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龍角

「って意気込んだは良いけどどうやったらあんな怪物倒せるにゃ?」

「リバイアサンには自身の力を制御する部位がある。それがあのツノだ。あれさえ破壊すれば力が使えなくなって卵を守るために逃げるだろ」


(確かにブレスを放つ時もあのツノが光ってた)


「でもどうやって破壊するんだ?アレに近づいてぶっ壊すとなるとどうしてもバレるぞ」


 リバイアサンは霧散した津波を見て警戒心を高めキョロキョロと辺りを見渡している。いかに気配を消していたとしても船から出れば気配を気取られる。ルーンであっても放つ瞬間は気配遮断の効果範囲外だ。


『囮が必要』


 キッパリとグレイが言い放つ。

 確かに誰かがリバイアサンを惹きつけておけば不意打ちでツノを破壊する事も可能にはなる。


「でもどうするんだ?囮は?破壊する役は?」

『囮は私がやる。破壊する役はカシムとネロがやって』

「えぇ!?俺が!?」

『私がやるとバレやすい。それに人数が多いこっちの方が囮になる。攻撃を防ぐ役は私にしか出来ない』


 しばらく悩んだ後、「分かった!」と言い頬をパンッと叩いて気合いを入れる。

 そんなカシムにバルは銛を渡す。


「これって……」

「俺のだ。あの時はお前に渡すことができなかったからな。ぶちかまして来い!」


 使い古した古い銛だが長い間バルと共に戦った銛はカシムに勇気を与える。


『私からも』


 鋭利、頑丈、気配遮断のルーンを銛とカシムに施す。これによってカシムの気配が希薄になっていく。

 周りの冒険者は急に消えたカシムに驚き周囲を見渡す。


「私にはーー?」

『ネロにはこっち』


 ネロにはカシムと同じ気配遮断と強化、鋭利を施す。特に爪にルーンを施した。

 ネロの基本的な攻撃は爪による攻撃の為それを強化した形だ。

 何故カシムに強化を施さなかったかというとグレイ自身にならまだしも他人にルーンを施すとなると二つくらいまででないとジークの剣のように壊れてしまう恐れがあるからだ。


 ネロもカシムと同様に気配が希薄になって姿が見えなくなるが興奮しているのかぴょんぴょんと跳ねている振動が伝わってくる。


『二人にはお互いの姿が見えるようにしてあるけど分かる?』

 

「問題ないよ、行ってくるにゃ!」


 何かが海に飛び込んだ音を確認したグレイは船に付けていたルーンを解除する。

 その瞬間、リバイアサンは敵の姿を捉えた。


 ブレスを防ぎ、大津波を防ぎ、今なお自分を見定める大敵にリバイアサンは己の全てを込めてブレスを溜める。

 先程のブレスより強い一撃になる事は誰が見ても明らかなほどに荒ぶる魔力が一点に集まっている。


 後ろでギャーギャーと騒ぐしか出来ない冒険者モドキを無視してグレイはバルに船を動かすように頼む。先程やったように逸らすつもりだ。


 すぐにバルは船を左に動かす。それに合わせグレイも右にブレスを逸らせるようにルーンを描いていく。


(魔力がそろそろ半分くらいになってきた。あと二発くらいが限界かも)


 リバイアサンのツノが燐光を放ちブレスが船を襲う。それに合わせルーンをぶつけるグレイは顔に玉の汗を滲ませる。

 だが、思いのほか攻撃が軽い。確かに強くはあるのだが先ほどのブレスよりも弱い攻撃に困惑したその瞬間、リバイアサンが急に攻撃を止めた。

 ルーンも役目を果たしボロボロと崩れ始める。


 冒険者達は再び防いだグレイを褒め称えるが当の本人はやられた、と焦っていた。


 バルに船を全走力で動かすように指示しようと振り向いた瞬間、船のマストにグレイ達が開けた穴よりもさらに大きな風穴が空いた。


「マズいぞ、グレイの嬢ちゃん!これじゃもう船を動かせねぇ!」


(最初のは囮だったんだ……!もっとルーンを出しておくべきだった)


◇◇◇


「おい、船に穴が!」


 船の異常に気がついたカシムが急いで戻ろうと泳ぎ始める。だが、それをネロが引き留めた。


「今、私たちが戻っても何も出来ないにゃ。それよりも早くツノを壊した方があっちも助かるはずにゃ」

「……そう、だな」


 リバイアサンに気が付かれないよう近づく。だが、リバイアサンは船に狙いをつけ頭が上に上がっている。よじ登ろうとすれば流石にバレてしまう。


「どうする?一か八か登るか!?」

「一回きりの勝負にそんな博打やってられないにゃ!少し考えがあるから耳を貸すにゃ」


 カシムに耳打ちするネロは内心「これも博打だけどにゃあ〜」と思っていた。


「それ、お前が危なくないか?俺がやるぞ」

「私よりカシムの方が力もあるしツノを壊せると思う。だからこれで良いにゃ」

「分かったよ……しくじるなよ?」


 カシムは手に持った銛を握りしめ、ネロは海の底に潜って行った。


(多分あそこら辺に落とした筈……あった!)


