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エルフとメイド

 ジークが飛び出した事で作戦が全て水の泡になってしまい、隠れていたレイラ達も木箱の裏から出てくる。


 対する誘拐犯達もジークの声に振り向く。男はジークの待つ本に、メイドはライルを見る。


「本を持ってくるとは良い仲間を持ったな」


 グレイの左手から足をどかす。


「そこの男、その本を渡せ。それは人間が持つべきでは無い代物だ」

「はっまるで自分が人間じゃねぇみたいな言い分だな。なら、そこのグレイと交換だ。先に渡せ」

「ダメだ、人間は信用できない。先に本を渡せ」


 両者は見合い、意見は平行線。

 どちらが折れるか、というところで水を差す者がいた。

 メイドがグレイの首めがけて短剣を突き立てようと近づく。

 しかし、メイドの周りに蜂のように矢が飛び回り足を止めさせた。


「邪魔です」


 しかし、ライラの放った矢をメイドは一瞬のうちに短剣で斬り払う。


 ジークとネロがメイドを止めるために走り出す。だが、暗い倉庫に差し込んでいる光に何かが反射したのを発見した二人は立ち止まる。


 倉庫の中にはワイヤーがまるで蜘蛛の巣のように張り巡らされていた。

 ジークは斬り払い、ネロは器用に避けながら近づいていく。

 ライラも次の一射を準備する。


 だが、間に合わない。


 メイドの短剣がグレイの首へと吸い込まれる。




「………………貴方が守るとは思いませんでした」

「コイツを殺したら面倒くさそうだ。特にあの男、今にも爆発寸前の爆弾だぞ」


 グレイの首元へ短剣を突き立てようとしたメイドを、薄皮一枚と言ったところで腕を掴んで男が止めた。

 メイドがヘラヘラした顔に少しの怒りの表情を混ぜながら男と睨み合う。

 少し睨み合った後、はぁ、と溜息を出し短剣を首元から離す。


「ここで貴方と戦うのはやめておきたいです。なら、早くあちらを片付けてください」


 メイドが短剣を戻した瞬間、再びライラが三本、矢を放つ。更に魔法を使い軌道を曲げ、グレイから遠ざけるようにメイドに迫る。

 メイドの周囲が一瞬煌めく。

 その瞬間、全ての矢がバラバラに切り刻まれて地面に落下した。


「メイドは私が止める。みんなはもう一人をお願い」


 ライラは次の矢をつがえながらそう告げる。


「ほう、あの女良い腕だな。人間にしてはよくやる。だが、所詮人間だ。本当の弓使いというものを見せてやろう【サウザンドアロー】」


 男は無数の魔力で出来た矢を出現させジーク達に掃射する。無数の矢がジークたちを襲い、背後の木箱すら粉々に破壊していく。

 棚が壊れ木箱が落ち土煙が起こる。


 土煙が消えていくと中から風と水の渦の中にジークたちがいた。


「助かったぜ、ライラ、ライル!」

「「間に合ってよかった」です」


 二人の魔法が男の矢と落下して来た木箱の破片を防いでいた。


 攻撃が収まり二人が魔法を解いた瞬間にジークとネロが男に肉薄する。


「人のいない暗ーい森の中で性根の捻じ曲がったエルフ様がなんで人攫いなんかしてるにゃ?誇りはゴミ箱にでも捨てて来たのかな?」

「野蛮な獣風情がよく吠える。いつから獣人は人間のペットに堕ちたんだ?」


 魔力で作った弓で二人の攻撃をいなしながらエルフの男はネロと貶し合う。

 ジークはネロの豹変ぶりに驚きながらもグレイを助けるために剣を振るう。



◇◇◇

「フフッエルフと獣人は仲が悪いとは聞いてましたがここまでとは。見ていて面白いですね」


 ジーク達の戦闘を眺めているメイドはかなり余裕そうな反応を見せる。その間にも周囲が煌めきライラの矢を撃ち落としていく。


「【ウォーターサーペント】!」


 ライラがメイドの気を引いてる間に詠唱を終わらせたライルがメイドを攻撃する。だが、メイドは避けるどころか魔法の正面に立ち、腕を振り上げる。

 すると、まるで何かに切り裂かれたように魔法の蛇は真っ二つに裂けてメイドの背後に飛んでいく。


「ライル様?立場上、私が貴方を殺さないと分かっていて攻撃するのはどうなんです?」

「姉上を攫った時点でお前は反逆者。なんの躊躇いもない」


 相変わらずヘラヘラとした態度でライルに話しかけるメイド。そんな彼女をライルは殺す気で攻撃している。

 それなのにも関わらず、魔法をいとも簡単に破壊されていた。


「そうですか。《《殺さない程度に痛めつける事》》にしましょう」

「ぐぁああ!?」

「ぁああッ」


 ライルとライラが動きを止めた。身体中から血を滲ませてまるで操り人形のように両手を挙げた状態で固定されている。


(一体どこからこれほどのワイヤーを!?)


「これがお前の魔法か!」

「魔法ぅ?そんなわけないでしょ?私は《《平民》》。魔法なんて使えるわけない。そういう自分が理解できないのを魔法のせいにするの、貴族の悪いところですよね」


 珍しく、メイドがヘラヘラした顔を崩した。

 その表情からは少なからず嫌悪の感情が見てとれた。


(貴族が嫌いなのにその典型である母上のメイドをなんでしていたんだ!?)


「ここにはあの屋敷の人間が居ないので言いますが私、貴方のことが嫌いなんです。死んでくれません?」

「は?」

「ローズ様の口からはライル、ライル、ライルって煩いんですよ。最近はグレイグレイって言いまくってますけど。ローズ様を小さい頃から見守って来たのに最近私を見てくれなくて……」


 メイドは「最近肌の調子が悪くて」くらいの調子でライルを殺そうと考えていると告白した。それはグレイに関してもそう。


「領主様も殺せたら良いんですけど、そうしたら私も死んじゃうでしょう?あの人強いですから。我慢してたんですよ」


 再びヘラヘラとした笑顔で主人殺しを考えていたと告白するメイドにライルは言いようもない恐怖を感じる。


「何て奴……!こんな奴が今まで屋敷に!?」

「きっと貴方を殺したらローズ様は悲しむ。でもそんな失意のどん底にいるローズ様を私に依存させるの。素敵でしょ?だからぁ死んで?」


 


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