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壊れる籠

 ルーンを使いリリィを助けた日の夜、執務室にはアルベルトと老執事がグレイについて話していた。


「これでローズ様も反対しきれません。お嬢様を屋敷にお迎えすることが出来ましょう」

「あぁ……どうやって魔法を使ったのかわからないが見事な魔法だった」

「リリィお嬢様も助けてくれた人は誰?としきりに尋ねるほどです。ライル様との架け橋になってくれますよ」


 アルベルトや老執事だけではなく屋敷に仕える者たちの中でもグレイが魔法を使いリリィを助けたことは広まり評価が変わりつつあった。

 グレイが変わった事をきっかけに少しずつ領主邸が変わり始めていた。


◇◇◇


「なんでアレが魔法を使えるのよ!!!」


 ヒステリックに叫ぶローズはまるでグレイが親の仇のように恨み言を吐き連ねる。


「あの女が死んでやっとアルが私を見てくれるようになったのに!産んだ娘は魔法が使えない平民もどきだったはずなのに!どうして何処までも邪魔をするの!」


 まるですでに死んでいるレティシアが目の前にいるかのように叫ぶ。いや、ローズには常にレティシアがそばに居るのだろう。そして、アルベルトの()にも。


 散々叫び、はぁはぁと荒れた息を整えてローズは考える。

 

 あの邪魔な存在(グレイ)を消す方法はないかしら?


 そうして真っ先に思いついたのは殺す事だった。


(今ならまだ事故に見せかけられる……!)


 レティシアが死んだ時のように弱った心に優しい言葉をかければ今度こそ、と考えかけた時。

 ローズの部屋が開いた。


「お母様!リリィが目を覚ましました!!」


 嬉しそうに部屋を開けて入ってきた息子を見て自分が考えた恐ろしい企みを捨てた。


「そう、すぐに行くわ」


 先程までの考えを悟られないよう平静を装いながら部屋を出る。


(ライルがグレイに負けるわけないじゃない。たまたまよ、ライルが領主になるに決まってるわ)



◇◇◇


 リリィは自身の部屋で目を覚ました。

 退屈しないよう色々な品が置かれメイドが一緒に居てくれる彼女だけの世界だ。


「あれ……?」

「リリィ……!目を覚まして良かった」


 ベットの横に大好きな兄がいた。


「私…どうして?確か……」

「バルコニーから落ちた拍子に気を失ったんだ。何処も怪我してなくて良かった」


 次第に思考がクリアになっていったリリィはその時のことを思い出した。


「お兄様が助けてくれたのですか?」


 落下の衝撃で気を失ったリリィは微かに記憶を失っていて誰かが助けてくれたことだけ覚えていた。その人物を見てかっこいいと思ったことも。


「あーえっと」


 言い淀む。

 自分が助けたのなら即座に応え自慢の兄を演出するところだが実際には魔法が使えない事を理由に虐めていたグレイが助けたのだ。

 ここで「そうだよ」と答えるには良心が痛んだ。


「……姉上が助けてくれたんだ。ごめん」

「姉、様?」


 リリィはどんな反応をするのだろうと思ったライルだったが彼女はいまいちピンときていなかった。


(そうか、リリィは生まれて外に出たことがあまりなかったから姉上のことを知らないのか!)


「会ってみたい……」

「え?」

「助けてくれたお礼がしたいの。もしかしたら嫌われてるのかもしれないけど……」

「そ、そんな事ないさ!そうだな、今度会って話をしてみようか」


(虐めていた姉上と何も知らない妹を会わせるなんて……いや、あんなに虐めていたのに妹を助けてくれたんだ。今までのことを謝ろう)


 今までのことを省みて今更許されるのだろうかと内心冷や汗が濁流のように流れるライル。

 そして、グレイとは似ているようで似ていないリリィはどんな人なのだろうと懸想するのであった。


◇◇◇


(蛇……この本に書かれてる人が倒してるやつかな?)


 屋敷で意識改革が起きているなか、グレイは一人蛇とは何かについて真剣に考えていた。

 取り出したのは英雄譚に書かれている身体が長く舌が自分の何倍もあるおおよそライルの放ったような蛇のようなもの。

 実際にはバジリスクと呼ばれる魔獣なのだが。


(身体がしなって木も倒してる。歯からは骨が溶けるような毒、目が合ったら石になる!?)


 そんな生物を魔法で作っていたのかと感心するグレイはライルに話を聞きたいと思った。

 それと同時に自分が何も知らないことを実感して英雄譚のように旅をしてみたいとも考えるようになった。


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