地震
グレイに過去の話をしたバルは「ガラにもなく話しすぎちまったな」と言い厨房に夕食を作りに戻っていった。
(お母さん……私にもいるのかな)
生まれた日に亡くなってしまったレティシアのことをグレイは知らない。母親の愛を知らず生きてきた彼女にとってどのくらい母親が大切なのかわからない。バルが母親の代わりをしようとする気持ちもよくわからない。
だからこそグレイはカシムとバルのことが気になった。アルベルトとバル、自分とカシムを重ねて自分も家族について考え始めていた。
グレイが家族について考えていると宿にネロが戻ってきた。
「ただいま~疲れたにゃ~」
ネロはグレイの正面に座ってテーブルにぐでーっとうつぶせになった。頭には埃や砂が付いていてかなり熱心に手伝ったことが見て取れる。
『お疲れ様、もう手伝いはいいの?』
「カシムがもうあとは俺一人でできるって言うから戻ってきたにゃ。グレイはなにをしてたの?」
グレイはバルの話をネロに話す。それを聞いたネロは「似た者同士だにゃ~」と呆れ半分で笑う。
「カシムも似たようなことを言ってた。仲は良くなさそうだけど本心ではお互い心配してるみたいにゃね」
「どっちのこともわかるにゃー」と独り言のようにつぶやきを聞いてグレイはネロに質問する。
『ネロは親についてどう思う?』
「私の?うーん、お父さんのことはよく覚えてないにゃ。お母さんは仕事ばかりでまともに話したことないかも」
『そうなんだ』
かなり軽く両親のことを話すがネロも親に関しては一悶着あったような発言をする。それを感じさせないようになのかいつもの笑顔で「おなかへった~」と会話を途切れさせた。
その後、バルが持ってきた夕食を食べ明日に備えて二人は眠りについた。
◇◇◇
日が昇り市場に活気が出てきた頃。
ドンッッッッッ!!!!!
「うみゃあ!?」
雷鳴のような音と地響きでグレイ達は飛び起きる。外からも悲鳴とざわざわと町民の声が聞こえてくる。
(もしかして……!)
『カシムの倉庫に急ごう!』
宿を飛び出し市場の奥、カシムのいる倉庫に飛び込むとカシムが出向の準備を始めていた。
「カシム!さっきの……!」
「わかってる!どうせ奴らの仕業に決まってる。先手を取られちまったみたいだな。行くぞ!」
船に乗り込んで海に出た三人は海底遺跡に向かう。だが、銛がない為にサハギンの縄張りで立ち往生してしまう。前はグレイのやらかしで強制的に突破したのだから。
「ど、どうするにゃ!?このままだと手遅れになる!」
「まあ落ち着け。グレイ、全力でいい。この前みたいな奴頼む!」
グレイのルーンを頼りにするカシムは船の耐久性に重点を置いて修理を進めていた。吹っ飛ばしても問題がないように。
『いいの?』
「さっさとやってくれ!」
(それなら思い切りやろう)
グレイはルーンを船ではなく魔封石に使用する。しかも今度はどうせ壊れるのだからと圧縮ルーンをぶち込んだ!
そんなこの前とも段違いなルーンを込められた魔封石は臨界を超え鈍い色の光を放つ。
「おい……?」
「なんかヤバそう……」
臨界を超える爆発をそのまま喰らえば船が沈没すること必至だ。だから指向性を追加するルーンをさらに追加する。光は更に増量するが問題はない。
『掴まって』
「やっぱお前に頼るのやめときゃよかったー!」
「あとでお説教にゃぁああああああああ」
船はグレイのルーンのせいで空飛ぶ船へと進化した。
◇◇◇
グレイ達が船で空の旅をする少し前、海底遺跡の周辺にはカシムの船より大きな船が止まっていた。
「おいおいおい……なんじゃこりゃあ」
船に乗り込んでいる冒険者の一人が甲板から海をのぞき込む。巨大な渦潮が海底遺跡に来ようとする侵入者を防ぐ壁として彼らを足止めしていた。
「どうすんだ、旦那?」
「問題ない。これを渦潮の中に投げ込めばあとは勝手に海底遺跡に運んでくれる」
甲板で話すダイカンとエゴチは渦潮の突破法について会話していた。懐から巨大魔封石を取り出したダイカンは連れてきた冒険者の中でも投敵に自信のある冒険者に渡す。
その冒険者は思い切り渦の真ん中へと魔封石を投げ込んだ。綺麗な放物線を描いた魔封石は渦の真ん中へと着水し渦の回転によって下にある遺跡に運ばれてしまう。少し欠けてしまう魔封石だが大きすぎるために大部分がそのままコツンと遺跡の天井にぶつかる。
それが合図となり魔封石に込められた魔法が炸裂し、遺跡の天井だけでなく壁、地面に至るまで破壊しつくしていく。
「おいおい……旦那、これ大丈夫なんですかい?」
「私を疑うと?」
「そういうわけじゃねぇけどよ」
エゴチはまるで海が割れたように開いた様子を見て何かとんでもないことをやらかしてしまったのではと内心感じていた。
「よし!囮の船を出せ!」
ダイカンの指示で二隻、冒険者を乗せた小舟を出す。
「こんなんでリバイアサンがあっちに行くのか?」
「この船には認識疎外の魔封石を積んでいる。バレはせん。ほれ、見てみろ。奴が遺跡から出てきたぞ」
遺跡の中で卵をとぐろを巻くように守っていたリバイアサンは外敵を始末するために今となっては残骸となった遺跡から外に出てくる。
「さぁ冒険者諸君!依頼の時間だ」
留守にしたリバイアサンの住処へと命知らずの盗人どもが侵入していった。




