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獣の里に向かうは獣道

見晴らしのいい場所に荷馬車を止め、グレイ達は森を見て待機する。

 その手には各々の武器。表情は朗らかながらも警戒を怠らない。


 しばらくすると木の隙間から人影がグレイ達に向かって走ってくる。


「ライラぁーー!」


 人影ネロが姿を確認したのも束の間、その背後から木の化け物が迫っていた。

 触手のように枝をうねらせネロを捕まえようと伸ばす。だが、その全てを矢が弾く。


 そうしてネロが荷馬車より前に出て来たジークとレイラ、二人の間を抜けるようにすれ違う。

 息も絶え絶えで舌を出しながら「あとはお願い〜」と伝えるネロ。

 それに応えるようにジークとレイラが走り出す。

 向かってくる木の化け物、対するは突撃馬鹿(ジーク)。すれ違い様にばつ印を刻み、魔石を露出させる。

 しかし、痛覚が無いのか依然ネロに向かって走る木の化け物の前にはレイラが立つ。

 レイピアを顔の横に構え、前傾姿勢になる。

 全ての力を前に進む力に変え、走り出す。

 木の化け物とすれ違い、徐々に減速したレイラはレイピアを振り払う。


「ふぅ、おつかれさま!」


 レイラが振り返るのと同時、木の化け物がただの木となり倒れる。


「木の魔獣なんて初めて見たぞ」

「私も。それでネロ、この魔獣をどうするの?」


 獣王国に向かっていたはずのグレイたちが何故魔獣狩りをしていたかと言うと、ネロが先ほど倒した木の化け物や他にもいくつかの素材を欲したからだった。  


「木の方は薪にでもするにゃ。欲しかったのはこっち」


 ネロは宝石のように金色に輝く果実を取り出した。


「美味しそうだな!食べてみよう」

「ダメ!これは今から会いに行く奴に渡すのにゃ」

「確か獣王国に入る前に絶対に会わないといけない人、だっけ?」

「そうにゃ、少し変人だけど獣王国に入るなら会わないといけないにゃ」



 再び荷馬車に乗り込み、移動を始めたグレイたちは獣王国について手綱を握るネロと話す。


「獣王国ってどんなとこなんだ?やっぱり貴族とかいるのか?」

「いないにゃ。弱肉強食の精神が強いあの国は獣王でさえ強さで決まる。だからある意味みんな平民にゃ」

『大丈夫なの?』

「ダメな時はすぐに代替わりするにゃ。三日で代替わりしたこともあったらしいにゃ」


 ネロ以外の全員が大丈夫なのかその国、と言う表情を浮かべる。ネロは苦笑しながら「今はそんなことないから安心するにゃ」と伝える。


 そして、ネロが操縦する荷馬車は森の中にひっそりと佇む一軒家へと辿り着いた。

 苔が周りに生え、庭と思われる場所には雑草が見分けがつかないレベルでさまざまな草が生えている。


 玄関をネロが乱暴に叩くとゆっくりと玄関が開いた。


「だ、だれ……」

「ロクスタ、ネロにゃ」

「あ、あぁひ、ひさし、ぶり?」


 ボサボサの長く伸びた藍色が、まるで海藻のように顔を覆っている女が出て来た。

 オドオドとして元気溌剌としたネロと知り合いとは到底思えないが昔馴染みのようだ。


「と、取り敢えず中にどうぞ……」


 部屋に入ると薬草の匂いが鼻を刺激する。

 さまざまな薬草や素材を保存してある棚やポコポコと音を立てている鍋などが置かれていた。


(本もいっぱいある。ちょっと読んでみたいな)


「そ、それでっ今日は何しにきたの……」

「里帰りしようと思うんだけど、ここにいる人たちを獣王国に連れて行きたいのにゃ」

「なるほど、つまり獣化薬が欲しいんだね。つまり、ゲンワクダケ、魔力水、それからあっそうだ、獣人の毛とかあるといいかも?それとも」


 先ほどまでのオドオドしていた人物とは別人のようになったロクスタを見て、ネロを除いた全員が「誰これ」と言う表情をネロに向ける。

 忙しく素材棚を開け閉めしているロクスタを他所にネロはここに来た理由を説明する。


「ロクスタに獣化薬を作らせにきたのにゃ」

『獣化薬?』

「人間が飲めば獣人っぽくなれる薬にゃ。獣人の中には人間嫌いの奴もいるから念のため。それにスタンピードの原因を探るなら注目されるのは避けたい、違うかにゃ?」


 説明が終わったところでロクスタが材料を腕にどっさりともって大釜の前にある机に置いた。


「それでそれで!?どんな獣人になりたい!?」

『獣化薬って見た目が獣人になるの?』


 超ハイテンションで話すロクスタにそもそもの獣人薬の効果を聞くグレイは同じように目を輝かせる。


「いやいや、肉体に作用する変身薬なんて危険すぎる。これは他者から見て獣人に見えるようにする幻覚薬だね!もっとも、本当に変身したいならそっちでも良いよ!?アッでも元に戻れないかも!」

『触ってもバレないくらいの幻覚?それとも見た目だけ?』

「そこは抜かりない。触り心地から匂いまで獣人にしか見えない薬を仕上げてみせるさ」


 完全に二人の世界を構築し始めたのを察したレイラとネロはグレイとロクスタを引っ叩いて引き戻す。

 

「痛ぃ……じゃ、じゃあ薬作ってくる、ね」


 ロクスタは正気に戻ったらしく材料を大釜のある部屋へと運んで行った。


「ここまでグレイと相性がいいとは思わなかったにゃ……」

「私もあそこまで暴走するグレイは初めて見る。ネロはどうやってあの子と知り合ったの?」

「ロクスタには怪我した時には塗り薬とか作ってもらってたにゃ。ただ、変な薬も色々作るから色々迷惑かけてたにゃ」


 昔を懐かしんで「にゃはは」と笑うネロはよく見たらジークとライラ、グレイがいないことに気がついた。

 レイラと共に探そうとした瞬間、ぼんっという音と共に大釜のある部屋から人影が出て来た。


「ゴホッゴホッあーびっくりした!」


 部屋から出て来たジークを見たレイラとネロはその顔を見た瞬間腹が捩れるほどに笑う。

 ジークの姿は人間ではなく鋭い牙が下顎から突き上げるように生え、フゴフゴと鼻が鳴り、赤い毛並みの獣となっていた。


「失敗だね!グレイのルーンを混ぜると効力が増加しすぎるみたい!でもこれはこれでいいかも!」

『ジーク、ごめんね』

「ごめん、止められなかっフフッ」


 いつの間にかロクスタとネロの合作の実験体となっていたジークは猪そのものとなってライラに笑われていた。

 

 

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