 ネロの作戦、それはリバイアサンの卵を動かして注意を下に向けさせる事。

 どんなに激昂していようと卵のことだけは忘れることのないリバイアサンの行動を利用して頭を海の方に向けさせる事が作戦だった。

 ただ、これはもしリバイアサンにネロが見つかってしまうと確実にネロが死ぬ事を想定に入れた綱渡りな作戦でもある。

 

 いかにグレイのルーンで隠れたとしても卵からの直接救難信号で何者かが動かしている事がバレるからである。


 作戦の合図は次にリバイアサンがブレスを放った直後。一番、ハッとさせるタイミングでなければならない。


 そして、その時は来た。


◇◇◇


 次で仕留めると意気込むリバイアサンはツノに燐光を纏わせ膨大な魔力の奔流を一点、グレイのいる船へと向ける。

 対するグレイもルーンを全開で起動し、ブレスに耐える為に魔力の全てを解放する。


 両者の矛と盾がぶつかる。

 防ぎきれない攻撃が船を削り始め、船がボロボロになっていく。数名の冒険者に直撃し、何名かは壊れた船の破片にぶつかる。


 どう見ても矛のほうが強い。

 だが、《《盾に矛が無いとは言っていない》》。


 一瞬の気の緩み。

 ネロが卵をほんの少し動かした事でリバイアサンの注意が海の中へと向かう。その瞬間、完全に防ぎ切ったルーンを霧散させ、後を託す。



(今だ!)


 カシムは頭を下げたリバイアサンの上に乗り銛をツノ目掛けて全力で振り下ろす。だが、ヒビは入ったものの折るまではいかなかった。


「クソッ折れろぉおおおおお!」


 何度も振り下ろすが破壊するまでには至らない。そうしてリバイアサンが頭の上にいる存在に気がついた。


 首を振り、頭にいるカシムを振り落とそうとする。カシムも落とされたら終わりだと理解している為ツノにしがみついて振り落とされまいと我慢する。


 だが、奮闘虚しくカシムは振り落とされてしまった。


「ぶはぁっクソッ落とされちまった!ネロは!?」

「ここにいるにゃ」


 リバイアサンがカシム達に狙いを定める。既に手遅れ。次の瞬間には二人の命は消えて無くなるだろう。


「諦めてんじゃねぇぞカシムゥ!」


 明らかに近くから聞こえるバルの声。バッと顔を上げると既に動かないはずの船がリバイアサンに体当たりしていた。

 船体はボロボロ、船頭に至ってはリバイアサンの体で潰れた。


 仇敵の接近にリバイアサンの注意が船へと戻る。


「何してんだ親父ィ!」

「さっさと壊せ!俺はまだ死ねねぇぞ!?」


 カシムは再度銛を握りしめリバイアサンの頭へと駆け上る。隣にはネロが控える。

 頭部へと到着した二人は両側から同時に攻撃を放つ。


 既にヒビが入っていたツノはあともう一撃与えれば折れるというところまでやってきた。

 だが、流石の海の王。瞬時に頭の上にいる存在を感知し、ツノから漏れ出す魔力で吹き飛ばす。


「しまっ」


 カシムの手から銛が離れる。ネロは同様に海へ落下中。グレイは既に魔力切れ。


 あと一歩、あと一撃が足りない。


(あぁ、俺はこの一歩が踏み出せなかった)「だから今!ここで踏み出さなきゃな!」


 バルは足に響く幻痛を無視して踏み出しリバイアサンの頭上にクルクルと落下してくる相棒を手にする。


「お前に恨みはねぇが子を守る親として!お前を倒す!」


 バルの剛腕から放たれた突きはリバイアサンの龍角を砕ききった。


「キュォオオオオオオ!?」


 ツノを折られた事でリバイアサンは戦意喪失、卵を守る為卵と共に何処かへと去っていった。


 カシムが船へと戻る為、縄梯子を登る。甲板へと手をかけようとするとバルが手を差し伸べてきた。


「やったな」

「あぁ、最高だった」


 長年のわだかまりも完全に無くなり、海に平穏が訪れた。

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