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休息

「うみゃ〜〜〜〜〜〜い!最高!とろとろの脂が舌の上でとろけてもう!」

『美味しい』


 足をバタバタ、頭をブンブン、尻尾を風を起こせそうなくらい振り回すネロと静かに黙々と食べ進めるグレイの前には採れたての魚の刺身が綺麗な盛り付けで置かれている。


「そりゃあ良かった。観光客の中には生魚が無理!ってやつもいるからよぉ。美味いだろ」

「これが美味くない訳がないにゃ!はぁ〜何回食べても飽きないにゃ」


 ネロは醤油に刺身をつけ頬張る。幸せそうな顔は作っている者がもっと作ってあげたくなるような魅力がある。

 そんな刺身を作っていたバルは思い出すかのように一週間前のことを話す。


「あれからもう一週間、か。早ぇなぁ」


◇◇◇


「おい!ダイカンの船が帰ってきたぞ!」

「捕まえてタコ殴りじゃあ!」


 漁師達は冒険者から事のあらましを聞き出し、ダイカンがリバイアサンの卵を奪うつもりな事、そもそも船を攻撃し始めた原因もダイカンだった事を知り怒りに燃えたぎっていた。


 船が港に着き、橋が架けられる。降りてくる者達を捕縛しようと縄を持ち意気込んでいた漁師達が見たのは《《死んだような目をした半裸の冒険者達》》。


「「「「「「エッ」」」」」」」


 しかもそれを連れて歩いてくるのが自分の子供と同じくらいの少女なのだから余計混乱した。


「お、どうしたんだみんな?」

「カシム!良かった無事だったんだな」

「あぁなんとか。親父や仲間に助けられたよ」


 異常ではない見慣れた人物に焦点を当てて目の前の異常を見ないふりをし始める漁師達。


『コイツらどうすればいいかな?』

「「「「「「ひぃいいい」」」」」」


 グレイの容赦のない声に戦々恐々とする冒険者は既に牙を抜かれた子犬になっていた。最悪、戦闘も辞さない考えだった漁師達はやり場の無い高まった士気を何処に発揮するか迷う。


「あ〜解放しちゃって良いぞ。捕まえたいのダイカンとエゴチだけだから」

『そう』


 カシムの言葉で解放された冒険者は去っていった。

 その後、まるでスライムのようにふらふらと橋を渡ってきたネロは力尽きる寸前、と言ったところだった。


「疲れた〜〜かしむぅ、魚食べたいにゃ」

「いや、漁船ないから今すぐは無理だぞ」

「嫌にゃ!今すぐたーべーたーいー!この疲れは魚でないと癒せないのにゃ!」


 ただっ子のように寝転がってジタバタし始めるネロを見た漁師達は行き場の無かった士気の使い道を見つけた。


「おう、お前ら!街を救ってくれた恩人が魚をご所望だ。さっさと漁船の一隻でも作って漁に出るぞ!」

「「「「「おう!」」」」」



◇◇◇


「あの時の漁師のおっちゃん達の気迫、凄かったにゃあ。2日で漁船作って漁に出かけてたから驚いたにゃ」

「それだけみんな感謝してんだろうぜ。親父、追加の魚持ってきたぞ」


 後ろから聞こえた声に耳をピンッとさせ振り向くネロの背後には油の乗っていそうな魚を大量に抱えたカシムが立っていた。


「お疲れ、どうだ漁師に混ざってきた感想は」


 事件の後、カシムは漁師達に頼み込んで漁師になる為に経験を積むことになった。その為、今日も朝早くから漁に出かけていた。手に持っていたのはカシムが自分の手で釣り上げた魚だったりする。


