒険者達の姿。
何より驚いたのは白髪の男がまだ子供くらいの歳の者とも普通に話している事だ。
「ったくお前らもっと逃げずに戦え。特にトミー。壁役のお前が逃げたら意味ねぇだろうが。そのデカい図体は何のためなんだ」
「は、はい……」
「それからロッド!バカ見てぇに声出しながら突撃すんな!コイツが壁役の意味がねぇしそもそも不意打ちの訓練だって言ったよなぁ?」
「えぇ〜でもなんかその方がかっこよくないですか?」
「知るかバカ。最後、ミラ。ある意味お前が一番「良かった?」な訳ねぇだろ。一つ間違ったらロッドに当たってるだろうが。弓の練習をもっとしろ。狙った方向に飛ばない弓師なんかいない方がマシだ。全員基礎訓練からやり直せ」
「「「はい……」」」
白髪の男ロベドが新米と見られる冒険者三人に指導し、解散した所にグレイたちは詰め寄る。
「まさかアンタが新人育成やってるとかどういう風の吹き回しなんだ?」
「ん?ジークか。帰って来たんだな。シオの奴が暇してるなら新人を鍛えろって寄越すんだよ。これがまたすぐ死にそうな奴らばっかりでな」
口では愚痴を吐くロベドだが、その表情は笑っている。口から出てくるのは新人達の使えなさだが、その節々からロベド自身のやり甲斐やら楽しい様子が滲み出て来ていてジークは笑ってしまう。
「まぁ、アンタが元気そうで良かったよ」
「お前らもな。久しぶりに酒でも飲みながら話でも聞かせてもらおうか」
◇◇◇
「だっははは!そりゃあシオの叫び声が聞こえるはずだな。獣王国にギルドを誘致?獣人の派遣?しかも獣王がアイツを名指しでって胃に穴が開くなぁ」
ギルドに併設された酒場でロベドが笑いながら酒を煽る。ベスティアでの出来事からシオの依頼結果まで話したグレイ達は外にいたロベドでさえ聞こえたシオの絶叫について話していた。
「ギルドを誘致って言っても人間用の活動拠点の意味合いが強いにゃ。獣人側は傭兵みたいな感じで人手が欲しい場所に行く感じにゃね。多分名指しで書かせたのはヴリトラにゃ」
『何で?』
「責任のなすりつけあいを避けるためかなぁ。今まで交流のなかった国からの提案とかどう考えても大変だから。後はジーク達との話の通しかな?」
「まぁ話を聞く限り王都のギルド本部に話は持っていくとは思うが、名指しして交渉人を指定されたら本部の利権争いは起こらなさそうだな」
ロベドは「アイツの気苦労はしばらくなくならないだろうな」とゲラゲラ笑う。
今も書類の海を漂うシオが更に埋もれる様子を酒の肴にしながらロベドは更に飲む。
「んで、これからお前らはどうするんだ?しばらくここにいるのか?」
「いや、それなんだけどまた出掛けるつもりだ。そろそろあの時期だから」
珍しくジークが寂しげな遠い昔を想うような目をしながらロベドに話した。
「そうか、なら良い顔で会いに行ってやれよ?」
「あぁ」
◇◇◇
「ここで良いのか?」
『うん』
ホリックで数日過ごしたグレイ達は各々の目的の為に再び街の外に出た。そして、グレイとそれについていく事にしたネロはジーク達の乗る荷馬車から降りる。
「私はグレイについていくにゃ。一人にすると危なっかしいし」
『そんなことないと思うけど』
子供扱いに若干の不満を浮かべるグレイ。
だが、目を離すと色々な事に巻き込まれるグレイを見て来たジーク達は苦笑いを浮かべる。
「それじゃまた後でな!」
「気をつけてね」「またね」
ジーク達との別れを済ませ、グレイはネロと共に別方向《実家》へと歩き出す。
ジーク達は墓参りに実家に戻った。なればこそ、グレイも一度戻ると決めたのだ。
街から出て徒歩で歩いているとネロが思い出したように「あぁそういえば」と話しかける。
「グレイと初めてあった時もこんな森の中だったにゃあ。久しぶりに二人旅、カシムは今頃魚取ってるのかな?」
魚と話したせいでネロは口から溢れそうになった涎をじゅるりと飲み込む。そんな食いしん坊なネロを見てグレイもネロとの初めてあったときのことを思い出す。
『たぶん、そうだと思う。そろそろ暗くなって来たから野営しよう。……今度は盗み食いしないよね?』
「あ、あの時はグレイを追いかけててご飯が食べれなかったから……!そんな事もうしないにゃ!」
『そう?ならテントの設置よろしくね』
気恥ずかしそうにしながらグレイが収納袋から取り出したテントを受け取り、ネロは今日の夜ご飯は何か想像しながら設営していく。
(久しぶりに二人だけの夜ご飯、身体が冷えないようにスープとパンにしよう。お肉はあった筈だからそれも焼こうかな)
ルーンを使い窯を作りその上にフライパンと鍋を一つずつ。鍋にルーンで水を入れフライパンに油を引く。二つの窯にこれまたルーンで火を焚べる。
(沸騰する間に具材を切らないと)
肉と野菜を一口大に切りそろえ、拳大のトマトを適当に切って鍋に入れる。しばらくするとトマトの赤がスープ全体に広がって酸味の効いた匂いがグレイの鼻に届く。
スープの中に切った具材を入れて塩、砂糖、潰した生姜を入れて味を整えて更に煮込む。
「良い匂いにゃあー」
『つまみ食いしちゃダメだよ?』
「我慢するにゃ」
テントの設営を終えたネロが匂いに誘われてやって来た所でフライパンで薄く切った肉を二枚焼く。その二枚と野菜をパンに挟み涎を我慢しているネロに一つ渡す。
『はい、もう少しでスープも出来るから』
「おぉ?これは初めて会った時に食べたやつと同じやつにゃね」
『思い出して食べたくなったから』
収納袋から器を取り出して鍋からよそっていく。ネロに渡し、グレイは少し冷えた身体を温める為にスープを一口。
『美味しい。初めて作ったけど良いかも』
「うん、体がポカポカするにゃ。おかわり!」
それからスープを飲みながらたわいない話をして先にグレイがなる事になった。
グレイが眠れずにテントの中で横になっていると、外を監視しているネロがテント越しに話しかける。
「グレイの過去はライルから聞いたにゃ。お互い親には色々あったけど子供を愛さない親はいないにゃ。すれ違うことはあるけど。だから」
『ありがとう、ネロ』
「美味しいご飯ありがとうにゃ、おやすみ」
そうして朝が明け、グレイ達は森を越えた。目の前には見覚えのある建物が建っている。
昔は「生まれ育った家」以外の感情がなかった建物も旅をしてまた違った感情の種が芽吹きそうな予感を感じつつ二人は門へと歩き出す。