「やっぱりおっちゃん達には及ばねぇな。俺がようやく1匹釣る時にもう5匹以上釣り上げてるから」

「だっははは!そりゃあ何十年も伊達に漁師やってねぇからな。まぁそんだけ釣れりゃあ将来有望って奴だ。ほれ、そこで捌いて客に出せよ」

「そうだそうだー私にお魚を寄越せー!」

「お前なぁーどんだけ食べるんだよ……太るぞ」


 カシムはじ〜っとネロの腹回りを観察する。よく見れば少しお腹が出ている気がするが平均的な腰回りではまだある。


「太ってないにゃ!そんなこと言うならグレイにも言ったらどうにゃ?今も黙って食べてるにゃ」

『…………美味しい』


 チラリとグレイを見るカシムはバルが空いたお皿にどんどん刺身や焼き魚を置いているのを見た。


「むしろアイツは食べたほうがいいな。身体細ぇし、肉もねぇから食べ過ぎくらいが丁度いい」

「グレイには甘々なのなんでにゃ!」

「何処にも行かないでここでずっと魚食ってるからだろうが!そろそろ働け!!」

「だって今、ギルド機能してないし」


 ネロは食べ終わった焼き魚の骨を爪楊枝代わりにしながら答える。

 ダイカンがいなくなった後、漁師達は懸命に捜索したが遂に発見には至らなかった。その後、摩擦の生じ過ぎたギルドと町民の溝は埋まらないまま閑古鳥が鳴き続けると言う状況に陥っていた。


「それなら自分で食べる分は自分で取ってこいよ。流石にそろそろタダ飯にも出来ねぇし」

「そんなぁ〜〜」

『ご馳走様でした。良いと思う、久しぶりに海に出たいし、もしかしたら遺跡の崩れていない部分があるかも』

「よぉし、決まりだな!親父、少し船出してくる!」


 カシムは宿でバルの魚料理を食べようとするネロを強引に連れ出しグレイと共に新しく作り直した船に乗り込む。


 以前とほぼ変わらない見た目の船となっているが前と少し違う点は魔封石が搭載されていないことだろうか。

 サハギンがいなくなった事で速さを追求する必要がなくなった分、オールを取り付けた。


「ほらほら、遅くなってきたぞーもっと速く漕がねぇと日が暮れるぞ?」

「うるさいにゃあ!これでも頑張ってる方にゃの!」

「太った分痩せないといけないんだから頑張れ頑張れー」

「本当、腹立つゥーーーーー!」


 ネロの頑張りによって何とか海底遺跡があった付近まで到着した一行はネロを残し、海へと潜る。

 「海は浅瀬で十分にゃ」とネロは船の上で待機することにした。


(やっぱり粉々に壊されてる。せっかくの遺跡が……)


 壁画しか見ていなかったグレイは出来れば内部も見たかったのだが既に崩落していて石の塊に過ぎない。


 残念がるグレイの目の前にある瓦礫の隙間から何かが出てきた。

 よく見ると小魚などが壊れた遺跡を住処にして暮らしているようだ。


「こういう狭かったりする場所にはよく魚が住み着くんだ。漁師はそう言う場所に縄とか釣り針を落とすんだ」


 ルーンによって海中でも話す事のできるカシムは自身の知っている知識をグレイに教える。そんなカシムの話をグレイは聞き入った。

 これも、本では知り得ないその場だからこその知識だ。


 しばらくしてネロの待つ船へと戻った二人。


「そういえば水着なんて持ってたんだなぁ。前は普通に服着てたよな」


 冷えないように水着の上に上着を着るグレイを見ながらカシムがそう溢した。


『あの時は戦闘中だったし』

「水着なんてバカンス中でもなければ危ないだけにゃ」


 へぇ〜と納得したカシムは無意識的にグレイとネロを見比べる。


 グレイは黒色であまり露出の少ないパレオのような物を。

 ネロは白い少し露出の多いビキニに近い水着を着ている。本人曰く「服はあまり好きじゃにゃい、水に入るならベタベタしないほうがいい」との事らしい。


「……………………あんなに食べてるのにグレイより小さいんだなぁ」

「は?今何か言ったかにゃ?」

「気にすんな、俺はお前に何も感じないから」


 カシムは最大限ネロを煽り、ネロもカシムが何を指しているのかを理解して羞恥とも怒りの混じったなんとも言えない表情でカシムを攻撃する。


 その間、カシムから教えてもらった釣りを楽しそうに満喫するグレイであった。

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